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再)僕の背に口付けを 3

 22, 2011 00:01
そんな千尋の行動を何とも思わないような態度で「こんな所にひとりじゃ無用心だ、今夜から俺が泊まる」そう言い放つと、光輝はずんずんと奥に向かって歩き出した。

「ちょ、ちょっと待って下さい、そんな事余計なお世話です」
「まあ遠慮するな」千尋はこんな図々しい人間と初めて会った。
「遠慮などしませんから、どうぞお帰り下さい。」
「しかしまあ、こんな古い家に一人で淋しくないか?」
言われてみれば、ここは伯父が三十歳の頃中古で買った家だ。もう築年数四十年は超えているだろうと思った。
「それこそ余計なお世話です」

光輝が珍しそうに家の中を見回り「やっぱお前一人じゃ危ないな……」などと勝手に納得している。
「はあ?女じゃあるまいし、そうそう危ない事など無いですから」
「簡単に唇奪われておいて、よく危なく無いなどと言えるな?」

「あ、あれは……まさか男にキスされるなんて思わないから……普通……」
怒りと焦りで忘れそうになった唇の感覚を指でなぞりながら千尋は狼狽えた。
「それに……あんな事をした本人に言われたくはないです」
千尋はささやかな抵抗を試みるが「俺だから唇だけで済んだと思えよ」と言われ
「はあ?意味判らない……」と言い返した。
「お前男にキスされたのは初めてじゃないだろう?」
光輝に確信を持って言われ、少々戸惑ってしまった。
(……初めてじゃない……それに何度か危ない目にも遭っている……)
千尋が黙ってしまったのが答えだと知られた。
「ほらな……お前は守られる側の人間だ……」

千尋にとってそれは屈辱的な言葉だった。
「へ?守られる?何それ……男の僕が誰に守られるっていうんだよ?」
珍しく千尋の口調も荒くなってしまっている。
「俺がお前を守ってやる!」
「僕には貴方が一番危ないように見えるけど?」
「へえ……期待しているのか?」千尋は揶揄する男を睨みつける。
「はぁ……もう勝手にして下さい。」
そう言うと、さっき入ろうとしていた風呂場へと向かった。
「何これから風呂?」
「そうですっ!貴方は泊まるというのなら、勝手にそこいらに寝て下さい。」
この男には口でも力でも適いそうに無かったから、千尋は無視する事に決めた。

「失礼します、おやすみなさいっ」そう言うと千尋は風呂場の扉を勢い良く閉めた。
脱衣場で少し様子を伺ってみるが、入って来る様子は無いので静かに衣服を脱いで、風呂場へ入った。手桶で湯を掛け、簡単に身体を洗ってから浴槽に身を沈める。

「ふーっ」
思えば忙しい1日だった。伯父を心から慕い送ってくれた方々に心から感謝した。
だがそれが今夜乱入して来た豊川光輝との出会いでもあった。

湯を張ってから少し時間がたってしまった為、温めだったがそれでも気持ち良かった。もう一度、今度はゆっくりと身体を洗い、そして髪を洗った。普段から若い男にしては、風呂の時間が長めだったが今日は得に時間を掛けた。

(あの男が寝てくれていれば良いんだけど……)そう思いながら湯から上がり、さっき用意していた寝巻きの浴衣に袖を通した。伯父は仕事中、作務衣や甚平などを好み、そして寝る時には浴衣だったから千尋も寝巻きは浴衣しか持ってなかった。
そっと気配を伺いながら布団が敷いてある和室に行くと、千尋が自分用に敷いていた布団の上で光輝が横になっていた。
(寝ているのかな?)ちょっと安心して、布団を取られて仕方ないから押入れを開けてもう1組の布団を出した。千尋は迷ったが、押入れへの出し入れや片付けを考えると、この部屋に敷く事が一番都合が良かったから仕方なく同じ部屋に、だけど出来るだけ離れた場所に布団を敷いた。

その時「男のくせに長風呂だな……」と呆れたような声が突然聞こえて、千尋は飛び上がるほど驚いてしまった。
「お、起きていたんですか?」千尋の問い掛けには答えず「おっ浴衣か……俺も寝る時は浴衣が多いなぁ……」などと勝手に喋っている。

ちらっと光輝を見ると、来た時と同じくスラックスに黒いシャツ、ネクタイ姿だった。
「伯父さんの物でまだ着ていないのがありますから……着ますか浴衣?」
「おお悪いな……でも雅さんのなら着古しでも構わないぞ」
故人のでもいい……そう言って貰えて千尋は内心嬉しく思った。箪笥の奥から、真新しい寝巻き用の浴衣を取り出し光輝に渡した。
それを手にすると、立ち上がりスラックスやシャツを脱ぐ。光輝が脱いだ服をその辺に放り投げるから、千尋は仕方無く拾ってハンガーに掛けた。
薄明かりの中見た昇り竜は、身体の筋肉を動かす度に呼吸をしている様だった。

光輝は千尋に見せ付けるように背中を向けて、ゆっくりと浴衣を肩に掛け「もう一度、お前の観音菩薩見せてくれ」と言った。その瞳は暗に「お前も見ただろう」と言っているようで、嫌とは言いにくくなって千尋は、光輝に背中を向け立ち上がりそして帯を解き肩から浴衣するりと落とし、腰の辺りでそれを止めた。

