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吐息の白い夜 1

 19, 2011 23:42
◇前後編(短編)になります。楽しんで頂けたら嬉しいです◇




「だから、言っている意味が分からないって」
「お前に分かってもらいたいって言ってないだろう?」
さっきから、埒のあかない会話を二人は交わしていた。

高校二年の時に初めて同じクラスになり、志望大学、学部が同じ事を知りそこから仲良くなり、いい勉強相手そしてライバルとして過ごして来た。そんな二人も今は大学二年なのだ。
それなのに、急に佐野涼太が可笑しな事を言い始めたのだ。一条星哉は訳が分からずに困っていた。

「どうして、女を抱いていて達けないのが俺のせいで、だから俺と暫く距離を置くって?さっぱり分からないだろう、普通は」
知り合った時から、気が合った。同じ大学を志望していたのは涼太だけではないのに、つるんでいたって事は気が合う証拠だと今さら言わなくても分かるはずだ。
凸凹コンビと言われても、楽しく付き合って来ていたのに、涼太の下の事情と自分がどう関係あると言うのだろう。

172センチで細身の星哉と比べると、185センチを超える涼太は身長だけではない、胸板も厚く男らしい体格だった。それ故に凸凹コンビと言われるのも仕方ない。それも大学生になった今はそんな呼び方をされる事も少なくなった。

「だから、女抱いていても何か……ついお前の顔に置き換えるんだよ。そしたら直ぐにイける」
「だからそれ変だろう。俺は女じゃないし」
「だから困ってるって言っているだろっ」
さっきから、進展のない会話が続いている。涼太と星哉は駅のベンチに腰を下ろした状態で、もう何分も終わりのない会話を交わしていた。

「美味い物を喰っても星哉が好きだったなぁとか、楽しい所に行けば星哉も連れて来れば良かったなぁとか……分からないけどそう思っちまうんだよ。仕方ないだろ」
「……マジ訳わかんない……」

それに終止符を打ったのは涼太の方だった。
「だから……」
もう何度目の「だから」なのだろうと、働かない頭で星哉はぼーっと思っていた。
「だから、暫く星哉とは会わない。大学で見かけても俺を放っておいてくれよな。じゃあ」
涼太はそう言い捨てると、ホームに入って来た電車が閉まる寸前に扉の向こうに消えてしまった。一人残された星哉は訳も分からないまま、だが置いて行かれて内心は酷く寂しいと思いながらもホームを見ているだろう涼太と視線を合わせないように、明後日の方向に顔を向けていた。

(全く……訳わかんない……)
星哉が知る限り涼太が女と切れる事は無かった。かと言って遊び呆けているわけでもない。二股を掛けるような奴なら友達にはならなかったと思う。だけど涼太が誰かと付き合う期間は長くて半年、平均したら三か月くらいだろうと過去に涼太と付き合ってきた女の顔を星哉は思い浮かべたりもした。みんな可愛い子だった。一番最近は同じ大学のそれも1つ先輩と付き合っていた。才媛と誉れ高い女性だったのに何が気に入らないと言うのだろう。

涼太が帰っても星哉はずっとベンチに座ったまま、色々な事を考えていた。ふと頭の上から声が掛けられる。
「おや、一条君じゃない。待ち合わせ?」
星哉が声の主を見上げると、そこには同じサークルの松田が嬉しそうな顔をして立っていた。同じサークルと言っても星哉も涼太も名前ばかりの幽霊会員だ。それでもいいからと、高校からの先輩である松田に頼まれて参加したからだ。

「松田さん……俺、帰るところです」
「ふ~ん?」
もしかしたら、星哉が何本も電車を見送っているのを見ていたのかもしれない、そう思われるような顔だった。
「今日は、ボディガードは一緒じゃないんだ?」
「ボディガード?ああ、涼太ですか。さっき帰りました」
涼太と星哉が凸凹コンビと言われなくなったのは、この言葉が大学生になってから使われるようになったからだ。
「それにボディガードって何ですか。俺男だし、護られる必要ないですから」
星哉が不機嫌そうにそう答えても松田は目尻を下げたままだ。それが馬鹿にされているようで、星哉は面白くなかった。

