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天使が啼いた夜 堂本紫苑~19~

 25, 2010 00:05
「浅田さん?」
「ええ、堂本社長からの伝言です、宜しいですか?」
浅田の少し強張った声に紫苑も少し唇を引き締めた。
「はい、何かあったのですか?」
紫龍ではなく浅田が電話して来る事自体が何かあった事を示唆しているようだった。
「・・いえ、特にって事は無いんですが・・・
今夜は接待で遅くなるそうです、先に帰っておくようにとの伝言です」

「え・・・?」
予想していた事とかけ離れた何でも無い事に安堵しながらも違う意味驚いた。
「びっくりしましたよ・・・何か大変な事があったのかと心配しました。」
「あ、いえ・・大丈夫ですよ。それと車を用意させるから車で帰るようにと
きつく言い渡されましたので、地下の駐車場に行って下さい。それでは気をつけて」
そう一気に言うと浅田は電話を切った。

何でも無いと言いながら浅田の口調がいつもと違うと紫苑は感じていた。
「どうかしました?」傍にいた沖田が話し掛けて来た。
「いえ・・・今日は接待で遅くなるから、車で帰りなさいって・・・」
「そうですか、社用車ですか?」容赦ない沖田の突っ込みに紫苑は慌てて
「いえっ、電車で帰ります。浅田さんに断って来ます」
と紫苑にしたら少しムキな感じで沖田に答えた。
そんな紫苑に苦笑しながら、「はい、では気をつけてお帰りなさい」と言った。

沖田に挨拶をした後、紫苑は社長室に向かった。
秘書室か社長室のどちらかに浅田は居ると思われたからだ。


「はぁっ・・どうして自分で電話掛けないんだ?」
その頃携帯を握ったまま、浅田が深く溜息を吐いていた。
「紫苑に嘘を吐きたくない」
どこまで我侭なんだ?と浅田が呆れたのち
「俺だって嘘吐きたくは無いぞっ」と言い放つ。
アフター用にネクタイを結び代えている紫龍に向かって
「正直に見合いだって言えばいいだろう?」と言うと
「駄目だ、そんな事を言うくらいなら、嘘を吐いた方がマシだ」
「はぁ?全く我侭なヤツだなぁ・・・」

嘘を吐くなら自分で吐いて欲しいと浅田は心から思った。
あんな純粋な紫苑を欺くのは浅田とて苦手らしかった。


「俺と紫苑の事は親戚は知らないからな、
今回は伯母からの話だ簡単に断れなかったんだよ、お袋も」
「会長夫人も色々大変だな・・・」
浅田は紫龍の両親の元に持ち込まれる見合いの話を断るのに
大変な思いをしているだろうと思った。
全てにおいて適齢期の紫龍を周りが放って置くはずも無いだろう。
実際浅田自身にもそういう話は頻繁に来ているのだから、
紫龍ともなれば凄い数の話が持ち込まれるだろう事は容易に想像がついた。


20階のエレベーターが開き、紫苑が姿を見せた。
今更紫苑に「どちらへ?」と尋ねる社員などこの階には居ない。
誰に止められる事なく社長室の前に立つ。

『で、今日の見合いは何処だ?どうせなら美人がいいな』
揶揄するような浅田の言葉に紫龍が
『新宿のKプラザだ・・・そうだな、どうせなら美人がいいか?』
と笑って答えていた。
どうせ義理をたてる為に顔を出すだけの見合いだ。
一緒に食事をするのなら美人の方がいい・・それは男の性でもあり
そして、家柄も良く美人なら自分が断わられるかもしれないし
紫龍から断ったとしても、いくらでも次の話が来るだろう。

その事は相手の女性も充分承知しているだろう。
浅田も紫龍も口には出さないが、内心そう思っていた。
だが、出来る事なら相手から断って欲しいもんだ・・


紫苑の耳に届いたのは確かに紫龍と浅田の声だった。
『お見合い?紫龍が?』
ここで紫苑が社長室に飛び込んで行ったら、話は簡単に終わったかもしれない。
しかし、紫苑はあっという間に身を翻してエレベーターに向かった。

『紫龍が・・綺麗な女性と見合い・・・』
紫苑はサラブレットである紫龍が子孫を残すべきだと今日も思ったばかりなのに
それでも見合いという言葉と紫龍が楽しそうに語る声に少なからずショックを覚えていた。

