2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

萌ゆる季節の中で 前編

 29, 2011 01:02
「誰からの電話?」
「ママさん」
短い会話は休日の早朝に寝室で交わされていた。
「全く……年寄は朝が早いな」と自分の親に向かって悪態を吐く紫龍を軽く諌めてから紫苑はベッドを降りた。
「まだ早いよ、もう少し寝ていれば?」昨夜も紫苑に無理をさせてしまった紫龍はそう言って紫苑の手を引いた。

「だめ、今日は出かける事にしたから。」
「あ、その電話だったのか?お袋……」
またも紫苑を母親に取られてしまうと、内心舌打ちしながら言うと
「あのね、ママさん足首捻挫したんだって、あ大丈夫、そう酷くはないらしいけど」
そういう報告を実の息子の自分よりも紫苑にする所があの母親らしいと紫龍は思いながら引いた紫苑の手を離した。

「じゃ実家に行くのか?」
「はい、今日は夜まで帰りませんから」と紫苑に言われてしまえば、慌てて身を起し「俺も行く」と言ってしまう紫龍だ。
「でも紫龍はもう少し寝いていて、僕お店が開いたらホームセンターで買い物をしたいから」
「送って行くよ」
「大丈夫、自転車で行けるから」そう言うと朝食の支度に紫苑は寝室を出て行ってしまった。

「くそっ春は嫌いだ……」今日はゆっくり映画でも観て外で食事をしようと考えていた紫龍はこの季節までも恨めしくなって呟いた。
春―――そう植物が芽吹く良い季節だ。
この時期の紫苑は、パートナーの紫龍よりも野菜の苗や種の方を愛している。
『こんな事なら夕べ抱き壊しておけば良かったな……』と良からぬ事を考えたりしていた。
そんな妄想しながら紫龍は再び眠りに落ちて行った。

「紫龍……紫龍……そろそろ起きてご飯にしよう?」
その声に紫龍は薄目を開けて自分の名前を呼ぶ天使を下から眺めた。
「紫苑、ベッドに戻ろう?」ダメ元で誘ってみたが「お味噌汁冷めちゃうから早く」と真剣に相手にされなかった。
「ふぅ」と零れる溜め息は本心からだったが、紫龍は潔くベッドを降りてダイニングに向かった。

落ち着いた朝の食卓に味噌汁の香りだけでも幸せだと思うのに、そこには朝から栄養バランスの良さそうな和食が並んでいた。
「最近手抜きしてたから……」と、はにかむ笑顔だけでもお代わり出来そうだと紫龍の口元も緩む。
紫苑の心尽くしの朝食が済むと紫龍は経済紙を広げリビングのソファで珈琲を飲んでいた。
その姿を紫苑はちらっと見ながら残りの家事を済ませてしまおうと、動いていた。
経済新聞に目を通す紫龍の顔は何処か厳しさがあって好き……などと思っているとは紫龍も想像していない事。

紫苑が時間を気にして壁の時計に目をやった。
9時45分―――「僕そろそろホームセンターに行って来るね。お昼までには戻れるから」
「本当に自転車で行くのか?送るぞ」紫龍はあの赤いママチャリを思い出しそう声を掛けたが「大丈夫、運動にもなるしね」と明るく拒否された。
『運動ならベッドの中でいくらでも……』と言ったら帰って来ない気がしてそれは呑み込んだ。
「気を付けて」と大人の顔を見せて紫苑を送り出した。


紫龍が時間を気にしだしたのは11時半を過ぎた頃だった。
「遅いなー」家事などやらない紫龍は気になる書類を読み返しただけで、それ以上はやる事が無い。
そんな時紫龍の携帯が着信のメロディを奏でる。
「紫苑、どうした?」先ず口に出るのはそんな言葉だ。
「あー紫龍、お願い。駐車場まで下りて来て」それだけ言うと紫苑の電話は切れた。

慌てて紫龍が地下の駐車場まで下りると、ゆったりとした駐車場の紫龍の愛車の傍に1台の車が留まっていた。
多くの高級外車が停められているこの駐車場に、とても違和感のある軽トラックがエンジンを切らずに停車している。
そして驚いた事にその荷台には紫苑の赤いママチャリが積んであった。

「紫苑!」怪我でもしたのかと思い慌てて軽トラックに歩み寄った。
「紫龍ー」紫龍の想像とは全く違い満面の笑みを浮かべた紫苑が助手席からひょいと降りた。
「どうした?大丈夫か?ケガしたのか?」と忙しなく尋ねる。

「大丈夫だよ、荷物が自転車に積み切れなかったから、お店の方に送ってもらったの」と報告される頃にエンジンが切られ運転席から人が降りて来た。
「三郎さん、本当にお世話になりました」
「さ・さぶろう?」
名前で親しそうに呼ばれた男は見た所25・6だろうか?
夏でもないのに浅黒く健康的な背の高い男だった。

「自転車下すよ」笑顔で荷台に登り自転車を止めてあった紐を外している。
「三郎さん、ありがとう」
紫苑に投げかける爽やかな笑顔が気に食わないが、世話になった以上は礼を述べない訳にも行かない。
紫龍も紫苑に合わせるように「君、わざわざ悪かったね」と言った。

