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【夏蛍】誤解

 26, 2011 21:01
こちらの作品は以前観潮楼の夏企画で書きました「夏蛍」の番外編です。
(イラストは希咲慧様「蛍」です)

と、言っても途中まで書いて随分と放置していたのを「天使の箱庭」から持って来ました。
未完だったのですが、6000文字を超える話・・ちょっと勿体無いな、と思いまして・・
(ですので時期が今とは、ずれています^^;)
今回は半分ほどのUPです。

もう一つ紫苑の話も未完で未掲載のを見つけました。
完結させたら随時アップしますネ。





畠山×江崎深雪

同じ会社の先輩後輩。
夏に畠山の故郷に蛍を見に行き、お互いの気持ちを知り結ばれた。
それから約3ヵ月後のお話です。





引越しまであと1週間となった頃、深雪は畠山に「僕も引越し手伝いに行きます」と言ったが
「いや、荷物も少ないし平日だから、深雪は会社に行って」と言われ、肩を落とした。

実際寮には備え付けの物が多かったから、ここから持ち出す物はほんの身の回りの品だけでよかった。
段ボール5個もあれば充分のはずだ。
でも深雪は一緒に手伝い、畠山がこれから暮らす場所を見ておきたかった。

「落ち着いたら深雪を呼ぶから、俺が連絡するまで待ってて」
そう言われたが、本当にそんな日が来るのだろうかと、少々不安になってしまっていた。

そして10月吉日、畠山の引越しである金曜日の朝を迎えた。
畠山は予定通り会社に休みをもらったようだった。
畠山が席に居ない・・・それだけでも寂しいのに今日から寮に帰っても、寮でも会う事は無いのだ。

そんな中深雪は、同僚が畠山の事を話しているのを偶然に聞いてしまった。
「畠山もとうとう結婚かぁ・・いったいいつの間に相手見つけたんだぁ?」
「何か親に頭金出して貰って世帯向きのマンション買ったらしいよ」
「まじ?こんな若いうちに・・そんなに縛られていいのかねぇ・・」
「あ~あ、私畠山さん狙ってたのにぃ」
「まあまあアケミチャン諦めな、俺にしとかない?」
結局その話は同僚たちの羨望の中、いつの間にか違う話に変わってしまっていた。


それでも1日山のような仕事を新人なりに片付け、会社を出たのはもう7時になる頃だった。
携帯を何度見ても畠山からの着信は無かった。
土日に掛けて手伝いにも行きたかったが、約束したから電話が来るまで待とうと思った。
何より深雪は、畠山の引越し先を教えてもらってはいなかった。

会社を出た所で、同期の鮫島と偶然会った。
「あれ?江崎も残業だったの?飯食いにいかね?」
鮫島と課は違ったが、やはり同期というのは気軽に話しが出来る存在だった。
寮に帰っても詰まらないし、明日は休日という寂しさと気楽さで
「いいよ・・」と食事の誘いを受けた。

二人が向かった先は、今風の居酒屋だった。
完全個室では無いが、他の人間と顔を合わす事も無い簡易個室だった。
最近はこういう居酒屋が多くて、周りを気にする事なくゆっくり飲み食い出来るから結構人気がある。

「江崎って酒飲めないの?新歓の時も殆ど飲んでなかったよな?」
「え?見てたんだ?」
深雪のその質問には答えず
「酒飲めなくても、つまみ色々あるから一杯食えよ」
そう言いながら、適当にツマミを注文して、鮫島は生ビール
深雪は生グレープサワーを注文して、とりあえず「お疲れ」の乾杯をした。

「どうよ慣れた?」
「うん・・まぁ何とか・・」
入社して半年過ぎると多少は余裕は出てくるというものだった。
「でも江崎は良いよなぁ、畠山さんだろ?あの人優しそうだし・・俺なんか、もう本当に毎日パシリだよパシリ!・・・」
「う・うん・・」
実際畠山は優しく仕事も教えてくれたし、そして何より仕事が出来る。
その仕事ぶりを見て手順や、要領を覚えていけばいい。

先輩たちも女性社員も一目置いている。
将来性を見込んで声を掛けてくる女性も居るみたいだし
だけど見た目の格好良さでも深雪が知る限り身近で一番モテていた。

『そんな畠山先輩と僕は・・・・』
あの夏の日1年前から好きだったと言われ深雪は畠山と契った。
一緒に蛍を見に行ってホテルで畠山の熱く滾る物を受け入れた。
社員寮でも、一度・・・・だけど最近ふたりきりになる機会が殆ど無かった。

あれ以来、先輩は僕を求めて来ない・・・・

自分の好きだという気持ちだけが大きく膨らんで、
その思いに比例して不安も膨らむ。
本当に僕なんかでいいのだろうか?と。

「なぁ聞いてんの?」鮫島の言葉に現実に引き戻された。
「え・・ごめん」
「ぼーっとしてると、そのうち誰かに襲われるぞ」
「な・何で僕が襲われるんだよ」
少し口を尖らせて抗議すると、
「江崎、最近何かあった?入社した頃と比べると・・・何つうか・・・
凄いエロくなったって言うか・・・・雰囲気変わったよな」

「エロイって・・・僕男だし・・」
そう言う深雪の頬がアルコールのせいか、話題のせいかほんのり染まってしまった。
「ほら、そんな顔する」そんな顔がどんな顔なのか深雪には判らなかった。
「まぁいい、飲もうぜ」鮫島の明るさに深雪も釣られるようにグラスに口を付けた。

新人の同期の話は尽きることが無かった。
仕事の愚痴から人間関係の愚痴まで、鮫島らしく明るく語っていた。
何でも前向きに考える鮫島が今日ほど羨ましいと思った事はなかった。
いつの間にか深雪は自分の上限をも忘れて飲んでいた。
気がついた時はもう具合が悪くなった後だった。

「悪いな、俺飲ませ過ぎたか?」
背中を摩りながら鮫島が謝ってくるのを申し訳なく深雪は聞いていた。
「ち・違う・・・ちょっとイヤな事あったから・・鮫島のせいじゃないよ」
「そうか?どうするよ寮に帰れるか?俺の部屋の方が寮より近いから、うち泊まれば?」
鮫島は大学の時から住んでいるマンションに未だに住んでいるらしかった。
「鮫島はどうして寮に入らなかったの?」青白い顔で深雪はそう聞いた。
「ああ俺んちは東京だから、通勤圏内じゃ寮に入れないし・・家にもいたくないからな・・」
それぞれ複雑な事情を抱えているんだ・・・
酔った頭で深雪はそう理解し「ごめん、イヤな事聞いたかな?」と詫びた。

「大丈夫だよ、さ俺のマンション行こう」
そう言って深雪の腕を自分の肩に回させた。
「大丈夫・・ひとりで歩けるから・・・」
突っ張っていた深雪も歩き出して5分もしないうちに、結局鮫島の背におんぶされていた。

「ごめん・・鮫島ごめんね・・・センパイ・・」
酔っ払いの戯言のような謝罪の言葉を深雪は鮫島の背で呟いていた。
一度たがが外れた深雪は鮫島の背でうわ言のように「せんぱい・・」と繰り返していた。
詳しい事情は知らないが、深雪が呼ぶその先輩とは畠山の事だろうと鮫島は感じていた。

途中気持ち悪いと目を覚ます深雪を背負って自分の部屋に到着した時は、さすがの鮫島も汗だくだった。
殆ど意識のない深雪をベッドに下ろす前に、着ている服を下着まで全部脱がせた。
さすがに意識が無いほど酔っている人間を風呂に入れるのは躊躇うものがあって、簡単に体を拭いてやってからベッドに転がした。
脱がせた深雪のスーツをハンガーに吊るし、残りは抱え乾燥機能付きの洗濯機に自分の服と一緒に放り込んだ。
朝には乾いているだろうと、男の大雑把なやり方だった。

そして鮫島も軽くシャワーを浴びると、疲れて深雪の横に潜り込み直ぐに寝息を立てた。

翌朝、深雪は重い頭で目が覚めた時に自分が何処にいるのか一瞬判らなかった。
判った事は自分が下着一枚身に着けていない事と、となりに背中を向け下着一枚の男が寝ている事だけだった。
すっきりしない体調に、追い討ちを掛ける光景に深雪は顔色を失くした。

『いったい夕べ僕は?』思考を巡らせるのも今の深雪には恐ろしい事だった。
「んん・・・」背中を向けていた男が寝返りを打つように深雪に向き直った。
「鮫島!」相手が鮫島だと判ると、夕べ一緒に飲んだ事は思い出せた。
だが聞かなくても、お互い裸でいる以上は・・・
身体に違和感が無いのは、合意の上だったのだろうと深雪は理解した。
『先輩・・・ごめんなさい・・』胸に当てた手が小刻みに震えていた。

「んん・・?ああ起きてたのか?」眠そうな目をして鮫島がそう声を掛けてきた。
深雪は慌ててベッドの上のタオルケットを手繰り寄せ体を鮫島の視界から隠した。
「そんな今更・・」呆れたような鮫島の言葉は深雪の心に止めを刺した。

<つづく>



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【夏蛍】沈黙

 27, 2011 20:40
「ぼ・僕帰るよ・・・僕の服は?」
「帰んのか?もう少し寝て行けよ・・」
「僕の服・・・・・」
「帰る前にシャワー浴びてけば?軽く拭いたけどまだベトベトだろ?」
鮫島のその言葉に深雪は又心が痛くなる。

「・・・江崎?お前泣いてるのか?」
深雪は自分のとった行動が情けなくて、そして畠山に悪いと思ったらいつの間にか、涙が零れていた。
泣いてしまった自分が余計に惨めで「シャワー借りる」
そう言って立ち上がろうとしたが、やはり裸のままでベッドを降りるのも躊躇われた。
そんな深雪に鮫島が「何、恥ずかしいの?今更?全部見たのに・・」
深雪は又泣きそうだったから「平気だよっ!」
そう言ってベッドから逃げるように浴室に飛び込んだ。

