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彼方から 36

 27, 2011 00:04
「蓮……僕は……」そこまで言ってまた秀人は声を詰まらせた。
「秀人、泣かないで。誰も悪くない……時代と貧困が悪かっただけだから」
蓮は秀人の背を撫でながらあやすようにそう言った。

「本当はこれ以上秀人に何も思い出して欲しくは無かった。幻影だと思って忘れて欲しい。一番大事な事は俺たちが現世で出会う事だったんだよ」
「う……ん」
「秀人が何度生まれ変わってもって強く願っていたから、俺たちは今こうして出会えたんだ」
「う……ん」

「もう泣かないで笑って?」
「蓮、それでも僕の事好き?」
「当たり前だろ?それに秀人は純真な心と体で俺と出会ってくれた。ありがとう」
泣き腫らした瞼に頬にと蓮は唇を這わせていった。
「……死んでも離れない」
「もう黙って……」これ以上考えないように、言わないようにと蓮はその唇を自分の唇で塞いだ。

「蓮、一緒に住みたい」落ち着きを取り戻した秀人の口から飛び出した言葉に蓮は少し驚いたが「分かった、明日秀人のお父さんに会おう。俺からお願いする」と秀人の目を真っ直ぐに見ながら言った。
「本当?」
「もしかして許してもらえなくて、暫く会えない日が来るかもしれないよ、それでも辛抱して待っていられる?」
「いやっ……会えなくなるのは嫌だ」
「大丈夫、時間はかかっても必ず分かってもらえるように説得するから」
蓮は自分の為に秀人が仲の良い両親と仲違いのようになるのだけは避けたかった。


そして翌日、秀人を送りに行って蓮は秀人の父親に「お話があります」と切り出した。
蓮の様子を見て秀人の父は、じゃこっちでと母屋に繋がった医院に蓮を連れて行った。
秀人と蓮の様子から話は簡単な事ではないと察した父が、秀人の母に聞かれる事を避けたのだった。

「まぁ掛けて」蓮が秀人の父親と並んで腰を下ろしたのは、誰もいなくなった待合室の長椅子の上だった。
「話があるんだろう?」年長者の余裕と医師としての貫録が蓮へ重圧を掛ける。
だけど蓮とて今はそれを畏怖しているわけにはいかないのだ。
「はい、秀人の事です」
「あいつが何か迷惑を掛けたか?」
蓮は秀人の父が話の論点を外そうとしているのを肌で感じていた。
きっと予測は付いている筈だ、聞きたくは無いのだろう……

大きく息を吐き出した蓮は「先生、お願いと報告があります。」と言葉を発した。
「では先ず、報告から聞こうか?」秀人の父の顔も引き締まった。
「俺と秀人は愛し合っています」
「それで?」
余裕なのか驚きなのか秀人の父はそう言って先を促した。
「秀人と付き合う事を許しては頂けませんでしょうか?」
「君たちは男同士って事は言わなくても分かっているよな?」
「勿論です」
「もう秀人を抱いたのか?」
あまりの直接的な問い掛けに蓮は一瞬息を飲んだが一度正面をキッと見据えてから「はい抱きました」と答えた。

「そうか……」一言だけ吐いて秀人の父は黙りこくった。

蓮はまるで裁判所で判決を待つ囚人のような気持ちで次の言葉を待っていた。いや言葉じゃないかもしれない、殴られるかもしれない。
でも殴られようがそんな事は構わなかった。自分は秀人の傍から離れないと誓ったのだ。

「秀人を……宜しく頼む」それは呆気にとられるような言葉だった。
「先生?」
「蓮君、俺はないつかこんな日が来るかもしれないって思っていた。秀人が君を家に連れて来た時からそんな気がしていた」
「は……い」
「俺は父親である前に男であるし、医者でもある。男同士の恋愛を否定するつもりもない。そして残念な事に秀人が女性の恋人を連れて歩く姿を想像出来ないダメな父親だよ」

「先生、お願いも聞いて下さい。」
「何だ?」
「秀人と一緒に暮らしたいと思っています。これは秀人の望みでもあります」
「そうか……」今度こそ秀人の父は大きく溜息を吐きながら、寂しそうに視線を薄明りの点る受付に投げていた。

―――カタッ―――

その物音に二人でその主を思い描きながら振り返った。
気になって物陰で話を聞いていた秀人が辛そうな顔をして姿を見せた。
「秀人、こっちへ来なさい」
父の静かな呼びかけに秀人は普段よりもゆっくりとした足取りで近寄った。

「この人を好きなのか?」秀人の手を握り、敢えて名前を呼ばないでそう尋ねた。
「はい、僕は蓮さんを好きです。愛しています。ごめんなさい……お父さん」
「大変だぞ?耐えられるか?」
「はい」いつの間にか成長した我が息子を一度胸に抱きしめてから「蓮君、秀人を頼む」と蓮に向かって深く頭を垂れた。


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COMMENT - 2

梨沙  2011, 04. 27 [Wed] 14:01

(*゚ー゚*)ポッ

蓮 無事に報告できましたね。.:♪*:・'(*⌒―⌒*))) スペシャルスマイル
でも 秀人のお父様理解ある方ですね!! 反対はしません 小さい頃の秀人の様子からこんな日が来る事を予測していたのかも知れませんね… でもお母様の方が大変かな!?秀人が遠くに行ってしまうのを恐れていたようですから… 母親は敏感に察知していたのかも知れませんね 母の感というものでしょうか? けれどお父様がいる事なのでクリアできますよね~ 蓮の真摯な態度にもお父様は納得されたんでしょう!! 困難な事が待ち受けてても蓮と2人なら大丈夫!! 秀人も辛い記憶も楽しい記憶も蓮と一緒なら昇華していく事ができるでしょうから o(*⌒O⌒)bふぁいとっ!! 今世こそ幸せを~(゚ー゚☆キラッ

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kikyou  2011, 04. 27 [Wed] 23:48

梨沙さま  (*゚ー゚*)ポッ

こんばんは。

えへへまた登録しちゃった(*゚ー゚*)ポッ

めでたく親公認の仲になりましたぁ。

ここまではスムーズに来ましたねぇ。
でもすっきりしませんよー(笑)

予想以上に長くなってしまった1周年記念作品。
きっとみなさん、1周年記念という事も忘れているかも?です^^
ダラダラと長くなってしまいました。

少し終わりが見えてきたかも?しれません。

今夜ちょっと話が動いています。楽しんで下さいネ。

コメントいつもありがとうございますo(*'▽'*)/☆゚’

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