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愛しい人へ 13

 08, 2010 10:00
目が覚めた時の麗は思考能力がゼロだった。
『ここは何処だ?』
暫くしてはっと飛び起きた!
麗は昨日札幌を離れ東京に来たんだったと気付いた。

『あっ!杉浦さん?』
ベッドの隣を見ても姿が見えない。
リビングとダイニングも覗くが誰も居なかった。
時計を探して確認するともう朝の9時過ぎていた。

「しまった!初日から寝過ごした・・・」
前金まで渡してくれた人に朝の珈琲すら淹れてやれなかった・・・
自己嫌悪に陥りながら、又リビングに戻るとそこに白いメモが置いてあった。

「良く眠れたか?今日はゆっくりしておけばいい。
朝飯は冷蔵庫の物を適当に食べるように。午前中は必ず部屋に居るように」
と書かれていた。
「はぁ・・・・」大きく溜息を吐いてソファに腰を降ろした。

まず何をすればいいか?
暫く考えて、取り合えず顔洗って着替えよう。
洗面所に行くと新しい歯ブラシが置いてあった。

身支度を整えると、ざっと部屋を見回す。
どっから手を付ければいいの?と言うくらい広い部屋だ。
そして何処を掃除するの?と言うくらい綺麗なものだった。

もう一度ダイニングに戻り、冷蔵庫を開け中にあった卵とハムを取り出し焼いた。
テーブルの目立つ所に食パンが置いてあり、珈琲メーカーには珈琲が淹れてあった。
ハムエッグとトーストと珈琲、麗にとっては贅沢な朝食だった。

食事が終わると、さーてと立ち上がった。
まずは洗濯かな?
麗は伯父の家で家事をやらされていたから大体の事は出来た。
伯母は洗濯機だけは回した、でも最初だけ
後干したり、畳んだりするのは麗の役目だった。
とりあえず、昨夜の分を洗濯機に入れスイッチを入れる。

洗濯が終わるまで掃除・・・・
掃除機は何処だろう?目で探してもそういう所帯じみた物は見当たらない。
殆どの物が造り付けの収納家具に収められ生活感が無かった。

ふぅと溜息を一つ落とした時に玄関の扉が開いた。
「何だ起きてたのか?」杉浦が声を掛けながら入って来た。
「あっ、おはようございます。今朝は寝坊してしまってごめんなさい。」
「朝飯は食べたのか?」相変わらず人の話を聞かない人だ・・・
「はい、頂きました」

「そうか・・あーこっちだ!」玄関に向かって大きな声を掛ける。
「?」見ていると、大きな箱を持った人が何人か玄関先に立っていた。
「こっちだ」と係員を案内したのは麗が使う事になった部屋だった。
結局5人くらいの人が出入りしている間麗はダイニングに居るしかなかった。

1時間余り経って「社長、全部終了です」
「おうご苦労」そう労いの声を掛けているのを確認してリビングに出ると。
「部屋見てみろ、足りない物は又今度揃える」
そう言われて、与えられた部屋を覗くと、何も無かった部屋に
大きな机、ベッド、チェスト、ソファなどの品が設置されていた。
机の片側にはパソコンもある。

「!」麗は驚いて声も出ななかった。
「どうだ?」
「・・あの、これ僕が使っていい部屋なんですか?」信じられない思いで尋ねると
「気に入らないか?」と逆に尋ねられ
首をブンブン横に振り「ありがとうございます、嬉しいです・・」
「そうか」杉浦の口元が少し綻んでいる。

「あ、忘れる所だった」と手渡されたのは濃いブルーの携帯電話だ。
「俺のアドレスは入力してあるから、用事があったら電話なりメールなりすればいい」
「あ・・・」
「今夜は9時には帰るから、飯作れるか?」
「は・はい・・・何がいいですか?」
「何でもいい、お前が好きで作れる物を作ればいい」

携帯電話の礼も言いそびれた麗は携帯を握り締め「はい」と頷く。

未だどうしてこんなに良くしてくれるのかが判らない・・・
携帯電話のアドレスのさ行を押すと、ひとつだけ「杉浦」と名前がある。
『杉浦さん・・・ありがとうございます。』心の中で両手を合わせる。

麗は自分の部屋に入り、たったひとつだけの宝物の家族写真を机の端に飾った。
そこには、まだ中学生の麗とこれ以上年を取らない両親の笑顔があった。




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