深雪は熱いシャワーを頭から浴びながら、そして今更ながら足がガクガクと震えて来た。
「先輩・・・・」
酔ってたとは言え、先輩を裏切ってしまった・・・
動揺していた深雪は自分の体の事など全く気にかけてはいなかった。

ベッドの下から携帯電話の呼び出し音がしている
鮫島はその携帯を拾い上げる見ると『畠山先輩』と液晶画面に表示されていた。
少し躊躇った後その電話に出た。
「もしもし」
「あ?江崎の携帯では?」
「あー畠山さんですか?俺営業の鮫島です・・江崎は今シャワー浴びてますが」
そう言うと「そこは何処だ?」明らかに怒りを抑えたような声が返ってきた。

「今、俺んちで・・江崎夕べ凄かったから今シャワー浴びてるんですよ」
「どういう意味だ?それは・・」
「えっとですね」ここまで話した時にプーーッと電話が切れてしまった。
「あれ?バッテリー切れだ・・」
鮫島は「ああ・・参ったな機種違うし」と諦めてその携帯を閉じた。

そしてバスルームに行くと乾燥機から深雪の衣服を取り出し
「おーい、江崎・・いつまで入ってるんだ?此処にお前の着替え置いとくぞ」
そう声を掛け浴室の扉に手を掛けた時、中から深雪が扉を開けた。

「うわっ!何でそんな所に・・・」扉の影に体を隠すようにして深雪が文句を言う。
「ほら、着替え此処」
「あ・ありがとう・・・ちゃんと洗ってくれたんだ・・」
鮫島の優しさに深雪は自分のとった態度を反省した。

深雪のそんな態度に鮫島は、さっきまで感じなかった深雪の白い裸体を見てドキッとしてしまった。
知らず知らずのうちに鮫島の指が薄いピンクの尖りに伸ばされた。
「あ・・っ」深雪の口から小さな悲鳴が漏れて、一瞬ふたりで固まってしまった。

深雪はたったそれだけの事に反応してしまう身体が恨めしく、昨夜どれだけ自分が乱れてしまったのか考えるのも怖かった。
「あ、ごめん・・・ちょっと色気あり過ぎ」照れたような鮫島の言葉に深雪も我に返った。
「鮫島・・ごめん夕べの事は忘れて・・」
「あ・ああ・・ま、あの程度の事は気にするな・・」
「うん、ありがとう・・僕着替えたら帰るね」

「そうか・・ほら着替え」
鮫島は深雪に着替えを渡すとそれ以上は何も言わずに脱衣場から出て行った。
肌着を身に着けながら深雪は自分の手が小さく震えているのに気付いた。
鮫島が忘れてくれても深雪の中の罪悪感は消える事は無い。
「朝飯食ってけば?」と言う鮫島に詫びを入れて深雪はタクシーを拾ってもらって、寮への道を急いだ、一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
深雪を見送った鮫島も今まで考えた事が無かった男同士を考えてしまい「ヤバイ」と口に出していた。
「あっ、畠山先輩から電話があった事伝えるの忘れた!」
深雪の携帯はバッテリーが切れたままだ、今更連絡の付けようが無かった。
「夜にでも電話してみるか・・・」鮫島はそう呟いてもう一眠りしようとベッドに潜り込んだ。

身も心も疲れ果てた深雪を乗せたタクシーが寮の前で停まった。
たった一晩帰らなかっただけなのに、その建物は何故か深雪をほっと安心させてくれる。
社会人の男子寮なんて、一晩帰らないくらいでは誰も騒ぎはしない。
特に本人が休みの前の日には帰って来る人間の方が少ないくらいだった。

深雪はスーツのポケットから部屋の鍵を取り出しながら、自分の部屋に向かって歩いた。
ふと部屋の前に誰かが立っているのに遠目で気付いた。
一歩また一歩と近づくと、その姿がはっきり判り深雪は引き返したい衝動に駆られ、その場から動けなくなってしまった。
歩みを止めた深雪にその影が近づいて来る。

「・・・先輩・・・」落ち着こうと思っても深雪の口から出る声はかなり震えていた。
「今まで、何処で誰と何をしていたの?」
優しい口調だったが、畠山の目は微笑んではいなかった。
「先輩・・」深雪は、そんな事を答えられる筈もなかった。
「ちょっと来て」そう言って畠山は深雪の手首を掴んで、今来た道を戻った。
「先輩・・どうして?」
「いいから黙って着いて来て、それとも都合悪い?」
深雪の朝帰りを咎めているのは判る、そしてそれを軽くかわせる程深雪は駆け引きにも、恋にも慣れていなかった。

降りたばかりのタクシーに再び深雪は乗せられ、着いた先は・・・
多分畠山の引っ越したばかりのマンションなのだろう、部屋の隅にいくつかの段ボールの空き箱が重ねてあった。
タクシーに乗せられてからは、どちらも口を開いてはいなかった。
その沈黙が深雪を怯えさせていた。

深雪は新しい広いベッドに背を押され倒れこんだ。
あっという間もなく、畠山は深雪の衣服を剥ぎ取っていく。
「やっ!先輩・・・何を・・・」
今まで見たことのない畠山の乱暴な態度に深雪は慄いた。
1時間ばかり前に身に着けた下着までも取り去られ、深雪は一糸纏わぬ姿を畠山の前に晒した。

恥ずかしくて怖くて深雪は脚を摺り合わせ下半身を隠そうとしている。
だがその抵抗も虚しく、畠山によって大きく開かされた。
その脚の間に畠山は座り、深雪の腰を持ち上げ下に枕を差し込んだ。
「いやぁ――っ先輩っ!」
大きく拡げた脚の間に畠山の視線が突き刺さっていた

<つづ>

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【夏蛍】深雪

 02, 2011 01:04
その視線の先には固く秘めやかに閉ざされた蕾がそっと息づいていた。
畠山はどう見ても、深雪が昨夜男のモノを受け入れたとは思えなかった。
深雪の蕾はまだ男など知らないように慎ましかった。

会えなくて寂しく苛立っていたのは深雪ばかりでは無かったのだ。
ただ畠山は色々な手続きや引越しの準備、新しい家具の手配などで忙しく、
プライベートの殆どの時間をそれに費やしていたのだった。

『この部屋で初夜の時のように深雪を抱きたい』
旅先とはいえ、簡素なビジネスホテルで抱いた事を深雪に申し訳なく思っていた。
そしてその願いを自分の手で壊そうとしている自分に気付いた。

「誰かに触られた?」
その言葉に深雪は自分では違和感は無いが見れば判るのかもしれない、と体を一層固くした。
「・・・先輩・・許して・・」
それはこの体勢の事なのか、それともやはり誰かと繋がりを持ったのか
畠山には理解出来なかった。

「あぁぁっせんぱ・・・」
畠山は舌で深雪の蕾を突付いてきた。
『固いな・・・』その蕾は畠山を拒否するように舌先を跳ね返してくる。
「夕べ・・誰と何処にいたの?」もう一度畠山は聞いてみた。
「ど・・同期の・・あぁ・・鮫島と一緒でした」
深雪が答える間も畠山の舌は蕾を解すように蠢いていた。

「何をしてたの?」唇を離さないで聞くからその吐息をもろ下半身で受け、
くすぐったい感触に深雪はまた違う快感を覚えた。
「一緒に・・飲んで・・僕飲みすぎ・・て・・・やぁぁっ・・酔っ払ったみたいで・・鮫島の部屋に泊めて・・・もらいま・・した。あっ・・」
尖った舌が少しだけ蕾の中に押し入ってきて、深雪は逃げようと身体を捩ったが、畠山の手は深雪の腰を掴んで離さない。

「それから・・・?」
「気がついたら・・もう朝で・・僕は・・裸だった・・先輩ごめんなさい」
そこまでやっと言えた深雪の瞳からは後から後から涙が溢れて来てしまう。
「何があったか覚えてないの?」少々呆れて畠山はそう聞いた。
「は・・はい・・・何も・・・くっ・・・」
久しぶりに畠山に触られる身体は心とは裏腹に敏感に反応を始めていた。

「そう・・・ここに挿入された?」
「わ・・判りません・・」嗚咽と一緒にそう返事が返ってきた。
「そうか、じゃもう少し、じっくり検査しないと判らないな・・いい?検査するよ?」
もう畠山の目は怒ってもいなかったし、その口元は緩んではいたのだけど、深雪からはその様子は全く伺う事が出来なかった。
「・・はい・・お願いします」そう言い深雪は恐ろしさのあまり身体を小刻みい震わせていた。

畠山の肉厚の舌が改めて蕾を弄るように動き出した。
「あぁぁ・・」ぞくぞくとする感触はもう快感と呼べるものだった。
久しぶりの逢瀬がこんな状況にも関わらず、深雪は自分の恥ずかしい場所に唇を這わせているのが畠山だと思うと、それだけで絶頂を迎えそうなほど心が悦んでいた。

怒っていると思っていた畠山の動きが想像以上に優しくて、深雪は何故か涙が零れてきた。
指先で淵をなぞるような動きに代わり、その感触に深雪の腰が跳ねた。
「感じやすい体だね・・」
その言葉は揶揄されているのか、責められているのかさえ深雪には理解できなかった。
「こんなに勃ち上がってる」そう言いながら深雪の裏筋につつーっと指を這わせた。
「やぁぁっ触ったらだめ・・」
「どうして?じゃ・・・深雪が望んでいる事をしてあげるよ」
深雪が何?と返す言葉よりも早く畠山の熱い口腔に含まれ、深雪の口からは再び嬌声が漏れた。

「だめっ、いっちゃう・・」
あの日畠山に抱かれてからもう、二ヶ月以上経っていた。
深雪の中に溜まりに溜まった欲が放出を求めて悶え狂っているようだった。
「あぁぁ先輩・・だめ・・いくっ」
だが解放の寸前にその熱は畠山の手によってぐっと封じ込められた。
「やぁぁぁぁぁ」
畠山は手を緩めずに体を上にずらし、深雪の顔の近くに寄せた。
「ひとりでしなかったの?」あまりにも早く絶頂を迎えそうになる深雪にそう問うた。
深雪は涙を溜めた瞳で畠山を見詰めふるふると首を横に振った。

