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「はぁっ……駿平お前の条件じゃ無理だよ」
「そこを何とか康にぃの力で……お願いしますよぉ」

この春、駿平の大学進学が決まったと同時に決定した父親の転勤で、駿平は一人暮らしを余技なくする事になった。
そして従兄弟が勤務する不動産会社のカウンターでなるべく自分の条件に見合った物件を探してもらっているのだが、その条件を満たす物件が見つからないのだ。

「第一千代田線沿線で1LDKで6万円以内って無いから」
「だって親からの仕送りって10万円なんだよ?光熱費とか入れたらそれだって高いんだよ。本当なら5万円が理想なんだけどなぁ……」
「あのさ、5万円でも探せばあるぞ、1Kとかな?」
「せめて1DK、その代わりバストイレ別!これだけは譲れないから」

「学生なんだから、そう贅沢な部屋じゃなくてもいいだろう?」
「風呂くらいゆっくり入りたいじゃん?」
「あのなぁ千代田線沿線って便利だから意外と人気物件なんだよ?もう少し地域を変えてみれば?」
「嫌だ、それも譲れない」
「全く……とりあえず検索してみろよ」
従兄弟の武藤康二にそう言われ駿平は渋々検索用の機械の方に行こうとした時、来店客に視線を投げた康二が「よぉこっちだ」とその客に向かって手を上げた。

「やあ、久しぶり。悪いね世話になるよ」と穏やかな口調でその男は康二に向かって微笑んだ。
「はぁ、那月お前の条件も厳しいな」あらかじめ電話である程度聞いていた康二がそう呟いた。
「やっぱり?」
カウンターの椅子から立ち上ったものの、駿平は二人の会話を横で聞いていた。
「ん?」そんな駿平を見上げ康二が「那月、これ俺の従兄弟で武藤俊平、こいつも難題を持って俺の所に来た奴」と紹介した。

「従兄弟?宜しく僕は康二とは高校の同級生で日向那月です」
スマートに手を差し出す那月の手を握り返しながら「俺武藤俊平18歳です」と挨拶をした。
(まつ毛長い……肌だってすべすべじゃん)
「君も部屋探しているの?」
那月の言葉に現実に引き戻され「あ・はい、でもなかなか条件を満たしてくれる所が無くて……」と零すと「駿平も那月も予算の割には条件厳し過ぎるんだよ」と背後から康二の声がした。

「はぁっ……」と溜め息を零す駿平に康二が「あ、お前らルームシェアすれば?」ととんでもない提案を寄越して来た。
「ルームシェア?」「ルームシェア?」駿平と那月が同時に声を発しお互いに顔を見合わせた。
「ちょっとお前らこっちに来い」康二に呼ばれ仕切りのあるカウンターの並んだ椅子に二人は腰を下ろした。


それから1週間後、千代田線沿線のとある駅から徒歩8分。
商店街も途中あり、とても便利の良い立地条件の3LDKのマンションに今日駿平は引っ越しを済ませた。
前日入居を済ませた那月も運び込まれた駿平の荷物を部屋に運んだりと手伝ってくれている。
生活に必要な家電は那月が以前に使っていた物が既に運び込まれている。

駿平は自分の身の回りの物だけで充分だったので、引っ越しと言っても簡単に終わってしまった。
「那月さん、ありがとうございます。これから宜しくお願いします」駿平はしおらしく頭を下げた。
「いや、僕の方こそ宜しくね」

家賃は折半では無い。2部屋必要だと言う那月が8万円、駿平が6万円の負担だ。
それ以外の必要経費は折半という事で話は付いていた。
荷物の整理が終わった頃に従兄弟の康二が訪ねて来た。手にはコンビニの日本蕎麦が入った袋が下がっている。

「取りあえず昼飯にしようか?」
食欲旺盛な駿平には蕎麦以外にもサラダやおにぎりを出してくれた。
「康にぃにしては気前いいな、那月さんがいるからだろう?」
などと揶揄すると「何馬鹿な……」と顔を赤くしたのは那月の方だった。

「?」一瞬首を傾げた駿平だったが那月のその表情よりも目の前のおにぎりの方に興味を示し手を伸ばした。
だが康二が帰る時に「那月を頼むな」と意味不明な事を言われ、またも首を傾げる駿平だった。
「俺の方が年下じゃん、逆だろう?」
「まあな、だけどお前は体力だけはありそうだからな?」
そう言うと腕時計をちらっと見て「じゃまた来るよ」と康二は帰って行った。

「康二の奴訳判らない……」駿平は本人を前にして呼び捨てには出来ないが、いなくなれば6歳年上の従兄弟などいつもこんな風に呼んでいた。
「僕はも少し片づけ続けるよ」と那月が自分の部屋に戻ったのをきっかけに駿平も部屋に戻り運び込んだばかりのベッドに身を投げて伸びをした。

「うーーーーっ!明日から頑張るぞー!」
駿平の新しい生活が始まった。


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まだ海の物とも山の物とも判らないような状況です^^
いつもとは違うパターンですが、読んで下されば嬉しいです。

「パタンナー?」
「そう、服から型紙を起すんだよ」
「型紙?」
珈琲を淹れたので那月にも持って来てやった駿平はパソコンの前で操作している那月に仕事の事を聞いたが、そういう事に興味が無かった駿平には何が何だかさっぱり判らなかった。
「ふーん、CADで引くんだ?まるで設計図だな……」
「まぁね、それよりもう大学も慣れた?」
目頭を押さえながら那月は疲れた顔を駿平に向けた。

「俺は慣れたし、高校から一緒の奴も結構多いし楽しいよ。それよりも那月さん疲れているんじゃないの?」
「いや、ちょっと細かい作業だから目が疲れただけだよ」
家にまで仕事を持ち帰る程忙しいのに那月は夕飯を率先して作ってくれる。
「飯なんか作らなくていいのに」
「ついでだからね」

同居を始めて2週間が過ぎ、いつの間にか家事が分担されていた。だが駿平の役割は風呂掃除と乾いた洗濯物を取り入れ畳む程度しかしていない。
それ以外は殆ど那月が率先してやってくれていた。
「何か俺、すっごい那月さんに負担かけてるよなぁ」独り言のように呟き那月のベッドの端に腰掛けた。
「ついでだから……」何をしてもその言葉で駿平の事を優しく包んでくれる。

