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「溺れたい・・・」前編(観潮楼企画参加SS)

 07, 2010 19:00


それは突然の出来事と呼ぶには衝撃過ぎた。
「真田・・?」

最近後輩の真田が元気が無いと感じて、仕事の帰りに飲みに誘った夕暮れだった。
「僕・・先輩が結婚するって聞いて・・祝福しなくっちゃと思って・・それで・・」
支離滅裂な真田の言葉に驚きながら「とりあえず、行こう」
そう言って「帰る」という真田を引っ張るようにチェーン店の居酒屋に連れて行った。

完全個室では無いが、中に居る者の顔も外からは見えない、
外を歩く足元だけが見えるタイプの個室に二人通された。
最近の居酒屋はこういう作りの方がトラブルも少なくプライバシーが守られるから流行っていた。
「とりあえずビール」と従業員に注文して、何も言わない真田の代わりに
適当にツマミを注文してビールが先に運ばれて来るまで黙って待った。

「失礼しまーす」とビールグラスを2つ持って来た従業員が部屋を去ると
「とりあえず乾杯しようか?」と俯いている真田の顔を覗き込んだ。
「はい・・」小さく返事をしてグラスを手にやっと正面に座る先輩である諏訪の顔を見た。
「はい乾杯、お疲れ」
「乾杯、お疲れ様でした・・・」と諏訪のグラスに合わせた。

グラスのビールを半分ほど一気に飲んで
「はあーっ!やっぱ仕事の後のビールは旨いな」諏訪が機嫌良く言っている。
真田も同じくらいの量を飲んでまた目を伏せた。

「真田、さっきのあれは何?」
「あれは・・その・・諏訪先輩が結婚されるって聞いて・・」
「へえ、じゃ真田は結婚が決まった先輩にはああやって祝福してるんだ?」
真田は揶揄してるのか、軽蔑しているのか諏訪のその言葉だけでは図れなかった。
「・・そんな事ないです」
だけど、否定しないと諏訪までを貶めるようで嫌だったから素直に否定した。

「じゃどうして?」
「・・・すみません!さっきの事は忘れて下さい!」
諏訪に向かって頭を下げた。
「いいよ忘れても・・・でもこの唇の感触は忘れられないなぁ・・」
今度は完全にからかわれている。

「すみませんっ!男の僕にあんな事されて・・不快な思いさせてしまって」
「不快じゃなかったって言えばもう一回してくれる?」
「・・からかわないで下さい」
真田はぎゅっと唇を噛んだ。
そしてこの場から一刻も早く逃げ出したかった。

「先輩・・僕そろそろ帰ります」居たたまれなくなって真田が口を開いた。
「どうして?私と一緒に飲むのは苦痛か?」
「・・今は苦痛です」
真田はきっと自分がどういう気持ちを抱いているか見抜いているはずだと思った。

入社して3年、そして同じ課の係長の諏訪をいつの間にか目で追い
気がついた時はどうしようも無いくらい好きになっていた。
男を好きになった事など初めてだったけど、
この気持ちは先輩に対する男としての憧れじゃない事は自分で判っていた。

つまみが運ばれ諏訪がビールのお代わりを2杯注文した。
これでこの場から逃げ出す時間が延びてしまった。
諏訪に「飲みなさい、食べなさい」と言われ真田はやけのように飲みだした。
ああいう事をしてしまった事実は消えないのだ、開き直るしかなかった。

そしてビールを5杯ほど飲み、少し呂律が回らなくなった真田は
「飲み過ぎだぞ」と言われても
「先輩が飲めって言ったんじゃないですか」逆切れのような言葉を吐いた。
「それに・・・先輩が結婚したらもう・・」
ゆっくり二人で飲む機会など無いじゃないですか、と言おうとして止めた。

『そうだ・・これが最後のチャンスかもしれない』
酔った頭は平常心と羞恥心を失わせた。
「先輩、先輩の部屋に連れて行って下さい」
真田の言葉に少し驚いた顔をした後、優しい顔になり
「いいよ、じゃ私の部屋で飲みなおそうか?」
真田と同じ量を飲んでいるのに諏訪の顔色も態度も全く変わらなかった。

タクシーで諏訪のマンションに着いたのはそれから30分した頃だった。
そう強くないのに、5杯飲みタクシーの揺れにすっかり体調が悪くなった真田は
諏訪の部屋に着く頃には一人で上手く歩けないような状態だった。
諏訪に抱えられるように部屋に入り、トイレに飛び込んだ。

『僕って最悪・・・』このままトイレから出て行きたくなかった。
「真田大丈夫か?」ドアの外から諏訪が心配そうに声を掛けてきた。
「す・すみません・・大丈夫です」
真田の顔が真っ青だったのは、気分が悪いばかりでは無かった。
少し冷静になって今日の自分の行動を思い返すと指が小刻みに震える程だった。

