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バレンタインの約束

 14, 2011 12:11
「あの・・千尋さんバレンタインのチョコ買わないんですか?」
仁は今日何気なく千尋を食材の買出しに誘った目的を口にした。
「えっ?何で僕がチョコ?仁君チョコ食べたいの?」
「いや・・俺が食いたいというよりも・・・えっと・・」

仁は自分の予感が当たってしまって、内心溜息を吐いた。
雅という浮世離れした男に育てられた千尋が、バレンタインなどという行事を意識しているとは全く思っていなかったが、これだけは予感が外れて欲しかった。

毎年色々な付き合いで大量のチョコを貰っている光輝が今年は
「余計な気は使わないでいい」と事前に釘を刺している様子だった。
この世界で『気を使わなくていい』という事は、『やめろ』というようなものだ。
これで仕事絡みの水商売などのチョコレートが届く事は無いだろう。
そうなると、義理で貰うチョコなど一つも無い事を仁は知っていた。

「千尋さん・・あの・・若頭にチョコとかあげないんですか?」
ここで千尋が考え直してくれれば仁の心配は無くなるのだが・・・
「僕、女子じゃないから」少しむっとした感じで千尋に言われ仁は内心頭を抱えてしまった。
「若頭は千尋さんからチョコ貰いたいんじゃないのかなぁ・・・」
「まさか?」取り付く島がないとはこのことだ・・・

「俺、チョコレートか・買おうっかなぁ~?」
仁はわざとらしく、チョコ売り場に行って綺麗に包装された箱を手にした。
「誰にあげるの?」ちょっと千尋が興味を持ったのかそう聞いてきた。
「虎太郎兄貴に・・・ちょ・ちょっと世話になったし・・」
あの日の事を思い出し仁の頬に朱が走った。

そしてあの日以来頻繁にちょっかい出されて、何度か世話になってしまった事があった。
それ以上の関係に進むような事は無いが、仁の心の中に兄貴として慕うだけではない部分がある事に戸惑いも感じていた。
だが、構成員にもなれない自分が虎太郎に何かを感じているなどとは言えない。
だけど日頃の礼にチョコを渡すくらいなら許されるだろう・・・

「そう・・・」千尋は少しだけ興味を持ったように仁と一緒にチョコの箱を手にしている。
「喜ぶのかな?・・・・」
「喜ぶに決まってるじゃないですかっ!」仁は千尋の変化に心の中で拳を握った。
「別にチョコくらいあげてもいいけど・・・」その言葉に仁も安心してほっとした顔になった。

「仁君はどのチョコ?」
「俺は・・これにします」ブルーのリボンが掛けられた1000円程度のチョコだった。
「ふーん。じゃ僕も同じでいいや」
「いや、同じは拙いでしょう?立場ってもんがありますし・・・」
「そう?じゃこれでいいや」今度は仁が手にしたのよりも少し値段の高い物を手にしたので仁は本当に安心して、千尋の気が変わらないうちにと、レジに急いだ。

別に光輝に何か頼まれた訳ではないが、千尋からチョコを貰えなかったら絶対仁にシワ寄せが来るのは必須。
何よりも光輝が貰えないのに、仁が虎太郎に渡す訳にも行かなかったのだ。
千尋がチョコを買った事に安心しながら、仁は帰りを急いだ。
あまり長く外に千尋を連れ出している事がバレたら自分が怒られてしまう。

マンションに着き、食材を冷蔵庫にしまいながら、夕飯の準備を始めた仁に
「僕も料理覚えようかな?」と千尋が声を掛けてきた。
千尋とて雅と二人暮しだったから、料理が全く出来ない事は無かったが、質素な生活だった。
光輝の望むような料理は作った事がない。
「時間はたっぷりあるし・・・」そう言うと千尋は寂しそうな顔をした。

この春大学を卒業する千尋は就職していなかったのだ。
千尋は一生懸命に仕事を探していたが、全部光輝にダメ出しをくらい挙句の果てには就職試験に行かせてもらえなかったりして何の職も決まっていない。
「就職なんかしなくていい」
の一点張りで未だに何の進展もしていない事に千尋は内心酷く落ち込んでいたのだった。

「仁君・・・僕はこのままずっと籠の鳥なのかなぁ・・・」
ダイニングの椅子を跨いで逆向きに座っている千尋が背凭れに顎を乗せながら聞いてきた。
「若頭まだ就職認めてくれないんですか?」
「うん・・その必要は無いって・・・」
「若頭は外に千尋さんを出して危険な事にでも巻き込まれたらと心配なんですよ」
「僕は子供じゃないし・・でも僕には何の力も無い・・・男なのに情けないなぁ」

仁には千尋のその気持ちがよく判っていた。
自分も、構成員にもしてもらえず、使いっ走りの中途半端な立場だ。
極道には向いてないという周りの言葉も有難いが、やはり自分の進む道が見えなくて辛いものがあった。

