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鳴海君と僕 2

 28, 2011 00:05
 その時、がらっと乱暴に保健室のドアが開いた。
「先生、俺も腹が痛いんだけど」とても元気そうな顔の鳴海君が入って来たが、保険医が僕のベッドに腰を掛けているのを見た途端に、すごく不機嫌そうな顔になり僕を睨み付けて来た。
迷惑を掛けた僕を怒っているのだろうか。

 怒ったままの顔でずかずかと僕に近づいた鳴海君は、保険医を押しのけるように「大丈夫か?」と聞いて来た。
「うん……運んで来てくれてありがとう」と僕はまた普通に言った。
どうも嬉しかった感情を伝えるのが下手みたいで、きっと僕の顔も困ったような顔になっていたかもしれない。

「王子様が来たからどうするかい?」
「お、王子様って……」どうして保険医がそんな言い方をするのか僕は分からなかった。
「だってさ、おひ……」言いかけた保険医の口を鳴海君が両手で塞いでいた。言葉を遮られた保険医は肩をすくめ「腹は?」と鳴海君に聞いていた。ああ、そういえば腹が痛いと鳴海君はさっき言っていた。
「鳴海君、お腹大丈夫ですか?」僕もそう聞いてみた。お腹が痛いのならこのベッドを譲って僕は教室に戻ろうと、体を半分起しかけた。
 だけど鳴海君は「もう少し寝ていろよ」と僕の肩をそっと押す。決して強い力じゃなかったのに僕は、その力に負けたようにまたベッドに沈んでしまった。

鳴海君を見上げた時に、その胸ポケットに黒縁の眼鏡を見つけた。そして初めて自分が眼鏡をかけていない事に気づき、鳴海君の顔を見た。
「お前、伊達眼鏡だったのか?」きっと僕の眼鏡をかけてみたのかもしれない。
「まぁ……」まさか兄に半強制的に掛けさせられているとは言えずに、曖昧に頷いた。そんな僕をじっと見つめていた鳴海君が「やっぱ掛けていた方がいい」と言って眼鏡を僕に手渡してくれた。
 どうせ僕は眼鏡を掛けていないと引き締まらないんだと思ったが、口には出せずにしらっとそれを受け取った。

「鳴海君、お腹大丈夫ですか?」思い出したように聞いてみた。
そんな僕を一瞬困ったような顔で見た鳴海君を、ぼくは首を傾げて見返した。
「治ったけど、まだ調子悪い」ぶっきらぼうに言う鳴海君に本当はまだ調子が悪いのかなと少し心配になった。
「先生、鳴海君に薬を出してあげて下さい」僕のお願いに保険医の先生も、当の鳴海君も驚いた顔をした。
(えっ?何か悪い事を言ったのかな?)などと思うが、具合悪いのなら薬を飲むべきだと僕は思う。鳴海君が体調を崩したら僕も心配だ。

「いや、少し横になっていたら治るから」と鳴海君は僕の言葉に逆らうように、薬を飲む事を拒否した。
本人がいいというものを他人の僕がこれ以上勧めるわけに行かないので、僕も黙り目を瞑った。
「具合悪いのか?」心配そうな鳴海君の声に「大丈夫です」とだけ答え目を開けなかった。
「えっと私は、ちょっと職員室に用事があるから席を外すが、委員長は大丈夫か?」
「はい、僕は大丈夫です。でももう少し横になっていていいですか?」大丈夫なのに此処に留まるのが悪くて一応保険医に許可を求めた。
「いいよ、まだ横になっていなさい。ふたりとも……15分くらいは戻れないから」と言い残して保健室を出て行った。

(僕にはちゃんと、秋川潤也という名前があるのに、保険医までが委員長と呼ぶ……)なんだか小さなショックを受けてしまった。僕は委員長と呼ばれるのがあまり好きでは無かった。できたら鳴海君にも名前で呼んで欲しいと思うが、それは贅沢なのかもしれないと思って諦めていた。

「潤也……」僕の心の声が聞こえたように、鳴海君が僕の名前を優しく呼んだ。いや優しくと感じたのは僕の願望だったのかもしれないが……
「何か?」照れくささを隠す為につい無感情な言葉が出てきてしまった。
「いや……本当に大丈夫かな?って思って」いつも強気の鳴海君が何だかオドオドしていて可笑しかったので、つい口だけで笑ってしまった。
「どれ?」という声と一緒に、おでこに鳴海君のおでこを感じて、僕は微熱が高熱に変わるのではないかと心配する程に、顔に熱が集まってしまった。

 だけど、鳴海君のおでこはなかなか離れない。これ以上くっ付かれたら僕は憤死しそうだったから、さりげなく体の向きを変えて横を向いた。名残惜しそうに鳴海君の熱が離れてしまう。 いや名残惜しいと思っていたのは僕だけかもしれないけど……
きっと鳴海君は誰にでも優しいのだろう、だから他校の女子にもモテるのだ。
でもこれ以上モテモテになって欲しくはなかった、ライバルが増えるだけだ。と思った途端に自分はそのライバルの中には入れない事を思い出し、ちょっと泣きたくなってしまった。
 鼻がツンと痛い。ふんと鼻をすすって目を開けると、目の前に鳴海君の顔がある。僕は驚いて瞬きするのも忘れその端正な顔を見詰めた。

「潤也……俺以外の前で眼鏡外すなよ」僕はそんな事を言われても、その意味が判らずに見詰め続けた。
「目瞑って」もう一度鳴海君の優しい声がして、それに釣られるように僕は目を閉じた。
眼鏡を外される感覚に、目を開けたくなるが何だか怖くて開けられない。そんな僕の唇に何かが触れた。驚いて目を開けると至近距離の鳴海君と目が合った。鳴海君が睨むように僕を見るから又慌てて目をぎゅっと瞑った。
 すると鳴海君の唇がもっと強く押しつけられ、僕の唇に吸い付いて来た。

