天使の箱庭＜eternity＞

「これ母から、ビーフシチューだって」
「いつも悪いね、お母さんのビーフシチュー楽しみだな」
何度も重なる差し入れを蓮は申し訳なさそうに受け取った。
「レンジで温めればいいって……」秀人も同じ顔をしていた。

「今度秀人のお父さんに会っていいかな？」
蓮の言葉の意味を察した秀人は「僕が自分できちんと言いたい」と言って来た。
「うん、俺お父さんに何発殴られるかな？」
努めて明るくいう蓮に不安な顔を向けて「僕は勘当されても蓮と離れない」などと言う。
「大丈夫だよ、判ってもらえるまで何度でもお願いしよう？」
秀人から優しい両親を奪う訳にも、これ以上隠し続ける訳にもいかなかった。

「少し勉強をしてから、シシュー戴こうね」
「はい」やっと笑顔に戻った秀人の頭を撫でてから、秀人は自分がアメリカで使っていた参考書を引っ張り出した。

二人は広い範囲で医学の勉強をしていた。
最初は既成事実だなんて言っていたが、本来二人とも勉学は好きであった。
知識が増える事の喜び、そしてその機会がある事の喜びも噛み締めていた。

秀人が来る度に体を重ね合う訳ではなかった。
だが明日は日曜日……ともなると秀人も食事が終わる頃にはそわそわと落ち着きを失くしてきた。
「食事が済んだら一緒にお風呂入ろうね」という蓮の言葉に安心したように頷き、そしてその後に少し照れたように微笑む。

快感を覚えた秀人は敏感になっていた。
蓮もそんな秀人を甘やかし出来るだけの快感を与えていた。
だが今夜の秀人は少しいつもと違うようで蓮は少し不安を覚えてた。
「あぁぁ蓮……もっ達く」その言葉の通り秀人の胎内がぎゅっと締まり始める。
「秀人……」蓮の甘い囁きも刺激になってしまうように蠢き始める秀人の背中をぎゅっと蓮は抱きしめる。
ガクガクと体を震わせながら秀人はその快感のてっぺんに昇りつめようとしている。

「秀人駄目だ……」
「いやぁ……っ、蓮……変……いやっこわい……」
だけど引き攣るような蠢きは留まる事を知らないように秀人を追い詰めている。
「あぁぁぁ……っ、駄目ぇ達っちゃう！れん―――」


悪魔に引き込まれたように秀人の体が小刻みに震えながら絶頂を迎えた……だが射精を伴わない絶頂に秀人は涙しながらも、何度も訪れる絶頂感を自ら止める事も出来なかった。
「秀人っ……」そんな秀人に持って行かれないように蓮も堪えるが、真っ白になった秀人の頭の中に浮かんだ映像までは想像出来なかった。

秀人にはあまり経験させたくは無かったドライオーガズム……

「れ……ん……」強い絶頂に放心したような声が秀人から零れた。
「大丈夫秀人？」心配する蓮の耳に恐れていた言葉が飛び込んできた。
「蓮……僕たちは慰み者だったの？」
涙を溜めた瞳を真っ直ぐ蓮に向けて秀人がそう聞いた。
「秀人……何を？」
繋がったまま秀人は体を起し、そのせいで与えられた違う刺激に眉を少し顰めてから蓮の胸に顔を埋めた。

そしてそのまま蓮の胸で静かに……ただ静かに涙を零し続けた。
蓮はただ秀人の背に腕を回し、その背中を優しく撫でるしか出来る事は無かった。
余計な言い訳はかえって秀人を傷つけてしまう。
蓮が一番恐れていた事実に秀人が壊れてしまわないように。そっと抱きしめる腕に力を籠めた。



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