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愛しい人へ 16

 10, 2010 15:25
「どうでした?前原君喜んでくれましたか?」
部屋に戻るなり西条にからかうように言われ
「知らん!」と投げ捨てるよう言う杉浦の不機嫌な様子に
「やっぱり、あんなピンクだらけじゃ、喜ばないでしょうねぇ」と西条は呟いた。

「・・アルバイトしたいと言ってきた」
「前原君がアルバイト?それで?」
「バイトなんか駄目だ」
「どうして?いいんじゃない、社会勉強になるし」

「別に金に不自由させる気はない」
「・・・ふーん、それで杉浦は金で縛る気なんだ」
「そんなつもりは無い!」杉浦が咄嗟に反論して
「俺はただ、麗にそんな苦労をさせたくは無かっただけだ」
「でも結果札幌の親戚と変わらないんじゃない?」
「あんな連中と一緒にするな!」

「そうですね、多分今の方が辛いでしょうね」
「?」杉浦は西条の言っている意味が理解できなかった。
「どうして今の方が辛いんだ?」
急に弱弱しくなった杉浦に向かい、はあーっと大きく溜息を吐き
「社長にね恩を感じている分始末が悪いんですよ、やっと最悪の環境から抜け出せたのに
今度は違う意味で自由が無い、社長の顔色だけを見て生活するしかないじゃないですか」


「それだったら優しくされない分札幌の生活の方がマシなんじゃないですか?」
「・・そんなつもりじゃなかった」
「じゃ何でバイトさせないんですか?」
「・・・」
「教えてあげましょうか?独占欲ですよ社長の」
「独占欲?俺がか?どうして?」

付き合ってられないと「さあ」と大げさに肩をすくめ
さらに「今頃泣いているかもしれませんね・・」と煽ってみると
「ちょっと見て来る」と慌てて部屋に戻ろうとする杉浦の背中に向かい
「1階の賃貸部門だったら、ひとりくらいバイト大丈夫じゃないですか?」と声を掛けた。
一瞬足を止めた杉浦だったが、振り向く事なく部屋を出て行った。

杉浦が部屋に戻りドアノブをそっと回す。
麗はまだソファの前に座ったままだった、その姿が遠目にも儚く見えた。
「麗・・」
麗はその声に驚き慌てて立ち上がった。
杉浦はそれを制し、麗に歩み寄り
「さっきは悪かった、夕べも悪かった」

杉浦に素直に謝られ麗は戸惑った。
「そんな・・・謝らなくても・・」
「俺はお前を金で縛るつもりは無かったんだ」
「・・・杉浦さんお願いがあります」麗は改まって向き直ると

「前金と言われたお金は少しづつ返済させて下さい。
それと、病院で僕に使ったお金も・・・・」
「それは・・」と言いかけたが黙って最後まで聞くことにした。
「僕は此処に住まわせてもらう代わりに家事をやります、だからその分の給料は要りません」

「だからバイトをしたいだと?」
「・・・はい」
「俺からの条件はこの会社でバイトするって事だ、幸い1階で人手が足りないらしい
雑用だがやるか?」杉浦にそう言われ麗の顔がぱあっと明るくなった。

「いいんですか?僕にバイトさせてくれるんですか?」
嬉しそうな麗の顔に苦笑しながら
「ああ、それにお前の希望通り家事の分は給料払わない、金も返してもらう
だが俺の趣味で勝手に買ってくる物は黙って受け取るって事でいいか?」

麗はピンクだらけの服に視線を落としてから「はい」と頷いた。
「でも・・・どうしてこんなピンクばっかり?」
「・・それは・・夕べピンクの服着てたお前が・・その・・綺麗だったからだ」
麗は普段と違い歯切れの悪い杉浦にくすっと笑って
「ありがとうございます・・嬉しいです」と微笑む顔は又花が咲いたように綺麗だった。

2日後麗は、紺色のスラックスと胸に杉浦不動産のエンブレムの付いたブレザーを着て
初めて杉浦の会社に足を踏み入れた。
午後1時から5時までの短い時間だったが、それでもワクワクした。
ネクタイは要らないと言われ、インに先日杉浦が買って来た薄いピンク色のシャツを着ている。

昼ごろ一度部屋に顔を出した杉浦がそんな麗に満足そうな笑みを投げかける。
一緒に賃貸課の課長の元に行き「俺の親戚の子だ、何も知らないから色々教えてやってくれ」
社長にそう言われた課長は「はい、はい」と頭を下げていた。
麗は離れた所に粕谷を見つけ、目だけで軽く挨拶する。

それに気づいた杉浦が「あー粕谷君ちょっと」と手招きする。
近くに来た粕谷は杉浦に一礼し、麗に向かい「やあ」と声を掛ける。
「今日から雑用でバイトするから、面倒見てやってくれるか?」
「本当ですか!楽しみですね!」粕谷は先日の件で麗の事を可愛い弟のように感じていた。

そして皆に簡単に紹介した後、杉浦は課長と話しこんでいた。
粕谷に女子社員の所に連れて行かれ
「ここでは、女子社員に嫌われたら不便だからな・・」と揶揄するように紹介した。
「やだーっ粕谷さんたらっ冗談を」
女子社員たちは「前原君っていうの、宜しくね」などと気さくに声を掛けてくれた。
麗は嬉しくて「宜しくお願いします」とそればかり口にしていた。

「うゎー肌綺麗・・」そう歓声を上げて、ひとりの女子社員が麗の頬に手を伸ばして来た
その瞬間、麗の顔から血の気が引き、後づさりした。
机に手を突いた拍子に机の上の電話機がガッシャーンと音を立てて床に落ちる。
その音に麗が又肩をビクンとさせ、青い顔でしゃがみ込んだ。

一瞬の出来事に皆唖然とし、遠くにいた奴は何が起こったのか?という顔で見ている。
「前原君!どうしたの大丈夫?」粕谷や女子社員が声を掛けるが
麗は脅えたようにしゃがみ込んだまま小刻みに震えていた。

粕谷が手を伸ばそうとした時、大股で杉浦が歩いて来て
「麗!どうした?麗!」と麗の体を立たせる。

「・・あ・・杉浦さん・・・」そう一言口に出しだだけで
杉浦の胸に顔を埋めるようにしがみ付いて来た。
麗を胸に抱きしめたまま、粕谷に向かい「何があった?」と詰問する。

「いや・・・何がって・・」粕谷にも何でこんなに前原が脅えているのか判らなかった。
「わ・・私が・・前原君の頬に触れようとしたから・・・だから・・」
その女子社員は泣き出しそうな顔をして両手で口を押さえるようにしていた。
その爪先には、華美にならない程度の綺麗なネイルアートが施されていた。
薄いブルーを基本にワンポイントだけのネイルだった。
この会社ではこの程度のお洒落は黙認していた。

杉浦は札幌で一度だけ会った麗の伯母の爪が派手にネイルアートされているのを思い出した。
「ちょっと落ち着かせて来る」と粕谷に言い
「悪かったな、気にするな」とその女子社員に声を掛け
麗を抱きかかえるように部屋を出て行った。

その様子を1階の社員たちは、ただ息を呑み見守っていた。

そんな中、粕谷だけが違和感を覚えていた・・・





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