天使の箱庭＜eternity＞

「お家の方には泊まるって言って来たの？」蓮の問いかけに秀人は少し困ったような顔を見せたから「え？帰るの？」と詰め寄った。
「い・いや……泊まるかもって言っては来たけど……」
秀人の歯切れの悪さはやはり罪悪感なのだろうと蓮は思いながらも「じゃ泊まろうね？」と顔を覗き込んだ。
「う・うん……」
蓮の部屋に泊まるって事はそういう事になってもOKって事だと思うと自然と秀人の顔に熱が集まって来て白い頬をピンクに染めてしまう。

「そんなに緊張しないで、秀人が嫌がる事をするつもりはないから」
「イヤって言ってない」
蓮はその染まった頬にちゅっとキスをしてから「その前に既成事実作らなくっちゃね」と揶揄するような目でそう言った。
「既成事実……？」
「ちょっと勉強しよう？」
蓮の部屋に来る目的は本を見せてもらう事だったのを今更ながら秀人は思い出し変な事ばかり考えていた自分を恥ずかしく思った。

「夜は長いから……」だが蓮が思わせぶりな事を言うものだから平常心に戻ろうとした心がまたざわざわと鳴りだした。
それを払拭するように秀人は「この前の古い書物を見せて」と言葉にした。

ソファに二人肩を並べて座り一緒にその書物を広げた。
民間療法とでも言うべきなのだろうか？そこの書きこまれている古い字も不思議と読めてしまう。薬草も今では漢方で広く使われている物もあれば、現代では探す事が難しい物もある。
こうして蓮と同じ時を過ごしている事がとても穏やかで幸せだと思った。

いつの間にかソファの横には多くの本が積まれていた。時の流れが止まったように感じていたがもう夜の１２時を少し過ぎてしまっていた。
「秀人は本当に好きだね」いつの間にか夢中になって沢山の書物に目を通していたらしい。
「あ……ごめんなさい」
「いいよ、そんな秀人を眺めているだけで俺は幸せだから」

「秀人の家みたいに広くないけど一緒に風呂入る？」
「……はい」
一昨日は自分の家の広い風呂に一緒に入ったものの、母親が同じ屋根の下に居たのだ甘い雰囲気を醸し出せるはずもなかった。
「秀人……顔赤いよ、何か想像した？」揶揄され少し剥れたように「蓮さんの意地悪」と潤んだ目を上げた。
「そんな顔すると今すぐ押し倒したくなるんだけど？」と更に揶揄される。

もう何を言っても言われても幸せオーラが二人から消える事は無い。
二人とも急くように風呂に入り風呂上りの秀人の髪を蓮がタオルで拭いていた。
「大丈夫だよ、そんなに乾かさなくても」
「駄目だよ、秀人の髪は昔からくせっ毛なんだから、直ぐにぐちゃぐちゃになるから……」
蓮の言葉の端々にそんな言葉が織り込まれるが秀人は気にならなかった。
きっと知らない人が見たら、随分古い付き合いだと思うかもしれない……などとは思ったが。

「そろそろ寝ようか？」
「う……ん」
蓮の言葉に秀人の体が少し強張った。
まだ１度しか経験のない行為だったけど蓮の声に体が疼いてしまうのを止められなかった。

「蓮が好き……」
「俺も秀人が好きだよ、秀人しか見えない」
その言葉と共に蓮の顔が近づき、そして唇を塞がれた。
そんな蓮に縋るようにしがみ付いて来る秀人の体をそっとベッドに押し倒した。

蓮の唇がようやく離れて首筋、鎖骨を舐め上げて行く頃には秀人の息も上がり、体もすっかり熱くなっていた。
「蓮……蓮……」喘ぐように自分の名前を呼び続ける秀人の胸に唇を付けた時に秀人の目尻からつつっと涙が零れ落ちた。



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