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天使が啼いた夜 堂本紫苑~29~

 05, 2010 16:00
午後になると紫龍と一緒に実家を訪ねた。
途中で果物屋に寄って大きなスイカを買った。
「ふふっ丸だね」そのスイカを抱えて紫苑が楽しそうに笑っている。
「なんだ、丸いのが嬉しいのか?」
「だって、紫龍と二人だとカットしてあるスイカで充分なんだもの」
「実家と言っても年寄りが3人いるだけだ、そんなに食べきれないだろう?」
「年寄りだなんて失礼だよ紫龍は」
紫苑の小言に苦笑しながら車は紫龍の実家に無事到着した。

門を開け車を中に駐車させると、待ちわびてた様子の母が外に出てきた。
「紫苑ちゃん、いらっしゃい暑かったでしょう?さぁ早く家の中に」
実の息子などに見向きもせずに、紫苑に労わりの声を掛けている。
そして紫苑が抱えている大きなスイカを見て
「紫龍、紫苑ちゃんにこんな重い物を持たせて」と呆れた顔で紫龍を睨みつけた。
「ママさん、大丈夫ですよ僕だって男ですからスイカの1個くらいなら平気で持てますから」
「そう?・・・全く紫龍ったら気が利かないんだから」
それでも紫龍に文句を言いながら、
紫苑の背中を押すように家の中に入って行った。
殆ど『溺愛』という言葉を使ってもおかしくない程の寵愛ぶりだった。

ジリジリするような暑さを逃れ家の中に一歩足を踏み入れると
すーっと汗が引いていくような心地良い温度だった。
部屋に入るといつものように台所で3人の弾む声がしている。
居間にいる父親に挨拶すると、会長である親父が嬉しそうな顔で紫龍に話しかけた。
「今年の新人はかなり評判良いじゃないか」
紫苑の仕事ぶりを何処かから聞いたのだろう、満足そうな顔で頷いていた。

「ねぇ貴方、庭に井戸が欲しいわね」
冷たい飲み物を紫苑と一緒に運んで来ながら母親がとんでもない事を提案してきた。
「井戸?井戸なんかどうするんですか?」紫龍の問いに
「スイカを冷やすんなら井戸でしょう?」
そんな事も知らないのか?って顔をして紫龍を見る。

「いや、別に井戸が無くったって今は冷蔵庫っていう文明の利器があるんですから」
「そう?ま、いいわ」
その言葉に紫龍と父は、ほっと胸を撫で下ろした。

しばしの団欒の後に、母が紫苑にお願いがあると言い出した。
「何ですか?僕に出来る事なら何でもやりますから」
何も知らない紫苑がそう言うと
「ちょっと和服の整理していたんだけど、組み合わせとか迷ってしまって・・・
紫苑ちゃん、ちょっとモデルになって着てみせてくれないかしら?」
母の無茶振りな提案に紫苑は簡単に「いいですよ」と返事をした。

逆に紫龍の方が慌ててしまい「紫苑、女性の和服のモデルだぞ?」と言うと
「ママさんの着物を着てみせるんでしょう?大丈夫ですよ家の中だけなら」
「そう!?嬉しいわ紫苑ちゃんありがとう、早速着せてあげるから和室に行きましょう」
紫龍の母がそう言うと「着付けなら自分で出来ますから」と紫苑は普通の事のように言った。
「えっ?」ここにいる紫苑以外の全員が驚きの声を上げた。

「あ・・・ほら祖母の手伝いをしているうちに覚えたんです。」
「女性の帯も結べるの?」紫龍ママの言葉に
「ええ、簡単なものなら・・・ふくら雀くらいまでは・・・」
「何だその・・なんとか雀って言うのは?」
だが紫龍のその質問に紫苑が答える前に「まあ素敵!さあ行きましょう」
と母にあっという間に連れ去られてしまった。

紫苑は母とこの家の家政婦だけど殆ど身内みたいなタキと一緒に
和室に消えて行ってしまった。
和室に入ると紫苑は驚いた。
「凄い数ですねぇ・・・」
紫苑の祖母も普段から和服を着ていたから数多くの和服を持っていたが
紫龍ママの数も相当な物だった。

