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慶吾が出かけてしまい、徹も自室も戻った。急に一人っきりになった立夏は落ち着かずに、部屋の中をうろうろしてから、そうは散らかっていない部屋の片づけを始めた。
昨日何の仕事もしていないのだ、少しくらいは役に立ちたかった。
慶吾の描いたデザイン画をまとめたり、ゴミを捨てたりと大してやる事は無く静かに時が流れて行った。
部屋の掃除も立夏は自分の部屋でもここまで丁寧にやらない、と思う程磨いた。
もう直ぐ昼飯時だという頃に、自宅兼事務所の電話が鳴った。
少し迷った後に、立夏はその受話器を持ち上げた。
「慶デザインです」
「私、前野と申しますが先生は?」
「只今外出中でして……何かお約束でも?」
電話の相手は若い女性だ、個人的な用事か仕事の用事か立夏は分かりかねた。
「そうですか……あの慶デザインの方ですか?」
「はい」
ま、とりあえずバイトだけどこの際そう答えるしか、立夏には返事のしようが無かった。
ほっとしたような声の前野が言葉を続けた。
「昨日届くはずだったドレスの事なのですが……」
「昨日……?」
「はい、お店の方で受け取る予定だったのですが、受取りが1週間伸びてしまいまして……」
「あ……」
立夏の失敗と合致する言葉に、立夏の顔から血の気が引いて行った。
「それで……実は、今日妊娠している事が分かって……出来たらサイズの調整をしてもらえないかと思って電話したのですが」
「妊娠……おめでとうございます。では改めて連絡させますので、それで宜しいでしょうか?」
「すみません、勝手を申しまして。宜しくお願いします」
前野の幸せそうな声と裏腹に、立夏の顔は強張っていく。
「先生の嘘吐き……」
ぼそっと立夏は呟いて、携帯を取り出そうとした。
「あ……」
携帯も壊されて使えない事に今頃気づいた。
立夏は、慶吾の携帯番号など記憶している筈もない。
―――トントン
「おー開いているぞー」
立夏は仕方なく徹の部屋の扉をノックした。徹に携帯を借りるしかない。
「あの、先生の携帯番号教えて下さい」
立夏は扉を開け、顔を少しだけ覗かせてそう声を掛けた。
「立夏か、入って来い」
そう言う徹は、風呂上りなのかジーンズだけを履き上半身はまだ裸のままだった。立夏の胸は、見慣れない大人の男にドキリと小さな音を立てた。
「失礼します」
何故か立夏は徹を直視する事は出来ずにいた。
「そうか、携帯壊れたんだったな。ほれ」
そう言うと徹は自分の携帯を立夏に投げて寄越した。
「着信履歴のどこかにあるだろう?」
立夏は礼の言葉を述べてから、徹の携帯を弄り慶吾の履歴を探した。それは直ぐに見つかる程に回数が多かった。
「それ使って掛けろ」
「はい……ありがとうございます」
立夏は着信履歴から慶吾に電話を掛けた。
「徹?」
数回のコールで慶吾は機嫌よく電話に出た。
「いえ、僕……立夏です」
「どうした?」一瞬の間があったけど、慶吾はトーンを変えずに立夏に応対する。
「あの、前野さんって方から電話があって……妊娠が分かったからサイズの調整をして下さいって伝言で……」
「まえ……分かった。俺から電話を入れておく。立夏は今日休みなんだから、いちいち事務所の電話に出なくていいぞ」
「はい……」
何だか立夏は慶吾に自分を否定されたようで、気落ちしてしまった。
「それより昼飯は、徹と何か食べるんだぞ」
「先生、前野さんてもしかして……」
「はあ?立夏の知らない人だ」
立夏の考えを聞く前に、切り捨てられる。
「徹と代わってくれる?」
「徹さん、先生が代わってって」
そう言いながら立夏は徹に向けて携帯を差し出した。
徹の応対は素っ気なく何度か返事をしただけで、電話を切ってしまった。
ふたりにしか分からないような会話に立夏は何故か疎外感だけが募った。
「ラーメンんとカツ丼とどっちがいい?」
「……ラーメン」
立夏は単価の安そうな方を選んで答えた。
そんな立夏をちらっと見ながら、徹は何処かに出前の電話をしていた。
「徹さん……写真の……あのバイト、もう無いの?僕やろうかな?」
立夏はドレス代を弁償しようと決めた。そうなると徹の話に乗るしかないと思った。この際バイトの内容など気にしている余裕はない。