そしてそのまま地下には寄らずに駅に向かって歩き出した。
駅まであと少しという所で、会社に戻るのであろう深田とすれ違った・・・らしい。
紫苑は気付かないで通り過ぎたが、すれ違った瞬間後ろから肩を掴まれた。
「おい、何シカトしてんだよ?」揶揄するような深田の顔に我に戻った。

「あぁ深田さん、お疲れ様です・・今帰社ですか?」
「ああ、戻ったらこれ片付けて、それが終わってやっと帰れるって訳だよ」
深田は右手に抱えた鞄を紫苑の前でポンと叩いた。
「大変ですね、頑張って下さい。じゃ僕は・・・」

「おい櫻井!・・・ってやっぱ慣れないなぁ」と紫苑を旧姓で呼んだ事に苦笑している。
「いいですよ、何で呼ばれたって、それにいつ離縁されるか判らないし・・」
最後の一言は冗談で済まされるような言葉では無い。
他のヤツには判らなくても紫苑の小さな変化を深田は見逃さなかった。

「何があったんだ?それにそっちは駅だろ?どうして社長と一緒じゃないんだ?」
矢継ぎ早に質問され、紫苑は寂しく微笑んだ。
「何でも無いですよ、今夜は紫龍が接待で遅くなるから電車で帰るだけです」
「一人で大丈夫か?1時間あれば一緒に帰れるぞ」
どうせ帰る場所は同じマンションだ。

「大丈夫ですよ、まだ6時前ですし、こんなに明るいんですから」
夕方というよりも、まだ日中のような暑さと明るさだ。
そして紫苑も自分が心配された理由を判ったらしい。

ま、いい年の男がこの時間の電車に乗っても何も起きないだろうと深田も考え
「じゃ、気をつけて帰れよ」と紫苑と別れ自分も会社に向かって急いだ。
そして深田と別れた紫苑は地下鉄に乗るために、階段を降りて行った。





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COMMENT - 10

jun  2010, 11. 25 [Thu] 05:29

お早うございます。
紫龍が接待だって?
見合いも確かに接待ですね。
でも、紫苑、紫龍が見合いと知って、嫉妬してる。
それで独りで電車で帰ろうとしてる。
また痴漢に逢うんじゃないの?
心配です。

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-  2010, 11. 25 [Thu] 07:33

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-  2010, 11. 25 [Thu] 09:36

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-  2010, 11. 25 [Thu] 09:59

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紫猫  2010, 11. 25 [Thu] 15:52

…紫苑、心配だよ。
ムキになってそんな…
また何かあったらどうするの!
今回は紫苑ひとりだし…心配です。
心配です…うわぁん!(/□\*)

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kikyou  2010, 11. 25 [Thu] 17:04

junさま

こんばんは。

毎日早いですね(^・^)

紫龍の見合いについては、紫苑複雑ですねぇ。
難しい問題だと思います。

さて・・・紫苑無事に電車に乗れるのでしょうか?
まず乗るところから既に心配です>^_^<

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 25 [Thu] 17:05

鍵コメ puさま

こんばんは。

コメントありがとうございます。
メールします!!

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kikyou  2010, 11. 25 [Thu] 17:10

鍵コメ Cさま

こんばんは。

おお、久々のコメントありがとうございます(~o~)

か・・隠し子は早い・・・
でもその手もありますねぇ^^紫苑のママぶりも見てみたい気もしますが・・・(笑)

痴漢電車・・おお何かAVのタイトルみたいですねぇ
本当に無事に帰宅できるのか?その前に電車に乗れるのか?(笑)です。

コメントありがとうございました(^^♪

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kikyou  2010, 11. 25 [Thu] 17:13

鍵コメ Hさま

こんばんは。初めまして!テレテレ^^;

コメントありがとうございました。

でもメールします(笑)

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kikyou  2010, 11. 25 [Thu] 17:15

紫猫 さま

こんばんは!

紫苑・・・心配して下さってありがとうございます>^_^<

電車に乗るだけで、こんなに沢山の方に心配してもらって・・・
嬉しいやら、情けないやら(笑)

まだ話は1文字も書いてません・・・・わぉ

さて、どう料理しましょうか?(笑)

コメントありがとうございました(#^.^#)

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