ゆっくりトイレのドアを開け、外に出ると心配そうな顔の諏訪が立っていた。
「すみませんでした・・帰ります」
「まだ顔色が良くない、今夜はここに泊まりなさい」
「いえ・・大丈夫です、ご迷惑お掛けしました」
初めて訪れた好きな人の部屋をゆっくり見る事もなく帰ろうとする自分がちょっと可哀相になったけど、これ以上ここに居られないと思った。

「いいから、少し休みなさい、ほら水」
そう言ってミネラル水のペットボトルを差し出してくれた。
「ありがとうございます・・その前にちょっと洗面所借りていいですか?」
図々しいと思ったけど、口の中が気持ち悪かった。
「ああ、そうだね、こっちへ来なさい」
浴室の隣にある洗面所に連れて行ってくれて
「もし入れるようならシャワーでも使えばいい、すっきりするから」

変な汗を掻いたから本当は言葉に甘えてシャワーを借りたかった。
その一瞬の躊躇いを諏訪は見逃さなかった。
「ごく普通のシャワーだから説明しなくても判るね、はいタオルはこれ
着替えは真田がシャワー使ってる間に見繕っておくから」
そう言葉を残すと諏訪はさっさと洗面所を出て行った。

手に置かれたバスタオルを暫く眺めていたけど、意を決したように
タオルを一度置いてシャツのボタンに手を掛けていった。
脱いだ服を小さく丸めて足元に置いて浴室に入った。
熱めのシャワーを浴びて、だんだんと頭もすっきりしてきた。
一つ溜息を吐いてから浴室から出て置いたバスタオルに手を伸ばす。

用意してくれてるはずの着替えが無い事に気付いたのは顔の水気を拭いた後だった。
そこには真新しいバスローブが1枚置かれていただけだった。
そしてさっき足元に置いた脱いだ服を探しても見つからない。
音が静かで気付かなかったが洗濯機が僅かに動く気配を感じて中を確認すると
自分の着てたであろうシャツや下着が入っていた。

仕方ないから置いてあったバスローブを羽織って出て行った。
そんな真田に気付いて「ああ、悪かったねそれしか無くて」
「すみません・・・あの僕の着てた服洗濯して下さってるんですか?」
「ああ、直ぐに乾くからそれまではそれで我慢してて」

バスローブ1枚という格好に慣れてない真田は何となく居心地が悪かった。
この下には下着1枚着けていないのだ・・
「すっきりしたらお腹空いただろう?」
そう言って目の前に出されたのはお茶漬けだった。
吐いたために腹の中は空っぽだった・・諏訪の出してくれたお茶漬けは美味しかった。
インスタントの茶漬けに焼いて冷凍しておいた鮭を足し三つ葉を添えたそうだ。
見た目も味も今まで食べた中で一番美味しかった。

「美味しい・・・」
「やっといつもの真田らしくなった」少し安心したような顔で言われて
「すみませんでした・・」改めて頭を下げた。
真田は今夜一緒に飲めて部屋まで訪問できた・・・それだけでいい、と思った。

体も心も落ち着き、改めて諏訪の部屋を見回してみた。
何だか違和感を感じてしまう・・・何だろう?
2LDKのゆったりとした間取りは、新婚生活にぴったりの雰囲気だった。
綺麗に片付いた部屋だけど何か足りない気がした。

「どうした?」諏訪の問いかけに思い切って聞いてみた。
「結婚されたらここに住まわれるんですか?」
「いや・・・」
その言葉にある意味納得した、何故だかここに女性の影が見えない。
「ああ・・じゃ違う所に新居を構えるんですね」

「う・・ん・・今更だけどちょっといいかな?」
珈琲をいれながら諏訪が言いにくそうに口を開いた。
「結婚するのは私じゃないから・・多分噂は弟だと思うけど?」
「へっ?!」
来春に2つ下の弟が結婚すると教えてくれた。
「何処でどう変わったか知らないけど、私にはそういう予定は無いから」

どうして今頃になってから本当の事を言うんだろう?
もっと早くに教えて欲しかった。
そしたらこんな見っとも無い自分を晒す事も無かったのに。

「僕・・本当にからかわれてたんだ・・・」
今度こそここから逃出したかった。
だけどバスローブ1枚で外に出るわけにもいかない。

「からかってないよ」
「じゃどうして?」
「・・・私にああいう事をしたって事は・・自惚れていいんじゃないかな?って思って」
その言葉を聞いた途端真田の胸がドキドキしてきた。
自分から諏訪にキスをした夕暮れを思い出した。

珈琲をテーブルの上に置くと、諏訪が真田の背後に回りこんだ。
後ろから肩に手を置き、耳元で「嬉しかったよ」と囁かれた。
「え?」
それは自分にキスをされて嬉しかったって事?

