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この世の果てで 53

 22, 2010 00:06
瀬田は気持ち悪い程優しかった。
食事の支度から後片付け、掃除も全部やってくれた。
だけど洗濯機の操作をするのは拓海だった。
「どうして覚えようとしないんですか?ここのスィッチを入れて・・」
説明するそばから姿を消してしまう瀬田を不思議に思ってしまう。

洗濯物を畳ながら「俺いつから会社に行けるんですか?」
一番気になっていた事を聞いてみた。
「無理するな、体が優先だ」
どんどん同期に出遅れしている自分が不安になってしまう。
「大丈夫だ、良くなったら俺がきちんと教えてやる」
「はい・・明日病院に行ったら来週から仕事に戻っていいか聞いて来ます」
「肝心な事もちゃんと聞いておけよ」
その言葉は聞こえないふりして、拓海は畳んだ洗濯物を持って
自分の部屋に逃げるように入った。

机の上には昨日スーツの内ポケットから取り出した財布が置いてある。
内ポケットだったおかげで血に染まる事もなく無事だった。
財布を手に取り拓海はぼんやり見つめた。
『ここから始まったんだ・・・』

コンコン・・・
小さなノック音に振り向くと瀬田が扉に凭れて立っていた。
「社長・・・」
「洗濯物仕舞うのにいつまで掛かってるんだ?」
その声は怒ってるでもなく、揶揄するでもなく、拗ねてるような・・・
「社長・・・この財布俺が貰ってもいいですか?」
「ああ、大事に使ってある、その革はもうお前に馴染んでるよ」
その言葉に拓海は嬉しそうにその財布を撫でていた。

瀬田が近づいて来てその財布をそっと取り上げた。
拓海を優しく包む腕に体を預けると、顔を上に向けさせられ
下りてきた唇を黙って受け止めた。
退院してから何度か繰り返された行為だったが、
簡単に慣れる事は出来ずに、体が強張ってしまう。

長いキスの後にちゅっと軽く触れられ「珈琲でも飲もう」と場を変える瀬田に頷いた。
キスだけでは我慢できなくなるからと笑う瀬田に
もっと触れ合いたいと思う自分を重ねるが、
それを言葉にする事は拓海には出来なかった。

人を好きになったのも、キスをしたのも初めてだ・・・
ふと瀬田の過去が気になった。
何でも持っている瀬田に恋人がいなかった筈はないだろう。
瀬田が煎れてくれた珈琲のカップを指で撫でながら思い切って聞いてみた。
「社長・・・恋人はいないんですか?」

口に出した途端後悔した。
やはり恋人がいない方がおかしい・・・

「2年前に別れてからは誰もいない」
『2年前まではいたんだ・・・』
当たり前だと思う反面落ち込む気持ちを隠せなかった。

そっと珈琲カップをテーブルに置くと、ソファを背凭れにして座り
「此処に座って」と自分の脚の間をポンポンと叩いて拓海を促した。
言われるがまま拓海は瀬田の前に背中を向けて座る。
後ろからそっと抱き締められると耳元に瀬田の低い声が響いた。

「拓海・・・5年前にお前を初めて見て惚れたって言ったよな?
だが現実には俺はその時には恋人がいて、お前と違う感覚で惚れていた」
ゆっくり拓海が理解できるように話してくれている。
「男のお前に対する感情が何なのか、はっきりとは判っていなかったんだと思う、
確かに俺は5年前にお前を抱く事が出来た、自分でも驚いたよ。」

「それから3年、お前に対する気持ちとは別の感情で、
付き合ってきた女と結婚してもいいと思っていた。
所詮俺たちは男と男、自分の立場や世間の事を考えると無理がある」
瀬田の言葉を間違っていないと思いながら拓海は黙って聞いていた。

「そして結納の日の朝、お前の母親が亡くなったと病院から連絡があった」
「え・・・っ?どうして病院から社長の所に?」
「いや・・ま・・それは」
今まで隠していたもう一つの事実を告げなくてはならない。

「もしかして・・・・社長?」
拓海は何度も入退院を繰り返していた母の病院に掛かる金額が
予想以上に安くなっていた事を何度も不審に思った事があった。
真面目な拓海は病院で間違ってないですか?と何度か聞いた事もあった。

「もしかして社長が・・・?」
「もう隠す必要はないか?」そう呟いた後に「そうだ、少しだがな」と言葉を添えた。
何も言わない拓海を気にして
「余計な事をしたと怒ったか?」

「・・・いえ」拓海は自分の知らない所で瀬田が動いていた事に驚いたが
不思議と怒るという気持ちは湧かなかった。
「いえ・・お陰で浮いたお金で母の好きな花を買ったり・・
母の身の回りの品を寂しいと思わない程度に揃えてやれましたから・・」
瀬田に対する感謝の気持ちの方が大きかった。

「社長・・母が亡くなったのが結納の日だったんですか?」
「明け方だったらしいな・・・」
「結納は・・・?」
「止めて病院に向かった・・・それが俺の答えだった」
「そ・そんな・・・大事な結納をどうして優先させなかったんですか?」

