2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

愛しい人へ 6

 04, 2010 22:59
「やだよー放せよー」
病院の部屋着は紐ひとつ外せばいいだけの簡単な仕組みだ。
麗の抵抗も虚しく杉浦の力に敵う訳も無く、下着1枚に剥かれてしまった。
不貞腐れている麗の横でさっさと服を脱ぎ捨ててひとり浴室に入ってしまう杉浦を
呆れるように見ていた麗も諦めたように最後の1枚を脱ぎ捨て後に続いた。

「うわっ!何ここ病院だよね?」
麗が驚くのも無理も無い、この特別室の浴室はホテルかと思われるような造りと広さだった。
「当たり前だ。何の為の特別室だよ、高い入院費払っているんだから」
「ここ1日幾ら?」
「12万だ」
何でも無い事のように杉浦は言うが麗は青くなる。

もう4日・・明日退院で部屋代だけで60万円、それに治療費・・・・

「お前が気にする事はない、体力を付ける事だけを考えろ」
そして杉浦は立ち尽くす麗に向かいシャワーの湯を浴びさせた。
「ほら頭洗ってやるからここに座れ」

入院費の事を考えていた麗は言われるがままつい座ってしまった。
頭にシャワーの湯がかかり、顔に熱い湯が流れていく。
大きな掌でごしごし洗われ、一度流し又洗われる。
今度はゆっくりとマッサージをするように丁寧に洗ってくれる。

「あぁ気持ちいい・・・」美容院に行く訳ではないので、
他人に頭を洗ってもらう事など経験がない。
つい素直な言葉が麗の口から出てしまった。
そしていつの間にか大きな手は背中を洗っている。

「・・背中にも痣があるな・・」独り言のような杉浦の言葉にはっとして
「もういいよ!後は自分で洗うから!」と杉浦の手からスポンジを奪い取った。
「そうか?しっかり洗えよ」と言い、杉浦は自分の頭を洗い始めた。

「変な男・・・」

麗が身体を洗い終わり、湯船に浸かると暫くして杉浦も入ってきた。
「おい少し詰めろ!」
「狭いんだから入って来るなよ」
普通よりも充分に広い浴槽だったが大人の男が二人で浸かるには少し窮屈な感じもする。
「別にお前が少し詰めたら何の問題もないさ」

そのまま二人黙って向かい合わせで湯船に浸かっていると
「だいぶ薄くなったな・・・」杉浦がぽつっと言った。
痣の事だ・・・でも帰ると又元の身体に戻ってしまう。


麗は両親が大好きだった。

学校から帰ると手作りのおやつとハーブティが用意してあった。
暖かい母の手作りの品に囲まれて、僕も父も幸せだった。
でも今はあの家に母の温もりは無い。
ブランドショップの手提げ袋が散乱し
キツイ香水の匂いが漂い、何度も吐き気がした。

麗は目の前の男の身体をちらと見てみる。
逞しい胸、腕・・・自分とは全く違う体躯だ。
「出るか」
そう独り言のように呟いて杉浦が目の前に立った。
麗は目のやり場に困って目を逸らしてしまう。

「まだ体力無いんだから、あと10数えたらお前も上がれ」
「ぼっ・俺は幼稚園児じゃないよ!」と麗は乱暴に言い捨てた。
杉浦が立った為に湯船の湯が波のように揺れている。
その波に身体が揺らされないように、浴槽の淵を手で掴んで抗った。
波に身を任せれば楽なのに・・・心の何処かでそう言う声が聞こえて来る。

刃向かっているものの、心の中で10数え湯船から出た。
浴室を出ると、そこには真新しい肌着と病院着ではない部屋着が置いてあった。
「・・・僕なんか構っても一銭の得にもならないのに」
麗は新しい服に袖を通しながらそう呟いた。

風呂から出るとソファに一人の男が腰掛けている。
「三枝君?」
「あー前原君久し振り」
高校が違うから中学卒業して3年振りに三枝君と会った事になる。
「大分顔色が良くなったね」真が優しい目で前原を見つめて言った。
「あ・・うん・・」麗は何て答えていいか判らなくて曖昧な返事をした。

「その服僕が買ってきたんだよ、良く似合うね」
深いグリーンが色白の麗には良く似合った。
「ありがとう・・・サイズもぴったりだよ」
恥ずかしそうに笑顔を見せる麗に向かい

「家から温かい紅茶と母が作ったクッキー持ってきたから食べない?」
「頂くよ、ありがとう」
綺麗なリボンがかけてある袋を取り出すと、いい香りが鼻腔を擽る。
「まだ温かい・・・いただきます」

麗はクッキーをそっと二つに割り口に入れた。
懐かしい味だった・・・少しシナモンの味がする。
俯いてカップに手を伸ばした時にポロリと涙の粒がテーブルに落ちた。
麗は真に気づかれないように瞬きをして涙を誤魔化した。
だが少し離れた所で見ていた杉浦はそれを見逃さなかった。

「美味しい・・優しい味がする」
「本当?嬉しいな、うちの母が喜ぶよ、紅茶はクッキーと合うようにアップルティだよ」
「うん、いい香りだ・・・」
真はそんな麗に見惚れてしまった。

前原君中学の時も綺麗だったけど、今の方がもっと綺麗だ。
自分の周りにいる同級生と同じ男だとは思えなかった。
可愛くて愛嬌のある真の周りには男友達が沢山いたけど
どちらかというと体育会系の男子ばかりで、こういう繊細なイメージの男子は居なかった。

自分に対する態度とは全く違う麗の言動を黙って杉浦は見ていた。
そしてこれが本来の麗だと思っていた。
自分に対しては無理に粋がったような言葉や乱暴な態度を取っているが
何処か無理をしているのを感じていたからだ。

口出しをせずに只見ていた杉浦の携帯が震えた。
「杉浦だ・・」
簡単な返事だけをして「今行く」と電話を切り
真に向かい「真、少し出てくるから相手してやっててくれるか?」と訊ねる。

「はい大丈夫です」
「そうか頼んだぞ、おい前原少し外の空気でも吸え」
麗は返事の代わりに紅茶のカップを持ったままプイと横を向いた。

杉浦がコートを掴んで部屋を出て行くと、真が麗に向かい
「前原君拗ねてるみたいで可愛い」と揶揄する。
「まさか?冗談言わないでくれる?」と軽く真を睨む。
だが麗のそんな視線を全く気にしないで真は美味しそうにクッキーを頬張っていた。





「拍手鍵コメントのお返事」というページを作りました。
数日は記事に案内を貼りますが、それが無くなっても
左のカテゴリーから入れますので、宜しくお願いします。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



関連記事

COMMENT - 0

WHAT'S NEW?