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吐息の白い夜 3

 22, 2011 23:39
涼太の態度が理解出来なくて、それでも悔しくて唇を噛みながら駅に向かって走り出した。まだ終電が走っている時間で良かったと安堵すると同時に、涼太と千草がこれから何処に行くのかが気になって来た。

(最初からホテルにでも行くつもりだったくせに……)それなのに、星哉を送ろうかと言った涼太を許せないような気がした。走りながら誰かと肩がぶつかる。酔っ払いの罵声も無視してひたすら駅を目指した。あと少しで駅に着くという所で、3人組の若い男の一人と肩が触れた。さっきの酔っ払いの方がもっと強くぶつかったのに、罵声で済んだがこの3人組は走り出そうとする星哉の腕を掴んだ。

(やばい……)本能で、危ない奴らだと星哉も分かった。殴られるか金を盗られるかどっちかだろうと半ば観念する。
腕を掴んだ男が星哉の顔をまじまじと、顎を上下に振りながら見回す。
「随分と可愛い坊やじゃないか。お兄さん達と遊んでかね?」
「ぶつかったのは謝ります。でも遊んでる暇ないんで……」
「ほお?」
揶揄するように、今度は星哉の頬に触れる。
(くそっ、今日は厄日だ)忌々しい気分が態度に出たのかもしれない。星哉の腕を掴んでいた男が星哉の腕を捻る。
「いたっ」星哉が顔をしかめて抗うように男を睨みつけた。堀内といいこの男といい本当に気分が悪い。

「随分と気が強そうな子だな……虐め甲斐があるな」
この中でボス的な存在の男が初めて口を開いた。優しい口調だったが男の目は笑ってはいなかった。星哉の背中に冷たい汗が流れた。そしてもう一人の一番頭の悪そうな顔をした男がボス的な男に聞いてきた。
「なあ、売るの?撮るの?それともヤルの?」
他の二人もニヤニヤと星哉を見ながらどれにするか思案中という顔をした。どれも勘弁願いたい。

「輪姦しながら撮って、それを売ればいい。俺らって頭いいなぁ」
一人が自分の言葉を褒めながら嬉しそうに言う。本当にこんな馬鹿な奴らとは関わり合いたくなどない。星哉は隙を見て逃げ出そうとしていた。公共の路上だ騒ぎになれば通報だってしてくれる人間も一人くらいはいるだろう。
あ……さっきは誰も助けてくれなかった。知っている人間ばかりだったのに。それを思い出すと今の自分が置かれている状況がとても分が悪いものだとやっと気づいた。こいつらと同じくらいの脳みそしか無い事を知らしめられた気がした。

見た感じヤクザではないただの不良という所だ。いきがっているが星哉とそう年齢も変わらないだろう。だが3対1では全く勝ち目などないのも知っている。涼太と違って自分には何の取り柄もないのだ。

(涼太……)涼太の名前を心の中で呼ぶと怖さとは違う寂しさが胸を襲った。それとは裏腹に自分がこんな目に合っているのに今頃はホテルか、と思うと怒りも湧いてくる。それが矛盾だと今の星哉は気づかなかった。
「場所変えるぞ」
ボス格の男が他の二人に顎でしゃくる。冗談じゃない、場所など移動したら逃げ出すチャンスがもっと少なくなってしまう。星哉は腕を掴んでいた男の足を思いっきり踏みつけた。
「いてっ!」
星哉はその一瞬の隙に逃げ出そうとするが、別の男に簡単に抑えられてしまう。

「離せよっ!」
星哉もこの人の多い場所から人気の少ない場所に連れて行かれるわけにはいかないので、体に力を入れて踏ん張る。
「おまわりさ……んん……」
てっとり早く警官を呼べば誰かが通報してくれるのではないかと、大声を出そうとしたがその口は大きな手で塞がれてしった。
「んんんっ」

星哉たちの周囲は人が避けて歩くので、そこだけ広い。みんな酔っ払い同志の喧嘩かと思っているのだろう、素知らぬふりして足早に通り過ぎる。自分も今までそうやって来た事を星哉は少しだけ反省した。

数歩引きずられた時に誰かが自分の名前を大声で呼んでいる。そしてその声は次第に星哉たちに近づく。
(涼太……)まるで今日の涼太は、白馬に乗った王子様のような登場だ。でもどうせならもう少し早く来いと星哉は眉間に皺を寄せた。

「おお格好いいお兄さん登場?」
星哉の腕を掴んでいる男がニヤニヤと揶揄するように言っている。星哉は戦力外だ、3対1では涼太に負けるとは考えていないのだろう。

星哉も少しだけ忘れていた。涼太は『道』というものが大好きな事を。
小学生の時には、剣道と柔道。そして高校では合気道の道場に通っていたと聞いた事があった。残念ながら星哉はまだ実践ではそれを見た事はない。ついでに書道と茶道も習ったらしいが、さすがにこれは長続きしなかったらしい。違う意味さすが涼太と唸ったのは高校3年の時だった気がする。

「この野郎っ、星哉を離せっ!」
その言葉と同時に、涼太の飛び蹴りが見事に決まった。ぐえっと蛙を踏み潰したような声と共に星哉は解放されるが、他の2人が黙っている筈もない。だが身構えた瞬間に涼太の回し蹴りが決まり、もう一人はいつの間にか腹を押さえて蹲っている。格好いいと思う暇も心配する暇もなかった。

「星哉、逃げるぞ」
「え……?」
涼太は茫然としている星哉の手を引いて走り出した。人波に逆らうように走る涼太に手を引かれたまま、星哉も走った。
5分程走れば追いかけて来る様子もないので、二人で脇道でぜいぜいと息を整えた。

「別に逃げる必要ないし、こんな裏路地の方がやばいじゃん」
星哉は助けてもらった礼も言わずに、文句を言う。
「いや俺、技使ったし……まずいだろう?」
「……」
どうみてもあれはプロレス技のような気がしていたが、星哉は敢えてそこには触れなかった。
「……あ、千草先輩は?」
この騒動ですっかり忘れていた。もしかしてあの辺りに残してきたのなら拙い。
「千草は、タクシーで帰った」
「そう……帰ったんだ……」
『帰した』と所有物的に言わない事が星哉を少し安心させた。

「そう……俺らも……そろそろ駅に戻ろうか?」
駅とは反対側に走ってきたのだ、そろそろ終電も近い時間になっている。
「まだ危ない。こっちに……」
もしかしたら仲間を呼んで待ち伏せしているかもしれないと星哉も思い、涼太の後について歩いた。
駅から少し離れた路地を歩く。何だか怪しげな雰囲気に星哉は周囲を見回す事なく涼太と歩いた。

「今日はこの辺に泊まろう」
涼太の口調は星哉に伺いをたてているのではなく、一人で決心したようなものだった。そしてそのまま星哉の手を掴んでホテルの門をくぐった。
「ちょ、ちょっとここホテル……」
「大丈夫、男同士でも泊まれるから」
「つか、何で涼太とホテルに泊まらないとならないんだよ」
「駅の方は危ないから」
「……」
そう言われてしまえば星哉も反す言葉もない。
「なあ涼太、もしかして前にもこのホテル来た事あるの?」
「女とな……男と来るのは星哉が初めてだ」
「……」
「大丈夫、何もしないから」
それは女に言う言葉だろうと突っ込みたかったが、星哉は涼太の手が熱くて言葉を飲み込んだ。
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