「那月さんの彼女になる子って幸せ者だな」
「ふふふ、そう?でも残念ながら彼女っていたことが無いんだよね」
「そんな冗談ばっか、那月さんがもてない筈ないじゃん」
駿平は本心でそう思っていた。綺麗で優しい那月は男の駿平から見ても敵わないと思うほどの良い男だった。

「駿平君こそ、もてまくりでしょ?」
「あ……ま、適当にね」
照れて言葉を濁す駿平を那月は優しい顔で見つめた。
筋肉質で185㎝ほどもある体躯と、今時のアイドルを精悍にしたような少年から青年に変わろうとする危うさも魅力を醸し出していた。
この時期の18歳と24歳は見た目も考え方も大きく違う。

「18歳か……いいな若さって……」
那月は頭の中で考えた事をつい言葉として出してしまった。
「何言っているんですか、那月さんだって若いじゃん。康二と同級生には思えないよ」
駿平の従兄弟の武藤康二は妙に落ち着きがあり、実年齢よりはいつも上に見られる事を気にしながらもそれを利用するようなタイプでもあった。

「でも康二は優しくて頼りがいがあるよ」
「そうかな……?」
駿平は何故か判らないが那月が康二を褒める事が面白くなかった。
そんな自分に戸惑いながら「じゃ俺風呂掃除するから」と言うと「いつも悪いね」と返され少し照れながら那月の部屋を後にした。

駿平は那月という同居人に恵まれた自分は凄いついている奴だと思っていた。
兄弟のいない自分は本心では康二を兄のように慕ってはいたが、那月はそういう存在ではない。
(じゃどういう存在なんだ?)と自問自答しても(ま、いい人だし)としか今は答えは見つからなかった。

そんなお互いのプライバシーを尊重しつつ何の問題もなく同居生活は順調に過ぎていった。
そして二か月過ぎた頃……
駿平はバイトも無く遊びにも出かけないで珍しく夕方には部屋に戻っていた。
(那月さん今日は遅いのかな?夜食になる物でも作ってやろうかな?)と思い立ったのは、もう夜も10時を過ぎた頃だった。

―――バタン。

那月にしては少々乱暴な音を立て玄関の扉が閉められた。
「那月さん?」その物音に駿平が玄関まで行くと青褪めた顔で那月が立っていた。
「お帰り、どうしたの何かあった?」
駿平の声に一瞬驚いたような顔を向けたあと「あ、ただいま……いや別に……風呂入れるかな?」と帰る早々そんな事を聞いて来た。

「うん入れるよ、俺はもう入ったけど」と駿平も怪訝そうな顔をして答えた。
「あ……じゃあ風呂入って来る」
「うん……」

自分の部屋に鞄を置き直ぐに戻って来た那月が風呂場に消えた。
何かいつもと違う那月の態度に駿平は戸惑いよりも心配の方が大きかった。
駿平は気になって風呂場に向かった那月の後を追った。
脱衣場の外から「那月さん大丈夫?」と声を掛けようとして、中から那月の嗚咽のような声が聞こえノックしようとしていた手を宙に彷徨わせた。


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すみません、痴漢描写があります。
苦手な方はスルーして下さいね。









駿平はドアの前で一瞬躊躇った(大人の男なら……黙って見守るんだろうな、だけど俺はまだそこまで大人じゃない)と自分に言い訳してから「那月さん開けるよ」と返事も聞かずにドアを開けた。

「駿平く……ん」
洗面所の鏡越しに二人して固まってしまった。
駿平の目に映った那月の姿……
「い・いったい何が?」

「出て行って!」
茫然とする駿平に那月は語尾を荒げた。
「ご・ごめん……」

駿平はリビングのソファに深く腰掛け今見た残像を思い出していた。
那月の赤く色づいた胸の突起が目に飛び込み、そして前が濡れたように色の変わった下着……
「さっぱり判んない」
今見た事が何を意味するのか、何故那月が嗚咽を漏らしていたのか駿平には全く想像出来ない事だった。

いつもは20分くらいで済まして出て来るのに30分過ぎても出て来ない那月が心配になり立ち上った時に、風呂場のドアが開く気配を感じて駿平はまたソファに腰を下ろした。
ここに自分がいない方が那月は安心するのだろうか?と思ってはみても、駿平は立ち去るつもりは無かった。

「……さっきは怒鳴ってごめん」
部屋着に着替えた那月が顔があまり見えないように頭からすっぽりとタオルを被っていた。
「俺こそごめん……あ、ビール飲む?」
「いや……でも貰おうかな?」その物言いは普段の那月と同じだった事に駿平は少し胸を撫で下ろし冷蔵庫からビールを持ってきて手渡した。
「俺はコーラで」飲めない事が残念そうに言いながら駿平は缶コーラのプルトップをプシュっと開けた。
それに続き那月も缶ビールを開ける。

「駿平君って案外真面目だね」
引っ越しした夜あまり気にせずに那月は駿平にビールを勧めてしまった事があった。
その時「俺まだ未成年だし」と苦笑いしながら断った駿平を見て「真面目だね」と呟いた事を思い出した。
その後駿平と一緒に生活してその根本に正義感があるのを感じていた。

那月はビールをぐっと煽った。
あまり強い方ではなかったが、今夜は飲まずに眠れそうにないのは判っている。
だがアルコールを摂取した事を後でこんなに悔いた事は無かった。

「俺はまだガキだから……那月さんが話してくれないのは仕方ないけど、だからって何も力になれないのも嫌だ」
「ごめん、僕もちょっと過敏だったかもしれない。大した事は無いんだ……ちょっと電車の中で痴漢に合っちゃって……」
「痴漢て?那月さん男じゃん!どうして?」

それは性の対象が異性である駿平には全く理解出来ない事だった。
そして静かに話し始めた那月の言葉を聞いているだけで、駿平は怒りに体を震わせてしまった。

普段より1時間ほど会社を出るのが遅くなった那月はひとり地下鉄に乗り込んだ。
この時間はラッシュはそうない時間帯だからちょっと安心していたのだ。
だが何かのイベントがあったのか、普段よりも激しく混んでいる車内で那月は段々と車両の繋ぎ目辺りまで追いやられていた。