光輝が息を詰める気配を肌で感じた。風呂上りの火照った背中には瑞々しいばかりの観音菩薩が浮き出ていた。
「あっ……」千尋は自分の背中に指が触れる感触に小さな声を漏らした。

「な、何?」
「触れさせてくれ……」
それは今まで強気だった光輝の言葉とは思えない弱々しいものだった。黙ったままの千尋の背中を光輝の熱くて大きい掌が愛撫するかのように撫でていく。
「あ……っ」
そう口にした本人が驚いた顔で口元を押えた。さらに千尋は背中に指以外の熱を感じて再び声を漏らした。
背中に光輝が唇を付けている。まるでそれは観音菩薩を愛撫しているかのような優しい感触だった。

「……ぁ……」その唇が背骨に沿って降りる。
「やっ……」千尋は身体を強張らせたが、口から零れる声は甘かった。
「やめて下さい……」千尋は気丈に言ったつもりが、その声が震えている事は自分でも気付いていた。それなのに光輝の手が腰で止めている千尋の浴衣をぐいっと下げた。薄暗い寝室に千尋の裸体が白く浮かび上がる。光輝の唇は尾骶骨辺りまで下がると、千尋の裸体が慄いた。

「ゃあ……っ」
そしてその唇は又背骨を辿り、千尋の漆黒の髪を掻き上げてその白い項に辿り着いた。
「はぁ……」息を止めていた千尋がやっと息を吐き出すと、千尋の項から耳の後ろを舐め上げていた光輝が耳元でそっと囁いた。
「千尋……俺のものになれ」と。
「!」その言葉に光輝を突き飛ばすようにして、千尋が光輝から離れた。
「じ、冗談じゃない……どうして僕が……」だが、千尋ごときの力では光輝はビクともしなかった。

「まあいい、これから時間はたっぷりある」
それだけ言うと光輝はまるで自分の家のような態度で床に就いた。
千尋は小刻みに震える手で帯を締め直し、部屋の端に敷いてある布団に潜り込んで頭から布団を被った。
(どうして僕があいつのものになるんだよ……)

そしてその夜から千尋と光輝の奇妙な同居生活が始まった。朝、黒塗りの車が迎えに来て、夜になるとまた送って来る。そんな生活が2週間ほど続いたが、あの夜以来光輝が千尋の刺青を見る事は無かった。

ただ寝に来るだけの生活、それに何の意味があると言うんだろうか?千尋は今夜こそ「もう来なくていい」と告げようと思っていた。だが、その夜千尋が眠りに就くまで光輝は帰って来なかった。朝になっても、光輝の為に用意した寝床は使われた形跡が無かった。
(丁度良かった……)だけど、気持ちが晴れ晴れするどころか、何かあったのでは?と不安に苛まれてしまう。

光輝はヤクザだ……それも若頭だ。いつ誰に狙われてもおかしく無い地位に居た。千尋の不安は段々と大きくなって胸が苦しくなりそうだった。

(いつも居る奴が居なくなっただけだ……別に僕には関係は無い)そう思い込もうとしている自分が居る事に気付いたが
「馬鹿馬鹿しい……」千尋はそんな自分の気持ちを直ぐに否定した。その後千尋は大学に行く仕度をして家を出た。駅に向かって歩いていると、前から一台の黒塗りの車が近づいて来た。そしてその車は千尋に横付けされた。

「おい!」
車の後部座席のスモークが貼ってある窓が半分程下りて、中から光輝が声を掛けて来た。千尋が知らん振りして前に進むと、車はバックして千尋の横で又停まる。
「おい、乗れ」
「貴方に命令される覚えはありません」
「……親父が刺された」
「えっ?」親父ってあの豊川正輝?驚いて立ち止まる千尋にもう一度「乗れ」と光輝が声を掛けた。そして千尋は諦めたように、その黒塗りの車に乗り込んだ。

その車は千尋を乗せると、千尋の家を通り過ぎ走って行く。
「何処に行くんですか?」
「……」光輝は答えず、ただ黙って眉間に皺を寄せていた。仕方無く千尋もそれ以上は何も聞かずに、黙って背もたれに身体を預け車の揺れるまま身体を任せた。

暫く走って車は見覚えの無いマンションの駐車場に停車した。
「おい降りろ」
「此処は?」
「お前が住むマンションだ」
「どういう事ですか?僕にはちゃんと家があります。それに病院に行くのではなかったのですか?」
「お前が病院に行く必要は無い」
「じゃ何で僕をこんな所に連れて来たんですか?」千尋も語気が強くなってしまう。
「あの家はもう処分した方がいい」
千尋も何れはそうしなければならないと思っていた。だが、それを決めるのは自分で、この男では無いはずだ。

「あなたが決める事ではありません」千尋は真っ直ぐに光輝を見据えて言った。
「お前はいずれ俺のものになるんだ」
「信じられない!まだそんな事を……」
「信じられなければ、信じさせてやるから来い」
光輝は怒ったようにそう言うと、千尋の手を引っ張り車の扉を開けた。


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愛おしそうに千尋の肩に口付けるこの光輝が大好きです^^

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