2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

愛しい人へ 4

 03, 2010 23:51
「前原 麗・・れいは麗しいって字だよ」三枝の弟が付け加える。
「でも真、どうして知ってるかもと思ったんだ?」
「僕ナースセンターで聞いたんだよ、身元不明の綺麗な子が特別室に居るって」
看護士たちに可愛がられている真は患者の家族からの差し入れのケーキに
釣られて頻繁に遊びに来ているのだった。

「看護士さんが、綺麗な子だけど身体中痣だらけだって・・・」
「三枝、お前の所の守秘義務はどうなってるんだ?」杉浦は怒るが
「まぁ身内だからつい話したんだろうよ、勘弁しろよ、お陰で身元判っただろう?」
と三枝に言いくるめられた。

「でも何で痣がある事をお前が知っているんだ?」
「うん・・中学3年の時だけ同じクラスだったんだけど
中学2年くらいからあまり学校に来なくなったみたいだし
一度体育の着替えの時に僕見ちゃったんだ・・・身体中に痣があるのを・・・」

「「どうしたの?」ってつい聞いたら、『別に・・見なかった事にして』って言われて」
「学校でイジメとかは無かったのか?」
「無かったと思うよ、前原君は大人しかったけど成績も良かったし
綺麗だったから、皆注目してたけど誰ともつるまないで、いつも一人だったし」

「親は?」
「詳しくは知らないけど、中2の時に交通事故で両親いっぺんに亡くしたって聞いた事があるよ。」
「じゃ、誰が面倒見てるんだ?」
「伯父さん夫婦に引き取られたって聞いたけど、家は引越ししてなくて
前住んでいた家にまだ住んでいるみたい・・・」


「交通事故って?」
「何か運送会社のトラックと衝突したらしいよ、凄い保険金下りたって
その当時僕らの間でもちょっと噂になったもん」
「それなら俺も聞いた事あるぞ、運び込まれたのはここじゃないが
トラックの居眠り運転でほぼ即死だったらしい」三枝が付け加えた。

高校が違ったからそれ以上詳しい事は判らないと言う真に後はこっちで調べると言い
「真、ありがとうな」そう言って無造作に財布から数枚の札を引き抜き真に握らせた。
「僕・・そんなつもりじゃ・・」慌てて握らされた札を返そうとする真に
「参考書でも買えよ」それはいつも小遣いをくれる時の杉浦の台詞だった。

真は困って兄の顔を見ると、兄は「良かったな、貰っておけ」と頷く。
「ありがとうございます、もし何か判ったら電話します」と真が部屋を出て行った。

特別室を出て廊下を歩きながら、握った札を数えると5枚あった。
お金に何不自由なく育った真だったけど、小遣いは高校生らしく月1万円だった。
杉浦は遊びに来る度に「参考書でも買え」と言って小遣いをくれたが
まだ高校生だからと言って何時も1万円だった。
子供に余計なお金は持たせるな、っていつも兄に文句言ってたのに・・・

余程前原君の身元が判って嬉しかったのかな・・・・
腑に落ちないで歩きながら「でも良かった、我慢していた美術書を買おう」
学校の勉強で使う参考書や辞書は親に頼めるけど
自分の趣味である美術書は小遣いを貯めて買っていた真だった。



「保険金か・・・岡本に調べてもらおう」そう杉浦が言った。
三枝は何故杉浦があの少年に興味を持つのか判らなかった。
そりゃ美少年だけど、それは後で判った事だ。
最初に見た時は男か女かさえも判らなかったのだから、
見た目に興味を持った訳じゃなさそうだと思った。

「なぁ杉浦、何故お前はあの子にそんなに執着するのか?」
「執着?俺が?」
『全くもって無自覚か・・・』
「ああ、お前ってどっちかと言うと他人と余り関わりを持たない方だろう?
それなのに、見ず知らずの少年を助けて、金まで使って・・・」