自分が利用している駅の2つ前で乗り換えの為に大勢の客が降りるはずだと踏んで、那月は押されるがまま奥に立っていた。
ふと気づくと自分の前にも後ろにも体格の良い男が立っている。
そしてその男たちは自分を挟み会話を始めたので、那月は邪魔にならないように身を捩って場所を譲ろうとしたが、逆にその二人に密着され一層身動きが取れなくなってしまった。

多少アルコールが入っているのだろう、掛かる息が酒臭くて那月は顔を背けた。
その時自分の尻に誰かの手が当たっている事に気づいた。
混んでいるから多少は仕方ないと思いながらもその手が甲では無く手の平で、尻の肉を掴むように動いているのが判り偶然じゃないと気づいた。
混んでいて後ろは振り向けないが、体格の良い男がさっき自分の後ろにいたのは知っている。

身を捩る那月の前に立つ男がそんな那月を見てにやっと笑った。
(グルなのか?)そう思い那月は目いっぱい目の前の男を睨み付けた。
だがその男はそんな那月から目を離さないで、ズボンの上から那月の下半身を握り込んで来た。
「うっ!やめろ」ここで大声を出す事は出来ずに那月は小さく唸った。

前を撫でられる手を避けようと腰を引くと背後の男にさらに密着してしまう。
そして八方塞がりの状態の那月のファスナーを下ろした前の男がその手を滑り込ませてきた。
体格の良い男2人に囲まれる状態で那月は散々甚振られた。

(こいつ等……痴漢行為にも男の躰にも慣れている……)
こうも適格に感じるツボを突かれたら那月などひとたまりもない。
「やめっ……」小さな拒絶の声も地下鉄の騒音に掻き消されてしまう。
裏筋を撫で上げていた男の手がすーっと会陰に滑り落ちた時に那月は焦って前の男を睨み付けたが、それは全く逆効果だった。

「いい物やるよ」男が相変わらずニヤニヤしたまま那月の耳元で囁いた。
その時那月は自分の後孔の中に何か錠剤のような物を押し込まれたのが判った。
「やめろっ!」だが男の間でどう身を捩ってもびくともしない。

(次の駅で人が減る……)焦る気持ちで那月は待った。
だがそういう事は判り切っているのだろう、那月のペニスを扱く手が早くなった。
外からの刺激に男の躰は正直だ……
その上さっきから後ろの男がシャツを捲り那月の胸の突起を弄り回していた。
いくら気を逸らそうとしても、その刺激はダイレクトに那月の下半身を襲う。

「これで終わりだ、楽しかったぜお兄さん」そう言いながら男はペニスの先端に爪を立てるように那月の体に引導を渡した。
那月が吐精に体をビクビクと震わせた時に電車は駅に到着して、乗り換えの為に降りる大勢の乗客に紛れ二人の男も何も無かったように那月の傍を離れ降りて行った。

那月は目の前の席が空いたのを見て、普段座る事などないシートに腰を下ろし他の人間に気づかれないようにそっと身繕いをした。
膝に置いた鞄で隠したズボンの中が気持ち悪くて吐き気がした。
そして簡単に吐精してしまった自分にも反吐が出る思いだった……


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「酷い事する奴らだな……」
那月の告白を聞いて駿平が唸るように呟いた。
「だから、ジャケットを脱いでたんだ」
5月とはいえまだ夜は肌寒いのに半袖のポロシャツ姿で帰宅した那月に違和感もあった。
「ごめん、あんまり気分いい話じゃないね。忘れて」
そう言って那月は立ち上った。
「本当に大丈夫?」と触れた駿平の手を那月は反射的に払いのけてしまった。

「あ、ごめん」「ごめん」
同時に出た言葉の深い意味は違うがお互いに苦笑いで済ませてしまった。

「もう寝るよ」
「うん、眠れなかったら俺の事起してもいいから」
優しい言葉を掛けてくれる駿平に礼を述べ那月は自室に篭った。

(声なんか掛けられる筈はない……)
那月の胎内に吸収されたドラッグが今の那月を苦しめいていた。
「は……っ」我慢しても自然と声が漏れる。
震える体を両手で抱きしめるようにベッドの淵に腰を下ろして疼きをやり過ごそうと那月は努力していた。

これ以上駿平に迷惑を掛ける訳にもいかないし、何よりも自分の性癖を打ち分ける訳には行かなかった。
せっかくいい関係で同居生活をスタート出来たのに、知られたらそれも解消されかねない。
那月は駿平をひとりの男として好感を持って見ていたが、それは性の対象ではない。あんな若い良い青年を自分の方に引き摺るつもりもない。

「はぁ……」だが、どう意識を逸らそうとしても、体の内から湧き出てくる刺激を逸らす事は出来そうになかった。
だからと言って、この手を伸ばして解放する事もあいつ等の企みに負けたようで悔しくて出来なかった。
(悔しい……)
無防備な自分にも、狙われやすい自分にも腹が立っていた。


その頃同じく自室に戻った駿平も眠れないでベッドに仰向けになり天井を眺めていた。
那月の話を聞いた時には男が男に痴漢する事に驚いたが、那月ならあり得る……と思ってしまった自分を恥じた。
それは男としての那月を凄く侮辱する事だと気づき違う意味落ち込みもした。

自分の年齢から見たら那月は大人だったけど、何か儚さもあった。
そして大学で見かけるそこいらの女子よりも綺麗な肌をしている。
そんな事を考えていた駿平はふとさっき洗面所で見かけた那月の体が頭に過った。
胸の尖りが色を付けていたのは、電車の中で弄られたせいだったのだ……

「やばっ!」駿平は頭を振りながらそう言って自分の思考を中断させた。
これ以上那月の事を考えたら、自分も痴漢と同じだと思い勢いよくベッドから飛び降りた。
「コーラ持って来よう」
そう言って駿平は自室を出てリビングを通りカウンターキッチンの奥にある冷蔵庫からペットボトルのコーラを取り出し音を立てキャップを開けた。

一気に半分程飲み干しそのボトルを持って部屋に戻ろうとした。
(那月さん、眠れたかな?)
心配だったけど、わざわざ部屋を訪ねるのもどうかと思い自室に戻ろうとした。
那月の部屋とはリビングを挟み反対側だ。