「どうして?深雪の年なら溜まった物は外に出すのは当然だろう。勿論俺も大して変わらない年だけど・・・」
「先輩は?」
「俺は・・出した・・深雪の事を思い出しながら。」畠山は少し照れたように正直にそう告白した。
「僕の事を・・・?」
「ああ、深雪のイク時の顔や、声や、肌を思い出しながら自分でした」

「せんぱい・・本当に?僕の?」
「ああ、だからまたイク顔を見せて」
と近づいた唇は返事を返す前に塞がれ、その口付けに酔っている間に畠山の右手が深雪のペニスを上下に扱き始めた。
「んんん・・・っ」畠山の動きを止めようとしても、唇は塞がれたまま動きがとれなかった。

「あぁぁぁぁっ」逃れるように離れた唇から嬌声が漏れ、深雪は足の指をくーっと反らしながら溜まった精を吐き出した。
深雪はガクガクと震える腿も揺らめく腰も、畠山の手の内にある熱も自分の全てが何故か愛しかった。
「先輩・・好きです、でもごめんなさい・・僕鮫島と・・」
「うん知ってるよ、鮫島とは同じベッドで寝ただけだって事」
「えっ?そうなんですか?」

間の抜けた深雪の問いかけに思わず畠山は失笑してしまい
「自分でSEXしたかしないか分からないのかなぁ?」と呆れた口調で言った。
「だって・・朝起きたら裸で・・鮫島も裸で・・あ、鮫島は下着は着けてたけど・・」
「だからやっちゃったと思ったの?」
畠山の優しい声に深雪は泣きそうな顔で頷いた。

「大丈夫だよ、深雪の大事な所は以前のまんまだ・・」
「良かったぁ、先輩まだ僕の事・・・?」
深雪の問いかけに「続きしようか?」と畠山が微笑んだ。
「はい・・いっぱいして下さい」
深雪はずっと言えなかった事をやっと強請る事が出来た。

「俺としたかった?」
「・・・・はい」
「俺も早く深雪を抱きたかったよ、この部屋で」
「この部屋で?」
「ああ、もう少しして落ち着いたら深雪もここに越しておいで」
「いいの?僕が引っ越してきていいの?」
そう聞く深雪の瞳には嬉し涙が溢れんばかりに溜まっていた。

「勿論、深雪と暮らすために用意した部屋なんだから」
「でも会社の先輩たちが、先輩結婚するから此処を買ったんだって、噂してました・・」
「・・・・するよ」
「・・・・・・・」
「深雪と、ずっと一緒なんだから結婚するのと同じだろ?」

「せんぱーい」そう言うと深雪はヒックヒックと嗚咽を漏らし始めた。
「ばか、泣かなくっても・・・」
子供みたいに嗚咽を漏らす深雪を胸に抱き締めて、
畠山は「これから宜しくな、愛してるよ」と囁いた。
「はいっ・・・」それ以上言葉の出ない深雪に優しい口付けをしかけた。


「深雪・・・深雪・・・」
畠山は唇を離す度にそう何度も愛しそうに深雪の名前を呼んだ。
そして深雪の故郷の真っ白い雪を思わせるような白い肌にも愛を刻んでいった。


<おわり>


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再)冷し足りない!

 07, 2011 00:12
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                イラストpio(版権著作権 pio)

BL・KANCHOROU 2010夏 参加作品



「何だよっ?」懐中電灯で照らされて不機嫌そうにその男は警官を睨んだ。
「お前たちこそ、此処で何をやっている?未成年か?」
横柄な警官の態度に、若い男はポケットから免許証を抜いて投げつけた。

「宮森翔……21歳か、そっちは?」
「こいつは俺の同級生だよ、今身分証明書はないけどいいだろっ?」
「そ、それに何だその手錠は?」
「はぁ?あんたもプロだろう?これが本物か玩具か位は見てわかんねぇのかよ?」

確かにそれは、警察官が携帯している手錠とは少し素材が違っているようだった。
舌打ちをしながら、その警官はお前らも危ない遊びなら家でやれよ……ったく、土曜の夜の新宿はろくなもんが居ない。この程度の事に構っている暇も無いなどと、ブツブツ言いながら立ち去った。

逃げるように翔の胸に抱きついて来た少年に「お前、名前は?」と初めて声を掛けた。
「……蘭丸」
「へっ?随分見かけと違った男らしい名前だなぁ」
「あんた、足痛くないの?」
翔の言葉を無視するように、そんな事を聞いてきた。
「あんたじゃない、翔だ。あぁちっと痛いや」
翔はそう笑うと血の滲んだ包帯を手で押さえた。

「それよりお前……」
「お前じゃない……蘭丸」
「そう、蘭丸お前こそ何だよその痣や手錠は?」
「これ?プレイ?いや……拘束?」
蘭丸がしれっとした顔で答えると、翔が呆れたように大袈裟に肩を竦めた。

「蘭丸、これからどうするんだ?」
「行くとこ無いし……」
「じゃ俺の部屋に来いよ、その手錠外してやるよ」
「外せる?」
「簡単さっ」

蘭丸は足を少し引き摺る翔の後ろを歩いた。
「何か俺ら周りから見たら凄い二人連れだな」翔が面白そうに笑った。
足から血を流している翔と、手錠に繋がれた欄丸……

10分程歩いて辿り着いた場所は、コンクリート打ちっ放しの部屋だった。
「ふーん」蘭丸が面白そうに部屋の中を見回している。
「何もねーだろ?」
「格好いい部屋だね」
翔も本当は気に入っている部屋を褒められ、ちょっと嬉しかった。
「変わっている奴だな……」とまた肩を竦める。

パイプベッドの下から、大きな箱を取り出し、何か道具を物色していた翔に呼ばれた。
言われたように翔の隣に腰を下ろし、両手を前に差し出した。
「何これ!すっげぇ重いじゃん!」
「うん……プラチナだからかも」
「へっプラチナ?」手錠を確認すると『pt900』の刻印が打ってあった。

「何だこれ?500gはあるんじゃん?」
「うん、その位はあると思うよ」
「売っぱらったら200万以上にはなるぜ、どんなじじぃだよ」
「じじぃじゃ無いけど、金も名誉もある奴」ぶっきら棒に、他人事のように蘭丸は答える。

「本当に逃げて来たのか?」
「ゲームだよ……あと24時間捕まらなかったら、僕は自由だよ」
「ふーん、随分面白そうじゃん?」
「そろそろ自由になりたい……」そう呟いた蘭丸の声が血で滲んでいるような気がした。
「俺が自由になるのを手伝ってやるよ、あと24時間だろ?」
そんなの簡単さと付け足す翔を不安な面持ちで蘭丸は見つめていた。
「ほらっ!外れた」
その声と同時に片方の手首から手錠が落ちた。もう片方が外れるのも時間は掛からなかった。

蘭丸は自由になった手首を摩りながら「ほんとだ……簡単だ」と呟く。
翔が言った通り、簡単な事なのかもしれないと思った、自由になる事は……

「蘭丸自由になっても行く所無いんだろ?俺ん所ずっと居るか?」
ベッドの上に膝を抱えて座る蘭丸を後ろから羽交い絞めにして翔が聞いた。夜の街で出会ったばかりだったが、若い二人にはそんな事は関係なかった。フィーリングが合えばいいのだ。
「……うん」
「あまり乗り気じゃ無いみたいだなぁ?」翔の声が少し沈んでいる。

「翔……僕が自由になったら、僕を抱くの?」
その言葉の裏に何があるのか?翔は言葉に詰まった。
「蘭丸はどうしたいんだ?」
「判らない……僕はまだ誰にも抱かれた事が無いから……」

「えっ?どうして?」
変な質問だと思ったが、これだけの仕打ちをしていた男が蘭丸を抱かなかった事が不思議に思えた。
「縛られたり、色々されたけど……」
「抱かれなかったって事か?」翔が躊躇いながら聞くと蘭丸は黙って頷いた。

「蘭丸って意外と愛されていたのかもよ?」翔は素直に思った事を口に出した。
「ペットとしてね」
自虐的な笑みを浮かべる欄丸をぎゅっと抱きしめながら翔は、何気なく話題を変えた。

「なぁその痣が消えたら海行かないか?」
「えっ?」突然の話に蘭丸が振り返って翔を見る。
翔はその顔を挟み、そしてその唇を吸った。

「この痣が消える頃には夏は終わっているよ」身を捩り悲しそうな顔で蘭丸が呟いた。
「じゃ来年行けばいいじゃん」と翔は軽く言う。
「……来年?」
「そっ!来年も夏はちゃんと来るから」
その言葉に初めて蘭丸が少年っぽい顔で笑って「うん」と頷いた。

 
午後10時……

「24時間過ぎた……」翔が呟いた。
昨夜から外には出ずに、ずっと翔の部屋に居た蘭丸が静かに口を開いた。
「もう飽きたから、最初から追いかけるつもりなかったのかも……」
その声が少し淋しそうに聞こえたのは翔の想い過ごしだろうか。

ドンドン!翔の部屋の扉を強くノックする音が響き、蘭丸が肩をピクンと震わせた。
翔がゆっくり扉に近づき覗き穴から扉の外を見る。
翔の目に映ったのは、黒い服を着て黒いサングラスをしている怪しげな男だった。そっと手招きして蘭丸を呼んだ。同じように覗き穴から覗いた蘭丸が息を詰めた。

「知っている奴か?」
翔の問いかけに蘭丸が頷いた。そしてその翔の目は『どうする?』と問い掛けている。
蘭丸は少し考えてから開けてと翔に伝えた。

蘭丸を背中に庇うようにして、翔がガチャッとロックを解除しドアを開けた。
蘭丸の目の前に立っていた男は、蘭丸の飼い主……いや飼い主だった男のボディガードである中林という男だった。

