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愛しい人へ 7

 05, 2010 18:29
杉浦が病院近くの喫茶店に入り、店内を見回していると、
窓際の席に一人の男が座っていて、杉浦に向かって軽く手を挙げてきた。
席に近づくと立ち上がり「杉浦さんですか?」と尋ねる男に
「よく俺が杉浦だって判ったな?」と言った。

「道警の岡本さんに、任侠映画に出てくる男優みたいだ、と言われましたので・・・」
改めて宜しくと手を差し出すこの男は岡本に紹介してもらった探偵の川越という男だ。
手を握り返し「もう調査できたのか?」と相変わらず横柄な態度で訊ねている。

「岡本さんに、俺より気が短いから、と言われたら最優先させますよ」
川越と言う男は柔らかい物腰で言うが目は流石に鋭い。
杉浦は川越から資料を受け取り目を通した。

のんびりと珈琲を飲む川越に
「こんな短い時間で良くここまで調べられたな」一応褒められているのだろう川越は
「意外とスムースに近所の話しが聞けましてねぇ・・・
かなりあの奥さん近所で評判悪くて、皆さん協力的でしたよ」と答えた。

「急がせて悪かったな」そう言いながら胸ポケットから封筒を取り出し川越に渡すと席を立ち
「もし又何か調べる事があったら頼めるか?」
「勿論、お任せ下さい」
川越は置かれた封筒の厚みを目で確認して喜んで引き受けた。
「追加分も込みと言うことで・・」
「了解・・」

杉浦が喫茶店を出て行くと少し温くなった珈琲を啜りながら封筒の中を覗くと
「はあ・・・たった3時間の調査で30万!時給10万かよ!」
杉浦の払いの良さに首を傾げながらも封筒を懐に仕舞いこんだ。


病室に戻ると、麗と真は仲良く話しこんでいた。
「前原君、大学は何処に行くの?」
「・・・大学なんて行かないよ」
少し淋しそうに麗が答えると
「えーっ!あんなに優秀だったのに何故?」本当に驚いている真に
「まぁ家庭の事情?僕は高校を卒業したら何処かで働くよ」
何かを諦めた顔で淋しそうに話す麗に
「ごめん・・・僕余計な事言っちゃったかな?」
「ううん、大丈夫だよ」

「僕そろそろ帰るよ・・・前原君はゆっくり休んで」真が立ち上がると
「今日は色々ありがとう、嬉しかったよ」麗が優しく微笑んだ。
真は麗の微笑みに頬を染めて、
「僕も楽しかった、又来ていい?あっでも明日退院って兄が言ってたけど・・・」

二人の会話に杉浦が口を挟み
「真、前原は明日退院して俺が東京に連れて行く」
「えっ!前原君杉浦さんと一緒に東京に行くの?いいなぁ・・・」
「何で?僕はまだ行くとは言ってないから!」
相変わらず杉浦に対しては強気の口調だ。

そんな麗の言葉など聞かない杉浦は
「真、お前も大学が休みになったら俺の所へ遊びに来い」と言った。
「はい!ありがとうございます。」杉浦に誘われて嬉しそうに真が返事する。
「では・・・僕帰りますから」

ドアの前で振り返り麗に向かって小さく手を振って真は部屋を出て行った。


真が居なくなると「俺は東京になんか行きませんから!」
不機嫌そうに麗が杉浦に突っかかった。
「じゃこれからどうするつもりだ?」
「・・・家に帰ります。」
「あの家じゃお前が高校を卒業したらお前を追い出すつもりだぞ?」
「まさか、そこまで・・・」そこまで酷く無いと言いかけて
在り得る・・・そう思い直した。

「お前にとって此処に留まる意味など無いだろう?」
「どうして?どうして僕にそんなに構うの?」
麗は困惑のあまり、杉浦に普通の口調で訊ねているのを自分でも気付いていなかった。

「さあな?俺にも判らないけど、ほっとけないじゃ納得しないのか?」
「たったそれだけで?・・・僕は何も持って居ない、何の役にも立たないよ」
「それはこれからゆっくり勉強して行けばいいさ」
「・・・明日までに決めます」

麗は杉浦の言ってる事も判る。
あの伯母は僕を憎んでいる・・・僕はあの家では厄介者で邪魔者だった。
僕が居ると優しい伯父さんまで苦しめてしまう・・・
伯母さんは何時も「雨風を凌げる屋根の下で暮らせるだけでも有難いと思いなさい」
と言っていた、あの家を追い出されたら僕は何処に行けばいいのだろう?


麗はベッドに横たわりじっと目を閉じた。
考えてもあの楽しかった日々は帰っては来ないんだ・・・
そっと布団の中で腕を捲くると肘から上にはまだ痣が薄く残っていた。
いつも痣があるのが当たり前になっていた麗は
薄くなった痣をそっと撫でてみる・・・・

「麗の肌は綺麗でお母さん羨ましいわぁ」
麗から見ても母はとても綺麗だったのに、何時もそう言ってた母。
今はカサカサして痣もある肌が又前のように綺麗になるんだろうか?
僕はどうしたらいいんだろう・・・・・・

あの男の目は未だ怖い・・・
全てを喰らい尽くされそうで怖い・・・
でも僕の髪を洗ってくれたあの手はとても優しかった・・・・




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