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再)冷し足りない!

 07, 2011 00:12
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                イラストpio(版権著作権 pio)

BL・KANCHOROU 2010夏 参加作品



「何だよっ?」懐中電灯で照らされて不機嫌そうにその男は警官を睨んだ。
「お前たちこそ、此処で何をやっている?未成年か?」
横柄な警官の態度に、若い男はポケットから免許証を抜いて投げつけた。

「宮森翔……21歳か、そっちは?」
「こいつは俺の同級生だよ、今身分証明書はないけどいいだろっ?」
「そ、それに何だその手錠は?」
「はぁ?あんたもプロだろう?これが本物か玩具か位は見てわかんねぇのかよ?」

確かにそれは、警察官が携帯している手錠とは少し素材が違っているようだった。
舌打ちをしながら、その警官はお前らも危ない遊びなら家でやれよ……ったく、土曜の夜の新宿はろくなもんが居ない。この程度の事に構っている暇も無いなどと、ブツブツ言いながら立ち去った。

逃げるように翔の胸に抱きついて来た少年に「お前、名前は?」と初めて声を掛けた。
「……蘭丸」
「へっ?随分見かけと違った男らしい名前だなぁ」
「あんた、足痛くないの?」
翔の言葉を無視するように、そんな事を聞いてきた。
「あんたじゃない、翔だ。あぁちっと痛いや」
翔はそう笑うと血の滲んだ包帯を手で押さえた。

「それよりお前……」
「お前じゃない……蘭丸」
「そう、蘭丸お前こそ何だよその痣や手錠は?」
「これ?プレイ?いや……拘束?」
蘭丸がしれっとした顔で答えると、翔が呆れたように大袈裟に肩を竦めた。

「蘭丸、これからどうするんだ?」
「行くとこ無いし……」
「じゃ俺の部屋に来いよ、その手錠外してやるよ」
「外せる?」
「簡単さっ」

蘭丸は足を少し引き摺る翔の後ろを歩いた。
「何か俺ら周りから見たら凄い二人連れだな」翔が面白そうに笑った。
足から血を流している翔と、手錠に繋がれた欄丸……

10分程歩いて辿り着いた場所は、コンクリート打ちっ放しの部屋だった。
「ふーん」蘭丸が面白そうに部屋の中を見回している。
「何もねーだろ?」
「格好いい部屋だね」
翔も本当は気に入っている部屋を褒められ、ちょっと嬉しかった。
「変わっている奴だな……」とまた肩を竦める。

パイプベッドの下から、大きな箱を取り出し、何か道具を物色していた翔に呼ばれた。
言われたように翔の隣に腰を下ろし、両手を前に差し出した。
「何これ!すっげぇ重いじゃん!」
「うん……プラチナだからかも」
「へっプラチナ?」手錠を確認すると『pt900』の刻印が打ってあった。

「何だこれ?500gはあるんじゃん?」
「うん、その位はあると思うよ」
「売っぱらったら200万以上にはなるぜ、どんなじじぃだよ」
「じじぃじゃ無いけど、金も名誉もある奴」ぶっきら棒に、他人事のように蘭丸は答える。

「本当に逃げて来たのか?」
「ゲームだよ……あと24時間捕まらなかったら、僕は自由だよ」
「ふーん、随分面白そうじゃん?」
「そろそろ自由になりたい……」そう呟いた蘭丸の声が血で滲んでいるような気がした。
「俺が自由になるのを手伝ってやるよ、あと24時間だろ?」
そんなの簡単さと付け足す翔を不安な面持ちで蘭丸は見つめていた。
「ほらっ!外れた」
その声と同時に片方の手首から手錠が落ちた。もう片方が外れるのも時間は掛からなかった。

蘭丸は自由になった手首を摩りながら「ほんとだ……簡単だ」と呟く。
翔が言った通り、簡単な事なのかもしれないと思った、自由になる事は……

「蘭丸自由になっても行く所無いんだろ?俺ん所ずっと居るか?」
ベッドの上に膝を抱えて座る蘭丸を後ろから羽交い絞めにして翔が聞いた。夜の街で出会ったばかりだったが、若い二人にはそんな事は関係なかった。フィーリングが合えばいいのだ。
「……うん」
「あまり乗り気じゃ無いみたいだなぁ?」翔の声が少し沈んでいる。