「はぁ……っ」
聞き耳を立てていた訳じゃないが、駿平の耳にそんな声が飛び込んで来た。
(那月さん?)
那月の苦しいような声に駿平は体が動かなくなってしまった。
その時さっき薬を挿れられた事を思い出した。
それがどういう意味の薬なのかあまり経験のない駿平には今やっと理解出来たのだ。

(射精すれば治まるのか?)
駿平はそっと自室に戻り、本棚から数冊のエロ本を抜き出した。
どう考えても那月がこういう類の雑誌を持っているとは想像つかなくて、それを持って那月の部屋をノックした。

―――コンコン

「那月さん、ちょっといい?」
「……駄目」
「あのさ、体……辛いんでしょ?俺ので良かったら……あの……おかずにしなよ」
那月にこんな言葉を掛けるのは流石の駿平も恥ずかしいものがあった。
同級生同士なら何でもない日常会話なのだけど、那月とはそんな下ネタな話など今までした事もなかったのだ。

―――カチャ

那月が細く開けたドアの隙間から顔を覗かした。
「ありがとう、でも大丈夫だよ……」
間接照明しか点けていない那月の部屋は薄暗く、そして那月の姿を妖艶なほど綺麗に見せていた。
「もしかしたら薬辛いんじゃないの?」
「……」
「那月さん?」

本当は那月もこの体の疼きを解消出来ずに持て余していた。
体が熱くて仕方ない。
「那月さん熱あるんじゃないの?」
潤んだ瞳の那月に気づき駿平がその額に手を当てた。
ビクンと体を強張らせた那月が一歩下がり、心配した駿平は逆に一歩踏み込んだ。
「那月さんやっぱり熱出てるよ。俺に何か出来る事ない?」
思った以上の額の熱さに駿平は那月の腕を取りそう聞いた。

「駿平君……」
本当にして欲しい事を言葉に出せずに那月は唇を噛み、体の疼きと発熱のせいで小刻みに体を震わせていた。


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駿平が一歩足を踏み入れた時に、玄関でチャイムが鳴った。
「ち……」こんな遅い時間に訪ねて来る人間は、一人しか居ない。
この状況で都合がいいのか、悪いのか駿平は理解出来なかったが、那月を見ると明らかにほっとしているのが判った。

仕方なく駿平は2度目のチャイムを聞いて玄関の扉を、開けに行った。
「おお、悪いな」
本当は自分の為にこの物件を紹介したのではないか?と思う程に康二の職場からこのマンションは近かった。
不機嫌そうに返事をしない従兄弟の駿平を見ながら、康二はビールのパックを目の高さに上げた。

あまり飲まない二人の住居人の部屋の冷蔵庫に、ビールが冷やされているのも、康二がこうやって度々訪れビールを持って来るからなのだ。
「あれ?駿平エロ本片手なんて……ああだから機嫌が悪いのか?邪魔して悪かったな」と何も知らない康二は、呑気な事を言っていた。

「那月はもう寝たのか?」
「何時だと思っているんだよ?」
「まだ日付は変わってないぞ」
「本当にムカツク……」
従兄弟同士の乱暴な会話も今に始まった事では無いが、今夜の駿平には剣があるのを康二は感じた。

「どうした?那月と喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩なんかしないよ……ただ……」
自分の口から今の那月の状況を説明してもいいのかどうか、駿平は測りかねて押し黙った。
「那月は?」もう一度康二に聞かれ、駿平は「部屋」と一言答えた。

一度那月の部屋に入った後に、康二は出てきて「タオル貸してくれるか?」と駿平に言って来た。
駿平が洗面所から乾いたタオルを2本持って来ると、それを受け取った康二は濡れタオルを作り、再び那月の部屋に入った。
その後に駿平も続こうとしたが「お前はもう寝ろ」とあまり見ない厳しい顔で言われ、ドアは閉じられた。
茫然とする駿平の目の前で、内側から鍵が掛けられる音がした。

「な・何だよ……」
一人締め出された気分で駿平はかなり落ち込んでいた。そして何よりも鍵の掛けられた部屋の中で何が行われるのか?気になって眠れる筈もない。
だが、いつまでも那月の部屋の前に居座るわけにもいかない。
「くそっ」那月の力になれない自分の子供さに腹が立ち、駿平は渋々と自室に戻った。

ベッドの上に寝転んでも、この苛立ちと焦燥感は鎮まりそうにもなかった。
「那月さん大丈夫かな?康二の奴……」
駿平は那月に渡す筈だったエロ本をベッドの下に放り投げて、じっと天井を見つめていた。


「那月……大丈夫か?」
「う……ん、あまり大丈夫じゃない……」
「ドラッグ、完全に吸収されてるみたいだな」
遊び人たちの間でSEXの時に、ドラッグを使う奴等がいるのは康二も知っている。渋谷や新宿に行きその気になれば、非合法合法問わずに手に入る時代だ。

「はぅ……」
那月の苦しげな声に康二は背広を脱ぎ、那月のベッドの横に腰を下ろした。
「那月、俺が楽にしてやるよ」
「康二……」
今の那月には、ここで拒否する精神力は残っていなかった。

那月が高校の時に、強姦されそうになったのを助けてくれたのは、康二とその友達だった。
「何か……いつも康二に助けてもらってる」
「困った時はお互い様だ」康二はそう言いながら、布団の中の那月の体に手を伸ばしてきた。
「あぁ……」
自分の手とは違う温もりに、那月は甘い声を漏らした。
「何度でも達けよ」
「……一樹君に悪い」
「大丈夫だ、あいつなら判ってくれるよ。その代わり指な」と康二は揶揄するように言った。


一樹とは康二のひとつ年下の恋人だ。
同じ会社で、今は支店が違うからそう頻繁には会えないとの事だった。

「ごめん……」
「気にするなよ、膝立てて」
那月は康二の誘導する通りに、膝を立て康二に委ねた。


駿平が眠りに就いたのは、もう明け方だった。
リビングを挟んだ那月の部屋の様子は全く判らずに、いらいらしながら眠りに落ちたのは覚えている。
枕元の携帯電話を手にして時間を確認すると、もう9時を過ぎていた。
「やばい!」勢いを付けてベッドから飛び降り、リビングに行くが人の気配はなかった。

恐る恐る那月の部屋をノックしたが、返事は返ってこない。
そっとドアノブを回し部屋の覗いて見ると中は無人。
「仕事行ったのか……」
昨夜はあんなに苦しそうだったのに、もう仕事……
那月の苦しみを介抱したのが、自分ではなく康二だというのも面白くはなかった。

