2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ラストダンスは貴方と 5

 21, 2011 00:00
マンションの入り口にあるインターフォンをガンガン鳴らした。
夕方のこの時間に果たしてアキトが家に居るのか不明だったが、レイジにはここに来る以外に術がなかった。
「はい」諦めかけた頃にのんびりとした声が響いた。
(いた……)
「レイジだけど……あの瑠毘斐のレイジ」
声を聞いた途端少し弱気になったレイジが恐る恐る名乗った。
もしかしたら自分の事など覚えていないかもしれない、という思いが頭を過ったからだ。

「来たか、入ってホールで待っておけよ」
それだけ言ってプツッと切れたかと思うと、玄関ホールへの扉が開いた。
先週は気づかなかったが、玄関ホールに入るとフロントまであるマンションだった。綺麗なお姉さんが2人も立っている。
レイジはどうしていいか分からず、立ち尽くしていた。

さほど待たずにアキトが顔を見せた。
「待たせたな」
「……」こんな状況で一度だけでも会った事のあるアキトの顔を見て、レイジはほっとした顔を見せてしまった。
そんなレイジに小さく失笑して「部屋まで来い」とアキトは言う。
それなら最初から部屋に来いと言えばいいものを……と思いながらレイジはアキトの後をついて歩いた。
だが、歩いている間アキトがわざわざ下まで降りて来た理由も分かった。

部屋に辿り着くまで、2度程キーロックを解除しなくてはならない、高級マンションに慣れないレイジでは部屋まで辿り着きそうになかった。
そしてレイジは、来たくて来た訳では無い部屋に通され、大きく肩で息を吐いた。
それは何故か安堵の吐息だった。

「何か飲むか?」そう聞かれて改めて自分がここに来た理由を思い出した。
「てめぇ俺が一体何をしたって言うんだよ」
ただ食事に誘われ、断っただけだ。
「まさか、食事を断っただけって事じゃないよな?」
急にそれもあり得るかもしれないと、レイジは不安になった。

「まあ、そう息巻かないで冷たい飲み物でいいか?」
そう言ってアキトは綺麗なカットのグラスにアイスティらしい物を持って来た。
「まさかバカラとか言わないよな?」
店でも上客に使われるグラスだ。
「バカラだよ」それなのに簡単にアキトはそう答える。
「ハイボール用のグラスだけどな」と簡単に言ってのけるが、それでもバカラには違いないのだ。

「で?俺がどうしたって?」
アキトはソファに長い脚を組んで座る……その仕草に男の色気を感じた。
見せる魅せる……ホストとしてトップに君臨していただけの事はあると、悔しいがそう感じた。
「何、俺に見惚れているのか?」
「ふ、ふざけんな」
どんな不利な状況でも自分のペースに持って行くアキトにまた舌を巻く。

だが、レイジも惑わされている場合では無かった。
「どうして俺を雇うと店が潰されるんだよ?!」
オーナーに言われた言葉をアキトに投げかけた。
「ああ、あれ?本当に潰すよ」
ニッコリ笑ってアキトは何でも無い事のように言い捨てた。
「だから、どうして?俺が何か悪い事した?」
だが、明日からの生活がかかっているレイジも引くわけにはいかない。

「仕事も住む場所も無くなった感想はどう?」
やはり、全部アキトの仕組んだ事だとその言葉でレイジは理解した。
「……元の野良猫に戻るだけだよ」
何を言ってもアキトには敵いそうもなかった、その上これ以上ここに留まると自分の傷が深くなるような気がした。
「もういいよ、あんたが気まぐれで俺を罠にはめても、俺はそれに対抗する物は何も持っていない……」
17歳のあの時から自分はずっと非力だった。
今まで逃げる事しかして来なかった……
だが逃げる事が自分を守る唯一の手段だったのだ、違う方法を教えてくれる大人は周りにいなかった。

「この街から逃げて何処に行こうというのか?」
レイジの心を見透かしたような言葉に、レイジはどうでもいいような声で返事をした。
「まぐろ漁船にでも乗るよ」
「ふん、お前なんかが遠洋になんぞ出ても、マグロどころじゃないよ。荒くれた海の男たちの餌になるだけだ」
「……」
アキトの言葉は忘れようとしている過去を思い起こさせる。

「じゃ、俺にどうしろって言うんだよ……」
「レイジ……俺の店で働かないか?」
「はあ?あんたホスト辞めたんじゃなかったのかよ?」
「ホストは辞めた、だが店を出す事にした」
「はっ、あんた馬鹿じゃない?俺がこの街でどんだけ価値の無いホストか知らないの?」
フリー客を相手にしていて、大した指名もとれない底辺層のホストの自分だ。
アキトが出す店なら高級な店だろう、自分などが働ける場所では無いことくらい2年もこの街で仕事をしていれば分かる。

「お前は磨けば光る原石だ」
「ここまで馬鹿でよくナンバーワンなんか張っていられたよな……」
呆れ果てた言葉しかレイジの口からは出て来なかった。

「どうせお前は女を抱けないんだろう?」
「え……」自分の体の事情をどうしてアキトが知っているのか、レイジは言葉を呑んだ。
この事は、久美しか知らない事だ。
「お前先月、店の客とホテル行っただろう?」
レイジすら忘れていた事を言われ、やっとそんな事があったのを思い出した。
酔っぱらった客に半分無理やり連れ込まれたようなものだった。
夜は酔っぱらっているせいに出来るが、朝は言い訳が出来ない……
結局何も手を出さずに、その女とはチェックアウトしてホテルの前で別れた。
多分その事が尾ひれを付け噂としてアキトの耳に入ったのかもしれない。

ほっとすると当時に一瞬でも久美を疑った事を、レイジは心の中で詫びた。
自分が唯一心を許せる存在の久美……
今は好きな男と新宿を離れ都内の片隅で、一緒に暮らしている。
久美には幸せになって欲しいと心から願っていたレイジだった。

「そんなのあんたには、関係ないだろ?」
自分が女を抱けるか抱けないか、アキトには一切関係無い話である。

「俺の出す店は、男相手のホストクラブだ。お前には素質があると見たが?」
「お、男相手……」
何年経っても、義父の口淫で吐精してしまった過去がレイジを恐怖に陥れる。
あの夜がなければ、自分は高校をきちんと卒業して働きながらでも大学に通っていたかもしれないのに……あの夜が自分の人生を変えてしまった。

思い出すと、屈辱と恐怖にレイジの膝が震えてしまう。
「……いやだ……やめて……さん」
小さな声で吐いた言葉に息が苦しくなり、頭が真っ白になっていった。
「レイっ」
飛んで行く意識の中で誰かが、遠くで自分の名前を呼んだ気がした。


ランキングに参加しています。面白かったと思われたらポチっとお願いします^^。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村ありがとうございました!

FC2のランキングも参加中です。
関連記事

COMMENT - 0

WHAT'S NEW?