「翔……僕が自由になったら、僕を抱くの?」
その言葉の裏に何があるのか?翔は言葉に詰まった。
「蘭丸はどうしたいんだ?」
「判らない……僕はまだ誰にも抱かれた事が無いから……」

「えっ?どうして?」
変な質問だと思ったが、これだけの仕打ちをしていた男が蘭丸を抱かなかった事が不思議に思えた。
「縛られたり、色々されたけど……」
「抱かれなかったって事か?」翔が躊躇いながら聞くと蘭丸は黙って頷いた。

「蘭丸って意外と愛されていたのかもよ?」翔は素直に思った事を口に出した。
「ペットとしてね」
自虐的な笑みを浮かべる欄丸をぎゅっと抱きしめながら翔は、何気なく話題を変えた。

「なぁその痣が消えたら海行かないか?」
「えっ?」突然の話に蘭丸が振り返って翔を見る。
翔はその顔を挟み、そしてその唇を吸った。

「この痣が消える頃には夏は終わっているよ」身を捩り悲しそうな顔で蘭丸が呟いた。
「じゃ来年行けばいいじゃん」と翔は軽く言う。
「……来年?」
「そっ!来年も夏はちゃんと来るから」
その言葉に初めて蘭丸が少年っぽい顔で笑って「うん」と頷いた。

 
午後10時……

「24時間過ぎた……」翔が呟いた。
昨夜から外には出ずに、ずっと翔の部屋に居た蘭丸が静かに口を開いた。
「もう飽きたから、最初から追いかけるつもりなかったのかも……」
その声が少し淋しそうに聞こえたのは翔の想い過ごしだろうか。

ドンドン!翔の部屋の扉を強くノックする音が響き、蘭丸が肩をピクンと震わせた。
翔がゆっくり扉に近づき覗き穴から扉の外を見る。
翔の目に映ったのは、黒い服を着て黒いサングラスをしている怪しげな男だった。そっと手招きして蘭丸を呼んだ。同じように覗き穴から覗いた蘭丸が息を詰めた。

「知っている奴か?」
翔の問いかけに蘭丸が頷いた。そしてその翔の目は『どうする?』と問い掛けている。
蘭丸は少し考えてから開けてと翔に伝えた。

蘭丸を背中に庇うようにして、翔がガチャッとロックを解除しドアを開けた。
蘭丸の目の前に立っていた男は、蘭丸の飼い主……いや飼い主だった男のボディガードである中林という男だった。

「……中林さん」
「蘭丸様、お届け物がございます」
「へっ……?」
中林の見た目とは違う態度に、臨戦態勢の翔が間の抜けた声を出した。

中林が差し出したのは1枚のキャッシュカード。
「これは?」訝しげに蘭丸が中林に問い掛けた。
「お館様からの退職金で御座います」
「……ペットにも退職金出すなんて、随分余裕だね」
蘭丸はそれを受け取る事がとても屈辱的な事に思えて、精一杯の皮肉を込めて中林を睨んだ。

それでも中林は頭を下げ「お願いです、お受け取り下さい」と言う。
「ちょっと待てよ」翔がそんな二人の間に入って来た。
「24時間過ぎて、直ぐあんたが此処に来たって事は、最初から此処に居るって判っていたって事か?」
「……はい左様で御座います」中林が頭を下げたまま答えた。

「……どういう事?」蘭丸が不思議そうな顔をして翔を見詰めた。
「此処に居るって判っていて逃がしてやった、って事さ」
何だか自分たちが踊らされていて翔も憤りを隠せない様子で言い放つ。

「中林さん……どうして?」
ボディガードと運転手を兼ねていた中林と一緒に居る時間は蘭丸にとって長い時間だった。
そして中林は蘭丸が唯一心を許した人間でもあった。

「私はただ渡して来いと言われただけでして、これ以上は……」中林が言葉を濁した。
たが蘭丸は中林が悲痛な顔をしているのに気づいた。
「あいつに何かあったの?こっから先は聞かなかった事にするから教えてよ。そうじゃないと、これも受け取れない!」
中林が頭を下げている時間がとても長く感じた。そして意を決したような眼差しを蘭丸に向けた。

「突っ立ってないで中に入れば」翔が中のソファを顎で指した。
「失礼します」コンクリート剥き出しの造りの部屋は靴など脱ぐ必要が無かった。
カツンカツンと革靴の音を響かせ、中林がソファに腰を下ろした。

