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再)僕の背に口付けを 4

 23, 2011 00:00
千尋が連れて行かれた部屋は、2LDKくらいだが、一つ一つの造りがゆったりとして閑散としているが、シックにまとまった部屋だった。
「今日から此処がお前の住まいだ」
「ちょっと、待って下さい豊川さん……」
「光輝だ」
「光輝さん……どうして僕が貴方に部屋を与えられなければならないのでしょうか?」
「お前が俺の近くで、そして安全な場所に居て欲しいからだ」

「だから、その意味が判らないって言っているんです!」
「そんなの簡単な事だ、俺がお前に惚れたからだ」
「!」
一瞬の沈黙の後に、千尋が壊れたように笑い出した。

「アハハハ……おっかしい……前から変な人だと思っていましたけど、こんなに変わった人だとは思いませんでしたよ」
光輝は普段取り澄ました千尋が、今時の若者のように笑うのが不思議だった。

「お前でも笑うんだな……」
揶揄されているのか、馬鹿にされているのか判らずに千尋は笑うのを止めた。
「僕は人形じゃない……可笑しければ笑うし、悲しければ泣く……」
そんな千尋を何か新鮮なものでも見るような目つきで光輝が見ていた。その視線を感じて「な、何……?」と戸惑い言うと「いや……笑った顔も良いなぁと思って」と光輝が呟いた。

その言葉に千尋は顔を真っ赤にして、光輝に食って掛かる。
「僕は女じゃない!口説くのなら他を当れば良いし、貴方程の男なら口説かなくても相手から寄ってくるでしょう?」
「それは褒め言葉か?」
「別に……別に褒めてなどいない。」
「口説いては居るのだが、中々相手がその気になってくれない」
(ほら……口説いている人居るじゃない?)
その言葉に少しだけ、千尋の気持ちがシュンとなってしまった。光輝は黙って背広を脱ぎ、ネクタイを緩めシャツのボタンを外し脱ぎ捨てる。千尋はその身体を見ないように顔を逸らした。そんな千尋をちらっと見て、光輝の口元が密かに緩んだ。

スラックス姿で冷蔵庫の扉を開けて、中からペットボトルの水を取り出し、蓋をきゅっと開け口元に運んでいる。ゴクンゴクンと咽仏が上下する。その姿がやけに男臭くて千尋は目が離せなかった。光輝が口をボトルに付けたまま、眼球だけを動かし千尋を見た。
千尋はその視線にはっとして視線を外すが「どうした?俺に惚れたか?」揶揄するように言われ大きく被りを振った。

「冗談じゃない……」
だがその声が少し擦れていたのを光輝は聞き逃さなかった。つかつかと千尋に歩み寄ったかと思うと、突然千尋の顔を両の手で挟み唇を奪いにかかった。
「んんん……」千尋は両手で光輝の胸を叩くがビクともしない。頬から耳にかけ大きな掌に包まれているようだ。その指が千尋の耳の中を擽るように入って来た。

「あっ!」肩がビクンと上がってしまうが、それでも光輝の唇が外れる事は無かった。その手が後頭部に回り口付けは更に深くなった。
「ふぁ……ん……やめっ!」千尋は光輝の唇から逃げたが、小さく息を継ぐ間もなく又塞がれてしまう。

達った後の女の肌は手に吸い付くようで艶かしく、そして綺麗だ。光輝は千尋のそんな時の身体が見たかった。今まで経験したどんな肌よりも綺麗だろうと思う。
そう思うと、もうどうしても止まらない。そして、光輝は千尋の耳元で囁いた。
「お前の身体が見たい……達く時の身体が見たい……」



「僕は千尋が好きだよ」
千尋がそう告白されたのは、高校2年の夏だった。千尋は、クラスメイトからは『冷めている』とか『クール』などと言われていて、友達もあまり多い方では無かった。

千尋自身他人とあまり関わる事が好きでなかった。だから教室で、目当ての女子の話やSEX、ファッションのなどの話で皆が盛り上がっていても、机で本を読んでいるようなタイプの高校生だった。
そんな千尋にいつも明るく声を掛けて来ていたのが稲葉というクラスメイトだ。稲葉は小柄だが明るくて、元気で女子にも男子にも人気あった。いわばクラスのアイドル的存在の男子だった。そんな稲葉が何故千尋に構うのか不思議だった。

「千尋は、クールで綺麗だし、他の男子みたいにガサツじゃないから」
そう言って千尋にいつもくっ付いているようになっていた。稲葉と一緒に居る事で、千尋は今まで話した事の無い連中とも話すようになった。

「斉藤君は近寄るなオーラがあって近寄れなかったのぉ……」
などと女子に言われても、自分ではそんなつもりは無かったので戸惑う。
「ダメだよ、千尋は僕が目を付けたのだから」
そう言って稲葉が牽制するがそれも日々笑い話で終わっていた。