「いえ、それよりこれどうするの?」と荷台に積まれた荷物を指してまた紫苑に向き直った。
少しむっとしながら紫龍が「どれ?」と聞いた。自分が運べる物は運ぼうと思って……
「これ全部です」
「え…………?」

紫龍が見た物は、荷台に積まれた10袋ぐらいの肥料と、野菜や花の苗がびっしり植えられた箱、他にも雑貨がありそうだった。
「ちょっと買い過ぎたみたい」とどう考えても自転車などでは積み切れない量の肥料を見て紫苑がのんびりした声を発した。
「お・俺の車に積み替えるしかないな……」呆れながらも紫苑に注意など出来ない紫龍がそんな事を言った。

「車って……?」三郎は見回した限り肥料が似合う車などこの駐車場に無い事は判っていた。
「これ」
覚悟を決めた紫龍がトラックの前に留まっている自分の愛車を顎でしゃくった。
「すげぇ……ジャガーXJ」若い三郎が今にも口笛を鳴らしそうな口調で言い、艶々と光るボディを眺めた。

―――後編へ続く

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村


こちらはFC2のランキングです。

本当は昨日アップしたかったのですが……
何かとりとめもない話になってしまいました^^;
後編までお付き合い下されば嬉しいです。

関連記事

COMMENT - 7

ちこ  2011, 04. 29 [Fri] 10:24

朝からジャガーXJを検索しました(笑)
うん!肥料は似合わないねっ(笑)
軽トラで実家まで行ってもらったほうがよいのでは・・・と、思ってしまった(*^□^*)
ここで、これは乗せられないとは言わないよな紫龍さん(笑)
意地でも乗せるよな~(笑)謎のホームセンター従業員三郎さんが、園芸を愛する紫苑ちゃんのハートをがっちり掴んでるのは間違いない(笑)

Edit | Reply | 

けいったん  2011, 04. 29 [Fri] 13:47

読者の皆様へ!
「愛する紫苑の為なら スコップだって バケツだって 勿論 肥料だって 何でも 乗せちゃえるんだもんね!僕ちんは(`・ω・´)シャキーン」by紫龍

(o'ノ∀')ノお───ぃ!ホームセンターの三郎くん!
外見は 大人なのに 中身は 独占欲と嫉妬の塊で 我侭なお子ちゃま紫龍なんか 無視ですぞっ!( ・`з´・)ぷぅーバブ~~バブ~~
知らんがな(´・ω・`)b...byebye☆

Edit | Reply | 

NK  2011, 04. 30 [Sat] 07:09

天然 紫苑ちゃんは最初は何を購入するつもりで自転車ででかけたのでしょうね。
見ている途中であれも、これも と増えていって支払の時に自転車では運べない量に驚いたのかな?
この買い物風景をウォッチングしていたかったかも。。。
ちょっと目を離すと”男性”に過剰に親切にされてしまう紫苑くんに、
紫龍さんは気の休まる日はないですね。
生ゴミから肥料を作るコンポートまで買ってこなくてよかったじゃないですか。
次に紫苑ちゃんは何をするのか?
紫龍さん、頑張って!

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 05. 01 [Sun] 00:33

ちこさま

こんばんは。

うふふ朝から検索させてしまったのねo(*'▽'*)/☆゚’

私の一番好きな車がジャガーなんです^^

肥料似合わないでしょう?
さてどういう展開になるか待っててもらえたら嬉しいです。

本当に平坦な筋の話になってしまったのですが
紫苑にも時々出てきてもらおうかな?って思って書いてしまいました。

でもほんの少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。

コメントありがとうございました(*^_^*)

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 05. 01 [Sun] 01:47

けいったんさま

こんばんは。

さすが、紫龍の事を良く判ってらっしゃる(゚∀゚)

書く度にいつになったら格好いい紫龍が書けるんだろうと自己嫌悪してしまいそうな
情けない紫龍になってしまいます。

ホームセンターの三郎。
結構おいしいキャラなんですよ。

趣味が同じって楽しいですよね?
いつか際どいものも書きたいなぁって目論んでいる作者です(*^_^*)

コメントありがとうございましたぁ。

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 05. 01 [Sun] 01:58

NKさま

こんばんは。

天然紫苑はきっと何も考えずに「自転車で行ける距離」だけで行ったような気がします^^;

きっとあのホームセンターにある大きいカートを押しながらどんどん入れて行ったんだろうな……


生ごみから肥料を作る!
結構いいかもしれませんネ。
でもその前に紫苑が欲しい物があるような気がしてきました(笑)

紫苑と紫龍の話は、凄く沢山書いてきました。
でも最近紫苑が泣くような事がない。

話を書きあげてから、ちょっと苛めてみたくなった作者です。
いつか又書きたいな。

コメントありがとうございます(*゚ー゚*)ポッ


Edit | Reply | 

kikyou  2011, 05. 01 [Sun] 02:15

拍手コメを下さった方へ

コメントありがとうございました。

紫龍と紫苑のお話は定期的に書きたくなるんですよね^^
やっぱり最初の作品であって、一番愛着はあります。

今回の話はあまり山場のない、何だか日常って感じになってしまいましたが、一瞬の清涼感でも感じて下されば嬉しいです。

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?