「……中林さん」
「蘭丸様、お届け物がございます」
「へっ……?」
中林の見た目とは違う態度に、臨戦態勢の翔が間の抜けた声を出した。

中林が差し出したのは1枚のキャッシュカード。
「これは?」訝しげに蘭丸が中林に問い掛けた。
「お館様からの退職金で御座います」
「……ペットにも退職金出すなんて、随分余裕だね」
蘭丸はそれを受け取る事がとても屈辱的な事に思えて、精一杯の皮肉を込めて中林を睨んだ。

それでも中林は頭を下げ「お願いです、お受け取り下さい」と言う。
「ちょっと待てよ」翔がそんな二人の間に入って来た。
「24時間過ぎて、直ぐあんたが此処に来たって事は、最初から此処に居るって判っていたって事か?」
「……はい左様で御座います」中林が頭を下げたまま答えた。

「……どういう事?」蘭丸が不思議そうな顔をして翔を見詰めた。
「此処に居るって判っていて逃がしてやった、って事さ」
何だか自分たちが踊らされていて翔も憤りを隠せない様子で言い放つ。

「中林さん……どうして?」
ボディガードと運転手を兼ねていた中林と一緒に居る時間は蘭丸にとって長い時間だった。
そして中林は蘭丸が唯一心を許した人間でもあった。

「私はただ渡して来いと言われただけでして、これ以上は……」中林が言葉を濁した。
たが蘭丸は中林が悲痛な顔をしているのに気づいた。
「あいつに何かあったの?こっから先は聞かなかった事にするから教えてよ。そうじゃないと、これも受け取れない!」
中林が頭を下げている時間がとても長く感じた。そして意を決したような眼差しを蘭丸に向けた。

「突っ立ってないで中に入れば」翔が中のソファを顎で指した。
「失礼します」コンクリート剥き出しの造りの部屋は靴など脱ぐ必要が無かった。
カツンカツンと革靴の音を響かせ、中林がソファに腰を下ろした。

「お館様は最初から蘭丸様を手放すつもりでいらっしゃいました」低くゆっくりと中林が話し出した。
「じゃどうして?」蘭丸がどうして24時間なんてと言いたかった。
「お館様は、『せめて24時間くらいは私の事を考えていて欲しいじゃないか?』そう笑っておられました……」
「…………」

「お館様は今日入院されました」
「えっ?」黙って聞いていた欄丸が驚きの声を上げた。
「もっと早くに入院すべきだったのですが、蘭丸様を手放す決心がつかずに今日まで至ってしまいました」
「何それっ?」
「入院したら退院出来ない事をご存知でしたから……」


蘭丸は中林が帰ったのも気づかないで、ただぼんやりしていた。
「……何だそれ」たまに口を開くとそう呟き、そして又ぼんやりした。


蘭丸は両手をひとつに絡めて縛られ、天井から吊られていた。勿論その作業を施すのは違う男だった。
その男は蘭丸の縛られる様を、酒を飲みながら静に眺め、時折口を挟んで指図するだけだった。縛られる事に慣れ、次に訪れる快感の壮絶さを知っている蘭丸の体は、縛られる行為だけで、登りつめて行った。

「あぁ……蘭丸綺麗だよ、君は縛られるのが良く似合う」
そう言いながら、欄丸の剥き出しになった胸に指を這わす。ブランディーを含んだ唇を寄せ、ツツーッと零れたアルコールにもさえ敏感になった肌は悦んだ。

その男の指示により、簡単に絶頂を迎えないように根元もしっかり結ばれていた。
「ああぁぁ……」爪先立った足の指だけで体重を支える体は揺れるだけで、肌に縄が食い込んでいく。
「ああぁぁぁ……」
「もうこんなになって……蘭丸イキたいかい?」
言葉も発せないで蘭丸はただ頷くばかりだった。

その男の指が蘭丸のペニスにかかる
「あぁ……お願い……イカセテ」
「やあ―――っ!」放出できないペニスを咥え込まれ、蘭丸の口から悲鳴が上がる。
「やめて……やめて、ああぁぁ……お願いイカセテ……イカセテ」
蘭丸は呪文のように繰り返すが、その攻めは何時間にも及んでしまう事が常だった。

そして目が覚めると、自分に与えられた立派なベッドで必ず眠っている。
夢だったのか?と思いもするが、体に残るまだ新しい縄の痕が事実だったと教えてくれる。
週に3日程この行為は行われ、それ以外の日常はすこぶる快適だった。

中林と一緒ならば外出も許されたし、歩きながらチラッと気に留めた物はその日のうちに蘭丸に与えられていた。
「誰も欲しいって言ってないし」渡された品物に腹立たしさを感じる事もいつもの事だった。



「蘭丸、ほらっ」ぼーっとしていた蘭丸の頬に冷たいペットボトルが付けられた。
「あぁ……翔、ありがとう」
「あの男の事考えていたのか?」遠慮がちに翔に問われ、蘭丸は黙って頷いた。

「やっぱお前愛されてたんじゃん?」ボトルのキャップを回しながら翔が言う。
「……あんなの愛じゃない」蘭丸は唇を噛んで抗うがその声には元気は無かった。
「人の愛し方には色々あるからな、それでも愛なんだよ」
そう言うと翔は、ニヤッと笑いながら水を咽にゴクゴクと流し込む。

「俺の愛は熱いぜ」揶揄するように語る翔に「火傷しちゃう?」と蘭丸も揶揄して返す。
そう言った途端、ペットボトルの水が頭から降って来た。
「えーっ!信じらんないっ!」翔のとった行動に驚きの声を上げた。

「先に冷やしといてやるよ、ほら脱げよ」
翔が濡れた蘭丸のシャツを脱がそうとする。
「やだ……汚い」蘭丸は痣だらけの体を見られたくは無くて抵抗する。
「汚くないよ」翔はそう言って欄丸のシャツを頭からすっぽり引き抜いた。

そして翔は自分の着ていた服も脱ぎ捨てる。
「……翔」
蘭丸は後ろから羽交い絞めにされ、翔の熱い体を背中に感じた。
「俺はその男に感謝するぜっ、こうやって蘭丸と出逢えたのもそいつのお陰だし。そして……蘭丸の初めても俺のために残しておいてくれた……じゃね?」

翔の言葉は少し乱暴だが、蘭丸を抱きしめる手はとても優しく、そして熱かった。



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吐息の白い夜 1

 19, 2011 23:42
◇前後編(短編)になります。楽しんで頂けたら嬉しいです◇




「だから、言っている意味が分からないって」
「お前に分かってもらいたいって言ってないだろう?」
さっきから、埒のあかない会話を二人は交わしていた。

高校二年の時に初めて同じクラスになり、志望大学、学部が同じ事を知りそこから仲良くなり、いい勉強相手そしてライバルとして過ごして来た。そんな二人も今は大学二年なのだ。
それなのに、急に佐野涼太が可笑しな事を言い始めたのだ。一条星哉は訳が分からずに困っていた。

「どうして、女を抱いていて達けないのが俺のせいで、だから俺と暫く距離を置くって?さっぱり分からないだろう、普通は」
知り合った時から、気が合った。同じ大学を志望していたのは涼太だけではないのに、つるんでいたって事は気が合う証拠だと今さら言わなくても分かるはずだ。
凸凹コンビと言われても、楽しく付き合って来ていたのに、涼太の下の事情と自分がどう関係あると言うのだろう。

172センチで細身の星哉と比べると、185センチを超える涼太は身長だけではない、胸板も厚く男らしい体格だった。それ故に凸凹コンビと言われるのも仕方ない。それも大学生になった今はそんな呼び方をされる事も少なくなった。

「だから、女抱いていても何か……ついお前の顔に置き換えるんだよ。そしたら直ぐにイける」
「だからそれ変だろう。俺は女じゃないし」
「だから困ってるって言っているだろっ」
さっきから、進展のない会話が続いている。涼太と星哉は駅のベンチに腰を下ろした状態で、もう何分も終わりのない会話を交わしていた。

「美味い物を喰っても星哉が好きだったなぁとか、楽しい所に行けば星哉も連れて来れば良かったなぁとか……分からないけどそう思っちまうんだよ。仕方ないだろ」
「……マジ訳わかんない……」

それに終止符を打ったのは涼太の方だった。
「だから……」
もう何度目の「だから」なのだろうと、働かない頭で星哉はぼーっと思っていた。
「だから、暫く星哉とは会わない。大学で見かけても俺を放っておいてくれよな。じゃあ」
涼太はそう言い捨てると、ホームに入って来た電車が閉まる寸前に扉の向こうに消えてしまった。一人残された星哉は訳も分からないまま、だが置いて行かれて内心は酷く寂しいと思いながらもホームを見ているだろう涼太と視線を合わせないように、明後日の方向に顔を向けていた。

(全く……訳わかんない……)
星哉が知る限り涼太が女と切れる事は無かった。かと言って遊び呆けているわけでもない。二股を掛けるような奴なら友達にはならなかったと思う。だけど涼太が誰かと付き合う期間は長くて半年、平均したら三か月くらいだろうと過去に涼太と付き合ってきた女の顔を星哉は思い浮かべたりもした。みんな可愛い子だった。一番最近は同じ大学のそれも1つ先輩と付き合っていた。才媛と誉れ高い女性だったのに何が気に入らないと言うのだろう。

涼太が帰っても星哉はずっとベンチに座ったまま、色々な事を考えていた。ふと頭の上から声が掛けられる。
「おや、一条君じゃない。待ち合わせ?」
星哉が声の主を見上げると、そこには同じサークルの松田が嬉しそうな顔をして立っていた。同じサークルと言っても星哉も涼太も名前ばかりの幽霊会員だ。それでもいいからと、高校からの先輩である松田に頼まれて参加したからだ。

