「あっちょっと待って」と慌ただしい電話の途中で蓮は少し待たされた。
「ごめんなさいね蓮君、大騒ぎしてしまって。今電話が入ったみたい。
兼介さん……あ、お友達のお兄さんね、偶然会ってお茶飲むらしいの」と連絡取れた母親は安心した声を発した。
だがそれを聞いた蓮は表面的には同意して電話を切ったが、内心穏やかではなかった。
今の秀人が自ら兼介と同じ時を過ごそうとしているとは思えなかった。
蓮はモデル仲間に以前一緒に行ったバーの電話番号を聞く為に一度閉じた携帯を開いた。
運よく簡単に捕まった仲間は偶然にも今その店に居ると言う。
だが秀人らしき客も一度会った事のあるオーナーも店内には居ないとの事だった。
蓮はもし店に来たら連絡をくれるように頼んで携帯をパタンと音を立てて畳んだ。
あのバーテンと兼介ができているのなら秀人を店には連れていかない可能性も高い。
いや、もしかしたら近所のファミレスで本当にお茶を飲んでいるのかもしれない。
蓮は秀人が家の中に入るのを見届けなかった自分に唇を噛んだ。
秀人の母親に戻って来たら何時になってもいいから、電話をするようにと伝言を頼んでいたが仮眠していた蓮がその連絡を受ける事はなかった。
いつの間にかソファを背に眠ってしまった蓮が目が覚めたのは翌朝の6時……
手元に落ちていた携帯を見ても誰からも着信はなかった。
「秀人……」
洗面所に行き、顔を洗い身繕いを済ませ蓮は秀人の家に向かった。
今日は11時から仕事が入っている、その前に秀人に会える事を願って駅に向かった。
深めに被った帽子と伊達メガネで俯き加減に足早に歩いた。
朝から家の前に立っている訳にもいかずに、蓮は隣接する医院の駐車場で秀人が戻るのを待つ事にした。
7時になったらもう一度秀人の携帯を鳴らしてみようと携帯を握り締めたまま縁石に腰を下ろした。
ここに居て目立たないのも医院が開く8時までだ。
仕事に向かうサラリーマンたちが蓮に目もくれずに横を通り過ぎて行く。
7時だ……蓮が携帯を開いたその時1台の車がすっと駐車場に滑り込んできた。
避けようと立ち上った蓮の目に留まったのは助手席で俯き加減に座っている秀人だった。
蓮はその視線を運転席に移す。
秀人はまだ蓮が立っている事に気づいていないが、ハンドルを持つ人間が気づかない筈はない。
エンジンが切られ静寂が戻った。
そして中からドアが開き、秀人が降り立った。
「!」目の前に立つ蓮を見て声を詰まらせた秀人の背後から
「秀人大丈夫か?家でもう少し眠った方がいいぞ」と兼介が声を掛けた。
誤解されるような言葉を選んだ兼介を一度振り返った後に秀人は蓮に向き直った。
「秀人……?」だが蓮の足元を見たまま秀人は返事をする事が出来なかった。
「秀人?」
「ち・違う……何も無いから」
誤解するような言い方をした兼介を責めるつもりは無いが、秀人は蓮の目を見る事は出来なかった。
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すみません^^;短めです。
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