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ラストダンスは貴方と 9

 25, 2011 00:14
「俺は最初は……無理にでも体を繋げて思い出させようと思ったが、そんな事しても何も始まらないって気づいたんだよ」
「な、何……」アキトの体から逃れようとしたが、その声がとても切なく思えてその腕を振り払うのをレイジは止めた。
「先ずはお前の壊れた心を治さないとな……」
「俺の心は壊れている?」レイジは、つい釣られてそんな事を聞いてしまった。
「無自覚か……」アキトの腕に力が入った理由をレイジはまだ知らない。

「あんたとは双子の兄弟がいるとか?」
「いる訳ないだろう」即座にレイジの考えを否定された。
レイジは本当にこのアキトと諏訪部が同じ人間か分からなくなってしまっていた。
「諏訪部先生は、もっと真面目な人だった……」
レイジの記憶にある諏訪部は、こんな器用な人間では無かったような気がする。
「つか、教師やってたんじゃないのかよ?」
「教師は、保険だ。俺は大学生の頃からバイトでホストやってたからな……」
「保険……」自分が懐いていた教生は保険だけであんな事をしていたのだろうか?

「俺って、人を見る目が無いんだな」ついそんな言葉が零れてしまう。
「あれも本当の俺だ、鴻上玲が付き合った諏訪部も俺だし、今こうしてお前を抱きしめているのも俺だ」
「諏訪部先生が二重人格だと知っていたら、俺は好きにはならなかった……」
言ったそばから、レイジは自分の言葉に首を傾げる。
(俺……諏訪部先生を好きだったの?)

「俺、分かんない……」
「いいよ焦らなくても」後ろから優しく髪を梳かれて何故かレイジは、その手を温かいと感じていた。
何だか穏やかな時が流れていた。レイジは黙ってアキトの手を受け入れている。
その静寂を破ったのは1本の携帯電話だ。勿論レイジの電話では無い、アキトの最新の携帯電話がテーブルの上で震動と共に鳴っていた。

それを切っ掛けに、レイジはその腕の中から解放された。
身軽になった体が少しだけ淋しいと言ったような気がした。


電話が終わったアキトがレイジの所に戻って来た。
「午後から開店する店の準備に行く。お前も一緒に行くぞ」
「俺は関係ない」男相手の店など勤めるつもりなど、レイジには全くなかった。
「関係なくはない、お前の為の店だ」
「はあ?」アキトが何を考えてそんな事を言うのか全く分からなかった。
「ゲイバーって行った事あるか?」
突然の話の転換にレイジは眉根を寄せながら「あるわけない」と吐き捨てた。
自分にゲイの自覚もないのに、そんな場所に行く事など無い。

「そうか、あそこは楽しいぞ」
「俺は、ゲイじゃない……」
「はぁっ」アキトはわざとらしく大きな溜め息を吐いた。
「あんなに感じやすいのに、よく今まで何も無しで来れたよな?」
「か、感じやすくなんか無い!」
あの夜以来自分の男としての機能は無いのだ。自分が感じやすかった記憶も無い。

「まあ今はいい、そのうち俺が欲しいって、あの頃のように言わせてやるから」
全く身に覚えのない事を言われ、レイジは鼻で笑う。
その時に視線の中に、見慣れないパジャマが飛び込んで来た。
「あ、このパジャマ……」
「お前の為に揃えた服だ、他にも沢山あるからちゃんと着ろよ」
その目が似合っているよ、と言っているようでレイジは再びアキトから視線を逸らす。

「本当に強情な奴だな……まぁだから心が壊れちまったのかもしれないな」

独り言のように言ってアキトが部屋から出て行った。
そして寝室のベッドの上からレイジを呼んだ。
あまりにしつこく呼ぶから、レイジは重い腰を上げてさっきまで自分が寝ていた寝室に行った。
「な、何?」
「2時間くらい寝るから、一緒に寝るぞ」
レイジも2年間夜の商売をしてきて、作り替えられた体はまだ睡眠を求めていたが、同じベッドに入ろうとは思わなかった。
自分がベッドを占領した為に、アキトはソファで熟睡出来なかったのだろうとレイジは思った。

「ほら」アキトはベッドを半分を空けてポンポンと打っている。
レイジがベッドに入らない限り、持ち上げた手は下がりそうになかったから、レイジは諦めたようにアキトの隣に体が触れないように少し離れて滑り込んだ。
だが、レイジの体は簡単にアキトに引き寄せられてしまう。
「大丈夫、何もしないから」
アキトの言葉に強張った体から力が抜けた。

何かされるのなら、朝一人のベッドに寝ていなかっただろうと、アキトの言葉を信じた。
もし本当に諏訪部ならば、自分のイヤがる事はしないだろうとレイジは、自分の記憶を信じて目を瞑った。
暫くすると、疲れた体は再び睡魔に襲われ闇に落ちていく。

「玲……」アキトは寝入っているレイジの顔をずっと見つめていた。

教職課程を選択していたアキトは、レイジにも話したように保険のつもりで教師を選んでいた。大学に入った頃は目的もなく教育学部を選んだのだが、この街でバイトをするうちに自分に合っている水商売に目覚めてしまった。
だからといって教育実習を蹴る訳にはいかない。東京から離れた千葉の中学を選んだ。
そしてそこで鴻上玲という少年と出会った。

玲に出逢うまでは、女としか寝た事は無かった。だが玲に惹かれる気持は日に日に強くなり、実習が終わっても連絡を取り合うようになった。
玲も自分に懐いてくれていたから、日曜日には眠い体に鞭打って玲に会いに電車に飛び乗っていたのだ。

玲が高校に進学しても、付き合いは続いた。
そして玲が高校1年の夏休み、二人で旅行に行く計画をたて実行した。
相手は高校生だぞという常識は、もうとっくに彰人の中では壊れていたのだ。
気持のままお互いを求め合い、貪るように愛し合った。
玲は勿論の事だが、アキトだって男との交渉は生まれて初めての事だった。

そしてアキトは玲に溺れて行った。少年の清潔さを持ち男としての色気も充分に持っていた玲を手放したくは無かった。玲が高校を卒業したらこっちに呼んで一緒に暮らそうとも考えていたし、玲も東京の大学に働きながらでも行くと夢を語っていた。
玲は母親の再婚の為に、家族に負担を掛けないように遠慮して暮らしていた。アキトは玲の夢の為ならば援助も惜しみなくするつもりだった。
そのアキトの頑張りが結果ナンバーワンホストという地位に押し上げてくれたのだ。
全て玲の為、玲との将来の為だった。

だが、玲が高校2年の時、突然連絡が取れなくなりアキトの前から消えてしまった。
玲の家に訪ねて行っても話を聞けるような状態では無かった。
『玲なんて息子は居ない、いらない』そう繰り返す母親からは何も情報を得る事は出来なかった。



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