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愛しい人へ 9

 06, 2010 13:46
妻の律子は夫の電話の応対を訝しげな顔で見ていた。
「判りました、では明日11時に・・・はい・・」
電話を切った夫に詰め寄る。
「何?麗がどうかしたの?」
律子は麗が自分達に面倒を掛けるような事でもしたのかと心配になる。

「明日麗を預かっている人が此処に来るそうだ」
「!そんな、私は知りませんよ、勝手に約束なんかして!」
激しく夫を責める律子に向かい
「そういう訳にはいかないだろう?」

進は麗が戻らなくなって4日目の夜に掛かって来た電話で
麗が無事である事を知らされて内心安堵していた。
捜索願を出そうと思ったが妻に反対されて、そのままだった。

最後に杉浦という男が言った一言が気になっていたが妻には言えなかった。
「明日会ってもらえないと松本さんも困った事になりますよ」と。
一体あの男は何者で何処まで知っているんだろう?
そして麗との関係は?

とにかく明日会うしかない。
「松本さん、明日バスのお仕事休みですよね?」
私の仕事先まで知られているみたいだ。
若いが張りのある声と人に有無を言わせない物言いに何故か逆らえなかった。


電話を切ると杉浦は1時間程、三枝と飲み泊まっているホテルに帰る前に
麗の病室に足を運んだ。
テレビが点いていたが見ている風ではない。
「どうした眠れないのか?」
「・・はい、最近良く休ませてもらってますから、流石今夜はあまり眠くならなくて・・」

麗はそう言うものの内心は明日退院してからの事を考えていた。
まだ自分で結論を出せないでいたのだった。

「麗・・お前はあの日何故あの公園に居た?本当に死神を待っていたのか?」
問いかける杉浦の顔は真面目だ。
麗は顔を上げ杉浦に向かい
「・・・あの日のお昼から両親の墓参りして・・・」

その日麗は最後の千円札をポケットに捩じ込み家を出た。
中学生になってから月の小遣いを5千円、そして夏と冬の父親の賞与の時に
普段買わないで我慢していたのを買いなさいと3万円僕にも賞与小遣いをくれていた。
得に使い道が無かったから、母に僕名義の口座をひとつ作ってもらい
使わない分や、お年玉の一部、両親の知人に会った時に入る臨時収入など
その口座に貯金していた。

両親が僕が生まれた時から積み立てしてくれている通帳も別にあった筈だが
それが僕の手に渡される事は無かった。
麗個人が管理していたのは、その新しい方の通帳だけだった。
これがあったから今まで生きてこれたのかもしれない。

両親が亡くなった時には15万位貯まっていた。

そしてそのお金は、古くなった下着や靴下を買い換えたり
ノートや鉛筆・・・どうしてもお腹が空いて我慢できない時のパン代にと
この4年の間に少しづつ消えていっていた。

そしてあの日最後の千円を持って墓参りに行く途中の花やで
500円の花を買って墓前に置いてきた。
電車代を払ったら240円残った。
そのお金で麗はパンと牛乳パックを買い、残り23円をコンビニの募金箱に入れて来た。
だから麗のポケットには1円のお金も残っていなかったのだった。

「これが最後の晩餐かな?」その日初めて口にした言葉だった。

夕方公園のベンチに腰を降ろした時には
別に死のうとか思っていた訳ではなかった。
ただ生きる気力も無かったのは確かだ。

夜になって雪が舞ってきた・・・・
本当に死ぬ気になれば、何でも出来た筈だ
別に保護者の許可など要らない所で働く事も出来た
そうしなかったのは僕の責任だ。意思だ。

今すぐ動け、足を動かして温かい場所に行け!と違う自分が叫んでいる。
でも何故かこのベンチから動く事が出来なかった。
第六感が此処から動くな!と言ってる気がした。
誰かが迎えに来てくれる筈も無かったのに・・・・
迎えに来るとしたら死神くらいだ・・・

限界に近い体力で座っていると誰かが麗に声掛けて来た
「おい!お前さっきから此処に居るけど誰か待ってるのか?この寒空!」
見上げると其処には背の高い、そして怒った顔の男が立っていた。
『・・・死神にしては格好良いなぁ・・・』
と思ったが意識があったのはその辺までだった。
後の事は覚えていなかった。

そして気がつくと病院で点滴を受けていた。


ゆっくりと麗が話し終わるのを待っていた杉浦が
「麗・・お前と出会ったのもひとつの運命だ、俺にお前の人生を預けてみないか?」
いつもよりも、うんと優しい口調で問いかける杉浦だ。

『僕はこの人に命を助けてもらったと言っても過言ではない・・・』
「僕でも杉浦さんのお役に立てる事ありますか?」
僕の為にお金も時間も使わせてしまった。
恩返しもしたいと考えてもいた。

「ああ、勉強して仕事も覚えて、そのうち役に立ってくれればいいさ」

麗は杉浦を真っ直ぐ正面から見て
「僕を東京に連れて行って下さい」と頭を下げた。
言葉に出した瞬間に運命の歯車が回り始めたのだった。





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もうお気付きかと思いますが、
プロフィール画像を変えました。
今夜零時、進んでいなかった「永遠の誓い」3を更新致します。


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