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愛しい人へ 18

 16, 2010 12:26
粕谷は麗を1階に連れて行くと先ほどの女子社員に向かって
「悪かったなぁ、彼、女性に慣れてなくって驚いたらしい」そう説明してくれた。
「本当にすみませんでした」と麗も深く頭を下げる。

「私こそ驚かせてしまってごめんなさいネ」とその女子社員は謝ってくれた。
「前原君綺麗だから触りたい気持ちは判るけど
なんせ純情ボーイだから宜しく頼むね」と粕谷がおどけるように言った。

こっちでコピー撮ってもらいたい書類があるから来て、と女性陣の前から引き離してくれた。
「粕谷さん・・ありがとうございました・・」
「いいって、誰にだって苦手なモンはあるさ」

そして、粕谷は簡単に仕事の流れを教えてくれた。
ここには窓口に部屋を探して訪れてくる人たちの希望を聞いて部屋を紹介する為の
色々な物件のデータなどが置いてあった。
「ここにプリントアウトした物件があるから、目を通しておいて」と
結構な数のデータを貰った。

麗は一人暮らしなどした事なかった。
そういうデータを読むのは面白かった。
「部屋を借りるってのも結構お金かかるんですね」
「そうだな・・・これでも最近は随分安くなったんだぜ」
礼金・敷金・仲介手数料・・・昨今では礼金と敷金が大分安くなったらしい。

「以前は入居する時に大体家賃の6倍の金が必要だったけど
最近では4倍程度の所が多いけどね」
「6倍!3万円の家賃だったら18万円!」驚く麗に
「ははは・・・今時3万円の家賃で借りれる所なんか無いから」と粕谷は笑った。

驚いてデータを色々見ると
1LDK7万8千円・・・2DK8万2千円・・・
「・・・結構高いんですね・・・」
「まあね、でもそれでも其処はまだ安い方だよ」
「粕谷さんは、ここの上に住んでらっしゃるんですよね?」
「そうだよ、1LDKで5万円、寮みたいなモンだから格安だよ、本来なら
立地条件と部屋の広さをを考えたら、8~9万円だね」

「前原君は社長の所にずっと住むの?」
自分でもこの先の事はまだ何も判らなかったから
「判りません・・・」と答えるしかなかった。

「ちょっと休憩しようか?」
そう言われて、フロアの自動販売機の前の丸いテーブルに連れて行かれた。
紙コップのブラックコーヒーを買って、「前原君は?」と尋ねられたが
麗はお金を持って来ていない事に気づいて
「ぼ・僕は何も要らないです」
先日粕谷に服を買ってもらって杉浦に酷い事を言われた事を思い出した。

そんな僕の前に温かく甘い香りのするココアが置かれた。
「あ、僕・・飲めません・・・」
「え、ココア嫌いだった?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど・・・お金持ってきてないから・・」

「何だ、そんな事気にしてたのか、大丈夫奢るから、気にするなよ」
「いえ・・・明日お返ししますから」
「ふーん、前原君が気にするのなら・・・じゃ明日奢ってくれる?」
「はい」安心したようにココアを両手に包むように持ち、そっと口を付けた。
「甘くて美味しい・・・」

粕谷は頬を染めた前原に見惚れてしまい慌てて「あ、俺煙草吸ってくる」
と言ってフロアの横にある喫煙ブースに入って行ってしまった。

硝子張りなので、お互いの様子はよく見える。
ふーっとココアを冷ましながら飲む様子が小さい子供のようで、粕谷にはとても可愛く映った。
そんな麗の傍に一人の男がすーっと近づいて来た。

「へえ?君新入り?アルバイトかな?随分綺麗な子を入れたもんだねぇ」
麗の顎に指をかけ上を向かせている。
驚いて固まっている麗の顔覗き込むように、「ほう・・中々ソソラレルねぇ」
「放して下さい!」それは麗が言葉を放った瞬間の出来事だった。

