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愛しい人へ 17

 10, 2010 18:14
麗を抱きかかえるように社長室に戻って来た杉浦を見て西条は驚いた。
麗にでは無く、切なく不安な顔をしていた杉浦に対してだった。
『全く、そんな顔してここまで来たのですか?』そう言ってやりたかったが
口に出した言葉は「どうしました?」と平静を装ったものだった。

「麗が・・・・多分女子社員の爪だ・・・脅えてる」
西条も一緒に麗の家に行っていたから伯母の派手な格好と
派手なネイルを思い出した「そういう事ですか・・・」

すると杉浦の胸に顔を埋めたまま麗が唸るように呟いた。
「伯母さんは・・・爪が壊れるからって・・・いつも電話機やリモコンで僕を・・・
僕の体が壊れるより爪が剥がれたり壊れたりするのを気にしてた・・・」
杉浦は唇を噛んで「もういい、思い出さなくていいから・・・もう大丈夫だから・・」
そう言って麗を愛しそうにぎゅっと抱きしめた。

暫くじっとしていると「すーすー」と寝息が聞こえて来た。
「・・・・寝たみたいだ」声には出さずに口パクで西条に伝える。
眠った麗を起こさないように、胸に抱いたままソファにもたれ掛かる。
たっぷりの休養と栄養で麗の肌はきめ細かく綺麗に再生されている。
その頬を指の腹で撫で「ふん、赤ん坊みたいだな・・」と口角を上げている。


その様子を眺めていた西条は携帯を手にして、札幌の三枝にメールを送った。
「杉浦が恋する乙女になった!」とだけのメールを。
そんなメールが送られていた事など杉浦は知る由もなかった。

10分程で目覚めた麗は自分が杉浦の胸に抱かれている事に驚き体を捻った。
「ぼ・・ぼく・・・」

麗はここに来てからの生活が穏やかすぎて忘れていた事を思い出してしまった。
伯母が鋭利な爪を付けた指を伸ばし、麗の顔に触れそうになる。
麗は目を突かれるような恐怖に陥り、目をぎゅっと瞑ると、
その手は麗の髪を掴み乱暴に引っ張った。

一瞬あの恐怖が蘇り、あの女子社員に酷い事をしてしまった。
「落ち着いたか?」優しく覗きこむ杉浦の顔を見て
「・・はい・・すみません取り乱して」
麗は折角のバイト初日に醜態を晒して穴があったら入りたいという気分だった。

「仕事戻ってもいいですか?」不安気に聞いてくる麗に
「大丈夫か?」と確認すると頷くので西条に向かい「粕谷君呼んで」と頼んだ。

暫くして呼ばれた粕谷が社長室に入ると
顔色も元に戻り恥ずかしそうに「すみませんでした・・・」と頭を下げる麗が立っていた。
粕谷は「大丈夫なんですか?」と杉浦の顔を見た。
「こいつは・・・女性恐怖症とでも思ってくれ」
「女性恐怖症?最初は大丈夫だったんですけどね」と言うと
「触れられるのが駄目だ」

「わかりました、気をつけておきます」と粕谷が言うと
「粕谷さん、すみません・・ご迷惑お掛けして・・」麗がすまなそうに言うが
「大丈夫だよ、さっ仕事戻ろうか?」と麗を促す。
麗は杉浦を振り返り「行ってきます・・」と言った。
そんな麗に杉浦は「ああ、頑張って来い」と優しく微笑み見送った。

粕谷は麗を連れて歩きながら
『その気になればモテるだろうに、苦手って勿体無いなぁ』と思っていた。
「触れられるのだけが駄目なのか?」
「・・・多分・・」
「何か頼りないなぁ」からかうように言われたが本当に判らなかった。
自分でもあんな風になるとは想像もしてなかったからだ。

考えてみたら、麗の周りには若い女性が居なかったし
最近では病院で世話してくれた看護士がいたが仕事柄爪や指に装飾はなかった。


麗が出て行くと西条が
「思った以上にあの女の虐待は身に沁みているみたいですね」と言うと
「そうだな・・・無意識な分何処でどうなるか・・・心配だな」
4年以上に及ぶ虐待が簡単に忘れられるはずが無いか・・・
表面は忘れているようでも、体は覚えているんだろう、
杉浦は言葉に出さずに胸の中で呟いた。

そんな事を考えながら、そういえば最近一緒に風呂に入ってない事を思い出し
『今夜は一緒に風呂に入り頭でも洗ってやるか』
そう思うとさっきまでの憂鬱が飛んで行った気分の杉浦だった。

急に機嫌が良くなった杉浦に「どうしたんですか?」と西条が問いかける。
「いや・・・今夜一緒に風呂入ろうと思ってな・・」と思って。
「は・・・セクハラでもしてるんですか?」
揶揄する西条に真剣な顔で
「いや、体が回復しているか点検してるだけだ」と言い放つ。

『恋する乙女がセクハラ大王になりつつある』
西条は新たなメールを三枝に送った。


そんな西条は人に言えない苦しい恋をしていた。
だから杉浦に誘われるまま、故郷を離れ東京に出てきたのだ。
西条は杉浦の変化が麗への恋心だと確信していたが当の本人は気づくはずもない・・・・
今まで完全なノンケだった杉浦が自分の気持ちに気づくのは時間がかかるだろう。

「なかなか難しいものですね・・・」
「何がだ?」
「いえ・・・独り言です」
そういう西条の顔に寂しさを見た気がしたが、杉浦はそれ以上何も聞かず机に向かった。




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