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【夏蛍】誤解

 26, 2011 21:01
こちらの作品は以前観潮楼の夏企画で書きました「夏蛍」の番外編です。
(イラストは希咲慧様「蛍」です)

と、言っても途中まで書いて随分と放置していたのを「天使の箱庭」から持って来ました。
未完だったのですが、6000文字を超える話・・ちょっと勿体無いな、と思いまして・・
(ですので時期が今とは、ずれています^^;)
今回は半分ほどのUPです。

もう一つ紫苑の話も未完で未掲載のを見つけました。
完結させたら随時アップしますネ。





畠山×江崎深雪

同じ会社の先輩後輩。
夏に畠山の故郷に蛍を見に行き、お互いの気持ちを知り結ばれた。
それから約3ヵ月後のお話です。





引越しまであと1週間となった頃、深雪は畠山に「僕も引越し手伝いに行きます」と言ったが
「いや、荷物も少ないし平日だから、深雪は会社に行って」と言われ、肩を落とした。

実際寮には備え付けの物が多かったから、ここから持ち出す物はほんの身の回りの品だけでよかった。
段ボール5個もあれば充分のはずだ。
でも深雪は一緒に手伝い、畠山がこれから暮らす場所を見ておきたかった。

「落ち着いたら深雪を呼ぶから、俺が連絡するまで待ってて」
そう言われたが、本当にそんな日が来るのだろうかと、少々不安になってしまっていた。

そして10月吉日、畠山の引越しである金曜日の朝を迎えた。
畠山は予定通り会社に休みをもらったようだった。
畠山が席に居ない・・・それだけでも寂しいのに今日から寮に帰っても、寮でも会う事は無いのだ。

そんな中深雪は、同僚が畠山の事を話しているのを偶然に聞いてしまった。
「畠山もとうとう結婚かぁ・・いったいいつの間に相手見つけたんだぁ?」
「何か親に頭金出して貰って世帯向きのマンション買ったらしいよ」
「まじ?こんな若いうちに・・そんなに縛られていいのかねぇ・・」
「あ~あ、私畠山さん狙ってたのにぃ」
「まあまあアケミチャン諦めな、俺にしとかない?」
結局その話は同僚たちの羨望の中、いつの間にか違う話に変わってしまっていた。


それでも1日山のような仕事を新人なりに片付け、会社を出たのはもう7時になる頃だった。
携帯を何度見ても畠山からの着信は無かった。
土日に掛けて手伝いにも行きたかったが、約束したから電話が来るまで待とうと思った。
何より深雪は、畠山の引越し先を教えてもらってはいなかった。

会社を出た所で、同期の鮫島と偶然会った。
「あれ?江崎も残業だったの?飯食いにいかね?」
鮫島と課は違ったが、やはり同期というのは気軽に話しが出来る存在だった。
寮に帰っても詰まらないし、明日は休日という寂しさと気楽さで
「いいよ・・」と食事の誘いを受けた。

二人が向かった先は、今風の居酒屋だった。
完全個室では無いが、他の人間と顔を合わす事も無い簡易個室だった。
最近はこういう居酒屋が多くて、周りを気にする事なくゆっくり飲み食い出来るから結構人気がある。

「江崎って酒飲めないの?新歓の時も殆ど飲んでなかったよな?」
「え?見てたんだ?」
深雪のその質問には答えず
「酒飲めなくても、つまみ色々あるから一杯食えよ」
そう言いながら、適当にツマミを注文して、鮫島は生ビール
深雪は生グレープサワーを注文して、とりあえず「お疲れ」の乾杯をした。

「どうよ慣れた?」
「うん・・まぁ何とか・・」
入社して半年過ぎると多少は余裕は出てくるというものだった。
「でも江崎は良いよなぁ、畠山さんだろ?あの人優しそうだし・・俺なんか、もう本当に毎日パシリだよパシリ!・・・」
「う・うん・・」
実際畠山は優しく仕事も教えてくれたし、そして何より仕事が出来る。
その仕事ぶりを見て手順や、要領を覚えていけばいい。

先輩たちも女性社員も一目置いている。
将来性を見込んで声を掛けてくる女性も居るみたいだし
だけど見た目の格好良さでも深雪が知る限り身近で一番モテていた。

『そんな畠山先輩と僕は・・・・』
あの夏の日1年前から好きだったと言われ深雪は畠山と契った。
一緒に蛍を見に行ってホテルで畠山の熱く滾る物を受け入れた。
社員寮でも、一度・・・・だけど最近ふたりきりになる機会が殆ど無かった。