そして高校2年の夏休み図書館の帰りに稲葉の家に誘われた。
「千尋は全然家に遊びに来いって言ってくれないから……」
拗ねたように稲葉が言ったが、千尋は家に招待出来る筈も無かった。
「だったら僕の家に来て、千尋の読みたがっていた本持っているよ」
「じゃ……お邪魔しようかな」千尋は稲葉の笑顔と本に釣られて稲葉の家に寄った。
「家族の人は?」
「両親は旅行中」素っ気無く稲葉が答えた。
「そうか……独りで寂しかったんだ」千尋が笑うと「酷い……」と剥れるが、それも稲葉だから可愛いく見えた。

それからふたりは、図書館の続きの勉強を始めた。稲葉が淹れてくれたアイスティの氷がカランと鳴る頃
「千尋、僕は千尋が好きだよ……」と因幡に言われた。
「えっ?」視線をノートから稲葉に移すと、そこには真剣な目の稲葉が千尋をじっと見詰めていた。

「千尋は僕の事どう思っているの?」
「どうって……僕も稲葉を好きだよ」
勿論好きだから、こうして何時も一緒に居る訳だ。
「好きの意味判っているの?クラスメイトとしての好きって意味じゃないよ」
その時初めて千尋は手に持っていたシャーペンをテーブルに置いて「どういう意味?」と改めて聞いた。

「うーん、千尋とSEXしたいって思う意味で好き」
「男同士なのに?」
「僕は、千尋が男でも女でも関係ない訳じゃない。男の千尋だから好きなんだよ……僕は男しか愛せない……」
こんな告白をしていると言うのに稲葉は、テレビの話題でもしているかのように明るかった。
「男同士でSEXは出来ない」そう言いきる千尋に「出来るよ……」そう言って又可愛く因幡は微笑んだ。次の言葉が出ずに呆然とする千尋に稲葉が聞いて来た。
「千尋……女の人を抱いた事ある?」
十七歳の千尋はかぶりを振って「……ない……」と答える。
「じゃ勿論男も無いよね?」
稲葉が念を押して来るので今度はコクンと頷いた。

「嬉しい……千尋が初めて抱くのが僕だなんて……」
「僕が稲葉を……抱く?」
「そう、僕は千尋に抱かれたい」
そう言う稲葉の目が熱に冒されたように熱く潤んでいた。
その熱い目に引きずられるように「……でもどうやって?」と千尋は聞いた。

「来て……僕が教えてあげる」
そしてふたりは稲葉の部屋に行き……
―――千尋は稲葉を抱いた。

十七歳の千尋がフェラされれば身体も反応する。キスされれば息も上がり、身体が疼いて来る。初めての相手がクラスメイトの少年だった事以外は普通の事だった。
他人の身体に初めて放った精。身体は気持ち良いのに……心が着いて行かない。
だが(何かが違う……)その違和感に千尋は苛まれた。だが男だからという嫌悪感は無かった。

「千尋……ありがとう、好きだよ」
「うん……僕も好きだよ、でもごめん……最初で最後にして……」
「うん、そうだね……千尋はこっちの人間だけど、こっち側じゃないね」
「……」その時千尋は稲葉の言った意味が判るようで判らなかった。

それでも千尋と稲葉は高校を卒業するまで、今までと同じように仲良く友達として過ごした。お互い基本的には好きだったから無理して離れる必要は無かった。ふたりはあの暑い日の出来事など無かったように接した。時々悪戯っぽく稲葉が千尋の唇にちゅっとして来たが、笑って済ませられる範囲だった。

違う大学になって、一度だけ稲葉と逢った。大学で恋人が出来て可愛いがってもらっていると嬉しそうに語ってくれた。
「稲葉が幸せで良かった……」
心からそう思ったし少しだけ、肩の荷が降りたような気がした。
「千尋も早く恋人見つかるといいね」片えくぼの笑顔は相変わらず可愛い。
「僕は別に……欲しいとは思わない」
「千尋にもそのうち現れるよ、欲しくて欲しくて堪らなくなる相手が……」
そう言う稲葉に千尋は口元を緩め微笑んだ。
「……千尋はこっちが似合う」
「又意味の判らない事を……」文句を言うが稲葉はただ笑っていただけだった。


「何を考えている!」光輝の声が耳の直ぐ近くで聞こえてはっとして目を開けると、間近に光輝の顔があった。千尋は光輝の激しい口付けを受けながら、意識を五年前に飛ばしていたのだった。

「……貴方は……僕とSEXしたい訳?」
直接的な言葉に光輝が驚いた目で千尋を見つめた。


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愛おしそうに千尋の肩に口付けるこの光輝が大好きです^^

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