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彼方から 37

 28, 2011 00:00
3人が母屋に戻ると食卓の上には所狭しとご馳走が並べられていた。
「うん?何のお祝いかな?」と父親が妻を揶揄するように見ると「秀人に恋人が出来たお祝い」とさらっと言ってのけた。
「お母さん……?」3人は驚いて顔を見合わせた。

「あのね、母親の勘を侮らないでくれる?」のけ者にされて少し怒ったような声で母はそう言い軽く誰ともなく睨みを利かせた。
「気づいていたのか?」
「何度も言わせないで、私はこのお腹を痛めて秀人を産んだのよ?」
「お母さん……」秀人がそっと母親に近づくと、母は秀人を胸に抱きしめた。

「私はね、ずっと不安だったの。秀人が子供の頃からずっと……いつかかぐや姫みたいに月に帰ってしまうのでは?って漠然とした不安があったの」
一呼吸置いてまた母は言葉を続けた。
「だから貴方を離れた学校に通わせる事も反対して、ずっと手元に置いていた。だからと言ってそれで安心出来たわけでもないの」

「でもね、最近……蓮君と知り合ってから秀人の醸し出す空気が変わったの。きっと秀人の月が蓮君なんだなぁって感じていたわ」
「お母さん……」
秀人に向けて優しい微笑みを見せた後、蓮に顔を向け「蓮君秀人を宜しくお願いします」と言った。
「はい」力強く頷く蓮に安心したように母は「さぁ冷めてしまうわ、ご飯にしましょう?」と主婦の顔に戻って皆を食卓に追いやった。


そして食事が終わり、今日は帰ると言う蓮を家の外まで見送った秀人がぽつりと零した。
「何だか幸せ過ぎて怖い……」と。
「心配性だな秀人は、大丈夫だよ」優しく頬を撫でてくれる手に手を重ね少し安心した秀人は黙って微笑んだ。
「おやすみ」秀人の手を握り返し蓮はその手をそっと離した。

「おやすみなさい」本当は寂しいから帰らないでと言いたかったが、蓮を困らせるばかりだと思い秀人は口を噤んだ。
駅に向かって歩き出す蓮の背中を見えなくなるまで秀人は見送っていた。


「秀人……」反対側の暗闇から掛けられた声に秀人の体がビクンと震えた。

「兼にぃ……」咄嗟に出る言葉は呼びなれた名前だ。
「久しぶりだな、元気だったか?」そう言えばここ3か月兼介と顔を合わす機会は無かった。というか避けていたと言った方が正解だろうか。
「うん、兼にぃも元気だった?」
「ああ、俺も仕事に腰を据えて頑張る事にしたよ」
跡取りの兼介は見習い修行のような事をしていたが、きっと跡を継ぐために正式に重要なポストに着いたのだろうと思った。

「兼にぃならきっと成功するよ、頑張ってね」
「何だか気持ちが篭ってないエールだなぁ」その揶揄するような言い方は昔のまんまだと秀人は少し安心して強張っていた体から力を抜いた。

「あいつと上手くいってるのか?」兼介は蓮の帰った方向を見てそう聞いて来た。
「う……ん、両親にも今夜ちゃんと話した」
「は・話したのか?」秀人の言葉に兼介は意外だという顔を見せた。
「うん話したよ、僕……蓮とずっと一緒にいたいから」
兼介は儚げだった秀人の横顔が前よりも凛々しくなっている事に気づいた。
秀人を変えたのは自分では無くあの蓮だ、そして秀人の両親の前に頭を下げたのも自分では無く蓮だと考えると、今さらながら秀人を自分のモノに出来なかった事に腹が立つ。

「僕もう家に入るね、おやすみ兼にぃ……」
逃げるように背中を向ける秀人の肩に兼介の重い手が置かれた。
「ちょっとお茶でも飲みに行かないか?」
兼介の手が肩に置かれた途端に強張り小刻みに震える秀人が少し腹立たしい。
「行こう」秀人の腕をとって引き寄せる兼介に向かって「嫌だ、帰る!」と秀人は強い口調で拒絶した。


蓮を見送りに行って30分も過ぎるのにまだ戻って来ない息子を心配した母が家の外を見回した。
「あら?離れ難くて着いて行っちゃったのかしら?」と一度は口にしたものの、秀人も蓮もそういう事には行儀が良かった。
まして交際を認められた二人が断りも入れないとも思えなかった。
急いで家の中に入り秀人の携帯が居間に置いてあるのを確認し、その携帯で蓮に電話を掛けるがまだ電車の中なのか繋がらない。

それから10分ほどして着信に気づいた蓮から電話が入った。
「秀人……?」きっと寂しくなって電話を掛けて来たと思った蓮の声も甘い。
「あ……お母さん。すみません」
「秀人は一緒じゃないの?」
「いえ……家の前で別れましたが……」
母親の一言で蓮は状況を把握し強張る声で言葉を返した。

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COMMENT - 4

ちこ  2011, 04. 28 [Thu] 06:04

あわあわ、どうしよ~~~(〇>_<)
誘拐されちゃった~~~ぁ(*_*)
上様、ご乱心!!
どこにお茶しに行ったんだ~!
そうかそうか、上様聞き分けがいいやと思ってたけど、やっぱり・・・(涙)
気になる~気になる~続きが気になる~(≧▼≦)

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梨沙  2011, 04. 28 [Thu] 08:55

「(≧ロ≦) アイヤー

(T▽T)アハハ! 兼にぃのこと頭の傍に追いやっていたら…
やっぱりというか(ノ_-;)ハア… 兼にぃさん我慢ができなかったようですね~ そんなことしても無理なんですけどね(^^;; 無理強いしても人の気持ちはかえられないのにねって兼にぃも分かっているとは思うけど感情と理性は別物ですね…
さーてさて 蓮!! 急いで救出に向かって(;´Д`A ```

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kikyou  2011, 05. 01 [Sun] 00:26

ちこさま

こんばんは、

お返事遅くなってごめんなさい('A`)

上様ご乱心^^
何か懐かしい響きですね。

難しい展開なのですが、うん。待っていて下さいネ。

何だけ変なコメントになってしまってごめんなさい。

コメントいつもありがとうございます(*゚ー゚*)ポッ

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kikyou  2011, 05. 01 [Sun] 00:29

梨沙さま (≧ロ≦) アイヤー

こんばんは。

(≧ロ≦) アイヤーまた一つ増えました^^

兼介はね、登場させた以上はやっぱ拾い上げていかないと拙いし。
でも意外と、仙波の方に私が萌えてしまって……

ちょっと予想とは違った展開になっています。
山場の無い話になりつつあって申し訳ないっす。

コメントいつもありがとうございますo(*'▽'*)/☆゚’
(お返事遅くてごめんなさい)

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