2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

愛しい人へ 15

 09, 2010 23:42
夜杉浦が部屋に戻ると夕食の支度が終わった麗が迎えてくれた。
薄いピンク色のカットソー姿が清純で且つ色香を漂わせていて
杉浦は一瞬目を見張りそして見惚れてしまった。

杉浦の視線を感じた麗は恥ずかしそうに
「・・ピンク変だって言ったんですけど、粕谷さんが似合うからってプレゼントして下さって・・」
その言葉を聴いた途端何か判らない怒りを感じて
「お前は誰からでも物を買って貰って喜んでいるのか?」と冷たく言ってしまった。

その言葉に麗の顔から笑みが消え一瞬で強張った。
「・・あっ・・・」
麗は杉浦に蔑まれたのだ・・そう思うとただただ恥ずかしかった。
『僕はこの人に恥をかかせてしまったんだ・・・』
さっきまでのウキウキした気分が色褪せ胸が痛んだ。

「ごめんなさい・・僕そういうつもりじゃ・・」

杉浦は自分が今一番言ってはならない事を言ってしまった事にすぐ気づいた。
桜の花が咲いたような笑顔を散らしてしまった。
思ってもいなかったのに、他の奴が麗にこんな顔をさせたかと思ったら腹が立ってしまったのだ。

『全く俺はどうしちまったんだ?』
この気持ちの出所が判らず苛々した気分で「飯の支度は出来てるのか?」と普通のトーンで聞いた。

「・・はい」麗は小さく返事をしただけだった。

こんな気持ちで食事をしても美味いはずもなく黙々とふたり食事を済ませた。
浴室に向かう杉浦と、キッチンで後片付けをする麗。

麗は片付けをしながら、ピンクの服に視線を走らせた。
「初めて会った人、いくら杉浦さんの会社の人間とはいえ
そんな人に服を買って貰って喜んでいる僕を軽蔑したのだろう・・・・」

身内にすら優しくしてもらっていなかった麗は人の優しさに慣れていなかった。

今更返す訳にもいかない。
買って返すにしろ、杉浦から貰ったお金で返せない。
麗は初めてお金が欲しいと思った。
札幌でお腹が空いてもお金が欲しいと思った事など無かった。

今まで、人と関わらずに生きてきた麗が
人と関わることの難しさと嬉しさを同時に覚えてしまった日だった。

この部屋でやる事は朝と夜の食事の仕度だけ、あとは掃除洗濯などだ。
空いた時間でアルバイトを始めようと考えた。
明日近所を調べて探してみようと思った途端、少し気が軽くなった気がした。


次の日、麗は午後から近所を探索してみた。
結構色々な店やビルがある。
杉浦不動産から駅とは逆に10分位歩いた所のコンビニにアルバイト募集の張り紙がしてあった。
コンビニなら僕にも出来るかもしれない・・・
そう思ってカウンターに居る男性に声を掛けた。

店の奥の小さな部屋で店長という人が簡単な面接をしてくれた。
渡されたのは保証人の同意書の用紙だ。
「私としては、君みたいな清潔感のある子は大歓迎だよ、ただこういう全国展開の店は
色々と煩いからね、保証人の同意貰ってきてね」と言われたのだ。

本当は杉浦に内緒でバイトしたかった麗は肩を落としながら部屋への道を歩いた。
杉浦にどう言えばいいのか気が重かった。
携帯の着信音にビクンとしてズボンのポケットを探ると
メールを受信する知らせだった。
開くと「今何処だ?」の内容に余計に気を重くして
「近所です、あと10分位で帰ります」と返信した。

麗は杉浦からのメールに落ち着かなくて小走りで部屋へ戻った。
鍵を開けると玄関に杉浦が今朝履いて行った革靴がある。
リビングには大きな何処かのショップの紙袋が3つ程あった。
「あのう、どうしたんですか?」
「買い物か?」
「・・イエ、ちょっと近所を探索に・・」

杉浦は麗が手にしている用紙に目ざとく気付いた。
「何だそれは?」
「あ・あの・・・これはアルバイトの保証人・・」
杉浦は麗から用紙を取り上げると、いきなりビリビリと破いてしまった。

「あっ!」麗は突然の事で止める暇もなかった。
「バイト?体が丈夫になったら勉強しろと言ったはずだが?」
部屋に入った時にはまだ少し優しい顔をしてたのに
又険しい顔になっている杉浦にうろたえながらも
「・・でも、時間余るから・・それに・・」
麗は「お金が欲しかったから」と言う言葉を呑み込んだ。

機嫌を悪くした杉浦が立ち上がり「仕事に戻る」と言った。
何も言えずに頷く麗に「それはお前にやる」と言って紙袋を指し部屋を出て行った。
気落ちした麗はソファに座り込み目を瞑った。

高校に入った時にバイトをしたいと言って伯母に反対された記憶が蘇る。
迷惑をかける訳でも無かったのにバイトを禁止された理由が判らなかった。
そして今度も・・・空いた時間を使おうとしただけなのに・・・

立ち上がろうとして杉浦が置いていった大きな袋に足が当たった。
お前にやると言われたんだっけ・・・
麗は袋に手を掛け中を見ると、そこには麗の物であろう服が沢山入っていた。
それもピンクのシャツとか、ピンクのカーディガンとか、ピンクのシャツとかシャツとか・・・
「何このピンクの服は?」見事に薄いピンク色の服が沢山入っていた。

他に薄いブルーやグリーン・・・薄くて明るい色目の物ばかりだ。
麗は杉浦が何を考えてこんな服を買ってきたのかさっぱり理解できなかった。





にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村




関連記事

WHAT'S NEW?