「お館様は最初から蘭丸様を手放すつもりでいらっしゃいました」低くゆっくりと中林が話し出した。
「じゃどうして?」蘭丸がどうして24時間なんてと言いたかった。
「お館様は、『せめて24時間くらいは私の事を考えていて欲しいじゃないか?』そう笑っておられました……」
「…………」

「お館様は今日入院されました」
「えっ?」黙って聞いていた欄丸が驚きの声を上げた。
「もっと早くに入院すべきだったのですが、蘭丸様を手放す決心がつかずに今日まで至ってしまいました」
「何それっ?」
「入院したら退院出来ない事をご存知でしたから……」


蘭丸は中林が帰ったのも気づかないで、ただぼんやりしていた。
「……何だそれ」たまに口を開くとそう呟き、そして又ぼんやりした。


蘭丸は両手をひとつに絡めて縛られ、天井から吊られていた。勿論その作業を施すのは違う男だった。
その男は蘭丸の縛られる様を、酒を飲みながら静に眺め、時折口を挟んで指図するだけだった。縛られる事に慣れ、次に訪れる快感の壮絶さを知っている蘭丸の体は、縛られる行為だけで、登りつめて行った。

「あぁ……蘭丸綺麗だよ、君は縛られるのが良く似合う」
そう言いながら、欄丸の剥き出しになった胸に指を這わす。ブランディーを含んだ唇を寄せ、ツツーッと零れたアルコールにもさえ敏感になった肌は悦んだ。

その男の指示により、簡単に絶頂を迎えないように根元もしっかり結ばれていた。
「ああぁぁ……」爪先立った足の指だけで体重を支える体は揺れるだけで、肌に縄が食い込んでいく。
「ああぁぁぁ……」
「もうこんなになって……蘭丸イキたいかい?」
言葉も発せないで蘭丸はただ頷くばかりだった。

その男の指が蘭丸のペニスにかかる
「あぁ……お願い……イカセテ」
「やあ―――っ!」放出できないペニスを咥え込まれ、蘭丸の口から悲鳴が上がる。
「やめて……やめて、ああぁぁ……お願いイカセテ……イカセテ」
蘭丸は呪文のように繰り返すが、その攻めは何時間にも及んでしまう事が常だった。

そして目が覚めると、自分に与えられた立派なベッドで必ず眠っている。
夢だったのか?と思いもするが、体に残るまだ新しい縄の痕が事実だったと教えてくれる。
週に3日程この行為は行われ、それ以外の日常はすこぶる快適だった。

中林と一緒ならば外出も許されたし、歩きながらチラッと気に留めた物はその日のうちに蘭丸に与えられていた。
「誰も欲しいって言ってないし」渡された品物に腹立たしさを感じる事もいつもの事だった。



「蘭丸、ほらっ」ぼーっとしていた蘭丸の頬に冷たいペットボトルが付けられた。
「あぁ……翔、ありがとう」
「あの男の事考えていたのか?」遠慮がちに翔に問われ、蘭丸は黙って頷いた。

「やっぱお前愛されてたんじゃん?」ボトルのキャップを回しながら翔が言う。
「……あんなの愛じゃない」蘭丸は唇を噛んで抗うがその声には元気は無かった。
「人の愛し方には色々あるからな、それでも愛なんだよ」
そう言うと翔は、ニヤッと笑いながら水を咽にゴクゴクと流し込む。

「俺の愛は熱いぜ」揶揄するように語る翔に「火傷しちゃう?」と蘭丸も揶揄して返す。
そう言った途端、ペットボトルの水が頭から降って来た。
「えーっ!信じらんないっ!」翔のとった行動に驚きの声を上げた。

「先に冷やしといてやるよ、ほら脱げよ」
翔が濡れた蘭丸のシャツを脱がそうとする。
「やだ……汚い」蘭丸は痣だらけの体を見られたくは無くて抵抗する。
「汚くないよ」翔はそう言って欄丸のシャツを頭からすっぽり引き抜いた。

そして翔は自分の着ていた服も脱ぎ捨てる。
「……翔」
蘭丸は後ろから羽交い絞めにされ、翔の熱い体を背中に感じた。
「俺はその男に感謝するぜっ、こうやって蘭丸と出逢えたのもそいつのお陰だし。そして……蘭丸の初めても俺のために残しておいてくれた……じゃね?」

翔の言葉は少し乱暴だが、蘭丸を抱きしめる手はとても優しく、そして熱かった。



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