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愛しい人へ 8

 05, 2010 18:41
「おい晩飯だ」
麗は杉浦にそう言われ起こされた。
いつの間にか眠ってしまったみたいだった。
外を見るともう闇が窓からの景色を覆っていた。
「今何時?」
「7時だ」

ベッドの上では無くテーブルに夕飯の準備が出来ていた。
「これって・・・病院ってこんな食事なの?」
テーブルの上に置かれた料理はどれも皆美味しそうで綺麗だった。

「特別に用意してもらった」
どうしてこの男は何時も怒ったように話すのだろうか?
「これ僕が食べていいんですか?」
昼間真と話しをしてから麗の口調はとても丁寧になっている。
地が出てきたというか・・・普通の場合と逆だ。

「どうして今まであんな乱暴な口調だったんだ?」
「・・・それは・・・あなたに・・あなたに合わせただけです。」苦しい言い訳だった。
自分でも何故だかは判らなかったからだ。

杉浦は口角を少し上げて
「人に合わせる事は無い、自分の言葉で話せばいいさ」と言った。
「・・はい」
「ほら冷めないうちに食べろ」
「あなたは?」
「杉浦だ」
「杉浦さんは食べないんですか?」

「俺と一緒だと美味くないだろう?」
「・・・そんなこと無いです、一人で食べるよりは美味しいと思います」
あの家に居る時は伯母達の食事が終わってから、残り物をひとり台所の隅で食べていた。
一人で食べる食事がどんなに不味いか麗は良く知っていた。

すると杉浦は内線を使い「俺の食事もここに持って来て」と誰かに伝えていた。
5分程すると、2人がかりで食事を運んで来てくれた。
麗は自分の物と全く同じ消化の良さそうな料理を眺めて
「同じ・・・同じでいいんですか?」
どうしても杉浦のイメージは肉食だったから・・・。

どうして?と言うような顔をして杉浦は「夜はこういうのが良いんだ」と言う。
少し安心して「いただきます」と手を合わせ箸を持ち上げる。
「無理しなくていいから少しづつでも手を付けろ」と言われ頷く。

向かい合って摂る食事・・・誰かと落ち着いて食べるのは本当に何年振りだろう?
小鉢の煮物の椎茸に手を伸ばす。
鏡のように杉浦も手を伸ばしている。
次にインゲンの胡麻和えを摘まむと杉浦も同じだ・・・

そして同じように煮魚に箸を付ける。
麗はちょっとムッとしてご飯茶碗を持ち前を見ると左手にご飯茶碗を持つ杉浦がいた。

そこに「お前ら何やってんの?何かのゲーム?」
何時の間に来たのか三枝院長が呆れた顔で立っていた。

「お前何時からそこに居るんだ?」憮然として杉浦が睨みつけている。
「いただきます。って声が聞こえた頃からだ」

三枝は杉浦と麗がお互いを見ている訳でも無いのに
同じように同じ料理に手を伸ばすのをずっと見ていた。
打ち合わせしたような動作に思わず声が出てしまっていた。

「お前たちって、もしかして前世で双子だった?」真面目な顔で呟く三枝に
「いや夫婦だったかもしれないぞ?」と杉浦がからかうように答える。
「わ・悪い冗談言わないで下さい」

麗の箸の進み具合を見て
「食欲も出てきたね」と三枝が言うと
「ありがとうございます。こんな美味しい食事を用意して下さって」と麗が言うと
「あ、それは杉浦が近くの料亭から取り寄せた物だよ、俺の分は無いけどね」
「余計な事言わなくていい」杉浦が眉を寄せて言った。

「えっ?わざわざ?」
「ほら茶碗蒸しも食べろ」と人の話しを聞かないで麗の碗の蓋を取っている。
「あっ!」二人口を揃えて出る言葉に
「どうした?」と聞くと、これも又「銀杏」と呻く。
「ふたりとも銀杏嫌い?」
麗は頷き、杉浦は「入れるなと言ったのに!」と怒っていた。

「本当にお前達面白い!一度DNA鑑定したいくらいだよ」
「五月蝿い、あっちに書類あるから目通しとけよ」と顔でクローゼットを指す。
ふたりが食事している間に三枝はソファに腰掛け、ざっと報告書に目を通した。

三枝がテーブルに戻ると、丁度食事が終わった所だった。
銀杏以外は全部食べられたようで安心だ。
栄養のある物を摂り少しでも早く体力を取り戻して欲しい、医者としての願いだった。

「俺は用事があるから、お前はゆっくりしておけよ」
「お前じゃありません、前原・・前原麗です。」
「麗か・・何か必要な物があったら持ってこさせるが?」
「いえ大丈夫です。」
席を立つ杉浦に
「あ・・・ご馳走様でした」少し照れたように礼を述べている。
「おう」杉浦の無愛想さにも慣れたのだろう。


杉浦は報告書を片手に三枝と一緒に院長室の奥へと向かった。
ソファに腰を降ろす杉浦に「思ってた以上に酷いな」と三枝が言うと
「少し酒をくれるか?」
そういえば酒の好きな杉浦がここ3日飲んでいなかった。

「ああ、ブランデーでいいか?」
「いや、スコッチをロックでくれるか?」
三枝は仕事柄あまり外で深酒できなくなったので
院長室の奥の私室に数種類の酒を常備していた。
術後の経過が心配要らない時に少しだけ寝酒を飲む程度だったが。

グラスの中の氷がカリンと音を立てる。
ロックグラスを片手に報告書を眺めていた杉浦が
携帯電話に手を伸ばし、記載されている電話番号をゆっくり押した。






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