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(読切)千の笑顔を……

 25, 2011 16:27
◇Kikyouです。コメントのお返事もできていないで、本当に申し訳ありません。嬉しく拝見させてもらっています。いつも声をかけて下さって本当にありがとうございます。
村抜けする前に1000文字ほど書いていたのですが、なかなか書き進められなくて、何とかギリギリ間に合いました。
「罪よりも深く愛して」の速水と千夜のクリスマスです。少しでも楽しんで下されば嬉しいです。6300文字くらいあるので、携帯読者様にはちょっと長いかな、と思ったのですが、切り所がなくて一気になってしまいました。休み休み読んで下さいネ。




 街は12月に入った途端さまざまなイルミネーションで飾られていた。省エネを奨励する自治体もこの時期だけは呼び掛けをひかえているのだろうか。世界で一番美しい時期もあと1日で終わりを迎えてしまう。
 クリスマスが終われば街は直ぐに新年を迎える装いに変わってしまうだろう。

「ふぅ……」
 千夜は一人街を歩きながら小さな溜息を吐いてしまう。千夜はこういうイベント事がとても苦手だ。今までイベント事は、千里を中心に回っていた。それが当たり前の事だったし、それに不服もなかった。

 だが今年のクリスマスは違う。千里には一緒に過ごす相手がいて自分にもいる。それは幸せな事だったが、男同士クリスマスをムードたっぷりに祝う気にはなれなかった。多分速水もそういうタイプではないと思っていた。

 だが、ここ1週間速水の口から何度も『もうすぐクリスマスだな』という言葉が出てくる。それが何を意味しているのか千夜は理解に苦しんでいたのだ。
 まさか速水がプレゼントやディナーを楽しみにしているとも思えない。

 いや……プレゼントくらいは贈ろうと思ってはいるが、速水が喜びそうな物が想像出来なくて何も用意出来ないうちに、とうとうイブの朝を迎えてしまった。

「千夜、今夜は体を空けておくように」
「はい……」
 複雑な顔の千夜の頬に指でなぞるように触れながら、速水は嬉しそうに口元を緩めた。
「千夜、今夜は寝る暇がないと思えよ」
「……」
 千夜は、その言葉にただ顔を赤らめてしまうばかりだ。そして自分の想像を恥ずかしく思い更に顔が熱くなるのを感じてしまった。

「ふふ……」
 速水は、意味ありげな笑みを残し白衣のボタンをかけながら部屋を出て行った。千夜は揶揄されているようで、悔しかったが、いつまでもそういう気持ちを引きずるわけにも行かずに、自分も足早に事務室に向かった。

とにかく大きな手術が入りませんようにと願う。自分や速水のためにも、そしてイブの夜を楽しもうとしている者たちの為にも。
そして千夜の願いが通じたように無事夕方を迎える事が出来た。

「千夜、こっちへ」
 千夜は院長室に呼ばれ、さらに奥の私室に連れて行かれた。まさかここで何かしようと言うのかと千夜は慌てたが、速水の力には敵わず、いや逆らえずにベッドに腰を下ろすはめになった。
「院長……」
「さあ着ている服を早く脱いで」
「え……?」
ここでいたすにしろ何だか雰囲気がない。まるで僅かな時間を金で買われた男娼のような気分にさせられてしまう。千夜の古い傷が悲鳴を上げそうになった時に、速水が大きな紙袋を取り出した。

「え……あの……それは?」
「ふふふ、いいから早く着替えろ。千夜は手足が長いからオーダーメイドだ」
「オーダーメイドって……ふぅ……全く信じられない」
「何なら俺が着替えさせてやろうか? だがな、千夜の肌に触れた俺は何をしでかすか責任もてないぞ?」

「いいです。自分で着替えますから。出来たらあっちへ行っていてもらえませんか?」
「おう、楽しみに待っているぞ」
 そう言うと本当にうきうきとした足取りで速水は私室を出て行った。千夜は扉が閉まるのを確認して諦めたように着替えを始めた。
「さすが、ぴったり……」
 着替えをすますと、千夜の口からも苦笑が漏れる。いったい速水が何を考えているのか、この時の千夜には全く分からなかった。

 千夜が扉を開けて院長室に入ると、案の定速水が満面の笑みで迎えてくれた。こんな機嫌の良い速水など見たことがない。何故だかその笑顔に千夜は嫉妬まで覚えてしまいそうだ。