「松田さん……俺、帰るところです」
「ふ~ん?」
もしかしたら、星哉が何本も電車を見送っているのを見ていたのかもしれない、そう思われるような顔だった。
「今日は、ボディガードは一緒じゃないんだ?」
「ボディガード?ああ、涼太ですか。さっき帰りました」
涼太と星哉が凸凹コンビと言われなくなったのは、この言葉が大学生になってから使われるようになったからだ。
「それにボディガードって何ですか。俺男だし、護られる必要ないですから」
星哉が不機嫌そうにそう答えても松田は目尻を下げたままだ。それが馬鹿にされているようで、星哉は面白くなかった。

「だって、君たち高校生の頃からいっつも一緒だろ?あれじゃあ恋人が出来る暇がないんじゃないの?」
「え……」
松田の言葉の後半部分に星哉は反応してしまう。
(もしかして、涼太が女と長続きしないのは自分のせい?)
「そんなに俺ら、一緒にいるように見えましたか?」
「ピンで見かける事はなかったね」
優しい顔をして松田は言い切った。

「はあ……っ」
やはりそうかと星哉は頭を抱えたい気分だった。星哉は今まで女性と付き合った事がなかった。だから涼太は暇な自分を優先してくれて、デートとかもあまりしていなかったのかもしれない。涼太に悪い事をしたと反省してみても、今更涼太にそんな事を言えそうになかった。暫く会わないと言った涼太に従うしかないのだと、改めて涼太の言葉を頭の中で繰り返す。

「ところで暇?」
「はい?」
突然思考とか違う言葉を掛けられて星哉は松田の顔を訝しむように見た。
「いやね、これからサークルの仲間と飲み会なんだけど、たまには出席しない?いくら名ばかりでいいと言っても、少しはね」
案に参加しろと言っているが、考えてみたら飲み会の誘いを今まで受けた事がなかった気がする。

「俺今まで誘われた事ないですよ?」
その思いを素直に口に出すと、松田が困ったような楽しいような顔をして口角を上げた。
「一応誘ってはいたんだよ、涼太を通じてね」
「え……」
涼太からそんな話を聞いた事もなければ、打診された事もない。酒好きな涼太だけが参加していたのだろうか。

「俺、酒はあまり強くないから誘わなかったのかも……」
星哉は、涼太が自分に話を振らなかった事を庇うような言い方をした。
「いや、涼太も参加した事はないよ」
「あ、そうですか……」
考えてみればいつも一緒だ。涼太だけが飲み会に行く機会はないだろう。そう思えば今までどうやって彼女と会う時間を作っていたのだろうと考えてしまう。


「さあ行こう」
突然星哉は松田に手を引っ張られ乗ろうと思っていた反対の電車に乗せられてしまった。
「参加するよね?」
松田がにっこり笑って星哉に同意を促す。今更だ、もう電車は走り出してしまっているのだ。
「参加しますから、手を放して下さいよ」
こうなったら参加するしかないと星哉は諦めたが、掴まれた腕が痛い。
「ああ失礼。一条君の腕はやっぱり女の子よりは筋肉付いているね」
「当たり前です……」
どうして比較対象が女なのか星哉には分からないが、気分いいものでは無かった。普段は体格のいい涼太と一緒にいるから小柄に見えるが、172?という身長は男の中に混ざっても、そう目立って小さいわけでは無いはずだ。

「降りるよ」
「は、はい」
松田に促されて降りた駅は8つ先の駅だった。同じ沿線とはいえ逆方向に8つは帰る時間を気にしないとならない。ちらっと松田を見るともう始まっているから急ごうと声を掛けられ、星哉は仕方なく松田の後を追うように急ぎ足になった。なんだか無駄な努力をしているようで、その足取りが軽くなる事はない。

居酒屋の奥座敷を占領した「おんけん」のメンバーは総勢14名。星哉は何となく見た気がする程度の顔ばかりだった。既にアルコールを摂取した奴らは星哉の飛び入り参加を拍手で迎えてくれる。何となく気恥ずかしくてちょこんと会釈をして、促されるまま松田の隣に腰を下ろした。
「一条は、何月生まれ?」
「10月です」
突然聞かれて星哉は素直に生まれ月を告げた。
「なら、もうお酒大丈夫だね」
「あ……」
だが、嘘を吐いても松田の事だ学生証を見せろと言ってくるだろう事は想像できた。何せ、涼太と星哉の卒業した高校の一期前の生徒会長だったのだ。その次が涼太、だから広い大学といえ松田と繋がりが簡単につけられた訳だった。

「閉店までこの部屋は貸し切ってあるから、ゆっくり飲むといいよ」
松田が笑顔で囁くが、その閉店とは聞けば朝の4時。終電の心配よりも始発が走り出してからの解散なのだ、酒に弱い星哉は早々に抜けだす事で頭の中はいっぱいだった。

星哉たちよりも遅くにぽつりぽつりと参加者が増えてくる。そうなると最初に座った席など関係ないくらいに入り乱れてしまう。だがそれよりもイヤなのは横に座る全ての奴らに涼太は一緒じゃないのかと尋ねられてしまう事だった。星哉は名前も顔も知らない相手すらそれを聞いてくる。

星哉が参加してから1時間程した時に、飯岡千草が来た。
(あ……)彼女こそ、涼太がついこの前まで付き合っていた女性だった。千草が参加した事で酔っ払いから歓声が上がる程に、千草は綺麗な女性だった。清潔な色気があり星哉が知る中でも一番美人だと思う。
そんな千草が星哉の姿を見て一瞬目を丸くした。だがその顔は直ぐに優しい笑みにすり替えられる。星哉も遠くから軽く会釈をするが近寄って話をするまでには至らなかった。

『全国温泉研究会』通称おんけんだ。酒と温泉が好きな奴らが大勢集まれば大変な騒ぎであるが、耳に飛び込んでくる会話を聞くとなしに聞いていると、どこぞの温泉は良かったとか行きたいとか、結構まともな事を話している。それに少し星哉は安堵の息を漏らす。


元来集団で飲み食いするのを星哉は苦手としていた。よくぞ今まで参加しなくてすんだと胸を撫で下ろすが、逆に一度参加してしまったので、次回もとなる確率も上がってしまう。

ボトルで用意してある酒は自分の好みの濃さに調整できるのは星哉には助かった。さっきから薄いチュウハイをちびちび飲んでいる。そして頭の中では帰る切欠を狙っていた。
「大丈夫?」
いつの間にか松田が隣の席に戻って来ていた。
「はい……」
「あ、お代わり作ってきてあげるよ」
「いえ!いいです。大丈夫です」
「遠慮しなくていいから」

3分の1ほど残ったグラスを簡単に星哉の手から取り上げて、松田は楽しそうに酒を作りに行った。その背中を星哉は恨めしそうに眺めている。ふと誰かの視線を感じ振り向くと千草と目が合ってしまい、星哉はバツが悪そうにその視線を逸らした。千草がどうして自分を見ていたのか星哉には分からなかったが、もし涼太と付き合っている時に自分のせいで会いたい時に会えなかったのでは、と思うと視線を絡める事など星哉に出来るはずもなかった。

端に固まっている集団から歓声が上がった。何かのゲームをして盛り上がっているらしい。楽しそうでいいなと少しだけ羨ましくなったりもするが、酒も弱い上少量の酒であんなにハイになる事など星哉には出来そうになかった。

「はい、お待たせ」
星哉がさっきまで持っていたグラスよりもアルコール度が高いであろうグラスを差し出され、星哉は礼を述べながら受け取った。
「はい、改めて乾杯」
宴会に参加してもう直ぐ2時間になろうというのに今更乾杯もないだろうと思いながらも、星哉はグラスを合わせた。
(うっ、濃い)想像通りにアルコール臭たっぷりの液体が喉を焼くようだった。

ゲームで盛り上がっていた集団の一人が、元気よく片手で拳を上げる。3年の堀内だ。
その堀内が「罰ゲーム罰ゲーム」と言う掛け声に背中を押されるように、松田と星哉の元にやって来た。周囲は囃し立て堀内も酔った視線を向けながら歩いて来る。無意識に星哉は後ずさりしてしまう。
つか、見た限りでは堀内はガッツポーズをしているのだ、どうして彼が罰ゲームなのだろうと頭を過った時に堀内が星哉の肩を強く掴んだ。

吐息の白い夜 2

 20, 2011 22:44
「いたッ!」
「一条観念しろ。罰ゲームだ」
どうして、堀内の罰ゲームに自分が観念しなくてはならないのだと詰め寄ろうとした視線の先に、堀内の顔があった。
「やだっ」
本能が小さな叫び声を上げるが、その声は堀内の酒臭い唇に塞がれた。

「んん―――っ!」
堀内に押し倒された星哉の力は非力で、押し戻す事が出来なかった。周囲が大歓声を上げていた。誰も堀内を止めようとはしていないようだ。これも宴会芸か何かと考えているのだろうか。
堀内の下で、星哉は頭を振って避けようとするが、堀内は星哉の唇から離れようとしない。
(やだっ、気持ち悪い……)
生まれて初めてのキスが酔っ払いの罰ゲームなどとは、余りにも悲し過ぎる気がする。
周囲の酔っ払いがやんやと囃し立てる声が星哉の耳に不快な音として聞こえて来た。

「んんっ」
何度も呻きながら首を振るが、蛭のように吸い付いた唇から解放される事はない。
それが暫く続き堀内がようやく唇を離した。星哉は肩で息を吐きながら堀内を睨みつける。
「やばっ……そそられる」
「え……?」
やっと解放された唇が再び塞がれて星哉は逃げようと、脚をばたつかせた。だがそのせいで足の間に堀内の体が差し込まれる。
「目を瞑って好きな子だと想像すれば?」
などと誰だか分からないが無責任な声が耳元で囁かれた。星哉はさっきから気持ち悪くて、そしてだんだん怖くなってぎゅっと目を瞑っていた。