勿論、同居してたった2か月の自分よりは、高校からの付き合いの康二の方が、那月の事をよく理解出来るのだろうが、今一緒に住んでいるのは自分だ、と駿平は言いたい思いだった。
(あの二人、ただの同級生じゃないのか?)
ふと素朴な疑問が駿平の頭を過った。

そして那月の事で一喜一憂している自分がいる事など、まだ駿平は気づいてはいなかった。


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昨日の今日で体は倦怠感でいっぱいだったが、金曜日に仕事を急に休むわけにも行かずに、那月は通常通り出勤していた。
時計を見ると、もう定時は少し過ぎ19:30を示していた。
「はぁっ」那月は大きく溜め息を吐き、ジャケットを羽織って、会社を出た。
会社といってもそう大きい会社ではない。
だが社長が以前に大手アパレルメーカーのやり手社員だった為に、そのツテで仕事が途切れる事はなかった。

那月がこの会社に決めた最大の理由は、フレックス制を取り入れている事だった。
朝も通勤ラッシュから逃れられ、帰りもそう混んではいない。
学生時代から混雑が苦手だった那月の就職の第一条件だったのだ。
本当なら電車通勤のいらない場所に引っ越したかったが、この辺のマンションは那月の給料では予算オーバーだった。

だからといって今のマンションが気に入らない訳ではない、むしろ気に入っていた。
オートロックは必須と言って康二が探してくれたマンションなのだ。
未成年である駿平の保護者代わりとして、康二も部屋の鍵を持っていて建物の中には勝手に入ってくるが、部屋の中までは許可なく入る事もなかった。

那月にとって、同居人の駿平と康二の存在は大きかった。
だが昨夜のような事態に陥ると、駿平に頼る訳にもいかない。
(あのまま、康二が来なければどうなったのだろうか?)
ふと恐ろしい想像に大きく頭を振った。


「えっ?」
「やあ……」
会社が入っているビルの外に出ると見知った顔の男が、手持ち無沙汰な顔をして立っていた。

「駿平君……?どうしたの?」
「ちょっと近くを通りかかったから、そろそろ仕事終わりかな?って思って」
「……もしかして、ずっと待っていてくれたの?」
だが駿平はその問い掛けには答えず、歩き始めた。

那月はそんな駿平に追いつき肩並べて歩いた。
「ありがとう……」
「いや……通りかかったって言ったじゃん」

駿平は、本当は聞きたい事は沢山あったけど、那月が話してくれるまで待とうと思っていた。
嫌な事を無理に聞いて、今の穏やかな生活を壊したくは無いと思っていた。
「ご飯食べてく?奢るよ?」
「やった!待っていたか……いが……いや何でも無い」

結局二人は最寄りの駅に降りてから、駅近くのラーメン屋に入った。
「本当にラーメンでいいの?」
「うん、ラーメンと炒飯と餃子喰うから」
那月に遠慮しているのかいないのか、若者らしい食欲旺盛さを駿平は見せていた。

「あのさ……もう大丈夫なの?」
駿平はラーメン丼から顔を上げないで、何気なくそう聞いてきた。
「うん」
「そっ、餃子お代わりしていい?」
「何皿でもどうぞ」
駿平はそれだけは確認しておきたかったみたいだ。
そしてそれ以上は何も聞こうとしない駿平の、美味しそうに食べる顔を、幸せそうな顔で眺めていた。

「ご馳走様、あー喰った!もう明日の昼までは何も喰わなくてもいいや」
ラーメン屋を出ると、大きく伸びをしながら駿平が明るく笑った。
「はは、無理だね。食いだめと寝だめは出来ないからね」と那月も笑った。
「いや、寝だめもしたい」
「……ごめん」
駿平の無意識の言葉に昨夜眠れなかった様子が判り、那月は小さく詫びた。

「はぁ、何謝っているの?春は何時間寝ても眠いんだよ」
「そうか、まだ18歳だもんなぁ、いいなぁ若いって」
「なーに年寄りみたいな事言っているの?那月さんも充分若いじゃん。康二と同じ年だとは思えないよ」
「ふふ、康二に失礼だよ」含み笑いをする那月と肩を並べて、マンションへの道を歩いた。

(康二とはどういう関係なの?)
出かかった言葉を駿平は何度も呑み込んだ。

「ねぇ駿平君、彼女とか出来た?」駿平は突然の問いかけに驚いて歩みを止めた。
「彼女なんかいないよ」ぶっきら棒に答えると「そうか、早く出来るといいね」と那月に言われ、むっとした駿平は「那月さんには関係ないじゃん」とつい言ってしまった。

「あ、ごめん……そうだよね関係ないよね」
寂しそうに謝る那月にも何故か腹が立つ。
(あー!俺って本当にイヤな奴)
駿平の中で、訳の判らない感情が渦巻いていて、それをコントロール出来ないでいた。

二人がマンションに到着した時、ちょうどエントランスから人が出て来た。
「おう、一緒だったのか?ここの管理組合にちょっと用事あってな」
そう呑気な顔で言うのは、今駿平が一番会いたくない相手康二だった。

駿平にはあまり見せない優しい顔で「那月大丈夫か?」と声を掛けながら、那月の肩に手を置いた。
それを見て駿平は何かが切れた気がした。
「俺、友達ん所遊びに行って来るから、今日は帰らないからどうぞごゆっくり!」そう吐き捨てるように言うと、踵を返した。

「駿平君!」
後ろで自分の名前を呼ぶ那月の声が聞こえるが、今の駿平は振り返る事が出来なかった。



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駿平は高校時代の友達の家を訪ねていた。
久しぶりに会う友達と楽しく会話が弾んでいたが、友達の年の離れた小学生の妹が、何度も顔を出し落ち着かなかった。

「悪いな、受験勉強で今まであまり相手してなかったからな。最近は人が来ても俺にベッタリなんだよ。」
「いいな、可愛いじゃないか。俺も妹欲しかったな……」
「可愛いけどな、俺に対しての独占欲が強くて困っているよ。まだお前だからいいけど、こんなんじゃ彼女なんか連れて来たら大変だよ」

