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ラストダンスは貴方と 11

 27, 2011 19:07
「玲そろそろ時間だ」アキトは玲の肩に手を置き軽く揺すった。
「う~もう少し」甘える声に時が戻ったような錯覚を覚える。
ゆっくり瞼を開ける玲の顔を覗き込むアキトの顔を見て、玲が眉根を寄せる。
「出かけるぞ、早く支度しろ」
アキトは用意していた玲の洋服を出してやりながら、そう声を掛けた。

 玲は暫くその服を手に何か考えるような顔をしていたが、諦めたように起き上がり着替え始めた。今はアキトに従うしかないと考えているのか、逃げ出す切欠を探しているのか分からないが、それでも自分の用意した服を着てくれる事を嬉しいと感じて、アキトは口元を緩めてその様子を見ていた。

「何処へ行くの?」
「新しい店だ」
「男相手の店?」そう言った玲は蔑むような目をアキトに向けた。

 そしてアキトに連れられて、玲はその店の重厚な扉の中に入った。
明るい室内は、開店を数日後に備え慌ただしく人が動いていた。
毛足の長い絨毯と品の良いソファはこの店の、飲み代の高額さを語っている。
全体的にモダンな感じがして、良く言えばとても落ち着く空間だが、玲のように中流の店で働いていた者には、何だか落ち着かない。

「訪れる客も、接待する人間も男だ」
アキトの言葉に玲は、顔を強張らせる。
「何で?あんたホストだったんだろう?普通のホストクラブでいいじゃん?」
「ホストクラブなんて掃いて捨てる程あるんだ、変わった趣向の店じゃないと生き残って行けないからな」
そう言いながらアキトは玲に店内を案内してくれた。

 一般客と違う入口がある。VIP専用だと教えられ玲は驚いた。
そして他とは違う通路を使い、辿り着いた先には3つ程のVIPルームがあった。
「男相手だけで、商売が成り立つのかよ」玲が乱暴に聞くと「勿論」と自信ありげな言葉が返って来た。
この街には男同士の社交場のようなゲイバーも数多くある。久美が働いていたようなオカマやニューハーフの店も多い。
 どんな嗜好の者も受け入れてくれるのがこの街の良さと、楽しさなのだ。
大人の雰囲気のこういう店があっても、おかしくはないのかもしれないと、玲も段々と思えて来た。
玲がこう考えたのは、きっとアキトの自信ある言葉からなのだろう。

「こっちに来いよ」
一つのVIPルームの扉をアキトが開けて玲を招き入れた。
「凄い……」
一般客用の設備も高級な物だと玲にすら一目で分かったが、この部屋はまた違う高級感で溢れていた。
「ここの備品は全部英国に行って探して来たんだ」
玲の驚いた顔を見て、アキトが満足そうに付け加えた。

 次の部屋も同じように重厚な雰囲気のVIPルームらしい部屋だった。玲は今まで自分が働いていた店もそれなりだと思っていたが、雲泥の差があった。
そして、最後の部屋に連れて行かれ、玲は足を一歩踏み入れあまりの驚きに動く事が出来なくなった。
「な、何ここ?」
先に見た2つの部屋とは全く違う造りに驚きの声を上げた。
「ここは、客用のVIPルームというよりも俺の部屋みたいなもんだ」
「あんた……そんなに星空が好きなのか?」
アキトの寝室の天井にも同じ設備がある。
「玲は嫌いか?」
「俺は……好き……だったような気がする」
「……そうか」

「あれを見てみろ」
「え……?」玲は言葉に釣られてアキトの指差す先を見詰めた。
「あ……かに座?」
「そうだ、玲の星座だ」
「何か綺麗に光っている」玲もつい星座に見入ってしまい、赤く綺麗に光る星を見つけた。
「あれは本物のルビーだ、玲の誕生石だ」
「ふーん」それに対して玲はどう返事をしていいか分からなくて、無関心そうに答えたが、ふっと口から思いもしなかった言葉が飛び出し、玲を慌てさせた。

「じゃ、あの乙女座の所で輝いているのはサファイア?」と―――

 この街でホストをしていれば興味は無くても簡単な誕生石くらいなら、玲も知っていた。
だけど、今の言葉はそういう事を言っているのじゃない。
玲は自分の言葉に、少し慌てたがアキトは何でもない顔をしていた。

 玲はアキトの左指に光る指輪の石がルビーだと気づいた。
「ルビー好きなんだ……」
「ルビーはお前の誕生石だ」そう言ったアキトの顔が辛そうに歪んだ。
そして玲の手を取ってじっと見つめる。
「お前の指には……サファイアの指輪が填めてあったはずだ」
「え……」
 玲は、自分がそんな指輪を填めていた記憶も、持っていた記憶も無かった。
だが無意識のうちに、右手で左の薬指をさすっているのをアキトは見逃さなかった。

「お互いの誕生石をはめ込んだ指輪を持っていたはずだ……玲、お前に一体何があった?」
アキトの苦痛に歪んだ顔を見て玲は、顔を横に振りながら後ずさりする。
「知らない……俺は何も知らない。やっぱり人違いなんだよ」

 あの夜義父に襲われそうになった……だから逃げだして来た。その時自分は携帯電話くらいしか持っていなかった。
でも、どうしてあの夜義父は自分を襲おうとしたのだろう?
ああ……母親が1泊旅行に行って留守だったから。
でも週に何回か飲み屋で働いていた母親が、夜家を留守にするのは少なくは無かったはずだ。

 もしかしたら……あの逃げ出した夜だけじゃなかったのか?

 玲の顔から血の気が引いていく。訳の分からない不安に潰されそうになり、指の先が冷たくなって行った。
「玲?」
「アキト……俺、やっぱ何処か壊れているみたいだ……」
 引き攣った笑顔の玲をアキトは黙って抱きしめた。


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COMMENT - 1

しろ  2011, 07. 27 [Wed] 22:41

キャー続きが気になるー(>_<)

アキトがんばって!!

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