その男は上を向かせたままの麗の唇に自分の唇を押し当てていた。
「!」
粕谷は慌てて煙草の火をもみ消して禁煙室から飛び出し
その男の肩を掴み振り向かせた。
それは分譲賃貸の管理をしている粕谷よりも2歳上の水野だった。

「水野さん!止めて下さいよ」
「ああ、粕谷君じゃない、この子君の知り合い?」
「今日からバイトに来てるんですよ」
「ふーん、随分綺麗な子だねぇ・・・」固まったままの麗を舐めるように見ている。
水野は自分がゲイである事をカミングアウトしたと噂で聞いた事があったが
粕谷とは課も年も違うので、噂も本当かどうか、と思っていたが
この状況を見るとそれは本当だったらしいと思った。

「水野さん、あなたの趣味をどうこう言うつもりはありませんけど、
こいつに手を出すのは止めて下さい」
粕谷は強い口調で水野に向かって言った。
「何、この子は君の恋人?」
「ち・違いますよ、俺にはちゃんと彼女いるし・・」
「じゃ問題ないんじゃない?」
熱くなる粕谷と違い水野は冷静だ、こういう場面は何度も経験したって感じだった。

ちょうど皆が休憩とるような時間だったから、周りに数人集まってきた。
呆然として紙コップを持ったままの麗の目が1点を見つめ息を止めた。
その途端その大きな目から涙がぽろっと零れ堕ちてしまう。

カツッカツッ・・・あの大股で歩く靴音と剣呑なオーラは見なくても判る・・・
粕谷は背後の空気が引き締まるのを感じた。
その途端水野が「ちっ」と小さく舌打ちし、足早にその場を去ってしまった。

「麗、どうした?」
杉浦の姿を確認した途端、何故か涙を零してしまった麗が
「あっ!いえ何でも無いです」
麗は男に唇を奪われて泣いてしまった自分が恥ずかしくて咄嗟に誤魔化した。

その時杉浦の後ろの方にいた数人の女子社員がえーっ?きゃーっ!と騒いでいる。
本人たちは小声で話しているつもりなのだろうが
そういう時の女性の声は案外と高くて、耳に入ってしまう。

「えーっ?あの子、水野さんにキスされたのぉ?」誰かが誰かに確認していた。

「どういうことだ!」もう一度聞かれ
「いや・・すみません、少し目を離した隙に、ちゅっと・・されちゃったみたいで・・・」
どうも粕谷も自分が何を言っているのか良く判らなかった・・・

「・・キ・・キスされたのか?」杉浦の問う声は何故か弱々しく聞こえた。
麗が黙って頷くと「キスくらいで泣くな」と柔らかく叱咤し
「粕谷、お前も麗にキスしろ」と、とんでもない事を言い始めた。
「えっ?」自分の耳を疑った。
「ほら早く!俺の言う事が聞けないのか?」とせっつかれ
微妙な気持ちのまま前原の唇に軽い口付けを落とした。

「では私も・・」と杉浦の横に居た西条が面白そうに身を乗り出した。
だが西条のキスは軽いものでは無かった。
麗の頬を両手で挟み、顔を横にし深く長く、キスというような軽い感じではなく
「接吻」というのが当てはまるような激しいものだった。

「ば・馬鹿野郎、やり過ぎだ!」杉浦に言われ、西条が手を放すと
麗はその場に腰が抜けたようにへなへなと座り込んでしまった。
杉浦はそんな麗を肩に担いで大股でエレベーターに向かい歩いて行った。

3人がエレベーターに消えると蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「きゃーっ!!」女子社員の黄色い声と
「すっげぇ・・俺も挑戦したかったなぁ」
「粕谷、どうだった?」仲間に肩を突付かれた粕谷は
前原のさくらんぼのような唇の感触を思い出し
「・・・よかった・・甘かった・・ココアの味だ」と呟いてしまったものだから
又も女子社員の黄色い歓声を浴びる事になってしまった。





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※私信 Lさま、お知らせありがとうございました^^;

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