「仁君は夢ある?」
「お・俺は・・・やっぱり若頭や虎太郎さんの手助けになることを何かやりたいです」
「そう、偉いね仁君は・・」
「千尋さんの夢は?」
「僕?僕の夢は・・将来光輝と同じ墓に入る事だよ・・・
だから光輝の傍にずっといたい・・だから仁君と同じかな?
何か光輝の役にたつ事を探したい・・」
「千尋さん・・・」仁は千尋の言葉にひとり感動しているようだった。

「俺ら結局同じ思いですね」立場は違うが、行く着く所は一緒だ。
「僕もまだこの環境に慣れたわけじゃないけど、じっくりとその何かを探すよ」
「千尋さん・・その気持ちだけで若頭は喜んでくれますよ」
「ありがとう、仁君に愚痴ったら少しすっきりしたよ」
そう言って千尋は優しい目で仁を見た。
「千尋さん・・・俺も嬉しいです・・」
仁も千尋を『やっぱり綺麗だなぁ・・』と内心思いながらその笑顔に見惚れてしまっていた。

「お前らっ!そこで何見詰め合ってる!?」

『ひぇーっ!』
何時の間に帰って来たのか、ダイニングの入り口に光輝が仁王立ちしていた。
「お・お・お・お疲れ様ですっ!」
怯えながら仁は深く頭を下げ、顔を上げられずにいると
「あぁお帰り・・・ふふふっ僕と仁君の将来について話してたんだよ」
『あぁぁ千尋さん・・・』もう膝に額が着くほど仁の体が折れ曲がっている。
千尋が鈍いのか、それとも光輝の怒りなど何でも無い事なのか仁には理解できなかった。

「あっ!光輝、これあげる」
そう言うと千尋は買って来たばかりのチョコを光輝に差し出した。
「えっ?俺にか?」
「勿論、僕がチョコあげたい人は光輝以外にいないでしょ?」
「千尋・・・」たった一言で光輝の怒りを鎮めてしまう千尋をやっぱり凄いと仁は頭を下げたまま感心していた。

「それは?」テーブルに置かれたもう一つのチョコに気付き光輝が聞いてきた。
「あぁそれは仁君が虎太郎さんにあげるんだって」
「虎太郎に?へぇ・・・おい仁!今虎のやつは会社に居るから、さっさと持って行って来い」
「は・はいっ!!」
やっと開放された仁はそのチョコを掴むと、逃げるように部屋を飛び出した。

「へぇ、仁君そんなに虎太郎さんに会いたかったんだぁ・・」
仁の行動をそういうふうに受け取った千尋が呟いた。
「千尋・・あいつらの事は放っておけ、それより・・」
そう言うと光輝は千尋を抱き寄せ、唇を近づけたきた。
「もう、まだ昼間だよ・・・」
そう抵抗する唇は直ぐに塞がれてしまい、千尋も諦めたように体を預けた。

だが光輝に体を弄られ「まだ仕事終わってないんでしょう?夜まで我慢して・・」
と言って腕を突っ張り光輝の体から離れた。
「くそっ、じゃ夜まで待ったらもっと良い事あるのか?」
「うーん?バレンタインだから・・・光輝の好きにしていいよ」
「縛っても?」
「・・いいよ」
「玩具は?」
「・・いいよ」
「嘘吐け・・お前はいいって言う割には今までやらせてくれた事がない」

「以前に喫茶店で若い男と会ってた時も、クリスマスの時も『縛っていいよ』と
俺をそそのかしたくせに、いざとなったら・・・」
「それは光輝が我慢が足りないからでしょ?」
実際光輝は余計な物を使う前に、早く千尋と繋がりたくて機会を逃してしまっていた。

「言ったな?よし今夜は覚悟しておけよ」
そう宣言すると、光輝は嬉しそうな顔を近づけ千尋の唇に軽く触れると、名残惜しそうに
「8時には戻るから」と言って緩めたネクタイを締め直した。
「行ってらっしゃい」無事に帰って来てという言葉を千尋は呑み込み笑顔を見せた。

見送る度に『無事に・・』と願う千尋の心の中を光輝は知らない。
それでも一緒に生きて行く事を決めたのは千尋だ。
「光輝・・愛してるよ。行ってらっしゃい」
光輝の背中にもう一度声を掛けると、振り向かずに光輝は右手を上げ合図だけを送ってきた。
その顔を見なくても光輝が幸せそうな顔をしているのを千尋は知っていた・・・


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COMMENT - 12

けいったん  2011, 02. 14 [Mon] 14:05

またもや 更新!∑(゚ω゚ノ)ノ

今度は 千尋と光輝でしゅかぁ~ウヒョッヒョ~~(≧ω≦ *)
オォー 千尋、 卒業なんですか!
時の流れって は・早い。道理で 私の体力の回復が 遅くなってる訳だわIl|li_| ̄|○il|li ガーン

自分の目の届かない所に 居て欲しくないのね、光輝。
でも 紫龍みたく 紫苑を 手元に置けないし・・・
エッ...||Φ|(|;|-|;|)|Φ|| 監禁しかない!

kikyouさま、ここで いつもの”byebye☆”しても いいの?...(*'ω'*)......ん? やっぱ止めておこうっと ンフフフフッ(ノω`*)ゞ

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ちこ  2011, 02. 14 [Mon] 17:21

縛っていいよ~!

