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俺、武藤駿平 5

 06, 2011 00:51
駿平が一歩足を踏み入れた時に、玄関でチャイムが鳴った。
「ち……」こんな遅い時間に訪ねて来る人間は、一人しか居ない。
この状況で都合がいいのか、悪いのか駿平は理解出来なかったが、那月を見ると明らかにほっとしているのが判った。

仕方なく駿平は2度目のチャイムを聞いて玄関の扉を、開けに行った。
「おお、悪いな」
本当は自分の為にこの物件を紹介したのではないか?と思う程に康二の職場からこのマンションは近かった。
不機嫌そうに返事をしない従兄弟の駿平を見ながら、康二はビールのパックを目の高さに上げた。

あまり飲まない二人の住居人の部屋の冷蔵庫に、ビールが冷やされているのも、康二がこうやって度々訪れビールを持って来るからなのだ。
「あれ?駿平エロ本片手なんて……ああだから機嫌が悪いのか?邪魔して悪かったな」と何も知らない康二は、呑気な事を言っていた。

「那月はもう寝たのか?」
「何時だと思っているんだよ?」
「まだ日付は変わってないぞ」
「本当にムカツク……」
従兄弟同士の乱暴な会話も今に始まった事では無いが、今夜の駿平には剣があるのを康二は感じた。

「どうした?那月と喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩なんかしないよ……ただ……」
自分の口から今の那月の状況を説明してもいいのかどうか、駿平は測りかねて押し黙った。
「那月は?」もう一度康二に聞かれ、駿平は「部屋」と一言答えた。

一度那月の部屋に入った後に、康二は出てきて「タオル貸してくれるか?」と駿平に言って来た。
駿平が洗面所から乾いたタオルを2本持って来ると、それを受け取った康二は濡れタオルを作り、再び那月の部屋に入った。
その後に駿平も続こうとしたが「お前はもう寝ろ」とあまり見ない厳しい顔で言われ、ドアは閉じられた。
茫然とする駿平の目の前で、内側から鍵が掛けられる音がした。

「な・何だよ……」
一人締め出された気分で駿平はかなり落ち込んでいた。そして何よりも鍵の掛けられた部屋の中で何が行われるのか?気になって眠れる筈もない。
だが、いつまでも那月の部屋の前に居座るわけにもいかない。
「くそっ」那月の力になれない自分の子供さに腹が立ち、駿平は渋々と自室に戻った。

ベッドの上に寝転んでも、この苛立ちと焦燥感は鎮まりそうにもなかった。
「那月さん大丈夫かな?康二の奴……」
駿平は那月に渡す筈だったエロ本をベッドの下に放り投げて、じっと天井を見つめていた。


「那月……大丈夫か?」
「う……ん、あまり大丈夫じゃない……」
「ドラッグ、完全に吸収されてるみたいだな」
遊び人たちの間でSEXの時に、ドラッグを使う奴等がいるのは康二も知っている。渋谷や新宿に行きその気になれば、非合法合法問わずに手に入る時代だ。

「はぅ……」
那月の苦しげな声に康二は背広を脱ぎ、那月のベッドの横に腰を下ろした。
「那月、俺が楽にしてやるよ」
「康二……」
今の那月には、ここで拒否する精神力は残っていなかった。

那月が高校の時に、強姦されそうになったのを助けてくれたのは、康二とその友達だった。
「何か……いつも康二に助けてもらってる」
「困った時はお互い様だ」康二はそう言いながら、布団の中の那月の体に手を伸ばしてきた。
「あぁ……」
自分の手とは違う温もりに、那月は甘い声を漏らした。
「何度でも達けよ」
「……一樹君に悪い」
「大丈夫だ、あいつなら判ってくれるよ。その代わり指な」と康二は揶揄するように言った。


一樹とは康二のひとつ年下の恋人だ。
同じ会社で、今は支店が違うからそう頻繁には会えないとの事だった。

「ごめん……」
「気にするなよ、膝立てて」
那月は康二の誘導する通りに、膝を立て康二に委ねた。


駿平が眠りに就いたのは、もう明け方だった。
リビングを挟んだ那月の部屋の様子は全く判らずに、いらいらしながら眠りに落ちたのは覚えている。
枕元の携帯電話を手にして時間を確認すると、もう9時を過ぎていた。
「やばい!」勢いを付けてベッドから飛び降り、リビングに行くが人の気配はなかった。

恐る恐る那月の部屋をノックしたが、返事は返ってこない。
そっとドアノブを回し部屋の覗いて見ると中は無人。
「仕事行ったのか……」
昨夜はあんなに苦しそうだったのに、もう仕事……
那月の苦しみを介抱したのが、自分ではなく康二だというのも面白くはなかった。

勿論、同居してたった2か月の自分よりは、高校からの付き合いの康二の方が、那月の事をよく理解出来るのだろうが、今一緒に住んでいるのは自分だ、と駿平は言いたい思いだった。
(あの二人、ただの同級生じゃないのか?)
ふと素朴な疑問が駿平の頭を過った。

そして那月の事で一喜一憂している自分がいる事など、まだ駿平は気づいてはいなかった。


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