あれ以来、先輩は僕を求めて来ない・・・・

自分の好きだという気持ちだけが大きく膨らんで、
その思いに比例して不安も膨らむ。
本当に僕なんかでいいのだろうか?と。

「なぁ聞いてんの?」鮫島の言葉に現実に引き戻された。
「え・・ごめん」
「ぼーっとしてると、そのうち誰かに襲われるぞ」
「な・何で僕が襲われるんだよ」
少し口を尖らせて抗議すると、
「江崎、最近何かあった?入社した頃と比べると・・・何つうか・・・
凄いエロくなったって言うか・・・・雰囲気変わったよな」

「エロイって・・・僕男だし・・」
そう言う深雪の頬がアルコールのせいか、話題のせいかほんのり染まってしまった。
「ほら、そんな顔する」そんな顔がどんな顔なのか深雪には判らなかった。
「まぁいい、飲もうぜ」鮫島の明るさに深雪も釣られるようにグラスに口を付けた。

新人の同期の話は尽きることが無かった。
仕事の愚痴から人間関係の愚痴まで、鮫島らしく明るく語っていた。
何でも前向きに考える鮫島が今日ほど羨ましいと思った事はなかった。
いつの間にか深雪は自分の上限をも忘れて飲んでいた。
気がついた時はもう具合が悪くなった後だった。

「悪いな、俺飲ませ過ぎたか?」
背中を摩りながら鮫島が謝ってくるのを申し訳なく深雪は聞いていた。
「ち・違う・・・ちょっとイヤな事あったから・・鮫島のせいじゃないよ」
「そうか?どうするよ寮に帰れるか?俺の部屋の方が寮より近いから、うち泊まれば?」
鮫島は大学の時から住んでいるマンションに未だに住んでいるらしかった。
「鮫島はどうして寮に入らなかったの?」青白い顔で深雪はそう聞いた。
「ああ俺んちは東京だから、通勤圏内じゃ寮に入れないし・・家にもいたくないからな・・」
それぞれ複雑な事情を抱えているんだ・・・
酔った頭で深雪はそう理解し「ごめん、イヤな事聞いたかな?」と詫びた。

「大丈夫だよ、さ俺のマンション行こう」
そう言って深雪の腕を自分の肩に回させた。
「大丈夫・・ひとりで歩けるから・・・」
突っ張っていた深雪も歩き出して5分もしないうちに、結局鮫島の背におんぶされていた。

「ごめん・・鮫島ごめんね・・・センパイ・・」
酔っ払いの戯言のような謝罪の言葉を深雪は鮫島の背で呟いていた。
一度たがが外れた深雪は鮫島の背でうわ言のように「せんぱい・・」と繰り返していた。
詳しい事情は知らないが、深雪が呼ぶその先輩とは畠山の事だろうと鮫島は感じていた。

途中気持ち悪いと目を覚ます深雪を背負って自分の部屋に到着した時は、さすがの鮫島も汗だくだった。
殆ど意識のない深雪をベッドに下ろす前に、着ている服を下着まで全部脱がせた。
さすがに意識が無いほど酔っている人間を風呂に入れるのは躊躇うものがあって、簡単に体を拭いてやってからベッドに転がした。
脱がせた深雪のスーツをハンガーに吊るし、残りは抱え乾燥機能付きの洗濯機に自分の服と一緒に放り込んだ。
朝には乾いているだろうと、男の大雑把なやり方だった。

そして鮫島も軽くシャワーを浴びると、疲れて深雪の横に潜り込み直ぐに寝息を立てた。

翌朝、深雪は重い頭で目が覚めた時に自分が何処にいるのか一瞬判らなかった。
判った事は自分が下着一枚身に着けていない事と、となりに背中を向け下着一枚の男が寝ている事だけだった。
すっきりしない体調に、追い討ちを掛ける光景に深雪は顔色を失くした。

『いったい夕べ僕は?』思考を巡らせるのも今の深雪には恐ろしい事だった。
「んん・・・」背中を向けていた男が寝返りを打つように深雪に向き直った。
「鮫島!」相手が鮫島だと判ると、夕べ一緒に飲んだ事は思い出せた。
だが聞かなくても、お互い裸でいる以上は・・・
身体に違和感が無いのは、合意の上だったのだろうと深雪は理解した。
『先輩・・・ごめんなさい・・』胸に当てた手が小刻みに震えていた。

「んん・・?ああ起きてたのか?」眠そうな目をして鮫島がそう声を掛けてきた。
深雪は慌ててベッドの上のタオルケットを手繰り寄せ体を鮫島の視界から隠した。
「そんな今更・・」呆れたような鮫島の言葉は深雪の心に止めを刺した。

<つづく>



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