だが立夏の瞳は、純白のドレスを穢す事になるのだろうかという危惧の中、不安そうに揺れていた。
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慶吾の描いたデザイン画をまとめたり、ゴミを捨てたりと大してやる事は無く静かに時が流れて行った。
部屋の掃除も立夏は自分の部屋でもここまで丁寧にやらない、と思う程磨いた。
もう直ぐ昼飯時だという頃に、自宅兼事務所の電話が鳴った。
少し迷った後に、立夏はその受話器を持ち上げた。
「慶デザインです」
「私、前野と申しますが先生は?」
「只今外出中でして……何かお約束でも?」
電話の相手は若い女性だ、個人的な用事か仕事の用事か立夏は分かりかねた。
「そうですか……あの慶デザインの方ですか?」
「はい」
ま、とりあえずバイトだけどこの際そう答えるしか、立夏には返事のしようが無かった。
ほっとしたような声の前野が言葉を続けた。
「昨日届くはずだったドレスの事なのですが……」
「昨日……?」
「はい、お店の方で受け取る予定だったのですが、受取りが1週間伸びてしまいまして……」
「あ……」
立夏の失敗と合致する言葉に、立夏の顔から血の気が引いて行った。
「それで……実は、今日妊娠している事が分かって……出来たらサイズの調整をしてもらえないかと思って電話したのですが」
「妊娠……おめでとうございます。では改めて連絡させますので、それで宜しいでしょうか?」
「すみません、勝手を申しまして。宜しくお願いします」
前野の幸せそうな声と裏腹に、立夏の顔は強張っていく。
「先生の嘘吐き……」
ぼそっと立夏は呟いて、携帯を取り出そうとした。
「あ……」
携帯も壊されて使えない事に今頃気づいた。
立夏は、慶吾の携帯番号など記憶している筈もない。
―――トントン
「おー開いているぞー」
立夏は仕方なく徹の部屋の扉をノックした。徹に携帯を借りるしかない。
「あの、先生の携帯番号教えて下さい」
立夏は扉を開け、顔を少しだけ覗かせてそう声を掛けた。
「立夏か、入って来い」
そう言う徹は、風呂上りなのかジーンズだけを履き上半身はまだ裸のままだった。立夏の胸は、見慣れない大人の男にドキリと小さな音を立てた。
「失礼します」
何故か立夏は徹を直視する事は出来ずにいた。
「そうか、携帯壊れたんだったな。ほれ」
そう言うと徹は自分の携帯を立夏に投げて寄越した。
「着信履歴のどこかにあるだろう?」
立夏は礼の言葉を述べてから、徹の携帯を弄り慶吾の履歴を探した。それは直ぐに見つかる程に回数が多かった。
「それ使って掛けろ」
「はい……ありがとうございます」
立夏は着信履歴から慶吾に電話を掛けた。
「徹?」
数回のコールで慶吾は機嫌よく電話に出た。
「いえ、僕……立夏です」
「どうした?」一瞬の間があったけど、慶吾はトーンを変えずに立夏に応対する。
「あの、前野さんって方から電話があって……妊娠が分かったからサイズの調整をして下さいって伝言で……」
「まえ……分かった。俺から電話を入れておく。立夏は今日休みなんだから、いちいち事務所の電話に出なくていいぞ」
「はい……」
何だか立夏は慶吾に自分を否定されたようで、気落ちしてしまった。
「それより昼飯は、徹と何か食べるんだぞ」
「先生、前野さんてもしかして……」
「はあ?立夏の知らない人だ」
立夏の考えを聞く前に、切り捨てられる。
「徹と代わってくれる?」
「徹さん、先生が代わってって」
そう言いながら立夏は徹に向けて携帯を差し出した。
徹の応対は素っ気なく何度か返事をしただけで、電話を切ってしまった。
ふたりにしか分からないような会話に立夏は何故か疎外感だけが募った。
「ラーメンんとカツ丼とどっちがいい?」
「……ラーメン」
立夏は単価の安そうな方を選んで答えた。
そんな立夏をちらっと見ながら、徹は何処かに出前の電話をしていた。
「徹さん……写真の……あのバイト、もう無いの?僕やろうかな?」
立夏はドレス代を弁償しようと決めた。そうなると徹の話に乗るしかないと思った。この際バイトの内容など気にしている余裕はない。
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