2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ラストダンスは貴方と 7

 23, 2011 01:03
何故か同じテーブルでアキトと遅い夕食を摂っていた。普段店屋物かコンビニの弁当で済ませているレイジにとって、手作りの料理は美味かった。
「あんた、いつも自分で作るのか?」
「あんたじゃない、アキトだ」むっとしてアキトがそう答えた。
「アキトさん……」考えてみれば、この世界でも年もアキトの方が先輩なのだ、『あんた』とか呼び捨てはやはり拙かったとレイジも内心反省する。
「アキトでいい。俺の料理はひとつの実験だからな」
(実験……)その言葉にレイジはまた諏訪部を思い出してしまう。
初恋は?と聞かれたら、もしかしたら諏訪部なのかもしれないと思った事があったが、諏訪部は同じ男だそんなはずはないと、その心を又否定する。

「ほら、これも喰え」
アキトは自分の皿に盛られた肉片をレイジの皿に移す。
「そんなに食えるわけない」
「いいから喰え、そんな細っこい体して……」
ジムに行って鍛えているであろうアキトと比べたら随分に華奢な体を眺めた。
「余計なお世話だ」
アキトが自分にしたことを考えると素直になれるわけが無かった。

「まぁいい、今度俺の通っているジムに連れて行ってやるよ」
「はぁ……まだ俺に構うつもりなの?」
「ああ、俺はしつこいから覚悟しろ」
結局、肝心な事は何も変わっていなかった。
「まじ信じられない、あんたに構って欲しい奴ならこの街には、履いて捨てるほどいるだろう、何で俺なんだよ?」
もう何度も聞いた台詞を飽きもせずにレイジは繰り返すが、戻って来る答えも聞き飽きたものだった。

「とにかくもう遅い、今夜はここに泊まって」
「……襲うなよ」
「もう少し肉を付けてからにするよ」とアキトが笑って答えた。
「ふざけるな、何処かの魔女かよ……」
レイジも負けずに言い返していると、どこからか携帯電話の着信音がしている。
(あ……俺のだ)
レイジは食事の途中だが、掛けて来る相手が想像出来たので慌ててその電話を取った。

「もしもし!レイジ、今どこ?どうなっているの?」
怒ったような、慌てたようなマモルの声が電話口から響いた。
「マモル、俺にも訳分からないんだけど何か聞いている?」
「いや詳しくは何も……店長から、ただ今日から店には来ないからとしか聞いていない」
「はぁ……やっぱり」
もしかしたら間違いじゃないかという淡い期待は、マモルの言葉で消えてしまった。

レイジの電話が突然取り上げられた、全くアキトの動きを気にしていなかったレイジはいとも簡単にその携帯電話を奪われてしまった。
「お前は誰だ?」
相変わらず横柄な口調でアキトは聞いている。
「おい、何すんだよ。勝手に人の電話に出るなよ」レイジは怒りながら電話を取り返そうとするが、その体は片手で遮られてしまった。

「マモル?ああ瑠毘斐のか……俺か?俺は元夢苑のアキトだ」
電話の向こうでマモルが息を飲んでいるだろう様子が、レイジには想像出来た。
この業界に入って短いが、夢苑のアキトの名前は知っているだろう。
「レイジは俺が預かる。心配するな」最後にそう言ってアキトが勝手に電話を切った。
「おい!何勝手な事をマモルに言っているんだよ!」
食って掛かるレイジに向かって、アキトは不機嫌な顔で睨んだ。
「寝たのか?」
「へっ?」
全くアキトの言いたい事が理解できない。
「マモルという男と寝たのか?と聞いているんだ」
「はぁ……もう怒る元気もないよ」
本当にレイジはもうどうしていいか分からずに、脱力してしまった。

せめてマモルに何日かは世話になろうかな?などと目論んでいた事も泡と消えた気がする。
「ほら、食事の途中だぞ」
自分が蒔いた種も全く気にする事ないような言葉を掛けられた。
「もう要らない、食欲なんかないよ」
今夜はもうここに泊めてもらうしか手段が無い気がしてきた。
レイジの思惑は全てアキトに潰されて行く。相手が悪かった……アキトにとってこの街でレイジを甚振る事は、赤子の手を捻るように簡単な事なのだろう。

食事を半分ほど残しレイジはリビングのソファに深く身を沈めた。
「おい、片づけを手伝えよ」
勝手に作って食べさせて、片づけしろと言うアキトに深く溜め息を吐いてから、レイジは立ち上った。
シンクの前に並んで立ち、アキトが洗う食器を受け取り布巾で水気を拭き取る。
全てにおいて器用な人間っているんだなぁとレイジはぼんやり思いながら、立っていた。

ガッシャーンと鋭利な音を立てて、レイジの手から食器が滑り落ちた。
「あ……っ」
「触るなっ!」とアキトが大きな声を上げた時には、もうレイジの指先から鮮血が滴った後だった。
「つっ……」
「馬鹿、何やってんだよ」
きつい言葉を投げ掛けるアキトに素直に詫びた。きっとこの食器も高価な物だろうと思いながら。

「ごめん、弁償するよ」
だがアキトは責める言葉を続けずにレイジの傷ついた指を口に含んだ。
「ば、ばか何やってんだよ」さっき投げられた言葉をそっくりアキトに返す。
アキトの行動に体を強張らせながら、レイジはゼンマイが切れた玩具のように固まっていった。

(デジャブ?)
以前にも似たような事があった気がした。そう……化学準備室で教生の手伝いをしていたレイジが試験管を割った時だ。
「諏訪部……先生……?」
レイジの声に、アキトが指をしゃぶったままの状態で、顔を上げた。
「鴻上玲、やっと気づいたか?」
「え……?」
自分で諏訪部の名前を呼んでおきながら、狐に摘ままれたような顔でレイジはアキトを見詰めた。

髪の色やスタイル、目の色が変わっているから気づかなかった訳じゃない、醸し出す空気が全く違うのだ。気づく筈が無かった。
「諏訪部彰人……」
パンドラの箱の鍵穴にその名前がぴたりと一致した。

だがその瞬間に、それを拒絶するかのようにレイジはその場に崩れた。
「玲っ」
レイジの体が床に散らばった破片に傷つく前に、その体はアキトの腕に抱き留められた。


ランキングに参加しています。面白かったと思われたらポチっとお願いします^^。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村ありがとうございました!

FC2のランキングも参加中です。

関連記事

COMMENT - 1

梨沙  2011, 07. 23 [Sat] 22:59

うふ♪(* ̄ー ̄)v

もう、美味しい展開になってきましたね(⌒~⌒)ニンマリ
アキトとレイの関係はどうなるのか? レイは諏訪部先生のことをどう思っていたのか!?
アキトの変貌が気になりますね~。('-'。)(。'-')。ワクワク

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?