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愛しい人へ 3

 03, 2010 23:34
杉浦と一緒に慌てて処置室へ駆け込むと目覚めた少年が
点滴の針を引き抜きカゴに入れてあった濡れた自分の服に着替えようとしていた。
だがその身体には力が入らずふらふらしている。

「君何やってるんだ!」叱り付けるように声を荒げると
「僕、帰ります・・・」
「そんな身体じゃ無理だ・・少し入院した方がいい」

三枝の言葉に怯えたように振り返り
「無理・・・帰ります」
その時杉浦が少年の所に歩み寄り、少年が手にした濡れた衣類を叩き落した。
「大人しく医者の言う事を聞け!」
その凄みに近くに居た看護士が身を竦めた。

その少年は白衣も着ていない派手目なスーツに身を包んだ男を睨みつけ
「あんた誰?」
「俺か?・・・俺は死神だ」
そう言うと少年の鳩尾に一発食らわせた。
一瞬の出来事で三枝も止める暇は無かった。
「おいおい・・病人に手荒な真似すんなよ・・」

「いいからとっとと、点滴続けろ、こんな処置室じゃなくて個室は空いてないのか?」
「判ったから・・・」三枝は溜息を吐きながら近くで呆然としている看護士に向かって
「個室空いてたよね?このまま個室に移動させてくれる?」と言った。
気を取り直したように「はい判りました」
と返事をしたその後はテキパキと職務をこなす看護士だった。



個室の中でも一番高い特別室だ。
あれから3日、少年の身元は未だ判明しない。
倒れた時の格好からして遊び歩いているような感じでも無かった。
遊んでいる少年なら、2・3日家に帰らずとも捜索願までは出されないかもしれない。

「ネグレクトか・・・・」杉浦は特別室のソファに腰掛ながら呟いた。
点滴のおかげで、顔色も少し良くなり、荒れていた肌も少しましになっていた。
しかし身体の痣はまだ消えそうにない。

聴診器を外しながら「退院しても構わないけど、身元が判らないんじゃなぁ・・」と三枝が溢す。
「それに帰した所でいい環境が与えられるとは思えない」と付け加えた。
その時、杉浦の携帯が胸ポケットで震えた。
液晶の表示を見て「チッ」と舌打ちしてから通話ボタンを押している。

「社長!もうそろそろ蟹もイクラも食べ飽きたんじゃないですか?」
電話は杉浦の片腕の西条からのものだった。
「そう皮肉を言うな・・・」
西条とは大学からの付き合いだった。
北海道出身の西条を東京に呼び寄せたのは杉浦だ。
司法書士の資格を持っている西条は不動産業という仕事にも、
杉浦個人にもなくてはならないパートナーだった。


翌日には帰ると言って羽田を飛び立ち、もう4日目だ。
「西条お前こっちに来てくれないか?」
「はぁ?社長のお陰で私がどんなに忙しい思いをしていると思っているんですか?」
育ちがいいのか、大学の頃から西条の口調は丁寧で変わらない。

杉浦の性格も判っている西条は予定よりも長く滞在した上に自分まで札幌に来いと言うのは
何か事情があっての事だと判断して頭の中で素早くスケジュールを調整する。
「明日、日帰りなら何とかなりますが、その代わり社長も私と一緒に帰るのが条件ですよ」
「判ったそのつもりで準備しておくよ、着いたら三枝の所に来てくれ」

「西条も大変だな・・お前みたいなのの下じゃ」西条に同情してしまう三枝だった。
「それより今日中に身元判らないか?」
「難しいだろうなぁ・・・・」

こんこん
その時控えめにドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアをそっと開けて顔を覗かせたのは、三枝の一回り年の離れた弟だった。
「医局に行ったらここだって言うから・・」
病室を訊ねるのは憚りがあったのだろう、小声で囁くようにしゃべる。

「構わない、入れ」
「杉浦さん、こんにちは、お久し振りです」
「おう、相変わらずブラコンか?」
揶揄されて顔を赤くしながら「もう、杉浦さんって何時もからかうんだから・・」と拗ねている。
そんな弟が可愛くて仕方ない三枝は
「どうした?小遣いか?」全くもって弟には甘い。

三枝の弟は「違うよ・・ちょっと気になって」
ちらっと杉浦を見てから「凄く綺麗な子が運ばれたって聞いて・・・」
「ばか、女じゃないぜ」
そう言って揶揄する杉浦に「もしかして知ってる子かも」と言う。

「えっ?」大人二人して顔を見合わせる。
「とにかく会わせて、勘違いかもしれないし・・・」
こっちだ、杉浦が案内してベッドのある部屋の扉を開けた。

眠っている少年を起こさないように、そっと覗き込み小さな声で
「やっぱり・・・」
そう言うと、二人に向かって弟は頷いた。

又そっと部屋を出てソファに3人で腰掛ける。
「知ってる奴か?」杉浦が静かに聞くと
「はい・・中学の時の同級生で前原麗君って言う子です」

「まえはら れい・・」それがこの少年の名前・・・





クリスマス企画に向けての「天使の箱庭」からの転載です。

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