「あっ!」耳元で囁いた唇はそのまま真田の耳たぶを甘噛みしたのだった。
背中がぞくっとし、体が強張ってしまった。
「私はね、君が他の人にもあんな事をするのかと思ったら凄く腹が立ってね」
その誤解は直ぐに解けたがと笑って言う諏訪を振り向いて見る事が出来なかった。

「真田の事をずっと可愛いと思って見てた、一生懸命仕事をする姿も
私の笑いかける笑顔も全部可愛いと思ってた・・・」
肩に回された腕でぎゅっと抱き締められ
「だけど、真田をこっちの世界に引き入れる勇気が無かった・・・」
「え・・?こっちの?」
「私は男性も愛せるんだよ」
「そ・それって・・・」
「私はバイセクシャルなんだ、嫌だと思ったらこの腕を解いてくれ」

真田は自分の体の前で交差している諏訪の腕をそっと解いた。
途中から諏訪の腕の力が抜けたようでその腕は簡単に解けた。
頭の上で諏訪の小さな落胆の溜息が聞こえる。

諏訪の腕を解いて立ち上がり諏訪の真正面に立ち
そして真田は自分から諏訪の唇に向かって顔を近づけて行った。
「あ・・」諏訪の驚きの声は直ぐに消されその腕は改めて真田の背中を強く抱き締めた。





BL観潮楼秋企画に参加させて頂きました。
お借りしたイラストは希咲堂の慧さまの「それは野分のように」です。

もうイラストのタイトルからして萌えますね!


イラストの版権及び著作権は慧様に属しますので、
無断転写等はお控えくださいませ。

素敵なイラストありがとうございました。

kikaku-aki.jpg




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COMMENT - 8

夕華  2010, 11. 07 [Sun] 20:54

きーすー

初めっからチュウしてますからね!
そりゃ色っぽい話になりそうです。
先輩手が早いっ(笑)

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 08 [Mon] 00:11

夕華さま

> 初めっからチュウしてますからね!
> そりゃ色っぽい話になりそうです。
> 先輩手が早いっ(笑)


そうなんですよね・・初めっからチュウしてるし(笑)
入りやすいようで難しい^^
でもこの受け子ちゃん恥らってて凄く可愛いですよね。

後編18禁バリバリ入ります(爆)
何だか久しぶりに書くような気がします・・・
数日ぶり?

Edit | Reply | 

jun  2010, 11. 08 [Mon] 06:02

真田くん、諏訪課長が好きでたまらない。
その思いを打ち明けられず。
最初にキスはどういうようにしてしたんですか?
でも、想いが通じた。
真田君今晩は寝られないですね。
うらやましい。

Edit | Reply | 

慧  2010, 11. 08 [Mon] 08:57

真田くんに萌~!!

勘違いで先輩の唇を
勢いで奪ってしまった真田くんに萌ですー!!
バスローブ一枚にさせたのは、諏訪先輩の戦略よ~~v
あああ、ヨダレが///
後編のお乱れ!楽しみにしております!!!ふふふ♪

Edit | Reply | 

紫猫  2010, 11. 08 [Mon] 10:45

初めのキスは私もあまりに衝撃過ぎましたw
うふふ、でも真田くんの誤解が解けてやっと二人の思いが通じ合ったという感じですね~
後編、楽しみにしています~~♪

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 08 [Mon] 18:01

junさま

> 真田くん、諏訪課長が好きでたまらない。
> その思いを打ち明けられず。

こんばんは。
やはりこういう関係は何かのきっかけが無いと難しいのでしょうかね?


> 最初にキスはどういうようにしてしたんですか?
> でも、想いが通じた。
> 真田君今晩は寝られないですね。

寝れないです!断言します(笑)
結局3編に分けてしまったので、朝は2回避けて下さいネ(爆)


> うらやましい。

junさんだって良い人いるんじゃないですかぁ?

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 08 [Mon] 18:12

きゃー慧さん!

> 勘違いで先輩の唇を
> 勢いで奪ってしまった真田くんに萌ですー!!
> バスローブ一枚にさせたのは、諏訪先輩の戦略よ~~v

そうです!そうです!バスローブって脱がしやすいですもんねぇ^^
もう内心ルンルンです。


> あああ、ヨダレが///
> 後編のお乱れ!楽しみにしております!!!ふふふ♪

す・すみません・・・何故か3編になってしまいました^^;
ちょっとMが発動してしまい・・
諏訪の中なのか、私の中なのか・・?

書いてる私が溺れてしまいそうです(笑)

お忙しい中コメントありがとうございました!!


Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 08 [Mon] 19:04

紫猫 さま

> 初めのキスは私もあまりに衝撃過ぎましたw

そ・それは紫猫 さんご本人の!?ゴクリ・・・


> うふふ、でも真田くんの誤解が解けてやっと二人の思いが通じ合ったという感じですね~
> 後編、楽しみにしています~~♪


そうですね、甘い夜が待ってます^^
後編に合体は持ち越しになってしまいました^^;
さっぱりと書けなかった・・・
だから最後までイかせてあげます!(笑)

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

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