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ラストダンスは貴方と 4

 20, 2011 00:00
それから1年半ずるずると久志……いや久美の部屋に居座った。
久美の働くオカマバーで使いっ走りのような仕事を与えられ、久美にも大きな負担を掛けないで済んだ。
久美の店の仲間はみんな玲を弟のように可愛がってくれた。
玲が家を出てから2年近い月日が流れ、玲も19歳になっていた。

だがそんな久美とも別れの時が迫っていた。

「玲ちゃん、ずっとここに居てもいいのよ」
もう玲と二人っきりでも男言葉は一切使わなくなった久美の体が、もう直ぐ完全な女になる。
「駄目だよ、久美ちゃんは女の子になるんだから、俺となんか一緒にいたら駄目だよ」
それは久美を女と認めた、玲の男としてのケジメだった。

「ありがとう玲ちゃん。でもとうとう最後まで手を出さなかったわね」
少し寂しそうでもあり、揶揄するようでもある言葉に玲は答える言葉がなかった。
あの忌まわしい夜から、玲の体は男としての機能を失っていたからだ。
慣れてくると、久美は玲の前でも平気で胸を晒した。
玲は視線を逸らしはするが、下半身が熱くなる事はなかった。
女の裸が載った雑誌を見ても、久美が借りてくれたAVを観てもそれは同じだった。

「ごめん、久美ちゃん。俺インポテンツだからさ……」
その切欠を知っている久美は、黙ってふくよかな胸に玲を抱きしめてくれた。
「大丈夫、本当に好きな人が出来たら治るから」
根拠のない慰めでも玲は嬉しかった。
「うん、俺こそありがとう。久美ちゃん幸せになって」
「玲こそ、絶対幸せになるのよ」


そして、玲は久美に紹介されたホストクラブ『瑠毘斐』でレイジとして働き出した。
久美の仲間のオカマ連中が時々店に来てくれ、玲は惨めな思いをしなくてもすんでいた。
だが、愛想も女を口説く事もしないレイジは、フリー客の相手をさせられる。
「一度来てみたかったぁ」という女性達では、そうそう稼げない。
だが、同伴もアフターもしなくて済む。
成人して酒が飲めるようになってからも、玲はフリー専門のような位置にずっといた。

「レイジさんって欲ないんですか?」
数少ない後輩のマモルにそんな事を聞かれても、レイジは「まあな」と気の無い返事を返すだけだった。
売れっ子はどんどん有名な店に引き抜かれたり、自ら移っていったりしているが、レイジはずっと同じ店に留まった。
とういか、レイジを引き抜く店などなかった。
見た目の良さで寄ってくる女性客も、物足りなさを覚え離れて行く。

「勿体無いなぁ、レイジさんみたいな人がその気になればナンバーワンも夢じゃないのに」
何故かレイジを気に入って懐いているマモルはまだそんな事を言っていた。
「マモルも俺なんかかまっていたら、出世しないぞ」
「うーん、本当に勿体無いけど俺だけのレイジさんでいてくれるのもいいかな?」
「何訳分からない事言っているんだよ」
そう言い捨てて、レイジは更衣室へ着替えに入った。

酔いの酷い時は、着替えなどしないでスーツのまま帰ったりするが、素面の時にはラフな格好に着替えて帰る。
いくら愛想のないレイジでも黙って歩いていると頻繁に声が掛けられる。
新宿に遊びに来た女性や、同業者が多かったが、中には明らかに男としてのレイジに声を掛ける輩がいるのだ。
「あんたいくら?」
そんな言葉は無言のままかわすが、時々シツコイ奴に会う。
だからなるべく、目立たない格好で足早に夜の街を通り過ぎる事にしていた。


そんなある日、出勤前の夕方1本の電話が鳴った。
同伴などしないレイジの携帯がこの時間に鳴るのは珍しい。時々マモルから飯の誘いの電話はあるので、マモルかと思う液晶で確認する。

「え……?」
番号登録はしていたが、かつて1度も掛かって来た事のない瑠毘斐のオーナーからだった。
「はい、レイジです」
「レイジか……」
直ぐに出たレイジに対して不機嫌そうな声が返って来た。
店での注意点は店で聞かされる、それよりも酷い時でも店長からの電話でオーナーが掛ける事はかつて一度もなかった。
レイジは知らないうちに何かやらかしたのかと、内心舌打ちをして電話機を握り締めた。

「お前は何をしでかした?」
「はい?」それはこっちが聞きたい台詞だ。
「俺は別にいつもと同じ事しかしていませんが?」
客と深い付き合いも、店の人間と深い付き合いもしていない。トラブルの元など何一つない筈だった。

「まぁいい、お前は今日でクビだ」
「えっ!」
流石にいきなりクビと言われる理由は、どう考えても思いつかない。
「オーナーそれどういう事ですか?」
「お前、夢苑のアキトに何したんだ?」
「……アキト」
レイジの反応に何かを感じたのかオーナーが電話口で深い溜め息を吐くのが聞こえた。
「とにかく、クビ。今後お前を雇うと店潰すって言われたんだよ」
アキトが本気で潰しに掛かれば、瑠毘斐など簡単に潰れてしまうだろうとレイジも思う。
だが、それがどうして自分のせいなのかは分からない。

「今夜から店には出なくていい、部屋も今夜中に出て行けよ。お前と関わるなって事だからな……俺の立場も分かってくれ」
そう捲し立てられ一歩的に電話は切れた。

「くそっ」
1週間前のあの夜しか、アキトと接点はない。
自分の何が店から締め出されるようなドジを踏んだのか全く分からない。
「ふざけんなよ……」
仕事場も、住居も無くなる……

ふっ……まるで自分を嘲笑うように、レイジは口角を上げた。



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