(好きな子……)
そう脳みそをすり替えようとした時に、さっき聞かされた涼太の言葉が脳裏を掠めた。
『だから、女抱いていても何か……ついお前の顔に置き換えるんだよ。そしたら直ぐにイける』
(涼太……)
ふっと星哉の体から力が抜けてしまった。堀内よりは涼太の方がマシだとも思う。ここで女子の顔を思い浮かべる事の出来ない自分を情けなく思ったりもした。
(涼太……)無意識に涼太に助けを求めるように手を宙に彷徨わせる。
(ああ……暫く会わないって言われたんだ)
今は堀内に無理矢理キスをされている事よりも、涼太に会えない事の方が重要な気がしたが、気持ち悪さは相変わらず続いている。

(涼太の唇だ。涼太の唇だ)自分に呪いのように言い聞かす。
そう思うと、不思議と気持ち悪さが軽減されたような気がした。力の抜けた星哉の隙を突いて堀内の熱い舌が捻じ込まれた。

「うう―――っ!」
途端に、相手が堀内だと知らしめされる。


堀内の激しい口付けに、いつの間にか囃し立てる声がしなくなった。
「堀内、いい加減にしろよ」
「一条泣いているぞ」
「おい、やばいんじゃないか?」
などと、星哉を庇うような声に変わる。

堀内も充分に女にモテそうな見た目をしていた。何を好んで男の星哉にこんな激しいキスを仕掛けているのかさっぱり分からなかった。悔しいのと気持ち悪いのとで、星哉の目からは涙がボロボロ零れていた。
逃げる星哉の舌が捕まりそうになった瞬間に、堀内の重みが不意に消えた。やっと解放されたかと安堵の息を吐いた時に、激しく物がぶつかる音がして、星哉は瞑っていた瞼を開いた。

たった今まで星哉の上に乗って星哉を蹂躙していた堀内が、壁際までぶっ飛ばされていたのだ。
堀内を投げ飛ばしたであろう男の後ろ姿を見て、星哉は小さく「うそ……」と声を漏らした。

茫然としているメンバーと、壁に体をぶつけて蹲っている堀内と、その前に仁王立ちしている……涼太……。

「涼太……」
涼太の姿を見て安心した星哉の目からは再び涙が零れ落ちる。
「堀内先輩やり過ぎですよ」
星哉には涼太の声のトーンが酷く怒りに満ちている時のものだと確信できた。いやこの部屋にいる誰もが涼太の怒りをひしひしと感じていた。

「ちょっとふざけていただけだろう?」
体をさすりながら堀内がそう言い訳をする。
「星哉はイヤがっていた!」
「シラケる奴だな」
謝る事などしないで、堀内が涼太を貶めるような言葉を吐いた。その言葉が終わるか終らないかのうちに、涼太が堀内に飛びかかる。

いや、実際は飛びかかり殴ろうとした時に、涼太の前で体を張って庇った……千草だった。危うく涼太は千草を殴りそうになり、懸命にそれを回避した。
「涼太、止めなさい。バカを殴っても手が腐るだけよ」
千草は、堀内の為に身を挺した訳ではなかった。いくらサークルの宴会中といえ暴力沙汰を起こすわけにはいかないのだ。そしてそれが涼太であってはならない。動機は何であれ、先に手を出した方が悪くなる。

(あ……)もしかして、涼太と千草はまだ付き合っているのかもしれない。別れたと思っているのは星哉だけで、密かに交際は続けられていたのかも。千草が1時間遅く来たのも、涼太が一人でこの宴会に参加したのも、千草と示し合わせての事かもしれない。そう考えれば合点がいく。

何だか何もかもイヤになった。隣にいたであろう松田が堀内を止める事もなかった。もしかしてこうなる事を予期していたのかもしれない。涼太を止めた千草が堀内を止める事もなかった。これが大人の飲み会ならば二度と参加などしないと星哉は心に誓った。

「う……っ」
色々自分の中で結論が出た時に激しい嘔吐感に襲われてしまった。気持ちの悪い堀内とのキスや、止めなかった周囲、そして涼太を庇った千草。そして何よりキスの最中に涼太の顔を思い浮かべた自分にも、全てが吐き気に変わり星哉を襲う。

星哉は、手のひらで口元を抑えながら、宴会場を飛び出しトイレに駆け込んだ。きっと普段よりも酒量が多いのも原因のひとつだろうと言い訳しながら、トイレで吐いた。吐き気が治まるまでトイレでじっとしていた。最近の居酒屋のトイレは綺麗なもので、不快感なく長くいられる。ぼうっとしている時とんでもない事に気づいた。それは堀内とのキスシーンを涼太に見られた事だ。


別に男同士の酒の席での戯れと諦めればいいのだ。例えそれが初めてのキスでもカウントしなければいい。そう星哉は思おうと努力した。
「星哉、大丈夫か?」
かなり長くトイレに籠っていたらしい。涼太が心配そうな声で星哉に呼びかける。
「うん、大丈夫……」
そう答えて静かに内鍵を外し星哉は扉を開けた。目の前に心配そうな涼太の顔があった。無意識に星哉の視線は涼太の唇に向く。だが向けた瞬間に星哉は目を逸らした。

「涼太、悪いんだけど……俺の鞄と上着を、あ……」持ってきてもらおうと思っていた星哉の鞄とコートが涼太の腕の中にあった。
「ありがとう、持ってきてくれたんだ」
礼を言いながら星哉はコートを受け取り羽織る。その態度がそっけなかったのだろうか、涼太が鞄を渡しながら眉間に皺を寄せていた。さっきまでの心配そうな顔などどこにもない。

「お前何やってるんだ?」
「別に……」
「何で、こんな飲み会なんかに参加してるんだよ?」
ああ、涼太が怒っているのは涼太に内緒で飲み会に参加した事なのだ、と弱った頭で理解した。きっと千草とこの後ホテルにでも行くのかもしれない。
「俺帰るからさ、涼太はゆっくりしてこいよな」
星哉と違って涼太は酒も強いし、簡単に男に押し倒されるような事はない。いや女になら押し倒されるだろうが、それはそれでいいんじゃないかと一人で勝手に結論を出す。

「俺も帰るし」
涼太が不機嫌そうな顔のまま、そう呟いた。
「千草先輩いるんだから、ゆっくりしてくれば」
「星哉は一人で帰れるのかよ?」
「……当たり前だ。俺だって男だし……」
男だとはこの状況ではあまり強くは言えない気がした。さっき無理に男にキスされた非力な自分なのだ。

「千草とはもう関係ない……」
涼太はそう言い切るが、その声は歯切れが悪いものだった。涼太らしくない声と未だに先輩とは呼ばずに呼び捨てしている涼太に背を向けて、洗面台でうがいして顔も洗った。唇を痛いくらいに擦る。


「バカ、そんなに強く擦ったら切れるぞ」
星哉が顔を上げると、鏡越しに涼太の歪んだ顔が見えた。
「星哉……」
水道の水で濡れたのでは無い水滴が星哉の顔を濡らしている。いくらふざけたとはいえ、割り切れないものが星哉の中で燻っていた。

「俺、やっぱり堀内先輩許せない」
星哉の泣き顔を見て、涼太が唸るような声を出した。
「なんで涼太が許せないんだよ?」
自分だって散々女と付き合っていたくせに、男の星哉が男にキスされただけで、涼太は人生を棒に振りそうな勢いだった。それを涼太には関係ないとやんわりと諭す。

「俺、俺だってしてないのに……」
「はあ?何人の女と付き合った?よく言うよ」
呆れたように言い捨て、星哉は涼太を押しのけるようにトイレから出ようとした。
「俺が星哉のファーストキスを貰うつもりだった……」
小学生のガキが拗ねているみたいだ。
「馬鹿じゃないの……」
今度は吐き捨てるように言って星哉は、洗面所の扉を肩で押すようにして外に出た。
そこには何故か松田と千草が待ち伏せするように立ち話をしていた。
「一条君大丈夫?」
松田が馴れ馴れしそうに星哉の肩に手を置いた。

「星哉に触るな」
抑えているが、怒気を含んだ声で涼太は松田をけん制する。
「さすがボディガード」
今の言葉は完全に涼太を揶揄している。冷えた空気を遮るように千草が口を開いた。
「私、そろそろ抜けるから……涼太送ってくれる?」
「……」
この時間に千草一人で店を出る事は危険だと予測できる。街中には酔っ払いがうろうろしている筈だろう。

涼太はポケットに手を突っ込んで財布から1万円札を抜いて、それを星哉に握らせた。
「星哉、タクシーで帰って」
星哉は唖然と手の中の万札を見詰める。そしてくしゃっと握り潰すよう力をこめ、それを涼太の顔めがけて投げつけた。
「ふざけんなっ!俺は男だ」

それだけ言い捨てると3人に背を向け走るように店から飛び出した。

吐息の白い夜 3

 22, 2011 23:39
涼太の態度が理解出来なくて、それでも悔しくて唇を噛みながら駅に向かって走り出した。まだ終電が走っている時間で良かったと安堵すると同時に、涼太と千草がこれから何処に行くのかが気になって来た。

(最初からホテルにでも行くつもりだったくせに……)それなのに、星哉を送ろうかと言った涼太を許せないような気がした。走りながら誰かと肩がぶつかる。酔っ払いの罵声も無視してひたすら駅を目指した。あと少しで駅に着くという所で、3人組の若い男の一人と肩が触れた。さっきの酔っ払いの方がもっと強くぶつかったのに、罵声で済んだがこの3人組は走り出そうとする星哉の腕を掴んだ。

(やばい……)本能で、危ない奴らだと星哉も分かった。殴られるか金を盗られるかどっちかだろうと半ば観念する。
腕を掴んだ男が星哉の顔をまじまじと、顎を上下に振りながら見回す。
「随分と可愛い坊やじゃないか。お兄さん達と遊んでかね?」
「ぶつかったのは謝ります。でも遊んでる暇ないんで……」
「ほお?」
揶揄するように、今度は星哉の頬に触れる。
(くそっ、今日は厄日だ)忌々しい気分が態度に出たのかもしれない。星哉の腕を掴んでいた男が星哉の腕を捻る。
「いたっ」星哉が顔をしかめて抗うように男を睨みつけた。堀内といいこの男といい本当に気分が悪い。

