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愛しい人へ 11

 07, 2010 10:00
「伯父さんから預かった」
そう言って渡された写真を胸に抱きじっとしていた麗が
「ありがとうございます」と少し寂しそうに言った。

「仕度しろ」と紙袋を差し出され、麗は中に入っていた新しい服に着替えた。
病室から隣の部屋に移るとそこには初めて見る顔があった。
「君が前原麗君?僕は杉浦の所に居る西条だ、宜しく」
そう言い右手を差し出す仕草は洗練されスマートだった。

釣られるように麗も右手を出し「前原です、宜しくお願いします」と挨拶する。
西条は握手をしながら、黒のタートルネックを着た少年を素早く観察した。
ひょろっと痩せた少年の長い手足と色素の薄い髪と茶色い瞳。
『この子がねぇ・・・・』
この子が杉浦を動かしたのか・・・・

「仕度済んだのか?」と杉浦に聞かれ頷く。
持って行く物など何も無い、さっき貰った写真と
ここに着てから杉浦に与えられた数枚の服だけだった。
病院に運び込まれた時に着ていたヨレヨレの服は
看護士さんに頼んで捨ててもらった。

麗は三枝医師にだけ見送られひっそりと退院した。
此処に居た形跡さえ消すように。

少し遅めの昼食を摂り、そこで西条と別れた。
「では後で空港で、遅れないで下さいよ」念を押して西条は何処かへ歩いて行った。
「さあ、行こう」
「・・・」麗は何処に行くのか聞かなかった。この人の言う事に逆らえる立場ではない。

タクシーに乗せられぼーっと流れる景色を眺めていた。
結構走ったような気がする。
暫くすると、見た事のある景色に振り返ると
「暫く来れないから挨拶しておけ」と言われた。

近くの花やで大きな花束と、その隣で線香を買って墓地に入る。
5日前に来た時には線香も焚いてやれなかった。
墓前に手を合わせ両親に祈り、そして誓った・・生きていく事を。

杉浦も後ろで手を合わせて「又10月には連れて来てやる」
きっと没日を見たのだろう、10月は両親の命日だった。
「ありがとうございます」僕は立ち上がると素直に頭を下げた。
頭を下げながら目の奥がツンとしたけど、唇を噛んで耐えた。

「もういいのか?」と聞かれ
「はい、あの杉浦さん・・・僕は、いつか必ずご恩返ししますから・・」
麗にそう言われた時に一瞬デジャブーかと錯覚してしまった。
『俺は以前にも同じ目をした誰かに同じ事を言われたような気がする・・・』
「別に恩返ししてもらおうとか考えている訳じゃない」
「でも・・・」
「・・・行くぞ」何かを言いかけたようだったが、杉浦がそう促した。
「はい・・・」それ以上何も言えずに麗も後に続いた。

『父さん、母さん僕はこの人と東京に行きます、又命日には逢いに来ますから』
心の中で最後の別れをして足を一歩踏み出した時に
「麗行ってらっしゃい」優しい母の声が聞こえたような気がした。


「東京も寒いんですね・・・」麗の第一声だった。
「まだ2月だからな」
僕は杉浦の言葉を聞いて「この人はお世辞など言った事ないんだろうな」と思ってしまった。
事実しか口にしない人なのだと思った。


空港の駐車場に停めてあった西条の運転する車で移動した。
40分程走り、着いた先には『杉浦不動産』と書かれた看板があるビルだった。
10階建ての4階までが会社として使い、5階から8階を独身者用のワンルーム
9階はフリースペース、そして10階に杉浦と西条の部屋があった。

「ここは建物は古いけど、きちんと手入れしてあるから住みやすいはずだ」
3基あるエレベーターの一番奥のエレベーターに乗り込む。
西条がカードキーを差し込むと、9階10階が表示された。
驚いて見ると「一般の者は9階以上には登ってこれないようにしてある」
杉浦が簡単に説明して麗にも1枚のカードキーを渡した。
「これはお前の分だ、失くさないように」

こんな大事な物を・・・
「どうして?どうして僕を無条件に信用しているんですか?」不思議だった。
「今すぐ答えなくては駄目か?」
杉浦にしては珍しく言葉を濁した。
「・・いえ・・信用してもらって嬉しいです」

10階のフロアで西条と別れ、杉浦の部屋に入った。
「凄い・・」モノトーンで統一された広々とした空間
「この部屋を使え」そう言って案内された部屋はベランダに面した広い部屋だった。
「こんな広い部屋僕が使ってもいいんですか?」
「ああ、今は何も使ってないし何も無いが、2・3日中に揃えるから」

「そんな・・僕は布団さえあれば何も要らないですから・・」
実際札幌での麗の部屋は納戸だった。
両親が生きている頃はきちんとした部屋を与えられていたが
そこも取り上げられ、干しても干してもふんわりならない布団と
小さな折り畳みのテーブルだけを与えられた生活だった。

「今日はまだ何も無いから、俺のベッド使え」
連れて行かれたベッドルームにはキングサイズ?
と思うような大きなベッドが置かれてあった。
「一緒に寝るんですか?」緊張して眠れないかもしれないと思い聞いてみた。
「いやなら俺はソファで寝るが?」
「そんな、僕がソファ使います」
「病み上がりにそんな所で寝たら良くなるもんも良くならない」

自分だけが広いベッドに寝る訳にもいかず
「ではベッドお借りします・・・一緒でも広いから大丈夫ですよね?」
「そうか、俺は寝相いいから安心しろ」
杉浦が珍しく砕けた事を言ったので少し安心して「はい」と返事をした。

「風呂の用意してくれるか?」
「・・はい。」
教えてもらった浴室も思った通り広かった。
少し掃除した方がいいかな?と思い簡単に掃除しながら
『今日から僕は生まれ変わるんだ・・・』

新しい生活への不安もあったけど、期待の方が大きかった。
僕にはもう失くす物は何も無いから・・・
「よし!」一声発して
ざっと洗った浴槽にシャワーの湯を掛け流し、湯張りスイッチを押して浴室を出た。







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COMMENT - 2

-  2010, 12. 07 [Tue] 10:41

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kikyou  2010, 12. 07 [Tue] 11:49

鍵コメ Cさま

こんにちは!

ひぇ~!全然余計な事じゃないです。
ありがとうございました(^^♪

そうですよね、僕の背で少しだけ登場してくれました。
幸せな様子にみなさん温かいコメントも下さって・・・
それ以降手を付けていなかったんですが
クリスマス企画で番外を書こうと思って、自分でも読み直しです。

少しづつ修正してるのですが、まだまだミスしますねぇ(笑)
又何かあったら教えて下さいネ。

コメントありがとうございました(#^.^#)

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