自分達が瀬田の幸せの邪魔をしてしまったんだ・・・
拓海は胸がキリキリと痛む思いだった。
「違うぞ拓海、結納よりもお前の方が大事だとやっと気付いたんだよ」
「そんなぁ?・・・幸せな人生をどうして捨てるんですか?」
普通に女性と結婚した方がずっと幸せに人生をおくれるのに・・・
瀬田に申し訳なくて、涙が滲んで来た。

「馬鹿だなぁ・・・何でお前が泣く?」
瀬田は拓海の瞳に溜まった涙を指ですくうように拭いた。
抱き締める腕に力が込められた。
「俺は誰よりもお前を放っておけなかった・・・それが俺の心からの思いだった」
「社長・・変ですよ、俺なんか構ったって何もいい事ないのに・・
俺なんかのために幸せを棒に振って・・・」

「そんな事ないぞ、俺は今腕の中に一番欲しかったものを抱いてるんだ、
こんな幸せって無いぞ?」
「俺・・どうやって社長に返せばいいんですか、こんなに沢山の恩を・・」
「恩なんか返さなくていい、だが思いは返してくれるか?」
揶揄する瀬田に向き直り、そして初めて自分からその唇に自分の唇を寄せた。

拓海のそんな行動に一瞬驚いた顔をした瀬田が目尻を下げて答えたのは言うまでも無い。



諸事情で1日出発が延びました。
取り急ぎ今夜までは更新出来ました。
コメントのお返しは遅れてしまいます、すみません。
ご了承くださいませ。

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COMMENT - 10

-  2010, 10. 22 [Fri] 00:41

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-  2010, 10. 22 [Fri] 02:12

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jun  2010, 10. 22 [Fri] 05:37

お早うございます。
拓海にすればびっくりの連続ですネ。
でも、瀬田が拓海を思ってくれる気持、
拓海には嬉しくてたまらない。
だから自分からキスもできる。
あとは・・・・
だけですね。

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甲斐  2010, 10. 22 [Fri] 09:08

わ、更新されてる!

ああーわかる気がするな、洗濯機
いつか何かあって拓海が出ていってしまったりもめたときに
『洗濯機が使えない』ことを武器にしようとしてませんか、瀬田さん

拓海が思い悩んだり苦労した5年間に、
瀬田にもいろんな思いがあったんですね
恩は返さなくていいから思いは返してほしい、という瀬田の気持ちがこの5年間の迷いの結果を表していると思いました

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かや  2010, 10. 22 [Fri] 11:05

洗濯を覚えなければ、拓海くんが出て行かないと思ってますね、瀬田さん(笑)ジンクスもかねて。

女性にもそれなりに惚れていた瀬田さん。
でも、拓海くんが泣いてるだろうと思ったら、そっちへ駆け付けたくなってしまったんですね?
誰が一番大切なのか気付けて良かったです。
初めての拓海くんからのキス(≧∇≦)
さぞかし、瀬田さんはデレデレになったかと~(ノ∀\〃)

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梨沙  2010, 10. 22 [Fri] 11:58

まぁまぁ

おはようございます(*^.^*)
拓海ちゃん 次から次へと瀬田さんから爆弾発言されてますね
でも それが瀬田さんの本当に気持ちだということに気づけて良かったよ! 包み隠さずすべてを話せる瀬田さんも凄いけど 拓海ちゃんも幸せつかんで欲しいです!もちろん瀬田さんの所で身も心も蕩けるくらいにうふ♪(* ̄ー ̄)v

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kikyou  2010, 10. 22 [Fri] 13:52

こんにちは

今鹿児島空港に着きました。
飛行機の中でスタバのコーヒーが買えるとは驚きでした。
が、その三百円のコーヒーをバッグに引っ掛け零したのは私です。
乗務員さんお手数をおかけした上に新しいコーヒーを無償で下さって有り難うございました(*^o^*)

飛行機を降りる際も特別に『お気を付けてお出かけ下さい』と声をかけてくださって恐縮です

何処でもお騒がせな私です(≧∇≦)

気をつけて行って来ます。
コメントもありがとうございます。

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-  2010, 10. 22 [Fri] 14:01

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紫猫  2010, 10. 22 [Fri] 23:09

洗濯機を瀬田さんが使えるようにならなければ、拓海君から離れなくていい…ということですか?!
いいですね~洗濯機!!

やっちゃいましたね~
拓海君からのキス(≧∇≦)キャッ
あとひとつ…のこるのは……ぐふっw
幸せになってね!二人ともっ!!

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kikyou  2010, 10. 28 [Thu] 07:39

かやさま

> 洗濯を覚えなければ、拓海くんが出て行かないと思ってますね、瀬田さん(笑)ジンクスもかねて。
>
> 女性にもそれなりに惚れていた瀬田さん。
> でも、拓海くんが泣いてるだろうと思ったら、そっちへ駆け付けたくなってしまったんですね?
> 誰が一番大切なのか気付けて良かったです。
> 初めての拓海くんからのキス(≧∇≦)
> さぞかし、瀬田さんはデレデレになったかと~(ノ∀\〃)


きっとこれから喧嘩しても「洗濯できない」とか何とか言って引き留めるのでしょうね。
結構リアルでも何か一つ出来ない事にしておけば、良い手かもしれませんよ^^

コメントありがとうございました。

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