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雷鳴 4

 26, 2010 00:05
『大丈夫、板野は随分弱いらしいから』と始める前に忍に囁いていた彬の顔も心なしか引き攣っていた。
その夜の板野は信じられないような手で何度も上がっていた。

そして嗜虐的な笑みを浮かべた板野が、忍に不気味な笑顔を向けて「さぁ今夜は楽しませてもらおうかな?」と手を伸ばして来たのを、固まったままの忍は払い除ける事も出来ないでいた。


いつものバーで彬はひとりウィスキーを飲んでいた。もう許容量はとっくにオーバーしているが全く酔えない。カランと扉の開く音がしても、振り向くことなくグラスを傾けていた。
「おい、ひとりか?」
その声にゆっくり振り向くとそこには北村が立っていた。
「見れば判るでしょう?一人ですよ」
不貞腐れたような言い方に北村は眉を顰めながら、忍は一緒じゃないのかと聞いてきた。

「忍?あいつなら今頃……」
その先の言葉を彬は噤んだ。
「お前まさか……また?」
「今日は勝てる筈だったんだ」
さすがの彬も今日の惨敗は予定になかったらしい。いつも忍に変な視線を送ってくる板野が麻雀に誘ってきたので、カモネギくらいのつもりで受けた。板野の麻雀の弱さは仲間内では皆が知っていたからだ。

「誰と打ったんだ?」
そんな彬の様子に北村は厳しい声で相手を尋ねてきた。
「板野さんですよ」
板野と北村は同級だったが、彬と忍は二人より1つ年下だったから一応さん付けで呼ぶ。
「まさかお前、板野に……」板野の名前を聞いて北村の顔が強張る。
「だって、板野さん下手って評判でしょ?なんで今日に限ってあんなについてるんだ……」
麻雀に負けた事が悔しいのか、それとも忍を連れ去られた事が悔しいのか彬にも、もう判らなかった。

「おい、彬行くぞっ!」
突然北村が彬の腕を捕って立ち上がらせようとした。
「行くって何処に?」
「板野の所だ、お前今日の面子は誰だか知ってるのか?」
「初めて見る奴だったけど、板野さんが連れて来た奴らですよ」
「まさか、三浦と坂下って言ってなかったか?」
「覚えちゃいないですけど、何かそんな名前だった……て、北村さん?」

「三浦と坂下は板野に頭が上がらない奴らだ……お前嵌められたんだよ」
呆れた声で言われ、イカサマに気付かなかった自分の愚かさと悔しさに彬は唇を噛んだ。
「お前ごときでアイツ等のイカサマは見抜けないよ、あの二人は雀荘でバイトしているくらいの奴等だからな」
「そんな……じゃあ忍は……?」
「ああ、今頃板野の餌食になっているよ、壊れるぞ忍……」

その途端彬が立ち上がった。
「待て、お前一人じゃ無理だ、俺も行く」
バーを出て、タクシーを拾って二人乗り込んだ。
走るタクシーの中、逸る気持ちの彬に向かって、そんなに心配なら何故行かせた、お前は忍の事好きなんじゃないのかと、北村は激しく詰め寄った。
「あいつが……忍が俺を好きじゃないんだ……」
意外な言葉を彬はポロリと零した。



高校一年の時に忍と出会った、最初の1年は遠巻きに見ている事しか出来なかった。
だが2年になり、環境も落ち着いた頃どうしても我慢出来なくて、卑怯な手を使って忍に近づいた。
そして自分を信頼させ、危険から守ってやると言っていつも自分の傍に置いた。そんな彬の思いが通じて、夏前には付き合うようになり、高校2年の夏休み初めて忍を抱いた。

白い肌を震わせ涙を零しながら悶える忍に心底嵌った。絶対離さないと心に誓った、寝ても覚めても忍の事を考えていた。

忍は、母親にも愛されずに育った彬がやっと見つけた愛しい存在だったのだ。

幸せな日々が続いていた2月……
卒業を間近に控えた3年の男どもが何人も忍に告ったらしい。彬は、いちいち誰に告られた?などと聞く事は沽券に関わりそうで聞けなかった。

そんなある日、ふと通りかかった廊下の踊場で、忍が誰かと話しをしていた。
(また告られてるのかよ?)などと複雑な気分で、聞くつもりでは無かったがつい立ち聞きをしてしまった。自分の名前が出てきたからだ。

「大蔵彬と付き合っているって噂あるけど?」
「まさか!付き合ってないです」
「好きなんじゃないの?」
「好きじゃありません、大蔵なんて……」

3年生と忍の会話に彬は立ち竦んだ。
(好きじゃなかったんだ……)

『子供なんて好きじゃないのよ!』
そういつも言っていた母親は彬が小学3年の時に男を作って家を出て行った。
エリート銀行員の父と自由奔放な母……上手くいく筈なんか最初からなかったんだ、と今なら思えた。
だが当時まだ子供だった彬は、母の口癖に傷つき愛を知らないで育ってしまった。

その母がいなくなったせいで、厳格な父の人生も狂った。箍が外れたように酒に溺れ女に溺れ、いつしか外に愛人を作り家に寄り付かなくなった。

父も帰らなくなった当初、何も知らなかった彬は1週間大人の居ない家で一人暮らした。
3日目には家の中に食べる物が何も無くなった。無断欠席が続き連絡も取れないと、当時の担任が家を訪問し、警察の手を借りて家に入った時、彬は自力では、もう立ち上がることすら出来ないほど衰弱していた。


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