「だって、君たち高校生の頃からいっつも一緒だろ?あれじゃあ恋人が出来る暇がないんじゃないの?」
「え……」
松田の言葉の後半部分に星哉は反応してしまう。
(もしかして、涼太が女と長続きしないのは自分のせい?)
「そんなに俺ら、一緒にいるように見えましたか?」
「ピンで見かける事はなかったね」
優しい顔をして松田は言い切った。

「はあ……っ」
やはりそうかと星哉は頭を抱えたい気分だった。星哉は今まで女性と付き合った事がなかった。だから涼太は暇な自分を優先してくれて、デートとかもあまりしていなかったのかもしれない。涼太に悪い事をしたと反省してみても、今更涼太にそんな事を言えそうになかった。暫く会わないと言った涼太に従うしかないのだと、改めて涼太の言葉を頭の中で繰り返す。

「ところで暇?」
「はい?」
突然思考とか違う言葉を掛けられて星哉は松田の顔を訝しむように見た。
「いやね、これからサークルの仲間と飲み会なんだけど、たまには出席しない?いくら名ばかりでいいと言っても、少しはね」
案に参加しろと言っているが、考えてみたら飲み会の誘いを今まで受けた事がなかった気がする。

「俺今まで誘われた事ないですよ?」
その思いを素直に口に出すと、松田が困ったような楽しいような顔をして口角を上げた。
「一応誘ってはいたんだよ、涼太を通じてね」
「え……」
涼太からそんな話を聞いた事もなければ、打診された事もない。酒好きな涼太だけが参加していたのだろうか。

「俺、酒はあまり強くないから誘わなかったのかも……」
星哉は、涼太が自分に話を振らなかった事を庇うような言い方をした。
「いや、涼太も参加した事はないよ」
「あ、そうですか……」
考えてみればいつも一緒だ。涼太だけが飲み会に行く機会はないだろう。そう思えば今までどうやって彼女と会う時間を作っていたのだろうと考えてしまう。


「さあ行こう」
突然星哉は松田に手を引っ張られ乗ろうと思っていた反対の電車に乗せられてしまった。
「参加するよね?」
松田がにっこり笑って星哉に同意を促す。今更だ、もう電車は走り出してしまっているのだ。
「参加しますから、手を放して下さいよ」
こうなったら参加するしかないと星哉は諦めたが、掴まれた腕が痛い。
「ああ失礼。一条君の腕はやっぱり女の子よりは筋肉付いているね」
「当たり前です……」
どうして比較対象が女なのか星哉には分からないが、気分いいものでは無かった。普段は体格のいい涼太と一緒にいるから小柄に見えるが、172?という身長は男の中に混ざっても、そう目立って小さいわけでは無いはずだ。

「降りるよ」
「は、はい」
松田に促されて降りた駅は8つ先の駅だった。同じ沿線とはいえ逆方向に8つは帰る時間を気にしないとならない。ちらっと松田を見るともう始まっているから急ごうと声を掛けられ、星哉は仕方なく松田の後を追うように急ぎ足になった。なんだか無駄な努力をしているようで、その足取りが軽くなる事はない。

居酒屋の奥座敷を占領した「おんけん」のメンバーは総勢14名。星哉は何となく見た気がする程度の顔ばかりだった。既にアルコールを摂取した奴らは星哉の飛び入り参加を拍手で迎えてくれる。何となく気恥ずかしくてちょこんと会釈をして、促されるまま松田の隣に腰を下ろした。
「一条は、何月生まれ?」
「10月です」
突然聞かれて星哉は素直に生まれ月を告げた。
「なら、もうお酒大丈夫だね」
「あ……」
だが、嘘を吐いても松田の事だ学生証を見せろと言ってくるだろう事は想像できた。何せ、涼太と星哉の卒業した高校の一期前の生徒会長だったのだ。その次が涼太、だから広い大学といえ松田と繋がりが簡単につけられた訳だった。

