駿平は高校時代の友達の家を訪ねていた。
久しぶりに会う友達と楽しく会話が弾んでいたが、友達の年の離れた小学生の妹が、何度も顔を出し落ち着かなかった。
「悪いな、受験勉強で今まであまり相手してなかったからな。最近は人が来ても俺にベッタリなんだよ。」
「いいな、可愛いじゃないか。俺も妹欲しかったな……」
「可愛いけどな、俺に対しての独占欲が強くて困っているよ。まだお前だからいいけど、こんなんじゃ彼女なんか連れて来たら大変だよ」
友達の和真は居もしない彼女の存在まで気にして、そんな事を零していた。
和真を笑いながら、ふと駿平は考えていた。
(独占欲か……)
「あ……」
「駿平どうした?」
「いや、俺ちょっと判った気がする」
「何が判ったんだ?」
「ああ……和真、俺帰るよ」
突然立ち上がった駿平に向かって和真は口元を緩めた。
「そうか、まぁ頑張れ」
「はぁ?何言っているんだ?」
和真と妹に見送られて駿平は「じゃまた」と言うと、和真の横にいた妹が、安心したような顔で「バイバイ」と手を振ってくれた。
駿平も笑顔で「バイバイ」と言って和真の家を出て来た。
駿平は駅に着くと、近くにあるドーナッツ屋で6個のドーナッツを買ってマンションに向かった。
何となく自分のイライラした気分が理解出来たようで、足取りも軽かった。
ドアの前で一呼吸してから、そっと鍵を差し込み回す。
開けると、三和土には那月の靴が一足行儀よく並んでいただけだった。
(あれ?康二は……)
リビングに入っても、那月も康二も見当たらない。
テーブルの上に買って来たドーナッツの箱を置いて、那月の部屋をノックしたが、返事がない。
ドアの前でどうしたものかと固まっていると、背後から声が掛かった。
「駿平君?帰って来てくれたの?」
「あ……うん」
駿平は「帰って来たの?」じゃなくて「帰って来てくれた」と言う言葉に更に気分が良くなった。
振り向くと頭からタオルを被った那月が、少し照れたような顔をして立っていた。
「風呂だったんだ?」
「うん、駿平君もまだでしょ?入ってくれば?」
「じゃ入って来る。上がったらドーナッツ一緒に食べない?」
「ド……まだ食べられるの?」
那月が目を丸くした理由に駿平は、少し間をおいてから気づいた。
言われてみれば、ラーメンと炒飯、餃子2人前も食べた事を思い出した。
「若いからねー」逆に那月をからかうように言ってから、駿平は風呂場に向かった。
だがふと足を止め「そうだ康二は?」と聞くと
「デートだって言ってあれから直ぐに帰ったよ」
「デート?康二彼女いたんだ……そうかデートか、生意気に康二のくせに」
那月はそんな駿平に、デートの相手が男性だとは言い出せずに、中途半端な笑顔を見せた。
「え?那月さん何だか寂しそう……」
「そんな事ないよ、ほら早く風呂入ってきなよ」
那月の言葉に背中を押され、駿平は再び風呂場に向かった。
シャンプーしながらも「そうか康二の奴デートかぁ」と何度も繰り返していた。
そして湯船に浸かり、ふーっと体の力を抜くと又首を傾げた。
「あれ?康二って俺にとって兄貴みたいなもんだよな……」
さっき和真の家で、妹の独占欲を目の当たりにして、自分のイライラの答えもそこにあると確信したのに、辻褄が合わない事に気づいた。
「あれ?」一度雲が晴れたのに、また自分の気持ちが判らなくなった。
風呂から上がる頃を見計らって、那月が紅茶を淹れていてくれた。
「甘い物は別腹だね」
そう言って微笑む那月を駿平は、可愛いと思った。
昨夜見たあの色気のある顔とは、別人のようだと思った瞬間に、あの白い胸板を思い出した。
―――ずくん
「ん?どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
「康二って彼女いたんだぁ」駿平は話題を逸らすように、康二の話に切り替えた。
「彼女っていうか……」と口籠る那月を駿平は、今度は追い込んだ。
「那月さんは、康二に彼女がいるのはイヤなんだ?」
「イヤじゃないよ」
「じゃどうしてそんな顔をするのかなぁ?」
挑戦的な駿平の言い方に那月は、どう答えていいか迷った。
「那月さん、康二の事そんなに好きなんだ?」
自分のこの気持ちが那月への独占欲ならば、もしかして那月も、康二にそういう感情を抱いているかもしれないと、駿平は思って聞いてみた。
「な、なんで僕が……」
慌てて真っ赤になり言い訳めいた事を言う那月を、駿平は逆に驚いて見た。
「そこ……赤くなる所?」
駿平の言葉に那月の視線が泳いだ。
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