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【新連載】ラストダンスは貴方と 1

 17, 2011 00:59
「お前食えよ……腹減っているんだろう?」
ビルとビルの狭い隙間で、残り物の唐揚げを千切って手の平に乗せて呼んだ。
最初は警戒して近寄らなかった野良猫が唐揚げの匂いに釣られて、恐る恐る近づいて来た。
バクバクッ勢いよく喰らい付きあっという間に固形物が無くなり、それでも猫は名残惜しそうに手の平を舐めている。
「くすぐったいよ……もう無いんだよ、ごめんな。又明日持って来てやるよ」
ミャー理解したようにひと鳴きしてその猫は夜の闇に消えて行った。

「ふぅー」酔いの回った体をビルの壁に任せ小さく溜め息を吐く。
もう深夜だというのに、この街は眠りを知らない。
そんな街の片隅でひっそりと生息している……
ここに流れ着いてもう2年。だが何も身に付いていない気がした。
取りあえず食ってはいけているが、それだけだった。
時々自分は何の為にこの街で働いているのかが分からなくなるが、それでも一度足を踏み入れた世界からなかなか足を洗えなかった。

(もう帰る場所など、どこにもない……)
さっき、がっついて唐揚げを食った野良猫と自分は同じだと思っていた。

「おい、そこで何をしている?」
突然頭の上から不機嫌な声が降って来た。
「別に……休憩しているだけだよ」
だがいつまでもここに居ても仕方ないと考え、立ち上りパンパンと尻を叩いた。
ビルの隙間から這い出ようとするが、出口にさっき声を掛けてきた男が立ちはだかっていた。
「俺帰るんだから、どいてくんない?」
「お前は何処の店のホストだ?」
「ああ?」乱暴な聞き方に睨み上げ「あんたには関係ないだろ」とだけ答え、その体を押すように表通りに出ようとした。

だが、乱暴に肩を押し戻され「聞いた事にちゃんと答えろ」とすごまれてしまう。
「ちっ……」小さく舌打ちをして店の名前を告げた。
「そうか、瑠毘斐(るびい)の子か、名前は何と言う?」
男に名前を憶えられても何の得にもならないが、答えないとヤバそうなので渋々答えた。

「レイジ」
名前を告げながらレイジは初めて正面から男の顔を見た。
「あ、あんた……」
「何だ俺の事を知っているのか?」
「この街で生きていてあんたの事知らないホストなんかいないよ」
レイジの目の前に立つ男は、レイジが働いているホストクラブなんか目じゃない程の有名なクラブで何年もナンバーワンの座にいた元ホストだった。
いわば伝説のホストだ。
レイジも実際会ったのはこれが初めてで、週刊誌や店の看板でしか見た事はなかった。
去年引退して、それからこの男はこの街から姿を消した。

「あんた、夢苑(むえん)のアキトだろ?有名だったからな」
本当はレイジが口を利けるような相手じゃない事は分かっているが、アキトだと分かって急にヘラヘラするのも嫌だった。

「ここで会ったのも何かの縁だ、飯でも食わないか?」
「へっ?」
レイジは突然の飯の誘いに驚いた声を上げた。
伝説のホストだ、別に自分など誘わなくても幾らでも相手がいるだろうに、物好きな男だと思いながら答えた。
「別に俺、腹減ってないし」
「じゃ、飲みにでも行くか?」
「はあ?あんたも余程暇人なんだな?俺なんか誘わないで一歩表通りに出れば、何十人も相手が寄ってくるだろう」

レイジは自分が馬鹿にされているようで誘われる事が非常に不愉快だった。
「つべこべ言わずに行くぞ」
アキトはレイジの手首を掴んで引っ張り歩き出した。
「馬鹿野郎、行くとは誰も言ってないだろ?」
「お前も変な奴だな、俺に誘われて断る奴なんかいないぞ、この街には……」
呆れたようにアキトが呟いた。
「そうだろうな、じゃ他あたれよ」
そう言ってレイジはアキトの手を振り切って走り出した。


はぁはぁ……酒を飲んでいる身で、走ってレイジは息切れしてしまう。
(変な奴……)ビルの壁に手を付き呼吸を整えて、今度はゆっくり歩き出した。
ワンルームマンションまであと5分。
だが、レイジがその夜自分の部屋に辿り着く事は無かった。


目を覚ますと、見覚えのない天井の色が飛び込んで来た。
(ん?ここはどこだ?)
自分の部屋のオフオワイトの天井ではない、今寝ているベッドも安物じゃないのが少し動いただけでも分かった。

「目が覚めたか?」
ふいに掛けられた声に驚いて振り返った。
「てめぇ」
「誤解するなよ、俺はお前を助けてやったんだぞ」
「へっ?」

レイジは昨夜の記憶を辿ってみた。マンションまであと5分の場所で歩みを緩めた事までは覚えている。だがそれからの記憶が無い……
「俺、どうしてここに?」
「覚えてないのか?」
呆れたようにアキトが目を丸くして聞いて来た。
「お前が何かしたんだろう?」
大きな声を出した時に、唇の端に痛みを感じた。
「あ……」
思い出した、部屋の直ぐ近くで酔っ払いに絡まれたんだった……
よくある、肩が触れたとか触れないとかの酔っ払いのいちゃもんに、荒れていたレイジが先に手を出したような気がした。
相手は2人……喧嘩慣れしているわけじゃないレイジが敵う相手じゃなかったみたいだ。

「あんたが俺を助けてくれたのか?」
「ああ、お前に振られて帰ろうとしていた時に、騒動を見つけたんだ。お前も弱いくせにいい加減にしろよ」
「あんたのせいだろ?」
こいつさえあの時に声など掛けて来なければ、酔っ払いとすれ違う事も、喧嘩をする事も無かった気がした。

「ここはどこだよ?」
レイジは助けて貰った礼も言わずに、アキトを睨み付けた。
「ここ?俺の部屋」
(まるでホテルのスィートルームのような部屋が、伝説のホストの部屋か……)

「つっ……」
切れた口端に湿った布が当てられた。
「あーあ、こんなになって……綺麗な顔が台無しだ」
「き、綺麗って……あんたがそれを言うかよ?」
レイジの至近距離にアキトの顔がある。
整った目鼻立ちは、彫刻のようでもあったが、そのせいで感情が伝わりにくい。それがまたいいと騒ぐ女たちも大勢いただろう。
そんな事をぼんやり考えていたレイジの唇に布ではない感触の物が触れた。


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