「千夜、さすがだ、可愛い」
「可愛いって……」
 今まで可愛いと言われた事などない。速水の機嫌の良さと今の言葉で、もしかして速水が求めているのは可愛いものなのかと勘繰ってしまいそうだった。それならば千夜など速水の好みから完全に外れている。またひとつ千夜の傷が増えたような気がした。

「さあ行くぞ。あぁその前にきちんと付属の物も着けろよ」
「えっ? このまま行くんですか?さすが恥ずかしいんですけど?」
「大丈夫だ、千夜だと分からないから」
 分かるとか分からないとかの問題ではないのに、と思いながらも千夜は速水に押されるように院長室を出された。


「ここは?」
 速水が足を止めた病棟で千夜は視線を彷徨わせた。病院勤務するようになってからは、来ることは無かった小児病棟。そこは夕飯が終わり各自ベッドで寛ぎながらも賑やかな声がしていた。速水は廊下に置いてあったリネン入れの大きな台車の中から、袋を取り出した。
「頼むよ新米サンタさん。プレゼントに名前書いてあるから間違えないようにな」
「こういう事だったのですか……」
「出来たら英語使って。その方が雰囲気でるし……」
 まだサンタの存在を信じている年端のいかない子供たちが病気と闘っている部屋に千夜は、少し緊張した面持ちで入った。

「わあ―――っ! サンタさんだっ!」
 誰かの興奮した声にそこにいた子供たちの輝いた視線が千夜の足を止めた。千夜の緊張もピークになってしまう。
「ハ、ハッピークリスマス……」
 緊張のあまり弱弱しい声しか千夜の喉からは出て来ない。だが子供たちはとても嬉しそうな元気な声で「ハッピークリスマス!!」と叫ぶ。
 全員が千夜の傍に来られるわけではない。食後の点滴に繋がれている子供もいる。千夜はプレゼントの袋からひとつずつ取出し、ベッドに書かれた名前と照らし合わせる。事務手続きで名前と病名は知っているが、顔と名前が直ぐには一致しなかった。

 千夜がプレゼントを配り始めると、皆おとなしくベッドの上に座り自分の順番を待っている。
「メリークリスマス、ミツキ」
 千夜はリボンの掛けられた箱を下田美月に渡した。
「メリークリスマス。サンキュウサンタさん」
 日本語が通じないと思っているのか、ミツキも恥ずかしそうにそう返す。その頬は紅潮し瞳は嬉しさにキラキラ輝いていた。千夜も釣られるように笑顔になってしまう。子供たちの笑顔を見ているうちに、千夜の緊張も解れサンタらしく振舞えるようになってきていた。
「メリークリスマス、ユウマ」
「サンキュー……ミスターサンタ」
 ユウマの返事に千夜はくすっと失笑してしまう。ユウマは……病名を知らなくても、深く被られたニット帽を見れば抗がん剤治療をしている事が誰にでも分かってしまう。だがユウマの瞳もキラキラと輝いていた。千夜は笑顔の下で涙を堪える。弟千里も子供の頃はこの病室にいたのだ。健康ならば家族で過ごす年に一度の大イベントなのに……。
 千夜は、ユウマの頭をぐりぐりと撫で廻し「ファイトッ」と小さくエールを送る。千夜サンタにユウマはガッツポーズをして、にかっと笑って見せる。千夜もガッツポーズで返す。

 小児科の全ての病室を回り、子供たちにプレゼントを贈るのに2時間もかかってしまった。途中子供たちに囲まれジングルベルを歌ったり、子供の歌を聞いたりプチクリスマスパーティを何度もした。
 一度院長室に戻りソファで寛ぐ千夜に速水が労いの言葉を掛けた。
「突然で悪かったな。疲れただろう?」
「いえ、心地よい疲労感です」
 速水は突然というが、オーダーメイドでサンタ服を作ったり、子供たちにプレゼントを用意したりで速水の方が忙しかったのではと思う。逆にもっと早くに教えてくれていたら手品の一つでも覚えて来たのにと千夜が文句を言うと、速水は嬉しそうに笑った。そしてポツリと零す。
「俺の理想は、せめてクリスマスや正月は、あの病棟に誰ひとり残っていない事だ……」と。
「貴方は凄いです……」
 速水を医者として、そして人として尊敬していると千夜は口には出さずに、心の中で囁いた。