「私も最近は家庭菜園するから洋服が多いけど、以前は着物ばかりだったのよ」
と懐かしそうに話した。
「でもね、この着物も・・・もう着てくれる人が居ないから」
「ママさん・・・」
紫龍ママは軽い気持ちで言ったのだけど、紫苑は改めてショックを受けてしまった。

「ママさん、やはりお嫁さんが・・・」欲しいんですね、と言いたかったが言えなかった。
「え?お嫁さん?まさか、お嫁さんなんか要らないわ、
万が一いても大事な思い出の詰まった着物あげないわよ」
明るく意地悪い言葉に紫苑もどう言っていいのか判らない。

「だから、紫苑ちゃんが貰ってくれればいいの!」
「そ・そんな・・・僕が女性の着物を持っていても・・」
「そうね・・でも着て見せてくれるわよね?」
「はい、僕でよければ」
さっき着ると答えたけど、今度は違う意味で着たいと思った紫苑だった。

それから3人で何枚もの着物を当てて鏡を見る、その繰り返しだったが
その中でもシンプルなのに紫苑の肌を一番引き立てた紺色の絽の着物に決めた。
紫苑は2人に席を外してもらって、一人で全ての着付けを済ませた。
勿論女性用の着付けだ。

紫苑は姿見に移る自分を見て『貴方は誰?』と問い掛けていた。
『鏡の中の僕は誰?』

「紫苑ちゃんどう?ちょっとだけ紅を引きましょうか?」
紫龍ママにそう言われ振り向いた紫苑を見て足を止めた。
さっきまでの浮ついた顔では無く真面目な顔で
「ごめんね、ちょっとだけ口紅付けさせて」
紫龍ママは手にピンク色した口紅を持っていた。

そして紫苑の前に回り、その可愛い唇に紅を引く。
「・・・紫苑ちゃん綺麗」
たったひと塗りしただけで、その唇は艶を増し、
そして紫苑が気になっていたその輪郭がはっきりした。
『母さま・・・』鏡の中に紫苑は遠い日の母の姿を見たような気がした。

そんな紫苑を胸に抱き締めて
「ごめんなさい紫苑ちゃん・・・辛い事をさせてごめんなさい・・」
と詫びたその声は鼻声だった。
きっと紫龍ママも紫苑の中に紫苑の母桜子の面影を見たのだろう。

「せっかく着てもらったけど、もう脱ぎましょう?」
「いいんですか?」
「ええ、主人にも紫龍にも見せるのは勿体無いわ」
「・・はい」
「私はあちらに行ってますから、着替えたら美味しい和菓子でも頂きましょう」
そう言った声はもういつもの紫龍ママだった。

そして紫苑が着替えている間に紫龍に向かって
「縁談の事は自分できっちりお断りしなさい、紫苑ちゃんを巻き込む事は許しません」
ときっぱりと、そして朝とは違う事を言っている母を呆気にとられて紫龍は見ていた。




「拍手鍵コメントのお返事」というページを作りました。
数日は記事に案内を貼りますが、それが無くなっても
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(記事を書くのは夜になると思います)

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COMMENT - 8

jun  2010, 12. 05 [Sun] 17:49

こんばんわ、
今日は0時の更新じゃなくて夕方だったんですね。
紫苑の着物姿って美しいんですね。
ママさんだけ見て他の人には見せない。
ヤダー、僕も見たかったなー。
紫龍、見合い相手にちゃんと断れるのかな?

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tukiyo  2010, 12. 05 [Sun] 18:31

スイカを冷やすだけに井戸が欲しいと言う紫龍ママ。
どこか浮世離れしている紫龍ママと紫苑ちゃんって似てる?
スイカ丸ごとって嬉しい気持ちわかるわ~~~。
でも、実際にもらったりすると困るんですよね~~ww

大地のクリスマスが24日と25日にわけるのかしら?っていうのは
海と空とふたりいるでしょ?
3人で一緒にクリスマスを過ごすのか?
二日にわけでそれぞれとふたりっきりで過ごすのか?
って意味ですーー。
いずれにしても大地は大変だな^m^と期待してるわけです。

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けいったん  2010, 12. 05 [Sun] 18:49

晩飯より 読むのが 先なのだッ!

