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ラストダンスは貴方と 12

 28, 2011 00:40
「大丈夫だ俺がついている」そう言って玲をぎゅっと抱きしめた。
 普段なら抗うのだろうけど、この震えは誰かに抱きしめられないと止まらないような気がして、そして今はアキトの腕の中が唯一安心出来るような気がして……玲はじっと抱きしめられていた。

 もしアキトの言う事が本当ならば、自分は何故アキトの事を忘れていたのだろう?
忘れなければならない事情があったのだろうか?
あったとしたら何?
「あぁ……」その答えを追及する事は、とても怖い。
「玲、ごめん。もういい、今日から俺と始めてくれないか?俺が1週間前にお前に初めて会って、それで一目惚れしたと思ってくれないか?」
アキトはもう一度玲が自分を愛してくれるのなら、過去は捨ててもいいと思った。
これ以上知るのは、アキトも怖かった。

「あんたと俺って本当に付き合っていたのか?」
「……ああ」
「それで……本当に……sexしたのか?」
「ああ、した……」
「何度も?」
「ああ、何度も……」
「…………そう」

 考えてみればアキトが自分に嘘を吐く理由などないと思った。逆の立場ならあるかもしれないが、稼ぎも知名度も雲泥の差がある。自分を罠にはめてもアキトには何の得も無いだろう。

「玲、小学校の頃の事は覚えているか?」
「覚えている」
「高校の頃は?」
「覚えている」
「玲が中学3年の時に、俺と出会った事は?」
「教生の諏訪部先生の事は覚えている」
「その諏訪部先生と何度もデートした事は?」
「……覚えていない」
「……そうか」

 アキトは玲から自分の記憶だけが、綺麗に抜け落ちているその訳が全く分からなかった。
そして、真面目に大学を目指していた玲が、どうして家出する事になったのかも分からない。それを聞けば、何か解決方法が見つかりそうだったが、事実を知る事も又怖い。
「玲……俺はお前に関して、すごく臆病になっているみたいだ。聞きたい事がどうしても聞けない」

 アキトに色々聞かれながらも、ずっと抱きしめられている。玲は天を見上げた。満点の星が二人の上で輝いている。ルビーとサファイアが際立って綺麗に光っていた。
「指輪見せて」
玲の言葉に、アキトが自分の指から引き抜いて玲の手の平に置いた。
その指輪の重みと、デザインに玲は何か懐かしさを覚えてしまう。指輪の内側を意思を持って見た。
『AKITO&REI』―――多分自分が填めていた指輪の内側にも彫ってあったのだろう。
「高そうだね……」玲はあまり関係ない言葉で誤魔化しながら、指輪をアキトに返した。
「ああ……」同意するアキトに玲は眉根を寄せた。
きっと高校生が持つには、分不相応な高価な物だったのだろうと思った。

「玲、一つだけ頼みがある」
「何を?」
「あの部屋から出て行かないでくれないか?」
俺様なアキトにしては、酷く頼りないような言葉に玲も心が揺れてしまう。
「どうせ、俺は行く所が無い」暫くはあそこに留まるしか無い事を皮肉げに言った。
「行く所が無いんじゃない、俺の所がお前の帰る場所なんだ、それを忘れるなよ」

(何だよ全く……そんな臭い台詞は女に言えよ)
「だ、だけど俺は、この店で男娼なんかするつもりは無いから」
「だ、男娼?」
「だって、男相手の商売なんだろう?」
「お前馬鹿か……じゃお前はホストクラブで女相手に体売っていたのか?枕営業してあの成績か?」
「ふ、ふざけるな。俺が何で枕営業なんか……え?ここはそういう店じゃないのかよ?」
「そんな事をしていたら、体がいくつあっても足りないだろう?」

 玲はアキトの考えや営業方針がいまいち分からなかったが、まだこの店で働くとは決めていなかったから、追及を止めた。
とりあえず、あの部屋を出て行く宛てなど無いのだ、暫くは居座るしか無い。

「これキー」と渡されたのは、多分マンションのカードキーだ。
一瞬躊躇ってから、玲はそのカードを受け取った。アキトの顔が嬉しそうに綻びたのを横目で見ながら、それをポケットに仕舞った。

(いい笑顔だ……この笑顔でナンバーワンにのし上がったのかな?)などと思う自分は、まだそんな笑顔をこの街で見せた事は無かった。
ただ食べて行ければいい、とだけ思っていた。
何も欲しい物は無かった。何も考えずにただ無駄に生きていたような気がする。
だが、目の前にいるこの男は、持前の見た目だけじゃなく、きっと努力してトップの座を掴んで、そしてキープしてきたのだと思う。
 それがどんなに大変な事なのか、同じ街で生きて来た玲には多少の想像は付いた。
綺麗事だけではこんな店は持てないだろう。もしかしたらパトロンとかいるのかもしれない……そう考えた時、胸の奥の古い傷が痛んだような気がした。
だが玲は、その感情に直ぐに蓋をした。
(開けてはならない……)
その感情の前に陣取る何かが、そう警鐘を鳴らしている。


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COMMENT - 1

梨沙  2011, 07. 28 [Thu] 11:55

(゚-゚;)ウーン

気になりますね… 玲ちゃんの記憶が抜け落ちてしまってる原因が 義父の事がきっかけになってるのかな?
アキトと玲がどのように関係が変わっていくのか!?
過去を思い出すのか!? 謎がいっぱいの中益々目が離せません!!

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