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愛しい人へ 12

 07, 2010 10:05
「先に風呂入れ」と言われ浴室に向かった。
シャワーで汚れを落とし、ふと大きな鏡に映った自分を眺めた。
体中にあった痣が半分程になっていた。
残った半分もだいぶ色が薄くなっている。
新しい痣が増えないんだ・・・・当たり前の事が嬉しかった。

突然浴室の扉が開き、杉浦が入って来た。
「何だ自分の裸に見惚れているのか?」
揶揄され赤くなりながら言い返す言葉が出て来なかった。
「少なくなったな・・・」
僕の体を見ていた杉浦に言われた。
「・・はい」

「ほら、頭洗ってやるから座れ」
杉浦に頭を洗って貰うのは2度目だ。
麗は素直に浴室の小さな椅子に腰掛けた。
洗髪されながら、「あと1週間もしたら綺麗に無くなるな」と言われ頷いた。

一緒の浴槽に浸かった。
三枝総合病院の特別室の浴槽よりもずっと広かったから
大人ふたりでも余裕で入れた。

僕は気になっていた事を尋ねてみようとチャンスを伺っていた。
「何か言いたい事あるのか?」鋭い・・・
「あのう・・・杉浦さんてゲイなんですか?」
一瞬息を止めたような顔してそして盛大に笑われた。
『ああ、この人もこんな顔して笑うんだ・・・』

「いや違うが、もしゲイだと言ったらどうするつもりなんだ?」
「・・・その時は・・」もし求められたら応じる気持ちでいた。
今の自分にはそのくらいしか出来なかったから・・・・。

そんな事を考えてると頭をポコンと軽く叩かれた
「馬鹿な事言ってるんじゃない」
少し怒った声だ、ゲイに間違われて気分いい人はいないよな・・・
「ごめんなさい、変なこと聞いて」

麗は中三の頃から何人かの男子に「好きだ」と告白された事があった。
最初は男の自分に?と思っていたが、相手の真剣な目を見ると
こういう同性を好きになる人も居る事があるんだと思うと同時に、
その事に得に嫌悪も不愉快さも感じる事はなかった。

麗は、誰かを好きになるという事自体あまり良く判らなかったし
告白されたから付き合うという事もなかった。
ただ、こういう人達も少なからず存在するんだな、というのを知った。

だからと言って、具体的な事を知っている訳でもない。

「もし俺がゲイでも、そんな骨ばった体など興味ない、もう少し太れ」
改めて自分の貧相な体を眺める。
目の前の筋肉質の体と見比べると、本当に恥ずかしい。

「あのぅ僕は明日から何をすればいいんですか?」
「とりあえず、宅建の勉強とこの部屋の管理と食事の用意だ、
週3回頼んでいた家政婦は断ったから」
「それだけでいいんですか?」
「ああ、今の所はそんなもんだ」

暫くふたり黙って湯船に浸かっていた
「さあ出るぞ」
「あ、はい・・・」杉浦の声に我に返ったように返事をして立ち上がった。


風呂から上がるとリビングのテーブルの上に封筒が置いてあった。
「これは今月の食費だ、少々の雑費も含まれるがな」
渡された封筒の厚みに少し驚くと更にもう一つの封筒を渡される。
「これはお前への前金だ」
「前金?」
「ああ、とりあえず自分の身の回り品を揃えろ、服とか下着とか必要な物があるだろう?」
「はい、ありがとうございます」

麗は余計な事を言わないで、ただ黙ってお金を受け取った。
はっきり言って今の麗は一文無しだ。
そして自分でお金を稼げるようになってから、ゆっくり返して行こうと考えていた。

その後、杉浦の生活パターンとかを簡単に説明を受けた。
朝は珈琲とサラダだけでいい、昼は此処では摂らない、夜は基本的に食べる。
部屋で食べない時は連絡を入れると。
そして、昼間麗一人でも必ず昼食は食べる事!と念を押された。

「判らない事があったら聞け、後はおいおい覚えればいい」
そう言われても、麗がまともに作るのは夕飯だけで、あとは掃除洗濯?
ほかに何を覚える事があるのか?と思ってしまう。

「あとお前がやる事は体力を付ける事だ、これが一番大事な仕事だと思え」
「はい・・」

「今日はこっちに着いたばかりで疲れただろう、もう寝るぞ」と言われ
杉浦と一緒に寝室に入った。
麗は杉浦の邪魔にならないように、ベッドの隅っこに横たわった。
「落ちるなよ」とからかうように言われ「はい・・」と小さく返事して目を閉じた。

『次に瞼を開く時には新しい生活が始まっているんだ・・・・』
そう考えたら、何故だか僕の目尻から涙が零れた
自分でもその涙の理由が判らないまま、何時の間にか深い眠りに堕ちていった・・・






クリスマス企画に向けての「天使の箱庭」からの転載です。

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