 心臓がばくばくと大きな音をたて騒ぎ出した。僕は今、鳴海君とキスをしている……
どうしてキスをされたのか、まだ分からないが合わさった唇の熱さだけは分かった。
「いや?」茫然としていると、いつの間にか離れた唇がそんな言葉を吐いた。
「……」嫌じゃない、ずっとしたかったと言葉に出せばどうなるのだろうか。
「ごめん……」黙りこくった僕が、次に聞いた言葉は本当は聞きたくない言葉だったと、それすら僕は言えなかった。

 その次の日から、昼休み前に鳴海君が僕の机の上に100円硬貨を置く事はなかった。
今まで、ずっと屋上で食べていた弁当を僕は、教室の自分の机で食べる。鳴海君の姿は教室には見当たらなかった。もしかしたら僕じゃない誰かが鳴海君の好きなイチゴのジュースを買いに走ったのかもしれない。

「委員長がひとりだなんて、珍しいなぁ」そう言いながら何人かのクラスメイトが寄って来た。
「何、鳴海と喧嘩でもしたの?」
「いっつも鳴海に独り占めされてたからな……」

 口ぐちに好き勝手な事を言われながら僕は、3人に机を囲まれちょっとびびった。
「僕は、鳴海君と喧嘩もしていませんし、そ、その独り占めって何ですか?」
僕が人気者の鳴海君を独り占めしていたと言われるのなら分かるが、その逆は全くおかしい。
3人の顔が一瞬驚いたが、すぐ元の顔に戻って皆弁当を持って僕の周りに集まって来た。
「たまには、俺らと一緒に食おうよ、委員長」
「ええ、いいですよ」僕はクラスメイトの申し出を断る理由などないから、快く頷いた。

 いつもは鳴海君と一緒といえど、あまり多くを語らずに黙々と食べるだけだったから、くだらない会話でも聞いていると少し楽しかった。
「委員長、目は凄く悪いの?」突然の質問に、僕は真面目に答える。
「いえ、裸眼でもあまり変わりない程度です」
「へえ……勉強し過ぎで悪くなったのかと思っていた」
「委員長、ちょっと眼鏡外してみてよ」
そうお願いされたが、僕は鳴海君に自分以外の奴の前で外すなと言われていた事を思い出し、躊躇った。

 強張った僕に構う事なく、正面に座っていた前田君が僕の眼鏡を外そうとしている。
「駄目です、締まらない顔になるから外さないで下さい」
「いいじゃん、いいじゃん」
僕の抵抗も虚しく、眼鏡は簡単に取り上げられてしまった。
「委員長……なんかすげぇ」横に座る井上君が呆れた声を上げた。
「ほら、格好悪いから早く返して下さい」だけど前田君は、簡単に返してはくれない。

 眼鏡が無くても不自由はしないが、やっぱり委員長という立場上おバカな顔を晒したくは無かった。
 そんなやり取りをしていると、離れた席にいた他のクラスメイトも寄って来て、僕の間抜けな顔を覗きに来ている。あっと言う間に人だかりが出来てしまい、僕は伸ばした手を諦めて机の上に置いた。
 もうみんなに見られてしまったのなら仕方ない。来学期は委員長にはなれないかもしれないと思ったが、それならそれで肩の荷が下りるものだ、と考えていた。

 ガラッと教室の後ろの扉が乱暴に開く音がしたが、僕の周りには人が多くて誰が入って来たのか確認する事は出来なかった。
 だけど、僕を囲んでいた連中が、後ろを振り返りひとり、またひとりと僕の傍から離れて行く。眼鏡を持ったままだった前田君が「ごめん、悪かった」と僕に眼鏡を差し出した。それを受け取りながら「別に構いません、気が済みましたか?」と笑顔で答えた。
 別に委員長に拘っていた訳では無かったけど、眼鏡を外した顔のせいでなれなかったというのも、ちょっと残念な話のような気がしていた。

 蜘蛛の子を散らしたように、僕の周りに人がいなくなった。俯き弁当を包んでいた僕の視線の端に誰かの体が見えた。僕は包む途中の手を乱暴に引き上げられ、驚いてその主を見上げた。
「あ、鳴海君……」しまった、外すなと言われていたのに……鳴海君の超不機嫌な顔にちょっと怖くなったが、考えてみれば僕の顔だ、誰に見せようと構わないんじゃないかと思った。

「どうかしましたか?」
「ちょっと来いよ」
 鳴海君に引っ張られ教室を出て行く僕を、誰も助けてはくれなかった。



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■御礼SSのつもりで書いていたのですが、昨日時間が無くて上げてしまいました。
気持は御礼です。いつも応援して下さってありがとうございます。

男色化⇒男色家 ご指摘ありがとうございました^^;
自分で笑ってしまいましたwww
一体どんなんだ?>男色化

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メールや、リコメ気長に待って下されば幸いです。

仕事復帰をこの季節にしたのを後悔しています。
通勤だけで毎日バテバテです^^;

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COMMENT - 1

ちこ  2011, 07. 28 [Thu] 23:30

な、鳴海くんっ、いきなり委員長にチューですかっ(≧ω≦) 
みんな、鳴海くんが恐ろしくて近寄れなかったんですねえ(笑)
アブナイ保険医さんが、気を遣って(//∀//)
でも、眼鏡の秘密を知られちゃいましたね~(≧▼≦)連れ去られた委員長の、運命やいかに!!
楽しみにしています(//∀//)エヘッ

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