友達の和真は居もしない彼女の存在まで気にして、そんな事を零していた。
和真を笑いながら、ふと駿平は考えていた。
(独占欲か……)
「あ……」
「駿平どうした?」
「いや、俺ちょっと判った気がする」
「何が判ったんだ?」
「ああ……和真、俺帰るよ」
突然立ち上がった駿平に向かって和真は口元を緩めた。
「そうか、まぁ頑張れ」
「はぁ?何言っているんだ?」

和真と妹に見送られて駿平は「じゃまた」と言うと、和真の横にいた妹が、安心したような顔で「バイバイ」と手を振ってくれた。
駿平も笑顔で「バイバイ」と言って和真の家を出て来た。

駿平は駅に着くと、近くにあるドーナッツ屋で6個のドーナッツを買ってマンションに向かった。
何となく自分のイライラした気分が理解出来たようで、足取りも軽かった。

ドアの前で一呼吸してから、そっと鍵を差し込み回す。
開けると、三和土には那月の靴が一足行儀よく並んでいただけだった。
(あれ?康二は……)
リビングに入っても、那月も康二も見当たらない。

テーブルの上に買って来たドーナッツの箱を置いて、那月の部屋をノックしたが、返事がない。
ドアの前でどうしたものかと固まっていると、背後から声が掛かった。
「駿平君?帰って来てくれたの?」
「あ……うん」
駿平は「帰って来たの?」じゃなくて「帰って来てくれた」と言う言葉に更に気分が良くなった。

振り向くと頭からタオルを被った那月が、少し照れたような顔をして立っていた。
「風呂だったんだ?」
「うん、駿平君もまだでしょ?入ってくれば?」
「じゃ入って来る。上がったらドーナッツ一緒に食べない?」
「ド……まだ食べられるの?」
那月が目を丸くした理由に駿平は、少し間をおいてから気づいた。
言われてみれば、ラーメンと炒飯、餃子2人前も食べた事を思い出した。

「若いからねー」逆に那月をからかうように言ってから、駿平は風呂場に向かった。

だがふと足を止め「そうだ康二は?」と聞くと
「デートだって言ってあれから直ぐに帰ったよ」
「デート?康二彼女いたんだ……そうかデートか、生意気に康二のくせに」
那月はそんな駿平に、デートの相手が男性だとは言い出せずに、中途半端な笑顔を見せた。

「え?那月さん何だか寂しそう……」
「そんな事ないよ、ほら早く風呂入ってきなよ」
那月の言葉に背中を押され、駿平は再び風呂場に向かった。

シャンプーしながらも「そうか康二の奴デートかぁ」と何度も繰り返していた。
そして湯船に浸かり、ふーっと体の力を抜くと又首を傾げた。
「あれ?康二って俺にとって兄貴みたいなもんだよな……」
さっき和真の家で、妹の独占欲を目の当たりにして、自分のイライラの答えもそこにあると確信したのに、辻褄が合わない事に気づいた。
「あれ?」一度雲が晴れたのに、また自分の気持ちが判らなくなった。

風呂から上がる頃を見計らって、那月が紅茶を淹れていてくれた。
「甘い物は別腹だね」
そう言って微笑む那月を駿平は、可愛いと思った。
昨夜見たあの色気のある顔とは、別人のようだと思った瞬間に、あの白い胸板を思い出した。

―――ずくん

「ん?どうしたの?」
「いや、何でもないよ」

「康二って彼女いたんだぁ」駿平は話題を逸らすように、康二の話に切り替えた。
「彼女っていうか……」と口籠る那月を駿平は、今度は追い込んだ。
「那月さんは、康二に彼女がいるのはイヤなんだ?」
「イヤじゃないよ」
「じゃどうしてそんな顔をするのかなぁ?」
挑戦的な駿平の言い方に那月は、どう答えていいか迷った。

「那月さん、康二の事そんなに好きなんだ?」
自分のこの気持ちが那月への独占欲ならば、もしかして那月も、康二にそういう感情を抱いているかもしれないと、駿平は思って聞いてみた。

「な、なんで僕が……」
慌てて真っ赤になり言い訳めいた事を言う那月を、駿平は逆に驚いて見た。
「そこ……赤くなる所?」
駿平の言葉に那月の視線が泳いだ。



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「別に赤くなっている訳じゃないから、ちょっと……詳しい事は康二に聞いて。僕の口からは言えない」
突っぱねられたような言い方をされ、駿平ははっと我に返った。
「ごめん、俺こそプライバシーの侵害だよな。那月さんと康二がどういう関係でも、俺には……あれ?」
(何か胸が痛い……)

「僕と康二は親友以外の何者でもないよ。ただ康二が優しいからつい頼ってしまうだけで……」
「そ・そうだよな、男同士だもんな、何か俺変だ……ごめん那月さん」
「もしかして駿平君、夕べの事……」誤解している?と聞くのもおかしいと思って、那月は口を噤んだ。

「ねぇ聞いていい?」
「う……ん」
「夕べ、あんなに辛そうにしていたのに、康二はどうやって介抱したの?」
駿平は、聞いては駄目だと抑えていたのに、ついに一番気になっていた事を言葉にしてしまった。

「駿平君……真面目に聞いてくれる?」
「ああ、俺はいつだって真面目に聞くよ、那月さんの言う事なら」
そう言いながら駿平の胸は、ドキドキと早鐘のように鳴りだした。

「昨日僕に使われた薬は、多分……催淫剤」
「さ・催淫……」その単語に駿平の喉が静かに上下した。
「うん、違法かどうかは判らないけど、もう帰って来てシャワー浴びた時には、粘膜が全て吸収していてね」
「う・うん」
駿平だって、高校生の頃は渋谷の繁華街に、時々は受験の憂さ晴らしに遊びに行っていた。

渋谷の街にたむろしている青少年の間で、そういうドラッグが使われている事も聞いた事はあった。
実際に、受験ノイローゼでそういう道に走った奴も知っている。

「僕だって、そういうドラッグがある事は知っていたけど、使った事ないから判らないけど、体内に一度吸収されてしまったら、どうなるか想像はつくでしょう?」
「想像はつくけど、想像つかないよ!」
駿平の想像の範囲は異性であって、女性がどうなるかぐらいは判る。だけど那月は女じゃない……