杉浦は金に汚い男ではなかった、使うべき所では惜しみなく使うが捨て銭を使うタイプではない。
三枝には今回の件は捨て銭としか思えなかった。

「あいつを公園で初めて見かけた時にオーラが見えたんだ」
杉浦の唐突な言葉に驚きながら
「えっ?お前って見える人?」と三枝が尋ねた。
「いやぁ最初はネオンか何かの反射かと思っていたんだが
帰りに見かけた時は、もっとはっきりと見えた。
赤い炎のような・・暖かい光のような物があいつの身体を抱くように見えたんだ・・・」

杉浦は他人が言ったらきっと殴り飛ばしているだろう事を恥ずかしげもなく自分で口にした。
三枝も実際、あの寒さの中数時間過ごした割りには軽い症状で少し不思議には思っていた。
あの栄養失調の体力を考えると奇跡のようでもあった。

「北の大地だ・・・神秘的な事も起こるかもしれないな・・・」
三枝はそう答えるしかなかった。

杉浦は返事をせず、道警の岡本に電話を入れてみた。
そして少年の身元を知らせ、4年前の交通事故の調査を頼んだ。

その時隣の病室から物音がしたので慌てて覗きに行った。
すると前原少年がベッドから降りようとしているではないか。
杉浦が少年の前に立ちはだかり「前原 麗」とゆっくり名前を呼んだ。

返事の代わりに「僕はここの入院費なんて払えませんよ」と杉浦を睨みつける。
三枝が聴診器を掛け、「ちょっと横になって」と言うと大人しくベッドに上り横たわった。
「もう大丈夫だが、君の親代わりの人に連絡をしなくてはならないが?」
と言うと「親も親代わりも居ませんから・・・」
三枝には素直に受け答えをしていた。

杉浦が横から「家出か?」と訊ねると
「あんたには関係ない」
「本当に死ぬ気だったのか?」
「あんたには関係ない!」
前原少年の杉浦に対する態度も腑に落ちない・・・・

「杉浦、お前嫌われているみたいだから黙ってろよ
前原君、三枝真って知ってるかい?中学の時の同級生だよね?」
「三枝真・・・」ゆっくり呟いてから麗は黙って頷いた。
「俺の弟なんだよ」
それで自分の名前が知られたのか・・・
やっと麗は自分の名前を知られた理由に納得した。

「お前は家に帰りたいのか?」黙っていろと言っても杉浦は口を挟んでくる。
「・・・・・」
「じゃ俺がお前を東京に連れて行く。」
「!」一瞬目を見開いて「何であんたと東京なんか行かないとならないんだよ!」
と麗は叫ぶように言った。
三枝は麗の杉浦に対する口調に違和感を覚えた。

「前原君、きみはこの男が嫌いなの?」
「・・・はい・・」
「どうして?会ったばかりだし、君を助けたのも彼だよ」
「・・判りません・・・本能です・・」

本当の所麗自身にも判らなかった。
初めて見た時から何か近寄っては駄目だ・・と自分の本能が教えてくれた気がした。
その先にあるのが、底なし沼か蟻地獄か、はたまた地獄の釜の中か?
この美丈夫な男に関わると麗はとんでもない未来が待っているような怖さを感じていたのだった。




クリスマス企画に向けての「天使の箱庭」からの転載です。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



関連記事

COMMENT - 2

-  2010, 12. 04 [Sat] 17:54

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 12. 05 [Sun] 00:03

鍵コメ Aさま

こんばんは。

テヘッ・・・読んで下さってありがとうございます。
初期の頃の作品なので人称がマチマチで、今修正しながら上げています。

これは麗のイメージが最初に浮かび書き上げたものだし
今読み返すと、本当に恥ずかしい気分なのですが
この話は先日のアンケで2位になった作品。
私も意外でした^^


全然生意気なコメじゃないですよ(笑)
どんどん感想を言って下さると凄く嬉しいです。
ありがとうございます。

クリスマスまでに全部話しを移しておかなければ、です。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?