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愛しい人へ 5

 04, 2010 22:08
松本進 45歳
4年前に妹夫婦が交通事故で死んでから、人生が一転してしまった。
その当時バス会社に勤務して、観光バスの運転手をしていたが
バスガイトとの浮気がバレて離婚寸前まで追い詰められていた。

妻の律子は1つ年下で、結婚当時は同じバス会社でガイトをしていた。
観光バスの仕事は2・3泊程度の泊まりが多いせいか
長い時間一緒に居る為に運転手とガイドが恋愛に発展することも、
結婚する事も珍しくは無かった。

幸か不幸か二人の間には子供が居なかった。
進も離婚は覚悟していた矢先の事故死だった。
3つ下の妹は、気立てが良くて器量良し、自慢の妹だった。
妹の千春は二人の離婚問題にも心を痛めていて
暇があれば律子を訪ね、兄の代わりに謝罪までしてくれていた。

だがそんな千春にも妻は敵意を剥き出しにしていた。
2歳しか違わないのに、子供の居る千春の方が10歳も下のように若々しかった。
知人の集まりでも、すぐに比較されて面白くなかったようだ。

「私だってね、千春さん位に暇があれば綺麗にしていられるわよ!」
現在は近所で1日5時間のパートタイムで働いている妻の口癖だった。
千春も自宅でパッチワーク教室など開いていたから、暇だった訳じゃない。
小さい頃から手芸が好きで、いつもコツコツと何かを作っていた。

趣味で始めた教室だったが、千春の人柄の良さに生徒も大勢集まっていた。
いつも綺麗に片付けた家に、手作りの菓子の匂いがして・・・・
利発で妹に良く似た可愛い息子。
絵に描いたような幸せな家庭だった。

あの事故の日までは・・・・・


事故の日から1週間後には進と妻は妹夫婦が建てた家に引っ越して来た。
そしてひと月後には、妹が作ったパッチワークの作品ひとつ残されず
妹家族が住んでいた頃とは全く違う雰囲気の家になってしまっていた。


・・・麗・・・麗が帰って来なくなってから3日過ぎた。
「丁度いいわ、厄介払いが出来て」と妻は毒づくが進は心配で仕方が無かった。
進は妹の忘れ形見の麗が可愛かったが、進が可愛がれば可愛がる程妻が麗に辛く当たった。
「何よその目は!本当に千春さんにそっくりで苛々する!」

進は麗に対するあまりに酷い態度の妻に一度手を上げてしまった。
そしてそのお返しは麗へと向けられた。

そんな事が幾度か繰り返され、進は次第に麗に構わなくなってしまった。
高校生になった麗がアルバイトをしたいと言ってきた。
未成年のバイトには保護者の承諾が必要なのだ。

体裁を気にする妻は断固としてアルバイトを認めなかった。
昔同じ会社で働いてたから運転手としての収入も良く判っていたし
私の土産物屋などで入る小遣い程のリベートやチップまで取り上げられる。
麗に小遣いすらあげてやれない情けない伯父だった。

進は妻に内緒で自分の生命保険の受取人を麗に書き換えた。
2箇所で1億円になる。
それでも足りない・・・麗の両親が残した保険金に比べたら・・・・
だが進はそれしか償いの方法を思いつかなかったのだった。




「おい飯だ」
杉浦は無愛想に麗に声をかける。
「何であんたが持ってくるんだ?」麗の態度も相変わらずだ。
「そろそろ固形物を胃に入れておかないとな・・・明日退院だ」
「・・退院?・・・」
「そうだ退院して東京へ行く」
「はあ?まだそんな事言ってるのか?俺は行かないって!」

「退院して、またあの酷い親戚の家に帰るのか?
お前に飯も食わさず、暴力を振るうような親戚の家にか?」
「何で・・・何でそんな事・・・」

「何で知ってるかって?そりゃお前の裸を見れば想像つくさ」
「見たのか?医者でも無いのに見たのか?」

「早く飯食え」

傍で二人の会話を聞いていた三枝が
「本当に二人の会話は成り立っているのか、いないのかさっぱり判らないなぁ・・」と呟く。

「あ、前原君、食事済んで30分位したらお風呂入ってもいいですよ」
「ふ・風呂・・入りたい・・・」体は綺麗に拭いてもらっていたが、やはり湯に浸かりたかった。
「俺が洗ってやる」突然の杉浦の言葉に
「はあ?」と三枝と麗の口から同時に驚きの声が上がった。
そんな麗たちに「まだ一人じゃ無理だろう」
と何でも無い事のように杉浦は言った。

「そういう問題じゃないだろ?何で俺があんたに洗って貰わないといけないんだよ!」
麗はスプーンを握り締めて怒っている。
「別に恥ずかしがる事じゃない」
「だーかーらー!恥ずかしいとか、恥ずかしくないとかの問題じゃないんだって」
「恥ずかしくないんなら問題ないじゃないか」

全く話しにならない。

そして食事の1時間後、特別室の浴室には温めの湯が張られていた。




クリスマス企画に向けての「天使の箱庭」からの転載です。

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