「うーんとね」そんな駿平に優しく那月は言葉を続けた。
「僕が何処にドラッグを使われたか言ったよね?」
駿平は黙って頷いた。
「駿平君には判らないかもしれないけど、そこがね……とても疼いて苦しかったんだ」
那月の言葉に、駿平はどう答えていいか判らず、那月の目を見る事が出来なかった。

「……して?」「えっ?」
「……どうして、俺が傍に居たのに、康二に頼ったの?もし康二が来なかったら、どうするつもりだった?」
「駿平君には頼めないよ。康二はね、僕の過去も知っているし、慣れているからね」
「慣れているって?康二がどうして?」

「後で康二に叱られそうだけど、言うよ。康二の恋人は男性なんだよ」
「え……?」(康二の恋人が男?ってことはつまり?)
自分から言い出したものの、那月の話は駿平のキャパを容易に超えてしまっていた。

「そして、僕の恋愛対象も男性だよ……」
「な……那月さん?」
「びっくりした?ごめんね、折角のルームシェアだったけど。新しい部屋を借りる資金は僕が出すよ」
そう寂しそうに言って那月が立ち上がった。

那月が去ったリビングで駿平は、冷めてしまった紅茶を飲み干した。
そしてその夜……駿平は那月を組み敷いている夢を見て目が覚めた。
(俺……那月さんが好きなんだ……)
その答えを導き出したら、今までの自分のイライラなど中学レベルの数学問題よりも簡単に解けた。

あの不動産屋で会った時に、何処かで見たと思った。
同級生だと紹介され、それが康二の卒業アルバムだった事に気づいた。
そこからは、もう夢中で一緒に住む事を前提に部屋を探した気がする。
「なんだ俺……一目惚れじゃん」

汚してしまった下着が冷えて肌に貼り付いてきて「くそっ」と小さく唸ってから立ち上った。
時計を見ると、まだ朝の6時だ。休日の朝にしては早いが、駿平はバスルームに行き頭からシャワーの湯を浴びた。

「那月さん……」小さく名前を呼んでみると、代わりにぴくっと自分の欲望が返事をする。
「ヤバイ俺、こんなんじゃ変な目で、那月さんを見ちゃうよ」
それでも18歳の駿平の手は、止まる事を知らずに動いていた。


それから2年―――

駿平と那月は相変わらず同居人として、平穏な日々を送っていた。


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「誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
今日は駿平の20歳の誕生日を、那月と康二、そして康二の恋人の一樹が祝ってくれている。
場所は最寄り駅のチェーン展開している居酒屋だった。

「駿平、今日から堂々と飲めるぞ」
康二の言葉に駿平も上機嫌だ。
「堂々も何も、俺は隠れても飲んでないよ」
「本当に駿平君は真面目だよね、20歳になるまでとうとう飲まなかったね」
マンションの部屋で時々那月が、冗談めいてビールを勧めても、一度も口にする事はなかった駿平だ。

那月は同居人の駿平のそんな真面目な所も気に入っていた。
見た目は最近の若者なのに、中身はえらく硬派な男だった。
2年前に自分の嗜好を告白した後も、何ら変わる事なく自分に接してくれた駿平が有難かった。

「でもお前らって結構気が合っているんだな」
「俺と那月さん?当たり前だよ、那月さんは康二みたいにガサツじゃないし、優しいからな」ビールを片手に駿平が康二に向かって言った。
「駿平君は可愛い弟みたいなものだからね」
那月の弟発言に、駿平は少し寂しそうに微笑んだのを、康二も一樹も気づいたが敢えて触れないでおいた。

「少し煽ってみようか?」一樹の耳元で康二が囁いた。
「知らないよ、責任取れるの?」一樹も康二の耳元で囁き返す。

「なーにいちゃついているんだか?」その様子を見た駿平がちょっと不機嫌そうに言った。
「ああ、いいだろう?駿平お前も早く彼女作れよ、好きな子いないのか?」
「お・俺だって好きな子くらいはいるよ」
武藤の血統はかなりの酒豪だ、ビール3杯飲んだ所で駿平の顔色ひとつ変わってはいなかったが、返事をした駿平の頬が僅かに染まっていた。

「へえ?告白とかしないのか?それとも全く相手にされてないとか?」
「……相手にされているかどうかは、判らないけど……告白はするよ、そのうち」
「そのうち?……のんびりしていたら誰かに取られても知らないぞ」
康二の言葉は心配しているのか、からかっているのか判らなくて駿平は、手元にあった唐揚げをぱくっと口に放り込んだ。

康二と一樹にあてられながらも楽しく過ごした飲み会は、翌日休みではない二人の事を考えて早々にお開きになった。
マンションに戻った後、駿平は那月に、ブランドマークの入った小さな手提げを渡された。
「これ僕からの誕生日プレゼント」
「え?ご馳走になった上にこんな高そうなプレゼントまで悪いよ」
駿平でも判るそのロゴマークは長年安定したブランドの物で、学生の駿平が持つには少々値段の張る物だった。
「実はね、ツテがあるから少しは安く買えるんだ。だから気にしないで」

「開けてもいい?」嬉しそうに問い掛ける駿平が可愛くて
「うん、開けて」と那月も嬉しそうに答えた。
駿平が小さい紙の手提げから中身を取り出した。

「え……っ?」
「どうしたんですか、那月さん?」
「あれ、ちょっと待って……それ」
袋の中身はショップの小箱のはずだったのに、駿平が取り出したのは那月が知らない包装紙だった。

「ちょ・ちょっと待って駿平君」
慌てて那月が止めるが、駿平はえっという顔をしながらも、その包みを開けた。
「な……那月さん、えっとこれは?」
戸惑いながら駿平が手に持ったのは、歯磨きチューブのような物が2本。
那月はいつの間にかすり替わった中身に、真っ赤になったり青くなったりしていた。

「どうして?」
今にも泣き出しそうな顔で那月は、自分の行動を思い出してみた。
先日買って会社の引出に入れていた。それを今日居酒屋に持って行っていたのだ。
康二がプレゼントを渡せば自分もその場で渡そうと考えていたが、成人式で親戚として祝いを上げているから、もう無いと宣言していたので、那月もプレゼントの品を引っ込めたのだ。

「あ……っ、康二だ」
「康二?」
「多分、中身をすり替えたのは康二だと思う。ごめん駿平君、それ返して」
那月がそのチューブを取り上げようとして伸ばした手を、駿平が掴んだ。