「随分と気が強そうな子だな……虐め甲斐があるな」
この中でボス的な存在の男が初めて口を開いた。優しい口調だったが男の目は笑ってはいなかった。星哉の背中に冷たい汗が流れた。そしてもう一人の一番頭の悪そうな顔をした男がボス的な男に聞いてきた。
「なあ、売るの?撮るの?それともヤルの?」
他の二人もニヤニヤと星哉を見ながらどれにするか思案中という顔をした。どれも勘弁願いたい。

「輪姦しながら撮って、それを売ればいい。俺らって頭いいなぁ」
一人が自分の言葉を褒めながら嬉しそうに言う。本当にこんな馬鹿な奴らとは関わり合いたくなどない。星哉は隙を見て逃げ出そうとしていた。公共の路上だ騒ぎになれば通報だってしてくれる人間も一人くらいはいるだろう。
あ……さっきは誰も助けてくれなかった。知っている人間ばかりだったのに。それを思い出すと今の自分が置かれている状況がとても分が悪いものだとやっと気づいた。こいつらと同じくらいの脳みそしか無い事を知らしめられた気がした。

見た感じヤクザではないただの不良という所だ。いきがっているが星哉とそう年齢も変わらないだろう。だが3対1では全く勝ち目などないのも知っている。涼太と違って自分には何の取り柄もないのだ。

(涼太……)涼太の名前を心の中で呼ぶと怖さとは違う寂しさが胸を襲った。それとは裏腹に自分がこんな目に合っているのに今頃はホテルか、と思うと怒りも湧いてくる。それが矛盾だと今の星哉は気づかなかった。
「場所変えるぞ」
ボス格の男が他の二人に顎でしゃくる。冗談じゃない、場所など移動したら逃げ出すチャンスがもっと少なくなってしまう。星哉は腕を掴んでいた男の足を思いっきり踏みつけた。
「いてっ!」
星哉はその一瞬の隙に逃げ出そうとするが、別の男に簡単に抑えられてしまう。

「離せよっ!」
星哉もこの人の多い場所から人気の少ない場所に連れて行かれるわけにはいかないので、体に力を入れて踏ん張る。
「おまわりさ……んん……」
てっとり早く警官を呼べば誰かが通報してくれるのではないかと、大声を出そうとしたがその口は大きな手で塞がれてしった。
「んんんっ」

星哉たちの周囲は人が避けて歩くので、そこだけ広い。みんな酔っ払い同志の喧嘩かと思っているのだろう、素知らぬふりして足早に通り過ぎる。自分も今までそうやって来た事を星哉は少しだけ反省した。

数歩引きずられた時に誰かが自分の名前を大声で呼んでいる。そしてその声は次第に星哉たちに近づく。
(涼太……)まるで今日の涼太は、白馬に乗った王子様のような登場だ。でもどうせならもう少し早く来いと星哉は眉間に皺を寄せた。

「おお格好いいお兄さん登場?」
星哉の腕を掴んでいる男がニヤニヤと揶揄するように言っている。星哉は戦力外だ、3対1では涼太に負けるとは考えていないのだろう。

星哉も少しだけ忘れていた。涼太は『道』というものが大好きな事を。
小学生の時には、剣道と柔道。そして高校では合気道の道場に通っていたと聞いた事があった。残念ながら星哉はまだ実践ではそれを見た事はない。ついでに書道と茶道も習ったらしいが、さすがにこれは長続きしなかったらしい。違う意味さすが涼太と唸ったのは高校3年の時だった気がする。

「この野郎っ、星哉を離せっ!」
その言葉と同時に、涼太の飛び蹴りが見事に決まった。ぐえっと蛙を踏み潰したような声と共に星哉は解放されるが、他の2人が黙っている筈もない。だが身構えた瞬間に涼太の回し蹴りが決まり、もう一人はいつの間にか腹を押さえて蹲っている。格好いいと思う暇も心配する暇もなかった。

「星哉、逃げるぞ」
「え……?」
涼太は茫然としている星哉の手を引いて走り出した。人波に逆らうように走る涼太に手を引かれたまま、星哉も走った。
5分程走れば追いかけて来る様子もないので、二人で脇道でぜいぜいと息を整えた。

「別に逃げる必要ないし、こんな裏路地の方がやばいじゃん」
星哉は助けてもらった礼も言わずに、文句を言う。
「いや俺、技使ったし……まずいだろう?」
「……」
どうみてもあれはプロレス技のような気がしていたが、星哉は敢えてそこには触れなかった。
「……あ、千草先輩は?」
この騒動ですっかり忘れていた。もしかしてあの辺りに残してきたのなら拙い。
「千草は、タクシーで帰った」
「そう……帰ったんだ……」
『帰した』と所有物的に言わない事が星哉を少し安心させた。

「そう……俺らも……そろそろ駅に戻ろうか?」
駅とは反対側に走ってきたのだ、そろそろ終電も近い時間になっている。
「まだ危ない。こっちに……」
もしかしたら仲間を呼んで待ち伏せしているかもしれないと星哉も思い、涼太の後について歩いた。
駅から少し離れた路地を歩く。何だか怪しげな雰囲気に星哉は周囲を見回す事なく涼太と歩いた。

「今日はこの辺に泊まろう」
涼太の口調は星哉に伺いをたてているのではなく、一人で決心したようなものだった。そしてそのまま星哉の手を掴んでホテルの門をくぐった。
「ちょ、ちょっとここホテル……」
「大丈夫、男同士でも泊まれるから」
「つか、何で涼太とホテルに泊まらないとならないんだよ」
「駅の方は危ないから」
「……」
そう言われてしまえば星哉も反す言葉もない。
「なあ涼太、もしかして前にもこのホテル来た事あるの?」
「女とな……男と来るのは星哉が初めてだ」
「……」
「大丈夫、何もしないから」
それは女に言う言葉だろうと突っ込みたかったが、星哉は涼太の手が熱くて言葉を飲み込んだ。

吐息の白い夜 4(完結)

 01, 2012 13:04
忘れるくらい前の話の最終話です。
最終話というほど大そうなものではありませんが、やはり完結という言葉を打っておかねば……
実は私もあまり覚えておりませんでした。すみません^^;
これまでの話をリンクしておきますネ。1 2 






「へぇ……なんか想像していたのと違う」
「初めてだよな?」
「当たり前だろう。涼太と一緒にするなよ」
 星哉は初めて足を踏み入れたラブホが想像以上に清潔感があり、明るい事に感心していた。一方こういう場所に来慣れている涼太にイラついてしまう。
「風呂溜めて来る」
「あ……うん。でも着替えが無い」
「パンツと靴下くらいだったら、手で洗って部屋ん中干していれば暖房付いているから朝までには乾くさ。他は我慢しろよ」
「う、うん……」
 涼太が風呂場に消えてから星哉は改めて部屋の中を見回した。大きなベッドがひとつ。ラブホだから当たり前だと思いながら、少しだけ緊張してしまう自分を笑う。男同士ならこういうハプニングはあるだろう。遠出して帰れなくなりやむを得ずラブホに泊まったという話は聞いた事があった。色々あった今夜はハプニングでもあるけど、少しだけ状況が違うような気がする。
 そんな事を考えているとつい先輩とのキスを思い出してしまい、星哉はまた落ち込んでしまった。

「おい、ぼうっとして……だから……」
「だから何だよ?」
「だから先輩たちに付け込まれるんだ」
 今夜の事は全部星哉が悪かったのだと言われているようで、星哉は黙ってクリーム色の壁を見ていた。
「風呂入れよ」
 強制のような言い方にカチンと来るものの、今の空気が居た堪れなくて星哉は立ち上がった。
 星哉が風呂で簡単に洗った下着と靴下を手に上がって来た時に涼太は、ソファで寛ぎテレビを観ていた。もしかして涼太が風呂に入って来るのではないかと思っていた星哉は緊張が解れると共に何故か腹立たしくもあった。
「涼太、そういえばどうして飲み会に来たの?」
「ああ? 千草がメールくれた」
「へえ……」
 やっぱりそうだったのかと思いながら、二人の邪魔をしてしまった事に胸が痛んだ。
「悪かったね。このあとデートする予定だったんだ?」
 星哉の言葉を聞いて涼太が音を立てて缶ビールをテーブルに置いた。
「俺、風呂入ってくるよ」
「う、うん……」
 何の返事ももらえず、これ以上追及するのもイヤなので、星哉は涼太と入れ替わるように小さなソファに腰を下ろした。備え付けの薄手のバスローブがひんやりと肌に冷たい。
「パンツちゃんと干しておけよ」
「あ……うん」
 星哉は今にも滴が垂れそうな洗濯物を持ったままだった事に気づいて、ハンガーを探し干した。涼太が風呂に入っているというだけで緊張している。高校のプールや修学旅行で涼太の裸なんか何度も見ているのに、今視界に入らない場所で涼太が裸でいると考えるだけで動悸がしてくる。その理由が分からずに星哉は落ち着かない。きっと先輩に無理にキスされたせいだと思いこもうとしていた。

