天使の箱庭＜eternity＞

昨夜兼介は走る車の中で秀人がとても緊張しているのが気になっていた。
兼介に蓮を紹介したあの目とは違う怯えのようなものを感じて問い詰めはしてみたが、秀人が口を割る事はなかった。
このままホテルに連れ込もうかな？とも思ったりもしたが、そこまでしたら秀人も隆弘も自分を許さないだろう。

「このままホテルに行くかもよ？」何気なくそう探った兼介に秀人は「兼にぃはそんな酷い事をする人じゃない」と言い切った。
「どうして？」
「だって愛されて無いのにそんな事をしても幸せになれないって……兼にぃは知っている筈だから」

「俺がどういう男なのかお前は知っているって言うのか？」
半ば呆れた顔で問い詰めると「兼にぃは本当は凄く優しい人だから酷い事は出来ない」
などと言う始末だ。

「僕はね、兼にぃも隆弘も好きだよ。でもね蓮の事は命に代えてもいいぐらい愛しているの、何があってもそれは変わらない」
「……秀人お前強くなったな？」３か月ほど会わない間に秀人の顔付が変わったのは会って直ぐに感じた事だった。

「僕はね、守るべきものが出来たの……」
「お前があの男を守るっていうのか？」
「そう、僕の思いが蓮を守って、蓮の思いが僕を守る……」
そう言った後に秀人は静かに涙を零した。
運転席でその横顔を垣間見た兼介は秀人のその凛々しさに改めて惚れ直す気分だったが、今の秀人は自分が知っている秀人では無い。
蓮という男によって強くなった……

「たまには家で隆弘も一緒に飲むか……」独り言のように兼介が呟いた。
「兼にぃ……」
「いいだろ？今夜だけは俺と隆弘が知っている秀人に戻ってくれないか？」
「うん……」隆弘とも大学以外でゆっくり会う事が最近なかった。

そして兼介の家に行くと隆弘が驚きそしていつもの笑顔で迎え入れてくれた。
「隆弘、何だか久しぶりな気がするね」
「あったり前だよ、最近彼氏の事ばっかりで、俺の事全然かまってくれないんだもんなー」
大袈裟に愚痴を零す隆弘に苦笑すると「今夜は泊まっていけよ」と言われ「うん」と秀人は頷きながら蓮には今度報告すればいいかなと思っていた。

そう酒に強くない秀人が酔い潰れるのは早かった。
リビングのソファで眠る秀人の顔を兄弟二人眺めながら酒を飲んでいた。
「秀人……何だか強くなったな」隆弘も兼介と同じように感じたらしい。

「兄貴ちょっと目瞑っててくれない？」
「あん？」言いかけて兼介は隆弘に背中を向けた。
多分あの時秀人にキスをしたとは思ったが、それが隆弘の最初で最後の秀人への気持ちの整理の付け方だと思って気づかぬふりをした。

「もういいのか？」
「ああ、俺は秀人が幸せそうに笑っていてくれれば、それでいい」
「相変わらずお人よしっていうか……だなお前は一生友人でいろ」と久しぶりに弟の頭を撫でてやった。


朝になり秀人が家に電話を入れると、母が蓮にも昨夜心配して電話を掛けた事を知った。
兼介は「大丈夫か？彼氏、誤解してるかもな？」とつい意地悪な言い方をしてしまう。
兼介は夕べのうちに蓮が秀人の外泊を知ったのなら、そして相手が自分だと聞いたならどう出るかちょっと見てやろうと思っていた。

もし秀人の家に蓮が心配して来ていたのなら潔く諦めようとも思っていた。
そして駐車場に立つ姿を見つけた。
内心失笑しながらもそれを秀人に伝える事はしなかった。
わざと誤解を招くような言い方を二人の前でしたのはせめてもの意地？いや嫉妬だった。
蓮がここに立っていた事で兼介は全てを認めていたのだから。




俯き蓮を見ない秀人に蓮はすっと歩み寄り後頭部を引き寄せ胸に包んだ。
「お帰り秀人」
その声が自分を責めていない事に気づき秀人は小さく「ただいま」と返した。

「お前が少しでも秀人を責めるような態度を取ったらこのまま連れて行こうと思ってたよ。夕べは隆弘と３人で飲んでうちのリビングで雑魚寝しただけだよ」
そう言うと兼介はエンジンを掛け車をゆっくり走らせた。



キャッ秀麗！ポチっと押して下されば嬉しいです


ＦＣ２のランキングにも参加中です＾＾

関連記事

• 彼方から　３６ (2011/04/27)
• 彼方から　３７ (2011/04/28)
• 彼方から　３８ (2011/04/29)
• 彼方から　３９ (2011/04/30)
• 彼方から　４０＜完結＞ (2011/05/01)