いつのまにやらすっかり小悪魔に転身を遂げた千尋ちゃんΨ(`∀´#)キャッ
翻弄されてる光輝さん(笑)
縛っていいのか~~~っ!ウキョキョ(≧▼≦)
いいんだよ~!いいな~!←M子出現!
帰って来たら、ネクタイで縛るんだよ~(//∀//)

っていうか、バレンタインの約束だから、バレンタインデー限定とか言うんじゃ・・・日付変更線越えたから約束はナシね~って、笑って言いそう(笑)
だって小悪魔ちゃんだもん(≧▼≦)
いろいろしたかったら、明日も無事に帰ってきてねって、ことですよねっ(^^)v

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-  2011, 02. 14 [Mon] 17:58

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びび  2011, 02. 14 [Mon] 19:24

千尋くーん(゚o゚;;

紫苑たちに癒されてまったりしてたら、千尋達まで居た~♪( ´▽`)

紫龍や光輝だけじゃなくて、私も甘いチョコをもらった気分です~♪
大サービスありがとうございましたm(_ _)m

千尋は喫茶店であんなこと言ってたんだ♪
ホントに小悪魔度がアップしてるψ(`∇´)ψ
就職の事とか色々思うトコもあるみたいだし、また近い内に千尋に会えると良いなぁ(*^_^*)

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-  2011, 02. 14 [Mon] 20:30

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 22:29

けいったんさま  またもや 更新!∑(゚ω゚ノ)ノ

こんばんは。

監禁ですかっ!
でも本当に千尋の将来どうしましょう?
まさか、手元にも置いておけず・・それが千尋の不満ですね。
爆発しなければいいんですが・・・

あぁぁ・・・とりあえず”byebye☆”でいいです(笑)
これ以上話を書き始めると通常更新が出来なくなりそうです^^;

コメントありがとうございました!

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 22:31

ちこさま  縛っていいよ~!

こんばんはぁ。

えっ?羨ましいのかぁ・・・?

毎回このネタを出すくせに、その先に進めない私です。
いつか番外できちんと書きたいです。
緊縛された千尋(キャーッ!)

何故か天使の紫苑と逆の小悪魔千尋になってしまってます^^;
これはこれで最強かもしれません(笑)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 22:35

鍵コメ Yさま  しばっ・・・・

こんばんは。

おお興奮して出て来てしまいましたかぁ?

いつも縛る直前までは行くんですけどね、
その先がなかなか技術が追いつかなくて・・・

間に合いましたネ(あの子好きです私)

では、コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 22:37

びびさま 千尋くーん(゚o゚;;

こんばんは。

今回は紫苑と千尋の2本だけは何とか頑張りました^^

まだ他にも書きたい子はいるんですが、なかなか時間がなくて・・

また番外はそのうち色々な子たちを都度書いて行きたいです。

その時は読んで下さいネ(#^.^#)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 22:39

鍵コメ koさま

こんばんは。

ようこそいらっしゃいましたぁ(#^.^#)

そうなんです・・伏線だけは沢山はるのですが
なかなか形になってくれません。
いつか書きたい緊縛!
やっぱモデルは千尋が一番でしょう?

修行します(笑)

コメントありがとうございました!

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NK  2011, 02. 15 [Tue] 08:31

覚悟が

仁くんの役回りが面白くて気に入ってます。

千尋くんは大学は続けられても就職は難しいですか。。。
確かに千尋くんが狙われたら光輝さんの足元掬われますものね。
光輝さんのいる世界は厳しいのでしょうね。
毎日「無事帰ってきてね」と送り出していたとは。。。
大切な人を幼い頃から亡くしてきた千尋くんは毎日が覚悟の連続なの
ですね。その覚悟を賞賛!

何気ない会話の一部でしたが、
紫苑ちゃんは「一緒に年を重ねる」と言い、
千尋くんは「一緒のお墓に入る」と言い、
二人の添い遂げる覚悟も賞賛!
紫龍さんも、光輝さんも幸せものですね。チョコなんか必要ないかも。

千尋くんが、光輝さんが認め、自分も納得する役割(お仕事?)を見つけ
られるよう祈っています!

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kikyou  2011, 02. 16 [Wed] 00:17

NKさま  覚悟が

こんばんは。

名脇役の仁です(笑)
一緒に仁のバレンタインも書きたかったのですが
何せ自分の容量がオーバーしていまして・・・

そのうち、何処かで・・仁の喪失も・・(笑)

千尋・・・強気で肝が据わっている子ですが、やっぱ愛する人の事は心配です。
でも全部自分で選んだ道だから、千尋も頑張れるのだと思います。

紫苑は・・・相変わらずですが(笑)
今の所紫苑の危機は、紫龍がちゃんと寝かしてくれるか?という所でしょうか?^^

でも過去はどうあれ、今幸せです。
寄り添う相手が居るってイイですよね(*^_^*)

コメントありがとうございました。

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