 涼太が星哉と同じ備え付けのバスローブを着て来た。ピンクとブルーがあったから星哉は多分ピンクが女性用だろうと思って着ている。涼太の方がはるかに体格がいいのだから仕方ないのだが……。着衣の色が違うだけでこんなに見た目が変わるのかと驚くくらいに涼太は男っぽかった。乱暴に髪をタオルで拭く姿も男くさくて、星哉が見ても格好いいと思った。女が切れないはずだ。
「ちゃんと髪を乾かせよ」
 それなのに、涼太はまるで親のように星哉に近づき背後から、星哉の湿った髪をタオルで包む。そして乱暴に手を動かした。
「涼太、痛いよ」
「痛いくらいが頭皮のマッサージになっていいんだよ」
「女の子にこんな事したら嫌われるよ」
 揶揄するように星哉も言い返した。
「女にこんな事はしてやらない。星哉にだけだ」
「どうせ、俺は手がかかるよ」
 女以下の扱いに星哉もむくれてしまうが、涼太はそれでも拭き続ける。最初は乱暴だった動きも徐々に丁寧になり、最後は指で髪を梳き整えてくれる。
「ありがとう……」
 湿ったタオルをソファの背に掛け、涼太は星哉の背後から声を掛ける。
「男にキスされて気持ち良かったか?」
 忘れたい事を蒸し返され星哉は不機嫌に答えた。
「気持ちいい訳ないじゃん」
「だいたい星哉は無防備過ぎる。ちょっと誘われたくらいでノコノコと飲み会なんかに出かけて」
「俺が悪いって言うの?」
 被害者は星哉なのに、どうして涼太はそんな事を今更言うのか訳が分からなかった。さっきは助けてくれたのにその優しさは今は感じられない。
「千草からメールもらって俺、焦ったよ」
「え……?」
 唐突に話を切り替えた涼太も内容も、星哉には訳が分からなかった。
「『涼太の可愛い子猫ちゃんがオオカミに狙われているよ』って言われたら焦らない訳ないだろう?」
「えっと……その子猫ちゃんってもしかして俺の事?」
「当たり前だ」
「えっと??」
 星哉もかなり動揺しているが、涼太も動揺しているのか言う事が支離滅裂だ。星哉はそんな涼太の気持ちについて行けない状況だった。
「せっかく俺が一世一代の決心をして星哉から離れようとしたのに、ちょっと目を離すと直ぐに誰かに食われそうになるし……」
「ちょ、ちょっと涼太落ち着いて分かるように話してよ」
「ばか、落ち着いていられるか」
 そう言うと涼太は星哉の後ろから無理やりに唇を塞ぎにかかった。
「りょっ!」
 最後の声は涼太の唇に塞がれたために出る事はない。星哉は頭の中が真っ白になり目を見開いた。無理な態勢のために裾が乱れ脚の付け根までが露わになってしまっている。
 涼太が唇を離さないままソファを回り込んで来て星哉の隣に腰を下ろした。飲み会で無理にされたキスとは違う。涼太とのキスは気持ち悪いどころじゃない、眩暈がしそうだった。その時涼太の大きい掌が星哉の腿に這わされた。星哉は身じろぎ首を振って涼太の唇から逃げようとした。
「涼太……」
 やっと自由になった唇から洩れた声は驚くくらいに艶のある声で、星哉はそんな自分に戸惑った。
「星哉。俺は星哉が好きだ。だからキスもしたかったし、それ以上の事もしたい」
「涼太……」
「俺が相手だとイヤか? 先輩と同じか?」
 涼太の言葉に星哉は緩く首を横に振った。涼太だから気持ち悪くない事はキスの最中に気づいてしまった。だからといってそれが即色恋に繋がるかと聞かれたら、はっきり言って分からない。でも涼太を嫌いではない。
「星哉……ベッドに行こう?」
 今頷いたらどうなるのだろう? 星哉は緊張した頭で考えた。涼太は女を抱くみたいに自分を抱くのだろうか。違う選択は無いのだろうか?
「涼太……俺は……」
「星哉が良いと言うまでは何もしないよ」
 キスしたくせに……と言いたいところを星哉はぐっと堪えた。
「本当に?」
「ああ、だからベッドに……」
 涼太は星哉の手を取り立ち上がらせ、その手を引いてベッドに向かった。そっと腰かけさせ涼太も一緒に座る。ラブホという場所だからだろうか、ただそれだけでも星哉の胸はドキドキと騒いでいる。
「ほら、横になれよ」
 涼太と枕を並べて寝る事など初めてだった。高校の修学旅行の三・四日目に二人部屋の同室になった事があったけど、別々のベッドだった。
「修学旅行の時さ……」
 どうやら涼太も当時の事を思い出していたみたいで、星哉は少しだけ気持ちが解れてきた。
「うん、楽しかったね。朝まで話していたよね」
「ああ……本当はあの時も同じベッドに寝たいって思っていた」
「……涼太」
「俺はあの時に星哉への気持ちに気づいた」
「え……?」
 涼太はそんなに前から自分をそういう目で見ていたのかと、初めて星哉は知った。
「気持ち悪いか?」
「…………」
「そうだよな……、気持ち悪いよな。親友だと思っていた男に厭らしい目で見られていたと思えば」
「……気持ち悪くないよ」
 星哉は喉の奥がからからになったような小さな声で答えた。気持ち悪くなどない。ずっと涼太は星哉の傍にいてくれた。楽しい時も苦しい時も涼太がいたから乗り越えられたようなものだ。
「それなのにさ……大学に入って星哉はどんどん綺麗になって他の男を惹きつけているし。それが無自覚だから危なっかしくて仕方なかった。でも一番危険な男は俺自身だと気づいて、星哉から離れようとしたんだ」
「涼太……」
 自分がのほほんと暮らしていた時に、涼太がこんなに苦しい思いをしていたのかと思うと、星哉は胸がキリキリと痛んだ。涼太だからそう思うのだと……。
「さあ、もう寝よう」
 そう言って涼太は星哉に背中を向けるように横向きになった。星哉はそれがとても寂しく感じられ涼太の背中にしがみついた。
「ばか、襲うぞ」
 涼太は背中を向けたままそう呟く。
「……いいよ、涼太なら」
 涼太が女と付き合い始める度に寂しい思いをしていた。それが親友を取られたからだと思っていたけど、本当は違ったのだと今更ながら星哉も気づいた。
「簡単にいいって言うなよ。男同士がどうやるのか知らないのか?」
「知っているよ……」
 それくらい星哉でも知っている。星哉が今まで誰とも付き合わなかったのは、奥手という事だけでは無かった。女性を欲した事が無かったのだ。そして今は涼太が欲しいと心と身体が疼く。
「もう後戻り出来ないぞ」
 往生際が悪いのは涼太の方だ。未だに背中を向けたまま呟き続ける。星哉はそんな涼太が可愛らしくて抱きついている手に力を籠めた。人よりも体格がいいくせにまるで仔犬みたいだと思い、つい小さく笑ってしまった。
「ちくしょう、随分と余裕だな」
 やっと振り返った涼太の唇を今度は星哉が塞いだ。
 だが星哉が優位に立っていられたのはそこまでだった。



「ああ――っ! 涼太ぁ……」
 知っているとは言ったものの、こんな痛みは想像していなかった。まるで焼けた棒で刺しぬかれたみたいだった。涼太は時間を掛けて丁寧に拡げてくれたのに、それでも苦痛が大きい。さっき不良たちに連れて行かれていたらどういう事になっていたのかと、想像すら出来ない恐怖が星哉を襲った。
「大丈夫か星哉? 苦しい?」
 急に強張った星哉の首筋に唇を付けながら涼太が労わるように聞いて来た。
「涼太……さ、さっきは助けてくれてありがとう」
 星哉は今夜二度も助けてもらったのに、ちゃんと言葉にしていなかった事を思い出した。昔から涼太は当たり前のように星哉を助けてくれる。ずっと涼太に甘えていた事が恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
「夢を見ているみたいだ。星哉とこうして繋がっているなんて」
 そう言いながら涼太は星哉の髪を優しく撫でてくれる。それがとても気持ち良くて星哉は目を瞑った。
「まるで犬っころみたいだな」
 星哉はさっき自分が涼太に対して感じた事を言われくすぐったい気分だった。だってその気持ちは知っている。可愛くて愛おしいという気持ちだから。
「ひやっ。あぁ……っ」
 さっき指で散々擦られた箇所を今度は、熱い楔が擦っている。涼太がゆっくりと腰を使い始めたのだ。
「星哉……星哉の中凄く気持ちいい」
「ばか……恥ずかしい事言わないで」
 そんな褒め言葉は、SEXそのものに慣れない星哉には耳を覆いたくなる程恥ずかしい台詞だ。
 そうして涼太の腰の動きが徐々に大きくなり、激しくなる。星哉は翻弄されるままに濡れた声を出す。
「あぁぁっ涼太……」
 挿入された時の痛みはだいぶ薄れ、今は快感の方が勝っている。
「涼太……だめ。そんなに激しくしたら……変になる」
「俺はとっくに変になってる」
 涼太は、そう言いながら深い所を貫く。
「あぁっ!」
 星哉は頭の中で火花が散っているような気がしていた。先走りの蜜が会陰を伝わり繋がっている箇所まで濡らし卑猥な水音をたてていた。
「涼太……もうダメ。イきたい」
 俺もだと言いながら涼太は星哉の腰を抱え直した。そして星哉の性器を握りこむ。星哉はもう恥ずかしいなどと言っている余裕は無かった。涼太の掌が上下するのに合わせて星哉の腰も上下してしまう。
「星哉、エロイ」
「ばか……」
「ほらイけよ」
 涼太のカリの部分が狙いを定めたように中の感じる場所を攻め立てた。同時に前を扱く動きも早い。自分以外の熱を知ったばかりの星哉は涼太の動きに呆気なく白濁を散らした。
 はぁはぁと肩で息を整える星哉は脚を肩に担がれ息を呑む。イったばかりの体の奥深くに涼太の楔を打たれる。
「やぁ……っ。まだ……」
「ごめん星哉」
 涼太は、浅く深く激しく楔を打ちながら、一番深い所で全てを解放した。そして肩で息を吐きながら星哉の胸をぎゅっと抱きしめた。
「星哉……星哉……星哉」
「涼太?」
「俺、星哉が大好きだ」
「俺も涼太が好き……」
 どちらかともなく熱を帯びた唇が重なっていった。繋がったままの体が僅かな時間で熱を取り戻したのは言うまでもなかった。





◆◆相変わらずご無沙汰しております。新年度になりましたヽ(゚∀゚)ノ
そろそろ稼働しないと、ずるずると沈んでしまいそうです。
今日はJガーデンですね。朝起きて行く気になればひょこっと行こうかな?と思っていましがた色々用事している間に昼を過ぎてしまい、未だに家にいます。
秋には参加したいです。今から少しずつ用意します。

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