 速水が千夜の横に腰を下ろし、耳元で囁いた。
「本当は早くこの服を剥がして、千夜を啼かせてみたいのだが……もう一件付き合ってくれるか?」
「……はい大丈夫ですよ」
 少しだけそれを想像して千夜の体の奥がずくんと音を立てた。人として尊敬している速水に抱きしめられたいと願う事で、背徳と欲情が入り乱れ千夜に曖昧な笑みを浮かべさせた。
「そんな顔をするな。俺も普通の男だ」
 速水の低い声が速水の欲情を千夜に教えてくれる。
―――まだだ。今この腕を無理に引き寄せる事は出来ない。もっと速水の笑顔を見たいと千夜は思った。
「行きましょうか!」
 自分に鞭打つように千夜は潔く立ち上がった。

 千夜が車に乗せられ連れてこられた場所は、小さな施設だった。ドアの外にまで子供たちの楽しそうな声が漏れていた。速水の後に続いてサンタの格好のままで千夜が室内に入る。自分とは違うサンタが2人いた。
「せんせーーっ!」
速水の姿を認めた子供たちが速水に飛びかかるようにしている。
「せんせいっ、メリークリスマス!」
口ぐちにそう言いながら速水に飛びかかる無邪気な目が、背後の千夜を見つけ驚きの目を向けた。
「本物のサンタクロースだ」
子供の目が宝物を見つけたように輝き、千夜を中央に引っ張っていく。

「本物のサンタさんが来てくれたから、お兄ちゃんたちはもういいよ」
 無邪気で残酷な言葉を、先の二人のサンタに投げかける。その二人はもう顔など隠してはいない。剛サンタとシロサンタは不機嫌な顔をして千夜に近づく。

「ちぇっ、このサンタ本物かぁ? 格好いいな……」
 不機嫌そうにしていても千夜の名前を呼ぶ事などしない二人が、本当に怒っている訳がない。口調は乱暴でも目が笑っている。
 剛は少し小さめで、シロは大き目な服を着ている。どう見ても偽物と分かる格好だ。

 千夜は、病院と同じように名前の書いた箱をひとりずつ手渡す。照れながらも嬉しそうな顔で受け取る子供を見ると、千夜の口元も釣られて緩んでしまう。
「なんか、美味しい所を持っていかれちまったな」
 剛サンタは窮屈そうな服のボタンを外しながら言う。
「身長高いのに、ぴったりだなんてズルい」
 小柄なシロは子供のように可愛く映った。

 速水と本物のサンタが参加した事で、少し中だるみだったパーティが再び盛り上がりをみせた。速水の楽しそうな顔がいいと千夜は何度も、速水を盗み見した。
「千夜、そんな色っぽい目で速水さんばかり見ていると僕襲うよ」
 シロが千夜の耳元で怖い事を言う。それすら千夜には楽しかった。千夜とてこんな楽しいクリスマスを子供の頃に過ごした事は無かった。いつも病弱な弟を気遣ったクリスマスだった。勿論千里が入院している時には自宅でもクリスマスはしない。
(あ……)もしかして、これは千夜の為でもあるのか? と思ってしまった。そう思う程に千夜はこの夜を楽しんでいた。

 2時間ほど、クリスマスパーティを楽しみ速水と千夜は帰り支度をした。そろそろ子供たちも就寝時間だ。多分興奮した子供たちは布団の中に入っても簡単には眠れないだろうと思うが。
 玄関で、今日はここに泊まるという剛とシロが見送ってくれた。
「ありがとうな。ここは俺らの故郷だからさ……」
 剛が照れくさそうな顔をして千夜に礼を述べる。シロも凄く楽しかったと笑顔を向けてくれる。たくさんのプレゼントを配ってきた千夜だけど、自分もそれ以上多くの笑顔を貰った。
「俺も、楽しかったです。剛さんとシロの寸劇最高でしたよ」
「そう? 僕良かった? 今度二人っきりでデートしてくれる?」
 シロの冗談とも本気ともつかない言葉から速水が千夜を守る。
「千夜に手を出したらどうなるか分かるよな? シロ」
 速水のあからさまな嫉妬に、全員失笑して今度こそ「おやすみ」と言葉を交わした。


 千夜は速水の運転する車の助手席で口元を緩め座っていた。
「疲れただろう?」
「全然疲れていませんよ。凄く楽しかったです」
 千夜が運転すると言うのを、その格好で運転したら不審人物と間違われると言って速水はハンドルを握っていた。
 心地よい疲れが千夜を眠りに誘う。ここで自分が眠るわけに行かないと千夜は頑張って目を開けようとするが、速水の運転技術のせいか体に感じる振動が千夜を暗闇へと落とす。