夕方の更新だったとは 新刊書を 手にして すぐ 読んだ感じで 嬉しい♪いつも 皆様より遅れてのコメで 柄にも無く 恐縮してたんです...ご存知の通り へタレですから...(*yy*)

着物姿の紫苑を連れて 歩きたかっただろうなぁ紫龍、残念。
でも 着物姿の紫苑が あまりにも 母桜子に似ていて 紫龍ママも 辛いんでしょうね。
そして 紫苑は もっと 辛く悲しいと 思ったのでしょう。
紫龍は きっぱり はっきりと 自分ひとりで 決着をつけるのは 当然。
甘やかしては いけません!!
「おとこ紫龍、がんばれよッ!!」 (^^)ゞbyebye☆

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-  2010, 12. 05 [Sun] 20:08

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kikyou  2010, 12. 05 [Sun] 23:14

junさま

> こんばんわ、

こんばんは! 何か「おはよう」じゃないのが不思議ですね(笑)

ちょっと最近は更新が不規則になってます。
スミマセン^^;
でも1日1回は更新したいと思うので、覗いて下さいネ。

紫苑の美しい着物姿、もう少し書きたかったです^^
紫龍ママは、そんな紫苑を表に連れ出そうとした事を直ぐに後悔しましたね。

紫龍に見せると大変な事になりそうだし、
ママと違って、紫苑の母を知らないですからネ。
でもあとできっと「綺麗だったわぁ」って紫龍の前で言うのでしょうネ(笑)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 12. 05 [Sun] 23:20

tukiyoさま

こんばんは。

紫龍ママ豪快です(笑)
スイカ丸ごと・・・大家族ならいいですが・・
2年ほど前に2人家族なのについ丸で買ったら、不味かったです^^;

スイカよりも丸ごと貰って困るのは南瓜です・・・


あ、判りました意味"^_^"
寂しがりやの大地はやっぱ3人で過ごしたいでしょうね。
夜は・・・?
じゃんけん?(笑)それとも2人いっぺんに面倒みますか、大地?

この子たちの話はまだ構想中です。
3つは頭の中でラフ出来てるんですが、
大地たちと、「愛しい人へ」はまだなんですよね・・・
頑張れ私!(笑)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 12. 05 [Sun] 23:25

けいったんさま

まず、晩飯を先に食べちゃって下さい(笑)

こんばんは。
けいったんがヘタレ?またぁそんな事は無いでしょう。
けいったんがコメする時の指の動きを見てみたいと思ってましたよ。

指先からオーラが出ているのでは?と思っています。


最近はちょっと不規則な更新になってしまって^^;

紫龍ママは鏡に映った桜子に似た紫苑に胸が痛かったと思います。
でも流石です、躊躇い無く切り替えましたネ。
やはり強いですね母は・・・・

「漢、紫龍」頑張ります!
でも紫苑の着物姿を見れなかった事を悔やんで変な事をしないか・・?
けいったん、見張ってて下さいネ(笑)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 12. 05 [Sun] 23:30

此花さま

こんばんは。(名指しで書いてしまいます(笑))

私は此花さんのコメントを読んで泣けてしまいました。
全くどんな所に涙腺があるんだ?って感じですよ^^

遠い記憶の母の姿と自分の姿が重なってしまいました。
紫龍ママはそれに気付いて、そっと蓋をしてくれました。
これもまた母の愛ですよね。


あぁ詩鶴君・・・大丈夫か?と心配になってきます。
伯父であり、実父であり・・・・そして更に何かありそうですねぇ。
まだまだ謎が多いです。

早く幸せにしてあげて下さい!

コメントありがとうございました。

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