「那月さん、俺こっちの方がいい……」
「え?何言って……」
那月は用途が判っているのか?と問いたい気分だったが、それを自分の口から言うのも躊躇われ掴まれた手を解こうとした。

だが、駿平の手の力は意外に強く、那月は足掻くだけで終わった。
「駿平君、離して……」
だが、駿平はそんな那月を引き寄せ耳元で囁いた。

「那月さん……俺に男の抱き方教えて?」
「え…………っ?」
さっき居酒屋で好きな人がいると言っていた。
「駿平君の好きな人って……男だったの?」
そう口にすると、那月の脳裏に駿平と肩を並べて歩く同じ年頃の、可愛い子が浮かんだ。

「うん、だから教えて……」
2年前初めて会った時はまだ少年臭さが残っていた。
だけどこの2年で、少年から青年に成長した駿平の胸の中に、自分はすっぽり収まってしまっている。

(潮時なのかもしれない……)

「いいよ、大人になったお祝いに、僕が教えてあげる……」
見えない位置にある那月の顔が、とても苦しそうだったのを駿平は気づかなかった。




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「ねぇ康二、本当にこんな事をして大丈夫?」
一樹は手に財布の入った茶色い小箱を持っていた。
「いいんだよ、あいつ等は誰かが背中を押してやらないと素直になれないからな」
「あいつ等じゃなくて、那月さんはでしょう?」
「まあな……色々あったし、でも駿平と2年一緒にいる間に随分と明るくなった」
「もう保護者卒業?」

高校の時に、那月が付き合っていたのは康二のクラスメイトの、東山という男だった。
女にも男にも手の早い事を除けば、悪い奴ではなかったが、見た目の良さで相手に不自由しなかった分、だらしの無い面を持っていた。
いわゆるプレイボーイと呼ばれる男だったのだ。

その東山が珍しく自分から那月を誘った。
純情な那月が東山の手練手管に落ちるのは時間の問題だった。
だが、なかなか肉体関係を許そうとしない那月に、東山が痺れを切らしそれを煽った仲間と共に那月を襲った。

康二と友達が駆け付けた体育倉庫で、犯される寸前の那月を見つけ助けたのが、今のように親しくなる切欠でもあった。
だがそれ以来那月は誰かを好きになっても、心を開かなくなってしまった。
「本当は好きだったんじゃないの?」
「ああ見えても結構男気のある奴だからな、那月は」

「でも、自分の事になると臆病だ。駿平の見え見えな態度も、ヴェールで覆われて見えてないんだから……」
「うん、駿平君は可愛いよね」
「一樹浮気するなよ」
もう二人の話は終わりだと言うように康二が、一樹の背をシーツに縫い止めた。



その頃、駿平と那月はそれぞれシャワーを浴びて、那月のベッドの上にいた。
「駿平君、女の人を抱いた事ある?」
「……あるよ」少し躊躇った後の返事に、那月の顔が曇る。
「じゃ判るよね?基本は同じだよ、傷つけないように大事に抱いてあげれば大丈夫。」

「これは?」駿平が手にしたのは、さっき間違って袋に入っていたローションだった。
「え……っと、男は女の人みたいに……濡れないから、それで滑りを良くして……」
言葉でこういう事を教える事がこんなにも、恥ずかしい事だとは那月も思わなかった。

「でも……駿平君、女の人を抱けるのなら、覚えない方がいいと思うよ」
駿平に興味本位で、こっちの世界に入って欲しくは無かった。
「どうして?俺が男を好きになったら駄目なの?」
駿平の真剣な眼差しを受け止めて、那月は自分でパジャマのボタンに手を掛けた。

「待って、俺に脱がさせて」
那月の指をそっとどかして、駿平はボタンを一つずつ外し始めた。
そして全部外すと、肩を撫でるように上着を脱がしていく。
露わになった那月の肩を唇でなぞりながら、首筋へと滑って来る。
そして駿平が顎のラインに唇を這わせた後、那月の唇に重ねようとした。

ふっと顔を横に逸らされる。
駿平はそんな那月の頬に触れ、正面を向かせた。
真っ直ぐ下から見上げる那月の目を見ながら、もう一度その唇に触れようとする。
「男の抱き方は教えるけど、キスの仕方は教えるつもりは……無い」
「何それ……?」那月の強い口調に駿平も驚いて、強い口調で返してしまった。

「……キスは好きな人としなさい、って言っているだけだよ」

那月の言葉に一瞬強張った駿平が、もう一度顔を近づけて来た。
今度は有無を言わせず、那月の唇に絡み付く。
「いや……っ」
那月の小さな悲鳴が、駿平の口腔に呑み込まれて行った。
抗おうとする体も、那月よりも一回り大きい駿平に押さえ付けられれば、ビクともしなかった。

「あ……」閉じた唇をこじ開けるように、駿平の舌が差し込まれた。
(慣れている……)
だが那月がそう感じたのは、ここまでだった。
急に駿平の動きが、ぎこちないものに変わった。
那月はそれが少し嬉しくて、駿平の舌に自分から絡ませていった。

静かな部屋にキスの音だけが響いている。
銀の糸をひいて名残り惜し気に駿平の唇が離された。
だが余韻の残る那月の耳は「ごめん」という駿平の言葉で現実に戻された。
「ん……」ツンと目頭が熱くなって、上手に返事が出来なくなって那月は顔を背けた。

「ごめん、那月さん……」
「……」謝らなくてもいい、とすら言葉に出せなくて那月は駿平の目を見る事が出来なかった。

「俺、振られるのが怖いから、ちゃんと言わなかった。ごめん俺卑怯だな」
那月は、駿平の言っている意味が呑み込めないでいた。
「ちゃんと言うから、俺を見て……」
駿平は言葉と同時に、那月の顔に手を当てそっと上を向かせた。

「しゅん……?」
「俺、那月さんが好きだよ。だからキスもしたいし抱きたい。俺じゃ駄目?」
「え……?」
今とても大事な事を言われた気がしたが、耳がガンガンして上手く言葉を拾えない。
反応の薄い那月に向かって、駿平はもう一度言葉にした。
「那月さん、好きです。俺の恋人になって下さい」

那月は下から腕を伸ばし、駿平の首に回し……そして引き寄せた。
今は言葉が出ないから……だから那月は返事の代わりにキスをした。



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