「千夜、千夜……」
 遠くから聞こえる自分を呼ぶ声と共に体を揺さぶられた。
「あ……、ごめんなさい」
 千夜が目を開け見回した所は、いつものマンションの駐車場だ。
「さすがに、千夜の体格じゃ俺も抱っこしてやれないからな」
 速水に揶揄され、千夜は申し訳なさで小さくなってしまう。
「本当に、申し訳ありません」
「いや、千夜には体力残しておいてもらわないと、俺もアレだからな」
 クリスマスパーティの名残りか、今夜の速水の口は軽い。そんな速水も好きだと思うから始末に負えないと千夜はひとり苦笑する。


「あ……ちょっと」
 千夜はまだ体にぴったり合ったサンタの格好のままだった。上着は胸までたくし上げられ、ズボンは中途半端な所まで下げられた、何とも無様な格好だ。千夜が抗うのも無理はない。
「千夜は、肌が白いから赤い色が映える」
「だ、だからって……」
 この中途半端な格好は襲われているみたいで、少し嫌だ。
「う……っ」
 背後から覆いかぶさるような速水が千夜の胸を撫で廻し、感じやすくなった尖りをそっと摘む。そのままゆるゆると刺激を与えられ続ければ、千夜の体も反応を示してしまう。いや、速水の笑顔を見る度に千夜の心と体に少しずつ欲が溜まっていたのだ。

「お前が嬉しそうな顔をするたびに、俺は我慢するのが大変だったんだ。少しは言う事を聞け」
「…………」
 速水も自分と同じ気持ちだったと知り、千夜はもう自分を解放するしかないと思った。
「俺も、貴方の笑顔を見る度に、見惚れていた」
「千夜……」
 速水の唇が激しく合わさってくる。千夜はそれを受け止め自分から舌を絡めて行った。

「でもこれは脱がせて。来年子供たちの前に立てなくなる……」
 千夜の言いたい事を知り、速水は口元を緩めたままゆっくりと千夜を剥がして行く。千夜も待ちきれないように速水のシャツのボタンを外す。


「はう……っ」
 何度受け入れても最初は苦しい。だがいつの頃からか速水は「入れていいか?」と聞かなくなった。それほどに千夜の体は馴染んだのだろうか。気になっていた事を今夜は聞いてみた。
「ふっ」
 千夜の問いに速水は失笑を漏らしてから言葉を続けた。
「もう聞かなくとも、千夜の顔に早くと書いてある」
 聞かなければ良かったと千夜は顔を真っ赤にしてしまった。
「あぁ……」
 速水にゆっくりと腰を引かれ、釣られるように千夜は喘ぎ声を漏らした。千夜の顔の近くで速水の口元が緩む。千夜の事なら何でも分かるよ、と言っているような口元に千夜は食らいついた。悔しくて、愛おしい。

 だが食らい尽くされたのは勿論千夜の方だった。もう1本の指も動かせない程に喘がされた。出す物も無くなった体は悲鳴を上げながらも快感を貪った。苦しいのだが気持ち良い。目の奥で何度も赤い火花が散り、千夜は苦痛と幸せの小舟に揺られるように、ゆっくりと意識を手放して行った。


 翌朝、千夜が目覚め時間を確認するともう9時を回っていた。千夜は休みだ。だが速水の姿はどこにも見えなかった。当たり前だ医者に日曜祭日は関係ない。
 千夜は、だるい体を起こしベッドの上に座り込んだ。そして枕元にある綺麗な包装紙で包まれた箱を見つけた。
「あれ?」
 昨夜帰って来た時には何も無かったはずだ。さんざんベッドの中で乱れたがこれに気づかない筈はないだろうと思う。昨日の出来事が夢の中のように思えた。
「あ……」
 千夜は赤いリボンとクリスマスカードを手に広げ、苦笑した。
「そうか、今日はクリスマスか……」
 この年になって千夜はクリスマスの朝、枕元にプレゼントを見つけた幸せを噛み締めた。
「俺のサンタさん。ありがとう、愛しています」
 そうひとり呟いて、千夜はそんな自分が恥ずかしくなり膝を抱えて丸まった。
でも膝に埋めた口元はずっと緩みっぱなしで、千夜は部屋に誰もいないと分かっていても、いつまでもその顔を上げることが出来ないでいた。


     <終わり>

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