2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ラストダンスは貴方と 3

 19, 2011 00:00
玲はその足で携帯ショップに行き、唯一持ち出せた携帯電話のバッテリーを充電してもらった。未払いでとっくに電話としての機能は無かったが、電話帳としてなら機能している。
その中から最後まで頼るのは止めようと思っていた、2つ年上の幼馴染に公衆電話から電話を掛けた。

「もしもし……」公衆電話からの着信にいぶかしそうな声でその電話の相手は出た。
「もしもし、久志兄ちゃん?俺……玲」
「えっ、玲ちゃん?どうしたの?」
「俺……家出して行く所が無いんだ」
言いにくい事を先に言ってしまえば後は楽だった。

もう家に帰りたくない事を聞いた久志は、いつ家出したのかを聞いてきた。
ひと月も経つと答えると暫く沈黙が流れ、玲は気拙くて電話を切ろうとした。
「もしもし、玲ちゃん新宿まで出て来る金持ってる?」
「う、うん……」
玲のポケットにはさっき下ろしたばかりの5枚の万札が入っていた。

「じゃあ、新宿駅の東口の改札に着いたらもう一度電話して」
「うん、分かった」
詳しい事を聞こうとしない久志に感謝しながら、玲は電話を切り駅に向かった。
新宿ならここからなら1時間半くらいで行ける距離だった。

そして玲は駅に着いてもう一度公衆電話から電話を掛けた。
待っていてくれたのだろう、1コールで出た久志に目頭が熱くなった玲は小さな声で「今着いた」とだけ告げた。
あとは、久志の指示通りに歩き、言われたカフェに入る。

「玲ちゃん」
カフェの奥のテーブルから一人の女性が玲に向かって手を挙げた。
「……?」
久志の連れだろうかと思ったが、途中誰に声を掛けられても返事をしたら駄目と久志に強く言われていたので、玲はその声の主から視線を外し店内を見回した。

するとツカツカと近づいて来たその女が、玲の耳元で囁いた。
「玲ちゃん、俺だよ、久志」にこっと笑ったその顔に見覚えがある。
だが玲は声を出す事が出来ずに、ただ口をパクパクと金魚のように動かしただけだった。

「とりあえずこっちに来て、お腹空いているでしょう?」
もう話し言葉も女性そのものだった。
茫然としている玲は久志に手を引かれ、奥の席に腰を下ろす。
「ここのサンドウィチは美味しいわよ、それでいい?珈琲大丈夫だよね?」
「は、はい……」

軽食が運ばれて来るまで、玲は何も語れずただ俯いていた。
「お待たせ致しました」
愛想の良いカフェの従業員が注文の品を置くと、緊張した喉を潤すために玲はストローに吸い付いた。
「玲ちゃん……驚いたでしょう?」
「やっぱ久志兄ちゃんなの?」
「うん、この街では久美って言うんだけどね」
「だ、だって去年の夏に会った時は……」
玲が久志と最後に会ったのは、去年の夏。
薄いシャツの胸は膨らんではいなかった。
「詳しい事は部屋に戻ってから話すから、今はゆっくり食べなさい」
その優しさは昔と変わっていない……玲は安堵の吐息と一緒にパンを呑み込んだ。


玲が連れて行かれた久志の部屋は、何処から見ても女性の部屋だった。
ピンクのカーテンにピンクのベッドカバー、目がくらくらしそうだった。
「座って」と言われたソファもピンクのゼブラ柄のカバーが掛けてあった。

「驚いたでしょう?」
「驚いたってもんじゃない……」
初めて玲らしい言葉が出て来て、久志はくくっと笑った。
「久志兄ちゃん……オカマになったの?」
「アタシの話はいいから、自分こそ何があったの?」
まだ高校生の玲がひと月も家出している事の方が問題あると、久志は言う。

「う……ん」まさか義父に襲われたとは言えなくて口籠った。
「あの親父に何かされた?」
ど真ん中の質問に、玲は驚いて顔を上げた。
「やっぱり……あの鬼畜親父め」女言葉から男言葉に戻った久志がそう唸った。
「何で……?」

「う……ん、今だから言うけど……玲ちゃんの親父と何度か寝たから」
「え……っ」
久志の言葉に玲の喉が詰まった。
まさか久志にまで手を出していたとは想像もしていなかった。
「久志兄ちゃん、ごめん」
今久志がこんなふうになったのは、義父のせいだと勘違いして玲は涙を浮かべ謝った。
縁を切った義父でも、世間では自分の父親なのだ。
それにしても何て酷い事を……あの時殺せば良かったのかもしれない……
玲は頬を濡らしながら、血が滲む程唇を噛んだ。

「馬鹿だなぁ玲ちゃん……」
久志は優しく声を掛けながら、滲んだ血をテッシュでそっと拭いてくれた。
「でも玲ちゃんの親父には、ある意味感謝しているよ」
「どうして……」
「俺は、ずっと自分の事をゲイだと思っていた。でもあの親父に何度か抱かれているうちに、違うって感じだしたんだよ」
「……」その辺は全く玲には理解出来ない事だった。

「俺は男として、男に抱かれるのが好きなんじゃなくて……女として男に抱かれたいんだって気づいたんだ……」
「……」
「玲ちゃんには、よく判らないかもしれないけど、世の中には色々のタイプの人間がいるんだよ」
「それは何となく分かる……」
「男と女のいわゆるノーマルって奴らが殆どだけど、同性にしか惹かれない奴や、異性に体を作り変えたい奴とか……ま、俺がそれなんだけど」
「性同一性障害っての?」
聞いた事のある単語を玲は使ってみた。
「まぁそんなもんかな?」
「久志兄ちゃん……頼りないな」
「ふふふ……」
玲は妖しく笑う久志をじっと見つめ「久美ちゃんって呼ぶね」と言った。

もう自分の目の前にいるのは、昔から知っている久志ではない、久美という名前の女性だと玲は思い知った。
「ありがとう玲ちゃん」
すり寄って来た久美から、玲は目を逸らした。
たわわに膨らんだ胸元は、玲にとって見てはならない物だった。
「ふふふ……気になる?でもまだ下は男のまんまだから、一緒に風呂に入れるよ」
「い、嫌だよ」
「ばーか、冗談だよ」
久美の機転の利いた軽口に玲は、家を出てから初めて声を上げて笑った。

そして笑いながら、涙も零した。
「玲ちゃんの綺麗な顔が不幸を呼んでしまったんだね、辛かったね……」
久美がその涙をそっと指で拭ってくれて、玲は堪え切れずに声を上げて子供のように泣いた。
親にも見捨てられた玲が、家を出てから初めて自分の感情を表にだした。


ランキングに参加しています。面白かったと思われたらポチっとお願いします^^。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村ありがとうございました!

FC2のランキングも参加中です。
関連記事

COMMENT - 1

梨沙  2011, 07. 19 [Tue] 15:27

V(○⌒∇⌒○) ルンルン

新連載ですね(*^^)
今回はどんな感じのお話になるのか楽しみです( ̄∇ ̄+) キラキラキラ~♪
台風近づいて来てますね(^^;)kikyouさんも気をつけて下さいね
こちらはもう雨風が凄いです(>_<)

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?