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ラストダンスは貴方と 8

 24, 2011 00:21
「またブラックアウトか……一体お前は何を抱えている?俺との事を全て忘れる程の何があった?」
レイジを抱きかかえながらアキトがそう呟いた事など、レイジには聞こえない。

レイジが翌朝目覚めた時、その指に白い包帯が綺麗に巻かれていた。
ゆっくり首を動かして、自分の状況と周りを見回した。
広いベッドで一人寝かされていた。隣には人が寝ていた形跡は無かった。
レイジはベッドの上で体を起した。見下ろした自分はここに来た時とは違う、柔らかい素材のパジャマを着せられていた。
それはまるでレイジの為に用意したような……レイジに丁度良いサイズの服だった。もしこれがアキトの服ならばもう少し大きいだろうと思う。

「アキト?」
改めてここがアキトの部屋だと思い出し、昨日ちらっと見かけた物を確認する為にベッドから降りリビングに向かった。
ソファの前に無造作に置かれた多数の郵便物……その宛名を確かめないと駄目な気がして焦った。
3人掛けのソファに、それでも窮屈そうにアキトが眠っていた。
起さないようにそっと、その郵便物の束を手にする。
(諏訪部彰人、諏訪部彰人、諏訪部……)全ての郵便物が諏訪部彰人宛ての物だった。

「諏訪部彰人……」レイジは何度も目で読んだ名前を口にした。

「目が覚めたか?」
背後から突然掛かった声にレイジの肩がビクンと震えた。
まるで悪戯を見つかった子供のように、肩を竦めたまま振り返る事は出来なかった。
レイジの手にある物を確認したのだろう「気が済んだか?」とアキトは言う。

「何で?何であんたが諏訪部先生と同じ名前なんだよ?」
「ほう、同姓同名の奴でも知っているのか?」
レイジの言葉に動じないような声でアキトが切り返す。
「惚けるなよ?!」
「俺が、諏訪部彰人だと何か都合の悪い事でもあるのか?」
「先生は……先生はいい人だった。俺を貶める事などしなかった……多分」
最後まで突っ張れない何かを感じて、レイジは言葉を濁した。

自分が先生に懐いていた事は覚えている。だが先生との記憶はそれだけ……
もっと他にも沢山話した気はするが、詳しくは覚えていない。
覚えていない事が、ただそれだけの思い出だという事なのだ。
だが、諏訪部への信頼は何故か心の奥からひしひしと湧き出るような気がした。

ローテーブルの前で座り込んでいたレイジを背後からアキトが抱きしめた。
「鴻上玲……」
「どこで知ったか分からないけど、その名前で俺を呼ぶなよ、俺はレイジだ」
「鴻上玲……」
「ふざけ……っ」
レイジの項に熱いものが触れた。
それがアキトの唇だと理解できずに、レイジは固まるが気づいた瞬間その体は大きく跳ねた。

「俺に触るなっ!」
「軽く触れただけだ……」
「俺に触れていいのは……俺に……」
レイジは、はっとして口を噤んだ。自分はいったい何を言おうとしているのか。誰なら自分に触れていいと言おうとしているのか、自分でも判らなくなった。

過敏に縺れたレイジの神経の糸を解すように、アキトは1枚の写真を差し出した。
目の前に出された写真に視線を投げたレイジの睫毛が震えている。
「これ……」
そこには、レイジと白衣を着た諏訪部先生が楽しそうな顔をして写っていた。
「まだあるぞ、見るか?」
そう言うとアキトは携帯を弄り始めた。
「こっちのは、写真で残せないからな……ちょっとヤバイ写真だ」
ヤバイと言いながらアキトは楽しそうな目で、レイジを見る。

「な……?」
「あったあった、ほら可愛いだろう?」
アキトに携帯を渡され、その画面をじっと見るレイジの手が小刻みに震えてしまっていた。
そこに写る自分の顔は今のレイジが知らない顔だ。
頬を染めた上、瞳が濡れているのが液晶画面でもはっきり見てとれる。
そして一番目を背けたかったのが、そこに写る二人の肩が……肩までしか写っていないが、服を着ていない事だった。

「ダレコレ?合成写真?」全く身に覚えの無いレイジが力なく聞いた。
自分じゃないと言いたいけど……少年の頃の自分である事は自分が一番知っている。
「鴻上玲と諏訪部彰人だ……」アキトが真面目な声で答えた。
「この人たち何してんの?」
自分と諏訪部の写る画像を見て、レイジは他人事のように聞いた。
「セックス」
アキトの言葉に眩暈がして、レイジはテーブルの端をぎゅっと掴んだ。

「正確には、セックスの後?」
「お、俺はあんたとセックスした覚えは無いっ」
「あんなに俺に抱かれて善がったのになぁ」
明らかにその声はレイジを揶揄するトーンだった。

「あんた……俺を犯したのか?」
「この顔を見て、犯されたと思うか?」
目の前に二度と見たくない画像を突き付けられた。
「いやだっ、見たくない」
目の端に入らないように、携帯をどけようとするがアキトはそれを許さない。
「ちゃんと見るんだ!お前がどういう顔をしているかよく見ろ」
「いやだ……見たくない、汚い……いやだ……汚い」
何故か涙がボロボロ出て来て止まらない。
そんなレイジをぎゅっとアキトは抱きしめるが、それを振りほどく力はレイジには残っていなかった。
ただ呪文のように「俺は汚い……」と繰り返すだけだった。


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