「閉店までこの部屋は貸し切ってあるから、ゆっくり飲むといいよ」
松田が笑顔で囁くが、その閉店とは聞けば朝の4時。終電の心配よりも始発が走り出してからの解散なのだ、酒に弱い星哉は早々に抜けだす事で頭の中はいっぱいだった。

星哉たちよりも遅くにぽつりぽつりと参加者が増えてくる。そうなると最初に座った席など関係ないくらいに入り乱れてしまう。だがそれよりもイヤなのは横に座る全ての奴らに涼太は一緒じゃないのかと尋ねられてしまう事だった。星哉は名前も顔も知らない相手すらそれを聞いてくる。

星哉が参加してから1時間程した時に、飯岡千草が来た。
(あ……)彼女こそ、涼太がついこの前まで付き合っていた女性だった。千草が参加した事で酔っ払いから歓声が上がる程に、千草は綺麗な女性だった。清潔な色気があり星哉が知る中でも一番美人だと思う。
そんな千草が星哉の姿を見て一瞬目を丸くした。だがその顔は直ぐに優しい笑みにすり替えられる。星哉も遠くから軽く会釈をするが近寄って話をするまでには至らなかった。

『全国温泉研究会』通称おんけんだ。酒と温泉が好きな奴らが大勢集まれば大変な騒ぎであるが、耳に飛び込んでくる会話を聞くとなしに聞いていると、どこぞの温泉は良かったとか行きたいとか、結構まともな事を話している。それに少し星哉は安堵の息を漏らす。


元来集団で飲み食いするのを星哉は苦手としていた。よくぞ今まで参加しなくてすんだと胸を撫で下ろすが、逆に一度参加してしまったので、次回もとなる確率も上がってしまう。

ボトルで用意してある酒は自分の好みの濃さに調整できるのは星哉には助かった。さっきから薄いチュウハイをちびちび飲んでいる。そして頭の中では帰る切欠を狙っていた。
「大丈夫?」
いつの間にか松田が隣の席に戻って来ていた。
「はい……」
「あ、お代わり作ってきてあげるよ」
「いえ!いいです。大丈夫です」
「遠慮しなくていいから」

3分の1ほど残ったグラスを簡単に星哉の手から取り上げて、松田は楽しそうに酒を作りに行った。その背中を星哉は恨めしそうに眺めている。ふと誰かの視線を感じ振り向くと千草と目が合ってしまい、星哉はバツが悪そうにその視線を逸らした。千草がどうして自分を見ていたのか星哉には分からなかったが、もし涼太と付き合っている時に自分のせいで会いたい時に会えなかったのでは、と思うと視線を絡める事など星哉に出来るはずもなかった。

端に固まっている集団から歓声が上がった。何かのゲームをして盛り上がっているらしい。楽しそうでいいなと少しだけ羨ましくなったりもするが、酒も弱い上少量の酒であんなにハイになる事など星哉には出来そうになかった。

「はい、お待たせ」
星哉がさっきまで持っていたグラスよりもアルコール度が高いであろうグラスを差し出され、星哉は礼を述べながら受け取った。
「はい、改めて乾杯」
宴会に参加してもう直ぐ2時間になろうというのに今更乾杯もないだろうと思いながらも、星哉はグラスを合わせた。
(うっ、濃い)想像通りにアルコール臭たっぷりの液体が喉を焼くようだった。

ゲームで盛り上がっていた集団の一人が、元気よく片手で拳を上げる。3年の堀内だ。
その堀内が「罰ゲーム罰ゲーム」と言う掛け声に背中を押されるように、松田と星哉の元にやって来た。周囲は囃し立て堀内も酔った視線を向けながら歩いて来る。無意識に星哉は後ずさりしてしまう。
つか、見た限りでは堀内はガッツポーズをしているのだ、どうして彼が罰ゲームなのだろうと頭を過った時に堀内が星哉の肩を強く掴んだ。

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-  2011, 12. 20 [Tue] 20:54

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