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ラストダンスは貴方と 6

 22, 2011 00:00
レイジは薄っすらと目を開けた。
(あぁ……俺はずっと夢を見ていたんだ……忌まわしい夢を)
レイジの上に広がっている満点の星空を見上げて、レイジはそう思った。
だが、ここはいつものプラネタリウムの椅子では無い……
レイジはゆっくりと首を動かし、周りを見回した。

(どこだ?)
今この瞬間が夢なのかとも考えた、だがその夢を打ち砕く声がレイジの耳に聞こえた。
「目が覚めたか?」
声のする方に目をやり暗闇の中で目を凝らした。
「先生?諏訪部先生?」
諏訪部……それはレイジが中学3年の時に教育実習生としてやって来た大学生だ。
たった2週間の実習期間の間、レイジは諏訪部に懐き可愛がってもらった。
いつも薬品のシミが付いた白衣を着て、黒縁の眼鏡を掛けていた。
女子の意見も格好いいという生徒と、ダサイという生徒にきっちり分かれた教生だった。

レイジは格好を全然気にせずに、ぼさぼさの髪をした諏訪部を見ると何故か安心していた。
前の年に来たお洒落ばかりに気を使って、生徒と向き合おうとしなかった奴よりはずっとマシだった。
(俺は、部室で寝ていたんだ……)
そう思ってレイジは安心し、再び瞼を下ろした。

―――違う!

レイジは目を見開いて跳ね起きた。
「……アキト」
どうして自分が、アキトと諏訪部を見間違えたか理由が分かった。
ぼうっとした頭と寝ぼけた目で見たのは、白いバスローブ姿のアキトだったのだ。
それが白衣と見間違えた……?そして、天井の星空。
近づくアキトを見据える。
「どうした?俺に見惚れているのか?」
「ふざけるな……」だがレイジの語尾は強いものでは無かった。
風呂上りなのだろう、湿った髪は整髪剤で整えてはおらず前髪も下がった状態だった。

「帰る……」
「どこに帰るって言うんだ?」
「あんたのいない所ならどこでもいいよ」
「ふーん、お前は何のトラウマを抱えているんだ?」
「あんたには関係ない……」
まさか、義父にやられそうになったとは言えるはずもないし、そんな話をアキトが信じるとも思えなかった。

ベッドから降りようとするレイジの体をアキトが押し留めた。
尻もちを突くようにレイジの腰がベッドに沈んでしまう。
「な……何するんだよ」
ちょっとした事にでもレイジの体は動かなくなるが、口はまだ達者だ。
「どけよ……」
「お前、女には反応しないんだろう?俺が試してやろうか?」
「ふざけるな、女に反応しないのに男に反応する訳ないだろう?」
そう言って鋭い目でレイジはアキトを睨み付けた。

「やっぱり、女に反応しないのか……」楽しそうにアキトが言質を取る。
「……お前には関係ない」
もう自分は一生役立たずかもしれないと、改めて知らしめられた気がした。
それならそでいい、今まで生きて来てどうしてもこの女を抱きたいと思った事など無かった。一生そういう相手と出会えないかもしれないが、それでも良いと思った。

「ふーん?」揶揄するようにレイジの顔の真ん前にアキトの端正な顔が近づけられた。
普通の女なら、このまま黙って目を閉じるかもしれないが、生憎俺は男だとレイジは顔を背けアキトの肩を押した。
「どけよ」帰る場所が無くても構わない、ここにはいたくないとレイジは切に思った。
だが、アキトはそんなレイジをベッドに押し倒し、上から圧し掛かるようにしてレイジの顔を覗き込んだ。
「どこへ帰る?鴻上玲(こうがみ れい)」
「あ、あんた……」どうして自分の本名を知っているのだろう、と一瞬思ったが、今日クビを言い渡された店には簡単な履歴書が提出してある、店を潰すと脅すくらいだ。レイジの履歴書を見せてもらう事など簡単だろうとレイジは考えた。

「どけよ……あんたは俺の事からかって楽しいかもしれないけど、俺はぜーんぜん楽しくないから」どう見てもレイジよりはだいぶ年上だ、自分がライバルになるようなホストなら嫌がらせも考えられるが、その素質は全く無い事など自分が一番よく知っている。

「可愛い子を苛める心理ってお前には分からない?」
「苛めにも限度ってもんがあるだろう……」
生活の全てを奪い取ってどうしようと言うのだ?と情けない言葉は男の矜持として呑み込んだ。
「俺の所に来い」
珍しくアキトの口調が変わった……何か祈るような、お願いするような感じに思え、レイジは驚いてアキトの顔を見詰めた。

「玲……」
近づく唇を避けようと顔を振るが、顎を掴まれ固定されてしまう。
「う……っ」
男のアキトに唇を付けられ、レイジの肩が揺れたがアキトから逃れる事は出来なかった。
ぎゅっと結ぶ唇をこじ開けるようにアキトの舌が差し込まれた。
「ううっ……」(ヤメロヤメロ……ヤメテクレ……)
嫌悪感と恐怖で眦に涙が滲む……
(嫌悪感……?)
だがその嫌悪感が義父に肌を触られた時とは違う事に躊躇う。

「飛ぶなよ」
茫然としているレイジに向かってアキトが言い聞かせるように言う。
「あんた一体俺をどうしたい訳?」
レイジは心底そう思った。どうしてこの男は執拗に自分に構うのかさっぱり分からない。
「気に入ったからじゃ理由にならないのか?」
「だから、どうして俺みたいな何のためにもならない奴を気に入るのかが分からない、って言っているんだよ」
「気に入った以上何か説明が必要なのか?」
「……」
「とにかく飯を食おう」
「飯食ったら俺を解放してくれるのか?」
「いや、もうお前には帰る所は無いんだ。黙って俺の所にいればいい」
「あんたがそれを言うのかよ……」
レイジの居場所を取り上げたのはアキトである事を分かっていないのではないのか、とレイジは言葉には出さなかったが、そう思い疲れた目で再びアキトを睨み付けた。

「誘っているのか?」
「ふ、ふざけるな」
カラコンで薄茶色に変えた瞳で、レイジを見詰めるアキトの目をレイジは逸らした。


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